1997年4月号Vol.3

【特集】地方の時代がはじまった

市町村の情報化への取り組み

江戸川大学社会学部教授 久保悌二郎

本誌1月号の特集座談会では、21世紀の自治体の情報化の在り方について考察した。急速に進展する情報化社会における行政サービスでは、住民主体の地域コミュニティやイントラネットの活用による行政事務の効率化など、自治体内外のネットワーク整備が急務の課題といえる。では実際にネットワーク化を進めるには、どんな取り組みをすべきなのだろうか。

市民活動にインターネットを活用

 身近なところから話をはじめよう。

 私が住む茨城県の取手市に『取手フォーラム』という市民グループがあって、この2月に自分達のホームページを立ち上げた。10年間の活動の節目として、いままでやってきた市民への呼びかけや市政への提言等をインターネットで流している。これは1つの地域だけではなく、より多くの人達との意見の交換が必要になったとの認識と、情報発信が身近にできるようになったことを利用しない手はないとメンバーが考えはじめたからである。中身は市の防災計画への提言など、相当なボリュームの情報が掲載されている(ぜひご覧ください。URLはhttp://torideforum.blog120.fc2.com/)。実は取手市のホームページはまだない。市民の方が先んじて、地域の情報を発信しはじめているわけだ。そんな環境に、いま我われ市民は身を置いている。これはなにも取手市だけのことではあるまい。このような活動はいま、全国に広がっているに違いない。

図1 インターネットに接続中、接続予定の団体と機関数

 地方公共団体におけるインターネットの利用に関する調査というのが、自治省のホームページに出ている。平成8年6月25日の数字とちょっと古いが、「平成8年5月の調査時点で222団体(287機関)がインターネットに接続しWWWサーバーにホームページを開いている。これは前回調査(平成8年1月、99団体)と比較すると2倍以上であり、急激に増加している。このほか調査時点で、接続を予定しているものが523団体あり、今後も急激な増加が見込まれている」とある。そして「今年度中には都道府県、政令指定都市ともに全団体が接続する予定」としている。この3月で全自治体3302団体の23%が、ホームページを持っていることになる(図1)。これは多いのか少ないのか。

図2 地方公共団体における庁内LANシステムの状況

 また、その前提になる地方公共団体における庁内LANシステムの稼働状況は、都道府県27団体、87システムで、開発中が10団体、19システム。市町村では632団体、953システム、開発中は59団体、89システムであるという(図2)。これは多いのか少ないのか。

 ともあれ、地方振興にホームページはどのように有効なのか。このことを、とくと考えてみる必要がある。

地域情報インフラの構築

図3 情報化・ネットワーク化を進める上で優先度の高い投資先

 昨年暮れの日経産業新聞に興味あるアンケート調査が載った(図3)。55人の知事・政令指定都市の首長が関心をもつ情報関連投資について問うたもので、72.2%がインターネットと答え、61.8%がLAN、54.4%がWANと、大半がネットワーク関係に集中している。また、2005年をにらんで、情報化・ネットワーク化が地域にもたらすものは何かについての期待は、「マルチメディアなど新たな産業の誕生」が70.1%、「情報格差の解消と過疎化防止」と「海外企業と提携する地元企業の増加」がともに38.2%であった。一方で「中央官庁と対等に情報のやりとりができ中央依存体質が相対的に減少」と答えているのは、18.2%でしかない。

 このアンケートの結果から見る限り、地域振興とはやはり地域の産業の振興というのがメインで、情報化とネットワーク化がそれにどう結び付くかがポイントになると考えられているということだ。情報格差の是正、海外との提携企業の増加などに対する期待も、この延長にあると考えられる。また、地域において新規事業を起こすにも、財源確保の意味から中央依存の体質がすぐに弱まるとは考えにくいのであろう。

 そこで浮かび上がるのが情報インフラの問題である。情報通信ネットワークの構築の必要性が叫ばれて久しいが、いま必要なのは地域の情報インフラの整備である。座して中央官庁の整備政策を待つという従来の姿勢では、いかんともし難いところまできている。地方自治体自らが積極的にインフラ整備に乗り出さなければならないところまできているのだ。かつて中央官庁主導の国土開発という形で、道路、港湾、空港等々をはじめとした産業・生活インフラの整備がなされてきたが、おそらく21世紀は地域主体で、情報通信の基盤整備を図っていくことが必要であろう。そのためには、中央の援助を仰ぎながら進めるといったことも必要かもしれない。

 先の全国の首長がネットワークに対する投資に関心を持っているという現状から見て取れることは、地方公共団体が構築する公共的ネットワークをオープンにして、民間ネットワークの足らないところを補い、地域産業をも含めたネットワーク社会全体の発展はどうあるべきかを構想する段階にきているということだ。

 それらを地域情報インフラとして位置付け、インターネットをはじめ、さまざまなネットワークを産業にも市民生活にも役立たせる方策を考える必要がある。その実現のためには、従来型の「インフラ整備は国の政策を待つ」という発想を、自治体自身が切り替えていかなければならない。かつて国が打ち出した地域情報化施策に乗って、全国一律の紋切り型の地域情報化を自らの地域にあてはめようとして苦い思いをした自治体も多かったに違いない。

岡山県の情報ハイウエイ構想の知恵

 すでにそうした試みは始まっている。例えば、岡山情報ハイウエイ構想などはこの点を強く意識したものである。岡山ではこの構想の下で、インターネットをコミュニティーウェアと位置付け、『県民イントラネット』を実現しようとしている。

 具体的には、県庁のLANを、9つの地域の総合事務所である地方振興局とネットワーク化(当面は100Mbps~600Mbpsの通信量で接続。bpsとは通信速度の単位で、1秒間に送り出すデータ量を表す)し、県庁WANを構築する。さらにこのWANに圏内のCATVやインターネット接続事業者(プロバイダー)のネットワーク等とのアクセスポイントを設置し、これをインターネットの技術で接続する。県庁と県民とを結ぶネットワークとして発展させようという考えである。

 なぜこうした県民イントラネットを構築するかというと、インターネットは地域発展の手段としての可能性があるということが分かっていても、実際に利用しようとするとその通信料金の高さが問題であり、そこを何とか解決したいというのが根本にある。岡山県の試算によると、日米のインターネットの利用コストはダイヤルアップの市内料金で米国の40倍、市外利用では200倍の開きがあるという。これでは、使い物にならない。わが国の場合、通信インフラの構造上、アクセスポイントのある大都市から離れれば離れるほど非常に高くなるといった格差がある。さらに、米国ではT1回線と呼ばれる1.5Mbpsの高速回線が家庭や中小企業にも普及しているが、日本ではISDN回線でも数百Kbpsであり、1.5Mbpsとなると極めて高い専用線の料金になる。また、インターネットのバックボーン(基幹となるネットワーク)回線が、地方では不十分であることも地方での利用上のハンディキャップになっている。

 また、インターネットのネットワーク相互間の国内での情報のやり取りは、すべて東京に2ヵ所ある交換センター(NIPIXP)を経由しなければならない。地域間でのメールのやり取りもすべて東京のセンターを経由して行われることになる。インターネットもまた東京一極の集中構造になっているのである。すべてのトラフィック(通信回線上での通信量。交通量に置き換えると分かりやすい)が東京に集中するため、全体のスピードが低下してしまう。さらに東京に阪神大震災級の災害が起こったらどうなるのだ。

 岡山県では、市民は誰でも(バリアーフリーといっている)が、自由に情報にアクセスし自らが情報発信できることは、県民の基本的人権であるとさえいい切っている。これは英断的政策決定だ。

 ちなみに岡山県では、各課が1つ、つまり114のホームページを持っている。

行政にもBPRの波

 いまなぜ、地方公共団体がネットワーク化に取り組まなければならないのか。

 行政改革、地方分権、情報公開等々問題が山積するなか、どの地方公共団体も自己点検、評価に着手しはじめているし、行政改革大綱などを発表している。そこに貫かれている基本的な視点は、「行政として市民・住民サービスをいかにきめ細かく提供する体制を整えるか」ということであろう。

 企業においては、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)というリストラが、今、猛烈な勢いで展開されている。企業としての到達目標を変え、戦略を変え、予算を変える、というBPRの3つの目標に対して対応する仕組み・組織作りを行っている。その基本思想は、市場が求めるニーズに対していかに敏速に対応するかということで、いうなればカストマー・サービスの徹底である。

 いま行政に必要なことは、カストマー・サービスの概念の導入であり、市民という顧客に対していかにサービスするかの業務ベースでの仕組み・組織作りを行うことである。成果に責任をもち、目標設定と評価を自らが下す。そのための評価基準が作られなければならない。さらには民間セクターとの提携を緊密にし、地域社会との新たな関係の構築が必要になってくる。民間の企業と比べても、遜色のないサービス体制の確立である。

 それを推進するためには、職員の意識改革も大切なことであろう。今までの行政のサービスとは、上司に対して、関わりのある委員会に対して、あるいは議会(の先生方)に対していかにサービスするかであったに違いない。そうではありませんよ、市民に対してのサービスですよ、ということである。いままでは、行政の組織やシステムが個々の職員の資質を埋没させてきたのではあるまいか。カラ出張、官官接待の隠蔽だけが問題なのではなく、そうした温床を作る予算システムの在り方が問題視されてしかるべきである。

 こうした改革の手段にネットワークが挙げられるのは、情報というものは隠し、溜めておくことに価値があるのではなく、公開され、活用されてはじめて価値が生まれるものであるという認識と、市民と共に解決すべき問題の洗い出しを行うために必要な手段だということだろう。先の岡山県のネットワーク政策に、県民と行政のグループウェアの必要性をうたい、県民イントラネットと位置付けたのは、けだし卓見である。行政のホームページとは、その共同作業のための手段なのだ。一方的な情報の提供だけだったら、今までの「広報紙」と何ら変わらない。わざわざインターネットなど必要ないのである。情報公開といわれ、アカウンタビリティ(説明責任)の必要性が叫ばれるのも、行政の活動についての申し開きがはっきりとできるということにほかならない。

 行政が、自治体が約束したことを、市民がその責任を追及できるようにホームページで情報を流すのだ、という程度で考えるべきだと思う。市民の側も、行政がやってくれるだろうという甘えは、もはや断ち切らなければならない。お互いに痛みを分かち合うことが必要だ。

 地方振興に情報化がどのように有効かを考えるとき、この視点を忘れて論ずるべきではないように思える。

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