1997年4月号Vol.3

【トレンドView】実用化段階に入った電子マネー

コンピュータジャーナリスト 中尾英二

 インターネットが商用化された90年代初頭に、《ハイパースペース》だの《バーチャル・モール》だのといった新語が登場して、常に話題先行の一部のマスコミが訳知り顔に書き立てた。ハイパー、バーチャル、という言葉が韜晦的で馴染みがないので、ますます何のことやら分からない。「どうだい、オレッちの言ってることが分かるかい?」というような態度が覗き見えて、あまりいい気分はしない。

 ハイパーといい、バーチャルといい、いずれもネットワーク上に構築された架空の場所、架空の商店街と考えればいい。ネットワークのどこかに情報をプールしたり交換する専用のコンピュータがあって、不特定多数、あるいは会員に登録した人が利用できる仕組みである。パソコン通信のCUG(クローズド・ユーザーズ・グループ)やフォーラムを想定してくれればいい。

 この仕掛けを使って、専用のコンピュータに商品情報を登録しておく。コンピュータには商品の受発注ができる仕掛けが組み込まれていて、利用者はネットワークで商品情報を検索し、必要なものを注文できる。「なぁ~んだ、テレビでやってるヤツと同じじゃないか」と思い当たった人は、ピンポン! 当たり。テレビ・ショッピングのコンピュータ版といって、まず大きく外れてはいない。

 今回のテーマである『電子マネー』は、オンライン・ショッピングの代金の決済を、電子的に済ませてしまおうという、不精者が考え出した仕掛けである。注文と代金回収を電子的に済ませてしまうのだから、企業にとってはビジネスのスピードが違ってくる。例えばアメリカでは、ショッピング・モールに登録しておいたプログラムを利用者が勝手にダウンロードして、指定した銀行口座に代金を振り込んでくれたおかげで、創業わずか1年3ヵ月後に株式を公開してしまった会社もある。

 代金を銀行で振り込む手間暇を省いてしまおうというとき、多くの人が思い付くのはクレジット・カードとの連携だ。クレジット・カードにICメモリを埋め込み、ここにID(本人確認)番号や銀行口座、使用限度額などの情報を入れておく。80年代のアメリカでちょっと流行した『プラスチック・マネー』が、90年代に〈電子マネー〉という新しい装いをまとったという程度のこと、ともいえる。

 世界的には、イギリスのモンデックス、オランダのデジキャッシュという会社がそれぞれ考案した方式が注目されているが、これまでと違うのは、カードに利用限度額の情報を持たせることと、ネットワーク上に仮想の銀行を設置して、預金したり、さまざまな公共料金の振り込みなどができるようにしたことだろう。1枚のプラスチック・カードが財布代わりになるというわけで、便利といえば便利かもしれない。

 電子マネーの仕掛けで最も重要なのは、品物を購入したり口座から資金を引き出す人が、間違いなく当人であるかどうかを確認すること、電子マネーが偽造されたものでないことを確認することなどである。

 紙幣と硬貨による現行の取り引き自体が、信用通貨制度に則って成立していることを考えると、電子マネーの実用化には、新しい通貨制度や法制度、取り引き慣行といった環境の整備が欠かせない。

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