1997年7月号Vol.4

【戸籍こぼれ話】(続)明治初年の妻と妾

地方公共団体事業部営業推進企画部長 石井利光

 明治4年に制定され翌年2月15日から施行された戸籍法には、妾についての規定がありませんでした。しかし、妾の子は父の戸籍に入ることが前提とされ、実際にも妾が存在していたので、<この者の戸籍への記載をどうすべきか>についての照会に対して<妻の次に記載される>とされていました。

 さて、戸籍法では、婚姻の成立については「妻あるいは妾とその夫との関係は、妻・妾と夫の間でその関係を成立させる意思があればよいのか、それに加えて同居しているという事実関係がなければならないのか」、または「一定の儀式即ち結婚式を挙げなければならないのか」、あるいは「戸籍簿にそのことが登記されなければならないのか」は規定がありませんでした。このため、戸籍に登記される前に子が生まれた場合の子の身分関係がどうなるのか、妻、妾が不義をした場合にどうなるのか、夫の父母に対して虐待を加えた場合の罪状は妻、妾の地位となるのか等の問題が生じてきます。

 戸籍法施行以前の婚姻(縁組)に関する取扱いは、

明治3年11月4日太政官布告
縁組規則
1 華族ハ太政官ヘ届出士族ハ其管轄府藩県ヘ可願出事
1 華族士族取結候節ハ華族ハ太政官ヘ願出士族ハ其管轄官庁ヨリ太政官ヘ伺済ノ上可差許事
1 府藩県管轄違ニテ取結候節ハ士族卒平民タリトモ双方ノ官ニテ聞済互ニ送リ状取替シ可申事

と定め身分によって婚姻に制限を設けていましたが、婚姻成立は届出を要件としていたようです。この太政官布告は、一年足らずの間に次の太政官布告でこれを変更し、身分による通婚の制限を廃止しました。

明治4年8月23日太政官布告
華族ヨリ平民ニ至ル迄婚姻被差許候條双方願ニ不及其時々戸長ヘ可届出事
但送籍方ノ儀ハ戸籍法第8則ヨリ11則迄ニ照準可致事

明治9年3月31日司法省指令
養子女又ハ妻妾タリトモ戸籍ニ登記セサル内罪ヲ犯ス時ハ凡人ヲ以テ論ス民事刑事に掲ハラス総テ8年第209号公布ノ通相心得ヘシ

 これらの布告・指令も婚姻の形式的要件については、届出主義をとっていたものと思われますが、明治10年になると刑事事件についての罪状の認定にあたっては、事実婚の成立を認めるに至りました。

明治10年5月21日太政官指令
伺ノ趣8年第209号ノ論達後其登記ヲ怠リシ者アリト雖トモ既ニ親族近隣ノ者テ夫婦若クハ養子ト認メ裁判官ニ於テモ其實アリト認ミル者ハ夫婦若シクハ養父子ヲ以テ論スヘキ儀ト相心得ヘシ

 上記のほか多くの太政官布告・指令、司法省指令が出されていますが、刑事にあっては事実婚、民事にあっては届出によっていたものと認められます。陸軍の武官の婚姻について、

「陸軍大臣ヨリ結婚条例ニ依リ與エラレタル結婚認可書並ヒニ同大臣ヘ差出シタ結婚済届書等ノ如キモノアリテ戸籍ニ登記以前縁組シタル事実ノ証明確実ナルトキハ之ヲ戸籍登記以前ニ遡リテ夫婦ト認ムルモ差支無之哉………」(明治23年10月11日東京府知事伺)という照会に対して「……婚姻ノ効ニ付伺ノ件ハ総テ明治8年第209号達ニ依ルヘキモノトス」(同月28日司法大臣指令)と回答していることからも分かります。

 ところで、妾の存否について「西欧の国々、特にキリスト教国において妻は1人に限られていて、例え相続人がなくとも子を他に求めることはしていない」。これに比しわが国では、「妻妾も生まれた子もすべて公認されているのは不都合ではないか」との声が強くなってきました。また、明治3年制定の新律綱領も西欧に対抗できるものに改正すべきであるとの機運が高まったので、明治11年新刑法典編纂作業が開始されたのです。この際、妾制度の廃止が議題となり、刑法草案から妾の文字が消えました。といっても、妾の文字は“五等親図”を廃止すればすみますが、法典の審議の場では大きな問題として議論されました。この議論の中で「妾制度があったから天皇制が現在まで連綿として続いている。廃止すれば天皇制までを否定する結果を招く」と反対の声が挙がり一時は存置に傾きかけましたが、決定の段階でこの声は葬り去られたといわれています。

 この刑法は明治15年から施行され、妾制度もなくなりました。ただ、現に妾として戸籍に登記されている者の身分については、

明治15年7月8日内務省指令
伺之趣刑法ノ改定ハ戸籍上ニ関係無之候事明治16年7月3日太政官布告伺之趣妾ハ法律上之ヲ認メサルモノニ付別ニ戸籍上列次ノ順序無之義ト可相心得事但刑法施行以前ニ入籍シタル妾ハ此限リニアラス

として、そのまま戸籍に登記されました。

 このように、身分制度の改廃は、幾多の問題を介在させながら、その時代の動きに応じて推移してきたのです。

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