1998年1月号Vol.6

【戸籍こぼれ話】続戸籍をかけたたたかい

地方公共団体事業部戸籍情報システム支援部部長 石井利光

夫婦の氏をどうする?

 婚姻届出に際しての夫婦の氏については、婚姻届書に夫か妻のいずれかの氏を称する旨を記載しなければ婚姻届は受理されません。ですから婚姻の法的保護を受けようとする者は、夫婦いずれかの氏を称することを強制されていることになります。

 従来は、夫婦は分業性で家庭生活をしているというのが多かったので大した問題にもならず、また世間一般の男も女も余程のことでもない限り男の氏を称するのを当然としていて、婚姻すればすぐに電話にしても郵便にしても「夫の氏」を唱えていました。本人もまたそれが当然として受け止めていたのではないかと思っていますがいかがでしょうか。その現れが、いつまでも氏が変わらないでいると「彼女はまだ独身らしい」とか、「彼女は家つき娘だから……」という言葉となっていたのではなかったでしょうか。

 第二次世界大戦も終り50年を経た最近になって〈夫婦は別の氏、つまり婚姻しても従来の氏を称してよいではないか〉〈女性の社会的地位が向上している今日、未だに婚姻したら女性が氏を夫のそれに変えるのはおかしい〉〈別々の氏を称しても不都合はなく当たり前のことではないか〉として夫婦別姓の論議が高まりました。でも、最近このトーンが若干低くなってきたように感じますが、どうでしょうか。

 いや〈低くなったわけではないが、マスコミがニュースソースとして世の人々があまり関心を示さなくなったので新聞種から早々に引き上げてしまったのではないか〉〈有力政党の幹部や女性議員が反対の狼煙をあげたので、マスコミが恐れをなして逃げ出したのではないか〉、なかには〈運動の中心人物が手を引いたのではないか〉等の議論があります。さらには〈夫婦が別姓になったらお墓に書く「何々家の墓」の何々はどう書くのか。折角高い金を出したのにどうするか問題だ〉という意見まであります。

いまも昔も悩みは変わらず

 夫婦別姓については明治の初めに戸籍法が施行された際にこのことが論議となり、次の太政官指令があったことは、本誌ですでに紹介した通りです。

内務省伺(明治8年11月9日)
 華士族平民ニ論ナク総テ婦女他家ニ婚嫁シテ後ハ終身其婦女実家ノ苗字ヲ称ス可キ義ニ候哉又ハ婦女ハ総テ夫ノ身分ニ従フ筈ノモノ故婚嫁シタル後ハ婿養子同一ニ見做シ夫家ノ苗字ヲ終身称サセ候方穏当ト相考ヘ候共右ハ未タ成例コレナキ事項ニ付決兼候ニ付御上裁候至急何分ノ御指令被下度此段相伺候也

太政官指令(明治9年3月17日)
 伺之趣婦女人ニ嫁スルモ仍ホ所生ノ氏ヲ用ユヘキ事
 但夫ノ家ヲ相続シタル上ハ夫家ノ氏ヲ称スヘキ事

 この指令は、明治31年の民法施行まで存続しました。しかし、この指令が守られていたか、また、戸籍の上でどのように扱われていたかについて見ると、明治五年式戸籍の扱いはその実物を見ていないのでわかりませんが、明治十九年戸籍では名の欄には名のみを書き、身分事項の欄に「下野国乙野善一長女入籍ス」のように書き、この乙野が妻の氏なのだとする説があります。これだと現行戸籍の「平成5年5月6日山本満と婚姻届出栃木県真岡市栃木一番地乙野初戸籍から入籍」と変わらないので所生の氏というには、若干の抵抗があるようです。

 そのような中で概略次のような指令が興味を惹きます。

 明治20年11月30日、山口県から「昔日と違い婦女と言えども財産を所有するなどの権利において男と違うことがなくなっている今日………女名義の書類を作成するのに、ある者は所生の氏、ある者は嫁家の氏を称するなど一定でなく民事上紛議を生じている。この機会に指揮を得て確と指示したいので指令をして欲しい」との伺いに対し、内務省と司法省は連名で「婦女人に嫁するも夫家を相続し、または分家した場合を除きなお生家の氏を用ふべきものとするが、管下へ令達する義は見合わせ」て欲しいと指令していることです。

 これを見るとどうも生家の氏にすべきか、嫁家の氏にすべきかに迷いがあることが伺われます。明治31年民法は、家制度を確立し、婿養子縁組婚姻、入夫婚姻の場合は男が女の家に入るが、一般の婚姻は女が男の家に入ることとされたのに伴い当然にその家の氏を称することが強制され、氏の選択は許されませんでした。

 明治民法後100年、現行民法施行後50年になろうとしている今日、産声を上げようとしている夫婦別姓の議論が消滅することのないよう、また政府でも法律改正の用意までしたものが消え去ることなく引き続き議論がされるよう願って止まないものです。

 これなども“戸籍にかけた長いたたかい”のなかの一つに入るものだと思いますがいかがでしょうか。

参考文献:講座 日本近代法発達史 勁草書房
     研修戸籍法 日本加除出版

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