1998年4月号Vol.7

【戸籍こぼれ話】戸籍をかけたたたかいⅢ

~嫡出子でない子の続柄と相続~

地方公共団体事業部 戸籍情報システム支援部部長 石井利光

 戸籍は、人の出生から死亡に至るまでの間の重要な身分に関する事項を登録し、これを公証する公簿であると言われていますが、その一つに父母との続柄があります。嫡出子には、「長男(女)」、「二男(女)」のように生年月日の順に付けられますが、嫡出でない子(「非嫡出子とか非嫡の子」といわれています)については、単に「男」、「女」と記載されています。

 嫡出でない子の続柄の戸籍への記載を歴史的にみると、昭和23(1948)年の改正前の民法の当時においても、その扱いに変化があったので若干そのことに触れてみましょう。

 制定当時の規定では、父の有無により差がありました。父の認知を受けていない子は「私生子男(女)」と記載しました。入籍戸籍は母の家の戸主の同意を得れば母の戸籍に入籍できましたが、戸主の同意が得られない場合は、子について一家を創立(子だけの戸籍を編製)しました。その後、子の父が認知するとこの続柄が「庶子男(女)」と変更され、父が戸主であれば認知と同時に父の戸籍に、戸主でない場合は戸主の同意が得られれば、認知と同時に父の戸籍に入籍しました。同意を得られない場合は、戸籍の変動はなく、子の身分事項に父の認知があった旨を記載し続柄を「庶子男(女)」と更正しました。

 私生子の呼称については、種々議論があり、太平洋戦争の真っただ中の昭和18(1943)年になって、人の生れにより続柄に「私生子」の文言を用いることは相当でない特に出征する者の心情を考えれば「私生子男」を招集し戦地に赴かしめるのは、国家による身分差別にほかならないとして「男(女)」と記載することに改めました。嫡出子、庶子と同じにならなかったのは、家督相続人の順位が違うこと(明治民法第九百七十条)、遺産相続の場合の相続分の割合が嫡出でない子は、嫡出子の二分の一であること等の事情からであると考えます。

 昭和22(1947)年の民法改正のときも嫡出子の続柄の記載は改正前と同様に「長男(女)、二男(女)」としましたが、嫡出でない子については「男、女」とし「庶子」の名称はなくなりました。その理由は、改正後の相続法(民法第五編)の規定も子が相続人となる場合の相続分の割合が、嫡出子でない子は、嫡出子の二分の一とされているためです。ですから、この相続分に関する民法の規定を改正しない限り戸籍の続柄の記載を改めることはできないというのが実情であろうと思います。先の夫婦別姓の改正の際に続柄の記載、相続分の平等化を基本とした改正を同時に実施することを予定していたようでしたが、「親亀がこけたので、子亀もこけた」の例えの通り、改正を見送られてしまいました。

 人は何でも自由になるかというと、絶対に自由にならないものがあります。人は生れるときに、父母、場所、時期を選ぶことができるでしょうか? 絶対できないでしょう。また何かを身につけて生まれることもありません。皆同じ姿でこの世に現われてきます。これは、誰が何と言おうが厳然たる事実です。

 徳川家光が「余は生まれながらにして将軍である」と言ったといわれていますが、将軍で生まれたのではなく、たまたま将軍の家に、しかも長子として生まれたからそう言えるのであって、自分の意思でそこに生まれたのではないのです。生まれるときは、人によって差はなく、生まれながらにして平等であるということになります。日本国憲法も「基本的人権を保障し」「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」旨規定しています。

 相続の際の相続分に嫡出子、嫡出でない子の間に差別を設けることが良いか否かについては、子は生れながらにして平等なのだから均等であるべきであるとするものと、婚姻制度いわゆる一夫一婦制の維持を考えた場合には差があって然るべきである、世論調査でも差を設けるべきであるとの声が多いので、平等の面では欠けるものがあろうがやむを得ないとする意見があります。

 相続制度は、人の死亡によりその人に属する財産を誰にどれだけ承継させるかを定めたもので、あまり細かく規定することは、私的自治の原則に反するのではないか、相続分までどうなるかまで定める必要はなく、分配の方法は相続人の思惟に任せるべきであるとする意見が強くなり、この規定も前に述べたように夫婦別姓の議論のときに議論され同時改正をめざした経緯があります。私的自治の観点から早急に改正されることを望んでいます。

 なお、相続分に差があるのは、法の下の平等に反するとする高等裁判所の判決(1993年・1994年)いわゆる違憲判断が下されたのですが、最高裁判所の段階で合憲である旨の決定(1994年)がされています。また、1994年ジュネーブで開かれた国連の人権委員会は、日本政府に対し婚外子の差別の解消について勧告したということです。

 自治省では住民基本台帳の世帯主の続柄を従来の「長男・長女」を「子」に改めています(1995年)。

 これは現在から将来にわたる大きな「戸籍をかけたたたかい」と言えるのではないでしょうか。

【明治民法第九百七十条】被相続人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従イ家督相続人ト為ル(中略)
四 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ女ト雖モ嫡出子及ヒ庶子ヲ先ニス
【同法第千四条】……但直系卑属数人アルトキハ嫡出ニ非サル子ノ相続分ハ嫡出子ノ相続分ノ二分ノ一トス
【現行民法第九百条】同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、左の規定に従う(中略)
四 ………但し、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし(以下略)

◆参考文献:「家族をめぐる法の常識」 講談社現代新書

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