1998年4月号Vol.7

【特集】“健康と生きがいのあるまち”への挑戦

公的介護保険と総合福祉に取り組む市町村

西那須野町 松下 昇課長(座長) / 今市市 赤松 浩課長 / 真岡市 日下田富義課長補佐 / 壬生町 山井 勲係長 / 高根沢町 古口 一係長・阿久津正道係長 / 庄和町 大塚政孝課長補佐・真田健治係長

戦後の生活困窮者救済に始まった行政福祉は、時代の変遷とともにその姿を変え、いま 21世紀を目前として新たな変革期を迎えようとしている。誰もが健康で安心して暮らせる地域福祉とはどうあるべきかーー福祉システム研究会へ参加した市町村担当者による座談会を通して、今後の福祉サービスの在り方を探る。

松下 これまで7回にわたって実施してきた福祉システム研究会もひと区切りを迎えました。そこで本日は1年間の活動を振り返りながら、総合福祉窓口システムと市町村の今後の課題について考えたいと思います。さて、研究会発足のきっかけは『新風』春号でも触れた通り、複雑な福祉業務をコンピュータで支援できないかと考えたためです。当初は「総合福祉窓口システムはどうあるべきか」を検討していましたが、昨年12月9日、介護保険法が衆議院本会議で可決成立したことにより、後半は『公的介護保険制度』に議論が集中しました。詳細については別途、活動報告書でご報告する予定ですが、座長として感想を述べると「議論を重ねるほど福祉の複雑さを痛感させられた」というものですね。また、システムのイメージを具体論に落とし込めなかったのは反省点です。

山井 福祉は制度や法律などが複雑に絡み合う業務で、だからこそ何年かかっても総合福祉窓口システムの整備が必要なんです。我われは第一歩を踏み出したばかりといえるでしょう。壬生町では福祉事務支援のためコンピュータを活用していますが、常々もっと便利なシステムが欲しいと考えていました。この点、問題意識を持ったメンバーと討議できたことは大変、有意義なことでした。

赤松 今市市では生活保護システムなどを活用していますが、研究会の話を聞いた時には正直いってかなり大変だぞと思いました。しかし、TKCも本腰を入れているし、電算のことは素人だが福祉分野では役立つこともあるのではという気持で参加しました。ひと区切り終わってみて、皆さんと本音の議論ができたことは良かったですね。

日下田 私は皆さんのように直接、福祉業務に携わっているのではなく、真岡市のシステム担当者として参加しました。福祉システムはデータ量は多くありませんが業務内容が複雑で、また現場の要求も初めの頃は手書き納付書の機械化で満足していたものが、業務が煩雑化するに従いトータル処理できるものへとレベルアップし、システム開発に大変苦労しています。いわゆる事務のOA化は福祉部門でも9割が達成されていると思いますが、コンピュータによる総合支援という点ではネットワーク整備の問題もあり、なかなか手が回らない状況です。そんな課題と期待を抱きながら研究会へ参加しましたが、成果はたくさんありました。

真田 庄和町では、2年前から保健婦やケースワーカーを交えた『福祉保健業務連携研究会』を発足。福祉・保健・医療の連携のために情報の一元化について検討してきましたが、最近では福祉システム研究会の動きと連動した活動を始めています。公的介護保険制度は最終的に身体障害者までを含むのではないかといわれていますが、身障者の場合は高齢者以上に制度や事務が入り組んでおり、いまから勉強しておかないと大変なことになるでしょう。そんな点では今後も福祉システム研究会を継続してもらえるとありがたいですね。

総合福祉システムがなぜ必要か

松下 一般に福祉の部署では他に比べ情報化が遅れていましたが、公的介護保険制度の導入で一挙に情報化が進むでしょう。見方を変えれば介護保険が行政のネットワーク化を牽引するといえますが、一抹の不安は残りますね。

日下田 しかし、以前と比べ相談内容が段々と複雑になり、応対時間も長くなっているのではないでしょうか。システム開発担当者としては、福祉の部署こそ単純作業から解放され、できる限りの時間を窓口応対に充てるべきだと考えています。

真田 実際に1つの問題で解決できる相談は少ないですね。逆に職員が業務に追われて、住民の相談に耳を傾ける心の余裕がなくなってしまうようでは困りますので、事務の効率化は緊急課題です。

赤松 福祉の仕事を続けていると担当者の頭の中には福祉を受けている方の事情や状況などがインプットされ、他の課の職員が対応していても「ああ、あの件だな」と大体判るようになります。そんな職人芸のような業務をコンピュータで誰が見ても分かるようにする..つまり情報の共有化も目的の1つなんですよ。

山井 また、異動したての職員も住民にとっては福祉のプロなんです。例えば、ベッドが欲しいという場合、老人・身障者・社会福祉協議会の3通りの方法があるわけですが、1つしか知らないとそれに適合しなければ「対象になりません」で終わってしまいます。コンピュータ化することで的確な窓口業務も期待しています。

赤松 担当者の質という点では訪問指導も同じで、ケースワーカーによって補助具や日常生活用具の数が違う。つまり数が伸びないということはケースワークをしていないということなんですよ。

真田 そうですね。わさわざ、福祉課の窓口へ補装具や日常生活用具について相談に来られる方もいます。福祉用具は種類も多く、あとからこんな日常生活用具があったのかというケースも少なくないですね。

赤松 その点、訪問指導の分野でもコンピュータの支援を期待しています。

松下 研究会でも議論されてきたことですが、本来の福祉サービスを充実するために、①関連情報を統合し事務処理を省力化、②サービス・照会事務の窓口支援、③訪問指導支援、の3つのコンピュータ支援を期待しているといえますね。

課題は個人情報の保護

松下 プライバシーの問題とコンピュータについては、ここでも随分、議論となりました。プライバシーの保護はもちろん大切なことですが、それが過剰過ぎると我われは仕事にならないわけで、プライバシーとネットワーク接続の問題は改めて考えていく必要があるかもしれませんね。

山井 福祉関係では所得税や町民税が基準となるため、うちでは住記・税務・財務の情報とリンクさせています。ただ暗証番号で管理し誰が何を見たかはすべて記録に残しており、その点では目に見えない部分で管理しているといえます。プライバシーの保護は重要ですが、行政事務の効率化を考えるといずれ総合的に活用できる方向に変わっていくのではないでしょうか。

真田 うちでは住記システムと連動する専用システムのほか、ノート型パソコンを活用して一部事務作業の軽減を図っていますが、情報の保護と事務の効率化は相反するテーマですね。

松下 住民の利便性を考えるとワン・ストップサービスが理想であり、そうなると情報をリンクさせなければならないわけですからね。ところで、皆さんの抱いている総合福祉システムとはどういうイメージですか。

山井 そうですね。住民サービスの観点では、カウンターに埋め込み式の画面があって、住民と対話しながら単純なキーボードや画面タッチで必要事項を入力でき、プリントされた書類に署名するだけで申請書ができあがるという具合になればいいのではないでしょうか。

真田 また、住民の中には書くことが不自由な方もいるので、そのための配慮も必要ですね。その点、住民票と印鑑証明では自動交付機の導入によりカード採用が進んでおり、福祉分野でも普及するといいのですが。

山井 住民データをすべてカードに集約することが可能ですからね。行政だけで使うならば磁気カードで十分ですが、医療機関などでも使えるようにすると、やはりICカードが必要でしょう。さらに、行政事務の効率化という点では、県とネットワーク化されると便利なのですが。

日下田 コストパフォーマンスを考えるとネットワーク化した方が得かもしれませんが、データ漏洩や改竄を考えると安易に接続するわけにはいかないでしょう。私がその立場であれば、やはりダメだといいますよ。また、外字の問題もあります。メーカーも遅ればせながら外字の標準化を始めたようですが、各市町村が個々に作成している外字データの互換が取れないことがネットワーク化を阻んでいる要因です。いずれにしてもプライバシーは制度上の問題だけではなく、データの互換性など相対的にとらえる必要がありますね。

赤松 先ほどICカードの話が出ましたが、介護サービスの利用券をプリペイドカードで渡したらどうでしょう。オーバー分は現金で徴収すれば、使い過ぎの問題も回避されるのではないですか。

真田 しかし、オーバー分は現金で、とすると「利用しなかったサービスを転用してくれ」という話を認めるのかという問題も出てきますよ。

松下 いずれ民間業者が介護サービスを提供する時に、使い過ぎかどうかが分かるシステムになるだろうと考えているんですが…。確かにサービスの利用券という目に見える形にして、それを使ったら終わり、というのはいいかもしれませんね。

山井 いずれにしても、行政としては〈誰が・どこに・何日行って・いくらだったか〉ということを把握し、台帳管理をしなければならないわけですから。途中で介護認定に変更があれば、それも台帳に書き込んで管理し、しかも、その情報は担当者だけではなく介護サービスに関わる部署、機関などが共通認識できるようにしなければならないわけで、そうなるとネットワークやICカードを使わなければできませんね。

赤松 関係各機関には同じカードリーダーを設置してもらうわけですね。

日下田 いずれ偽造業者が登場したりしてね(笑)。まぁ、半分は冗談だけど、条件管理するのも簡単ですし、本気で導入を考えることになるかもしれないですよ。介護支援センターも、そのシステムを利用料金の請求事務やホームヘルパーの労務管理に活用することも考えられますからね。

立ち塞がる壁──公的介護保険制度

松下 さて、公的介護保険制度については、これまでも国や県、国保連合会の動きをウォッチングしてきましたが、詳細部分が未確定なので、どう対応すべきか苦慮する市町村も多いと思います。西那須野町では栃木県北の7市町村が集まる『介護保険事務連絡会』に参加していますが、具体的な検討はこれからですね。皆さんのところではどんな準備をしていますか。

赤松 昨年、モデルをやりました。医師、歯科医、保健婦、看護婦が2人、施設長の計6人で介護認定審査会を構成したのですが、調査表と医者の意見書に違いが出て、結果的に調査員の養成という課題が残りました。スタートまでにかなり調査員の質を高めておかないと、介護認定審査会がもめて認定作業に遅れが生じるでしょうね。それと注意すべき点は、介護認定審査会は夜になるということです。会議が終わるのは早くても21時で、5日間で100件審査しましたが医者の意見書との調整等で時間がかかり、とても予定通りには進みません。その事務処理にかかる労力も大変なものです。うちでは、これらをきっかけとして平成10年度から、従来の社会保険福祉係を社会介護保険係に名称変更し、介護保険導入に関する検討と研究をすることにしました。彼らには「各課担当者によるプロジェクトチームを作れ。徴収~申請~サービスまでを1つの係で検討していたら間に合わないぞ」と叱咤激励していますよ。

松下 いずれの市町村でも専門の係をつくらざるをえないでしょうね。ただ、プロジェクトをつくるのは簡単だが、それをどう運営していけばいいのかが問題でしょう。少なくとも係長クラスをアサインしないと相対的に意味をなさないし…

真田 うちでもまだ組織体制については決まっていませんね。専属組織でやるのか、各課で対応するのか、また徴収も町民課国民健康保険係でやるのか国民年金係か。すべての部署に関連する問題ですから、早めに体制を決めて対応しないといけないですね。

日下田 現在、行政改革で組織機構の見直しを図っていますが、その中でサービス部門は高齢福祉課、賦課部門は保険年金課という基本的な担当は決定しました。しかし、トータル的な対応はこれからだと思います。

真田 結局、問題なのはどこが徴収を担当するかなんです。他の市町村の状況を見ると、今市市さんのように4月1日から組織変更する方が珍しいぐらいですよ。

赤松 これまで、福祉とはサービスメニューであり徴収は別という考え方でしたが、介護保険が具現化するにつれ徴収をどうするかまでトータルで考えなければならなくなりましたからね。

山井 係を1つ新設する覚悟は必要でしょう。

赤松 ただ、その係に何人張り付けるか。今後、平成12年までにどんな事務が発生するのか、それをどんなスケジュールでやればいいのか…

松下 県の健康福祉センターの目安では3.8人ほどとしています。同時に、いつからどんな事務が必要なのかというものも作り始めたようです。それが妥当なものかどうか判りませんが、目安がないと何もできませんからね。いずれにしても保険者として市町村が果たすべき役目はかなり広範なものとなり、これまで以上に国や県、国保連合会などとの連携を強化していかなければならないでしょう。特に、事務の効率化を考えると、共同でできる部分は各市町村が個別対応するよりも連合会に委託する方が経費を削減でき、またレベルも合うといえます。現段階では何を連合会へ委託し、何を庁内で処理すべきか判断できませんが、今後はそんなことも視野に入れながら研究を進めていかなければならないでしょう。

10年度以降の活動展望は…

真田 サービス提供開始時期が決まっている以上、市町村は待ったなしですから、研究会の活動はむしろ今後の方が重要になっていくと思います。何月までに納付書を発行するのか、高齢者台帳と資格台帳をいつまでに整備するのか、介護保険料をどう積算しどこが受けるか、保険料の総額はいつまでに把握すべきか、などは現場にとっては切実な問題です。4月になれば国からもう少し詳細な情報が提示されると思いますので、その段階で個別テーマを設定するなど考えてはどうでしょうか。

赤松 そうですね。研究会に付随する形で担当者レベルの部会を設置してもいいですね。

山井 実務部会と併行して介護保険の根幹となるシステムだけは早急に固めないと、時間的に間に合わないのではないでしょうか。12年度から総合福祉システムを一斉にスタートすることは困難なので、この部分は第一段階でやる、ここは紙やバッチで処理し次のステップでやる、という具体的な計画を検討していかなければいけませんね。

真田 関係機関や民間のサービス業者とオンラインで結ぶ、あるいはICカードの採用なども検討課題ですが、まずは12年度から介護保険を動かしていけるシステムを作ることが先決でしょう。

日下田 とにかく目先の介護保険を乗り切らなければ前に進めませんからね。1つずつ積み重ねていって、最終的に総合福祉窓口システムが完成するのではないかと考えています。

松下 そう考えると、研究会の平成10年度の活動は、公的介護保険の実務を主要テーマとしながら、一方で総合福祉窓口システムの研究を継続していくことになりますね。

真田 また、市町村としては、介護保険制度に向けた内部体制固めを急ぐ必要がありますね。これはシステム云々の前に、我われ自身が庁内に問題提起しなければならない部分だと思います。

松下 そうですね。内部体制とシステムの整備は両輪でどちらも欠かすことができない課題でしょう。研究会としては詳細仕様の提示を受けて、これを分析し、6月頃をめどに実施計画案を作成してはどうかと考えています。同時にTKCにはどんどんシステム設計を進めてもらい、途中、研究会メンバーも参画してシステムをチェックする。10年度は非常に忙しくなると思いますが、総合福祉窓口システムの完成に向けて頑張りたいですね。

TKC福祉システムへの取り組み

 福祉システムに求められる機能として、①窓口での応対を支援する機能、②身障者からの措置申請の受付など事務処理を支援する機能、③保健婦やヘルパーによる訪問看護・介護を支援する機能、④疾病の予防業務を支援する機能、などが考えられます。

 また、平成12年からは公的介護保険制度が導入されるため、福祉システムにはこれへの対応も求められています。

 現在、TKCでは、多岐にわたる福祉分野の業務を支援するシステムとして、以下のようなコンセプトを持った『総合福祉システム』の研究開発を進めています。

1.総合福祉システムの特徴
①高齢者福祉や身障者福祉などの事務処理システムで蓄積されたデータベースと、住民記録や税務情報のデータベースをもとにして、窓口に訪れた方が現在受給しているサービスを確認したり、その方が受給できるサービスを検索する機能を持つ
②その場で申請を行う場合には、申請書の出力が可能
③制度の内容をシステムに取り込み、窓口での応対内容に差が生じないようにし、サービスの質の平均化を図ることができる
④健康管理システムとの連携で、保健婦やホームヘルパーによる訪問看護・指導の結果を一元管理し、適切な指導を支援する機能を持つ
⑤住民記録の資格や宛名情報、税務情報の所得情報(税務所管課による情報使用に関する了承が必要)、財務情報への支払情報など、関連システムとの連動で情報の重複管理や二重入力をなくし、事務処理の効率化を実現する
⑥福祉8法や介護保険法ならびにその他関連法制度に完全準拠し、実務に即したシステム

2.介護保険制度への対応
 公的介護保険制度の実施に伴い、資格管理・保険料の賦課・第1号被保険者分保険料の納付記録管理・要介護の認定・介護実施計画の管理・受給者管理・現金給付・給付実績管理・審査支払など多くの事務処理が新たに発生するものと思われます。
 なかでも、資格管理や保険料の賦課に関わる業務は、住民記録や税務情報との連動なしに実現することはできません。転入出や死亡時の資格取得喪失、被保険者の所得の情報に基づく保険料の算定、国保被保険者の第2号被保険者への保険料の賦課、住民記録の情報と年金天引きのためのデータとの突合、資格喪失時の処理、保険料の収納処理などです。
 要介護認定された被保険者にかかわる業務は、総合福祉システムの機能としての提供を予定しています(認定処理は厚生省のシステム、審査支払処理は国保連合会が対応する見込み)。(高橋 誠)

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