1998年7月号Vol.8

【特集】~自治体と民間の情報化比較調査に学ぶ~
大競争時代を勝ち抜く情報システムの在り方

東京都立科学技術学校 島田達巳教授 / 聞き手 本誌編集委員 角 一幸

世界規模の構造変革という潮流のなか、小舟のように漂う日本。この荒波は市町村をもまた飲み込もうとしている。いまなすべき方策とは何か。「民間企業との比較」というまったく新しい発想で、その方向性を探る東京都立科学技術大学の島田達巳教授に話を聞いた。

──このほど「地方公共団体と民間企業の情報化比較調査」の結果を発表されましたが、市町村をこのように分析したものは他に類がなく新鮮に感じました。特に両者を〈民間企業の情報システムは強者を作るシステムで、自治体の情報システムは弱者を作らないシステム〉と言い表しているのはとても印象的です。そもそも比較研究に至ったきっかけは何だったのでしょうか。

島田 東京都庁が丸の内から新宿に移転する時に、OA化専門調査員として関わったことがきっかけとなり自治体の情報化に関心を持ちました。自治体と民間では、前者は〈地域住民の福祉向上〉で後者は〈利潤の追求〉と組織の存在目的は異なりますが、〈経営資源の最適化を図り目的を実現しようとする組織体〉という点では基本的に同じで、比較研究することで互いの短所を補えれば両方にとってプラスになるのではないかと考えたわけです。

──調査分析の詳細については『日本経済新聞』(97年10月3日付)や『地方自治コンピュータ』(97年12月号、98年1月号、3月号)などで公表されていますが、改めて今回の調査についてご説明いただけませんか。

島田 日本にコンピュータが導入されたのは1950年代後半からですが、以来、MIS、OA、SIS、BPRなど情報化コンセプトが次々と現れては消えていきました。これらは残念ながらすべて米国から発信されたもので、日本の企業は米国流理論をアレンジして取り込み独自の情報システムを築き上げてきました。バブル崩壊後、民間では不採算事業の縮小・撤退、業務プロセスの革新、人員削減・組織統廃合などによって大胆なリストラを展開してきたことはご承知の通りで、これと情報化を一体的に推進することで大きな効果を上げているといえます。この民間を襲った構造変革の大きなうねりが、いままさに自治体も巻き込もうとしており、これを乗り越えるために民間から学ぶことは多いでしょうね。

 私たちが初めて両者の比較調査を実施したのは10年前ですが、前回調査では基盤整備、推進体制など多くの点で自治体の情報化が遅れていました。その後の社会環境の変化に伴い両者の格差はどうなったのか。依然として格差があるのであれば、それはどんな点で顕著に現れ、自治体は今後どのようにシステム整備を進めるべきなのか。これらを探るために、96年12月、人口5万人以上の自治体444団体(有効回答228)と従業員数の多い民間企業500社(同177)を対象にアンケート調査を実施したわけです。今回の調査の結論としては「基幹系のシステム整備では民間企業と同レベルに達している自治体も多いが、ネットワークを前提とした情報系のシステム整備では両者の格差は依然として大きい」ということが分かりました。

民間との情報化格差の分析こそ未来への第一歩となる

──比較分析のため3つのモデルを設定されていますが、これについて解説していただけませんか。

島田 民間と自治体を同じ土俵で論じるためにはレベル合わせが必要で、その共通のものさしが経営学で使われる〈組織成果〉〈推進行動〉〈環境状況〉です。例えば、民間の売上や利益を自治体に直接当てはめるわけにはいきません。そこで組織成果としては、意思決定スピード、職員数の削減など両組織体に共通した要因を選んでいます。同様に、推進行動とは組織的に情報化を図る行動を指し、これは組織成果に直接影響を与える要因となります。また環境状況とは推進行動を規定する組織内外の環境要因を示したもので、これらの関係と共通要素をまとめたのが図1です。環境要因は意識的にコントロールできませんが、そんな中で両者がどんな情報化をしているのか示した結果が、図2と図3です。

図1 地方公共団体と民間企業の情報システム化比較の分析枠組み

図1 地方公共団体と民間企業の情報システム化比較の分析枠組み

──なるほど考え方のベースは経営学なんですね。ここから指摘されるポイントは何でしょうか。

図2 組織成果(数字は%)

図2 組織成果(数字は%)

島田 図2を見ると、意思決定スピード、職員数の削減、文書量の削減など経済性の項目では民間の方が高い値を示し、一方、情報公開や個人情報保護など社会性の項目では自治体の方が積極的です。また、職員のモラルや創造性といった職員特性の点ではほとんど差がありません。これらについては実体もほぼこの通りでしょう。ここで注目すべきなのは、住民サービスと顧客/住民満足度が自治体の方がやや高いという結果が出ていることです。アンケート調査には回答者の個人的な認識や業務特性の違いなど不明確な要素が含まれるため、数値だけで自治体は顧客住民サービスが進んでいると読み取ってはいけません。これは「情報化によって住民も満足している」と思っている自治体が民間よりも多かったということです。

──民間にとって顧客満足度は重要なキーワードです。これが自治体では住民満足度になるわけですが、システムを提供する側として住民満足度を意識してきたかと問われるとドキッときますね。

島田 そうですか(笑)。先ほども申し上げたように、組織として成果を求めるからには行政運営にも経営学の視点が必要です。これまでは自治体の情報システムは業務効率の向上に主眼が置かれ、業務効率がアップすることで間接的に住民サービスも向上するというものでした。しかし、これからは、いままで欠落していたマーケティング思考や顧客志向が欠かせなくなるでしょうね。

──おっしゃる通りです。ところで、情報の共有化についても民間の方が突出していますね。

島田 ええ。いわゆる“縦割り”といわれる組織特性が影響して、情報やノウハウを共有化するという点が遅れているといえます。

──意外だったのは文書削減で、自治体では減っていないという意見が多いようですが。

島田 実際には「情報化によって紙が増えた」と回答した自治体もありました。これは民間には見られない傾向です。パソコンの導入台数を見ると、民間が平均4人に1台に対して、自治体は14人に1台で、台数からいっても電子メールなどを活用しない自治体が多いと推測されます。これは情報の共有化の遅れにも関係するのですが、課や係にパソコン1台の体制では情報は紙で回覧せざるをえないため紙の増加につながっているのでしょう。また、多くの自治体で、C/Sシステムを導入しても起案を決裁する過程で公文書も流すが起案も流れるという2本立てとなっています。この背景にはいろいろな制約もあるのですが、やはり長年染み着いた役所の“文書主義”がなかなか改まらないのが要因といえるでしょうね。

自治体間の情報格差もすでに始まっている

──推進行動からいえる特徴は何ですか。

図3 推進行動(数字は%)

図3 推進行動(数字は%)

島田 図3は、すべて民間リードで、両者の差は推進行動にあるといえますね。ここからは4つのポイントが挙げられます。まず、トップのリーダーシップとトップ・ミドル層の教育ですが、ここでいえるのは「情報化はリーダシップが重要で、かつリーダシップを発揮するためにはトップやミドルが情報技術を勉強し積極的に業務に取り入れていくことが必要」ということです。調査結果を分析すると、情報化の重要性は認識していても自らリーダーシップを取って推進しようとしないトップが少なくありません。民間では単に理解を示すだけではなく、トップが明確な意思を表明し自らもパソコンを使うことで期待した効果を得ているわけで、今後はトップの在り様で自治体間の格差も拡がっていくことになるでしょうね。

──トップとは首長ということですか。

島田 首長、助役、出納役の三役を指しています。本当は首長がリーダーシップを発揮するのが望ましいのですが、私は助役がキーマンになればいいと考えています。また、次に注目されるのが事前のシステム評価と事後のシステム評価です。図ではどちらもほぼ同じ傾向を示していますが、細かく分析すると自治体は「導入後にシステムを評価する」意識が低いという結果が出ています。本来は事後のシステムレビューこそ大事なのですが“予算主義”がこんなところにも反映しているのでしょう。3つ目が業務プロセスの見直しです。 図では両者に差がありませんが、これも詳しく見ると「抜本的にやったかどうか」という質問項目で大きな差が見られます。また業務改善改革の運動もここでは僅差ですが内実はかなり差があると思います。もちろん、自治体がいろいろな制約や法律に縛られているという現状は否めませんが--。

──業務改善とは行財政改革への取り組みですか。

島田 行財政改革に限らず、運営事業や業務手続きなど改善できるところはたくさんあると思います。抜本的な業務改善を目指す自治体は少なくないのですが、その場合でも、情報技術と行政改革を別々に考えているところがほとんどです。民間企業では、長期不況や競争激化という〈経済的な側面〉と情報通信の〈技術的な側面〉によって、経営モデル自身を顧客・市場の囲い込み型からネットワーク型へと進化させ、これに伴ってまた情報システムの位置づけも大きく様変わりさせています。そういう点では自治体のリエンジニアリングが本格的に進むのはこれからだと思いますが、中には大阪府羽曳野市のように「行政改革の半分は情報技術でできる」と考えるところや、福岡県春日市のように行政改革と情報システムをバランスよく進めているところもあります。このような自治体では全職員の理解と協力の下、管理職もパソコンを使わなければ仕事ができない仕組みを造り上げていることに着目したいですね。

──そういった意味では、今後もパソコンの装備率を高めLANで結ぶことが課題といえますね。アウトソーシングについてはいかがお考えですか。

島田 1992年に米国で出版された『リインベンティング・ガバメント--行政革命』という本に〈行政は船を漕ぐよりも舵取りを〉とあります。まさにこの通りだと思いますね。よく行政がやるとコストが高くつくといわれますが、その部分を民営化や民間委託することも合理化の1つの手段であり、アウトソーシングによって無駄な経費・人力を削減できる部分は少なくありません。ところが、自治省の資料を見るとコンピュータの自己導入団体が増える一方で、外注費もどんどん増えるという矛盾した結果となっています。どうも、自治体はあまりにも業者へ“丸投げ”しすぎなのではないでしょうか(笑)。しかし、行政が舵を取る、主体性を持ったアウトソーシングならば大いに進めるべきだと思いますよ。

地方の時代に必要なのは情報化と一体の業務革新だ

──さて、今回の調査結果を踏まえ市町村へアドバイスをいただけませんか。

島田 やはり1つは〈トップの旗振り〉が重要だということですね。2つには民間で実証されているように〈情報システムは組織戦略を実現し、目標を達成するための有力な道具〉だと認識することでしょう。今後、ますます地方分権が進展するわけですが、その中で自治体は従来のように受け身の姿勢ではなく情報システムを主体的に活用していくことが大切だと思います。3つ目にいえるのは〈開かれた電子ネットワークの整備〉が必要だということです。ネットワークは内部だけで使っていては本当の効果は得られません。行財政改革、介護保険制度など自治体を取り巻く多くの課題を解決するためには、官官ネットワークや官民ネットワークは避けて通れないものであり、オープンなネットワークの整備を急ぐべきではないでしょうか。そのためにも、オンライン結合禁止条例など時代にそぐわなくなったものは常に見直す柔軟性が必要であり、情報公開も「情報は納税者のもの」という論理に立ち、情報公開によって住民と対等の立場で一段上のサービスを目指すのだと発想を切り替えるべきでしょう。

 このままいけば、電子商取引が急速に進む21世紀の日本の中で、いずれ自治体だけが取り残されかねませんね。

しまだ・たつみ
1939(昭和14)年生まれ。中央大学法学部卒業。明電舎、(財)日本生産性本部、横浜商科大学を経て、現、東京都立科学技術大学教授。経営学博士。『日本的OAの構想と展開』『自治体の情報システム~民間企業との比較分析』(白桃書房)など著書多数。

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