1998年7月号Vol.8

【トレンドView】気になる環境ISOブーム

 異常気象や海面上昇をもたらすといわれる温暖化現象。このままいくと「21世紀末には地球全体の平均気温が現在よりも2度以上高くなり、海面が約50センチ上昇する。日本では高潮時に水没する危険のある地域に住む住民が410万人、水没で失う資産は90兆8000億円」(IPCC『気候変動に関する政府間パネル』)といわれ、二酸化炭素など温暖化ガスの削減は地球規模の緊急課題となっている。

30団体以上が取得を検討

 環境問題は1960~70年代の工場汚水や煤煙など「産業公害」から、80年代以降のゴミの焼却・廃棄や排気ガスなどの「生活公害」へと問題の質が様変わりしてきた。

 90年代になると国境を越えた地球規模の問題として議論されるようになり、産業界では早くから環境を重要な企業戦略と位置づけている。国や自治体でもリサイクル法や条例の施行、緑化計画など環境問題に取り組んでいるが、最近にわかに脚光を浴びてきたのが「ISO14000シリーズ」(環境 ISO)だ。

 国内では、電気機械メーカーを中心に98年4月末現在で924件が環境ISOを認証取得しており、件数では世界トップ。これに続くイギリス(525)やドイツ (500)と比較しても日本の関心の高さがうかがえるだろう。市町村でも千葉県白井町と新潟県上越市が認証を受けており、「30以上の自治体で検討準備中と推測される」(通産省工業技術院)といわれている。

 環境ISOとは、96年9月に制定された環境マネジメントシステムの規格のこと。公害規制のように公が定める基準や規則とは異なり、組織が自主的に環境への負荷を低減する「環境マネージメントシステム」(EMS)を築くもので、①一定の目標を立てて(Plan)、②計画を運用・実行し(Do)、③実行記録を取り監査し(Check)、④監査結果に基づき次の行動を決める(Action)、のPDCAサイクルを繰り返すことで毎年これを改善させていくことが求められる国際規格だ。

 現在、認証取得を計画する市町村には仙台市や京都市など大都市が目立つが、中には水俣市(6月1日現在3万2186人)のように中小規模の団体が市のほぼすべての行政機構を対象に取得を目指すケースもある。

重要なのは認証よりも運用

 市町村が環境ISOを取得するメリットは、主に省エネ・省資源などによる経費削減という経済的効果と住民満足という社会的効果だといわれる。

 だが、認証取得には500~1000万円もの費用がかかり、また認証を受けた後も毎年の定期審査と3年ごとの更新審査があるため、費用対効果の面から自治体の取得には否定的な意見もあるのも事実。

 当分の間、市町村の取得ラッシュとなりそうな気配だが、環境ISOが求めているのは認証を得ることではなく自主的な環境保全活動を継続的に向上させることだ。このため、場合によっては認証を取り消されることもあり、ISOの理念から考えると慌てて認証を受けるよりも、まず独自のEMSを構築することが肝要といえそうだ。

 実際に東京都板橋区では、平成9年度から環境ISOの概念を取り入れた独自 EMS「庁内環境管理・監査システム」を導入し効果を上げている。

 板橋区役所資源環境部環境保全課の浅井浩主査は、「環境保全は行政と産業と住民が一体となって取り組まなければならない問題。行政が率先垂範して、行政活動で生じる環境への負荷を軽減するよう努力するためにEMSを構築した。これをベースに10年度中に環境ISOを取得し、地域全体の活動へと発展させていきたい」と語る。

 板橋区では、平成8年7月に石塚輝雄区長を本部長とした庁内環境管理推進本部を設置。職員研修をする傍ら、二酸化炭素の排出削減を統一目標とする独自のEMSを作り上げた。具体的には、①フロン等削減、②省エネルギー、③省資源・リサイクル推進、④自動車対策、⑤グリーン購入、⑥建築・土木工事、⑦行政計画策定時の環境配慮、⑧職員の意識向上、という対策課題を掲げ、それぞれに目標、講ずべき対策、記録・情報管理のための文書管理、一連の流れをチェックする環境監査を定めている。現在、9年度の監査報告をまとめているところで、「第3四半期までの途中結果では、8年度に比べ二酸化炭素の排出量が減少した」(浅井主査)と初年度から効果を上げている。

地域を巻き込むには?

 市町村がEMSという仕組みを作るのはさほど困難ではないが、大変なのは職員や関係機関へいかに意義を理解させ実行させるかだ。このため、ISOではトップダウンでの遂行を求めているが、板橋区でもこの点でいろいろな工夫を懲らしている。

 板橋区の場合、職員が自発的に古紙100%・白色度70%の再生紙へ切り替えたり、事務員の制服や防災毛布に再生ペット製品を採用するなど、もともと環境問題に対して成熟した土壌があったといえるだろう。これをさらに徹底するため、各課の庶務担当係長68名を庁内環境管理推進員として任命。環境保全行動を特定の部課がリードするのではなく、課や係といった単位で責任を持たせることで職員全体の意識向上を図っている。

 また、エコポリスセンターを拠点とした地域への情報提供・普及啓発でも、豊富なメニューを用意して常に住民の目を惹くよう努めていることもある。

 しかし、何といっても一番ユニークなのは省エネ・省資源チェックリストだ。これは3ヵ月に1度、個人ごとに行動結果を自己採点して、課や施設単位で結果集計するもの。この狙いは他の部課との比較ではなく、身近な問題点を明らかにして改善努力を促すことに重点を置いている。しかも、4300名の全職員に加えて小中学校の先生にも実践してもらっているというから驚く。これは子供たちへの環境教育の面からも注目される試みといえるのではないか。

 いま環境問題と真剣に取り組む市町村は少なくない。だが、地球環境の保全は行政だけではなく、地域も巻き込み100年、200年と長期にわたって継続すべき課題だ。環境ISOを一過性のブームに終わらせないためには、1人1人ができることから始めることが大切といえるだろう。(井村 薫)

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

※掲載団体様への直接のお問い合わせはご遠慮くださいますようお願いいたします。

  • お客様の声
  • TKCインターネットサービスセンター「TISC」のご紹介