1999年1月号Vol.10

【特集】注目される公共投資の手法PFI

毎日新聞編集委員 渋川智明

財政事情の悪化で、民間資金により社会資本を整備するPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ、Private Finance Initiative)と呼ばれる事業方式が、新たな手法として着目されている。イギリスが発祥の地で、民間企業などが道路や橋などのほか病院、教育施設などを幅広く建設、通行料収入などをもとに維持管理から運営まで担当して、実績を上げている。民間主導で進められるため、国や自治体は財政負担が軽減される。日本でも議員立法によるPFI法案が国会で審議され、積極的に導入を図る自治体も出てきた。しかし企画立案に公的機関がどう関わり、最終的な事業責任はどこが負うのかなどノウハウの蓄積が不十分で、不明確な部分も多い。PFI方式は不況脱出からの救世主となりうるのか。イギリスの現地の情勢をもとにリポートする。

サッチャー政権からの財政改革路線

 1979年に政権についたサッチャー保守党政権は行財政改革推進を掲げ、地方自治体ではCCT(強制競争入札)が導入された。地方自治体が直営で行っている業務を民間企業との競争入札にすることを義務づけた。民間委託は道路の新規建設、維持・修繕部門やゴミ収集、建物清掃、学校給食などに拡大。その後は事務部門へと広がっている。

 公共事業そのものについても、民間資金の導入が図られた。当初は民間資金が入ると、国の補助金がその分削減されたため、あまり普及しなかったが、1992年、当時のノーマン・ラモント大蔵大臣は民間部門の資金やノウハウを、もっと積極的に導入することによってインフラ整備を近代化しようとした。それがPFIである。それまでプロジェクトの建設や運営は公共部門が担当していたが、事業主体を民間にまかせ、公共部門は、完成されたプロジェクトから提供されるサービスを、国民や市民に代わって購入するという方式を採用した。民間は完成したプロジェクトから得られる収入や公共部門から支払われるサービスの対価で、投資額を回収し、収益を得る。

事業方式は3つのタイプ

 PFIと一口に言っても、事業形態はさまざまだ。大きく分類すると三つに区別される。

①【自立型】民間が公共部門から事業許可を受け、有料道路などを民間が建設して、通行料を徴収して賄う。
②【公共サービス提供型】民間が病院、庁舎などを建設して公共部門に貸したり、公共サービスを提供してその対価を公共部門から受ける。
③【ジョイントベンチャー型】再開発や鉄道建設などで大型開発を官民双方が出資して建設。プロジェクト運営は民間が担当する。公共部門はそれによって、国民や市民の利便、周辺経済の発展を図る。

 自立型はロンドンのエリザベス2世橋などがある。交通渋滞を解消するため、民間会社がテムズ川にかかるエリザベス2世橋を建設し、通行料で建設費を回収中。すでに供用が開始されている。投資の回収を完了すれば、橋は国に無償譲渡される。また公共サービス提供型は最も一般的で、現在は全国に広がっている。 

 ジョイントベンチャー型では英仏海峡トンネル建設などが知られている。英仏海峡トンネル鉄道は官民共同出資だが、全体的なイニシアチブは民間が取り、公共部門は資金供給と法整備にとどまっている。

 それまでの公共事業のやり方とどこが違うようになるのだろうか。次のような特徴があげられる。

(1)民間部門が施設のデザイン、建設、運営において主要な役割を担うため、お役所仕事的なムダや、事なかれ主義に陥らずに、効率性が期待できる。
(2)公共部門は、民間部門が提供する市民サービスを、市民に代わって購入することができる。このため市民サービスが悪ければ、改善を要求できる。
(3)財政部門からの支出を抑えることになり、より良い金銭的効率性が確保される。

 最近では民間単独出資がほとんどで、公共部門の資金投入が全くない事業では、公共部門は基本計画の策定、許可、法制度の整備などの支援を行う。1992年から、これまでに実施されたものを累計すると120億ポンド(約2兆4000億円)に達する見通し。さらに件数で、1000件以上、250億ポンド(約5兆円)の計画が候補にのぼり、93年には公共投資に占める割合は0.5%だったのが、97年には12.2%に伸びている。

ウエールズ・カーディフ湾の巨大開発

 ロンドン・パディントン駅から都市間高速列車で2時間。ウエールズの首都・カーディフはかつて世界に向けた石炭の積出港として栄えたが、エネルギー革命などもあり、1970年代に入り衰退した。その後、復興運動が高まり、外国企業の積極誘致が展開されている。進出した日本企業も多い。いま、ワールドカップの開催に向け、活気を取り戻しているように見えた。ここのカーディフ湾岸地帯でPFIによる大規模なウォーター・フロント開発が進められている。

 総面積1108ヘクタール。市の六分の一の面積を占める。湾内は干満の差が大きく、広大な干潟が広がる。湾をせき止め、内水面を人造湖にしてマリン・レジャー基地として開発。周囲に6000戸の住宅、工場団地、商店街、ホテルなどを配置、国道のバイパスなども建設する計画である。特殊ガラスを製造する日本企業もすでに進出している。2000年までに3万人の雇用を創出し、年間200万人の観光客を見込んでいる。総投資額は24億ポンド(約5000億円)。このうち公共投資は全体の20%、残り80%は民間投資を見込んでいる。

「まずメインストリートを完成させます」

 カーディフ湾を見渡せるビジター・センターで、開発会社職員、スティーブン・ホンバルさんは、完成模型を前にビュート通りと名付けられたメインストリートを指して胸を張った。

 ウエールズは1990語年、二層制から一層制に移行した。それまで8つのカウンティ(県にあたる)と32のディストリクト(同市)があったが、現在は22のカウンティ・カウンシルに統合された。またブレアー・新労働党政権の誕生後、住民投票により、独立議会(ウエールズ・アセンブリー)の設置が決まっている。新庁舎(カウンティ・カウンシル)は湾岸にあり、その近くに独立議会が建てられる。市街地にある旧市庁舎と、湾岸の新官庁街の間3.3キロメートルを結ぶのがこのメインストリート。カーディフの財産家・ビュート卿の名前にちなみ、ビュート通りと名付けられている。民間の運送会社などの資金で建設、将来は周辺を含めて路面電車を導入、道路や電車の運賃料金が生み出す利益を見返りに、民間企業が投資する。パリのシャンゼリゼ通りをモデルにして、交通要路の役割とともに、市民が散歩もできる美しい並木道にするという。新生カーディフのシンボルであろう。

 カーディフ市の企画立案担当、ピーターズ・グローブスさんは「民間会社は投資に見合う利益を見込んでいるからこそ、計画に加わる。臨海開発では周辺用地を市が確保している。市はその用地を提供するので、道路を含めて周辺開発が可能になる。建設会社、住宅開発会社、進出企業、商店などいろんな業種の企業から出資を募り、それをもとに開発を進める。全体の開発がうまくいけば、見違えるような街ができ上がる。観光客も含めて人が集まる。そこからは大変な利益を生み出す。投資する企業にとっても魅力が大きいはずだ」と解説してくれた。

国会でPFI法案継続審議中

 日本でも、政府自民党など与党案が国会に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律案(PFI事業促進法案)」を提出し、一部、修正されたが、国会で継続審議中。平成9年11月の緊急経済対策や、昨年四月の総合経済対策にも推進が盛り込まれた。与党案によると道路や空港・港湾、上下水道などの公共工事に加え、建設国債が財源となっていない情報通信、新エネルギー発電所、観光施設など非公共事業の社会基盤も対象とする。官公庁庁舎、医療・福祉施設も入る。

 支援措置として、①国や地方自治体が保有する土地や施設を時価以下の価格か無償で提供できるようにする。事業者への政府出資、国会や地方議会が認めれば債務を国や地方自治体が保証する、②日本開発銀行などによる無利子融資や債務保証をする。金融機関が抱える担保不動産の活用を促すため、売却損が発生した場合は5年間かけて繰り延べ償却することを認める、③民間企業が国に賃貸できる期間を5年間から20年間に延長する――などが盛り込まれている。

地方自治体、地元企業なども名乗り

 建設省は日本版PFIのガイドラインを出した。同省が設置した「民間資金を誘導する新しい社会資本整備検討委員会」が中間報告を出したが、その内容を中心にまとめられている。官民の役割と責任分担、リスク分担、公的支援などについては、民間事業者と管理主体との間で協定を結んで定めるなどの項目をあげ、各都道府県にもこれに沿って取り組むよう求めている。通産省でも新エネルギー、リサイクル分野などで、他の省庁もそれぞれ独自に研究会を開くなどPFIに関心を寄せている。環境事業への参入を狙う民間企業、自治体は「新エネルギー・リサイクル等PFI推進協議会」を設置、また大手商社、情報通信会社などのグループが研究会を発足させるなどの動きが出ている。

 こうした情勢から、すでにJR新宿駅南口の再開発、中部新国際空港や、第二関門橋の建設問題などの大型プロジェクトについて、地元企業などからこの方式での事業着手が提唱されている。また東京都が今年度、浄水場の自家発電施設事業でPFIの導入を計画している。三重県でもPFIを県事業に初めて導入する東紀州地域の観光・健康増進施設調査費(2億2,644万円)を予算計上している。福岡市も空き瓶・ペットボトルのリサイクル事業で、建設から運営まで民間企業の資本を導入する。このほか企業や金融機関が将来の成長を当て込んで参入を図っている。

第3セクターの二の舞、避けよ

 イギリスは契約社会で責任分担がはっきりしている。日本は、契約や訴訟は敬遠しがちで、曖昧な口約束がまかり通る。イギリスでは官民の共同出資から始めて、試行錯誤の中から実績を積み上げて来た。検証も怠らない。そして現在では民間出資主導型に切り替えている。イギリスで実績が上がっているからと言って、日本でも成功するという保障はない。 

 PFI方式とよく比較されるのが国・自治体と民間が出資した第三セクター方式である。バブル期の民活法や、リゾート法で、各地に続々とできたが、お役所的体質が抜けず、赤字で破綻しているところも多い。お役所の主導権が強く、補助金や行政の財政支援に頼るため、採算を度外視して放漫経営に陥ったケースがほとんど。今回のPFI自民党案でも、政府出資、つまり補助金の支出や、無利子融資、債務保証などが含まれている。まず官民の責任分担を具体的に定める必要がある。正確な収益予測に沿って、民間が企画段階から参画し、ビジネスの現場で培われた創意工夫、コスト意識などが生かされなければ、3セクの二の舞になりかねない。お互いの土壌の違いを認識した上で、日本型のPFIを推進する必要があろう。

市町村の選択

 PFIは基本的に地方自治体が活用すべきものであろう。現行制度では国が補助金の裁量や支出の権限を握っている。PFIによって、市町村などが資金を拠出する場合があるが、補助金でがっちり国に抑えられている現状では、プロジェクトに対して迅速な対応ができない。民間が公的施設を建設、運営した場合の税制面での優遇措置なども、今後の課題になるだろう。法的にももっと整備されなければならない。

 PFIは財政構造改革法の成立で、注目されるようになったが、ここに来て、政府は財政改革法を2000年まで凍結、積極財政路線に転換しそうだ。緊急経済対策にも盛り込まれる。九州・山口経済連合会は、PFIによる第二関門橋建設にあたって、民間も資金提供を打ち出してきたが、軌道修正し「公共投資で建設されるべきだ」とする報告書を発表した。PFIが景気対策のためだけの手法として、論じられすぎてはいないだろうか。民間の効率性や、利用者本位のニーズを先取りするなどの利点がもっと強調されなければならない。

 市町村は2000年から始まる介護保険の準備作業に追われている。不況と政府の減税対策が追い打ちをかけ、財政は逼迫している。政府が積極財政に転換しても補助金という限られたパイをめぐり、年末の予算編成にかけて激しい争奪戦が演じられたことだろう。市町村はこれまでにも給食事業や清掃業務などの民間委託など行政改革に取り組んできた。PFIは単なる民間委託とは異なる。行政と民間がパートナーシップを組んでいかなければうまく機能しない。これからは行政と民間の仕事の境界線はますます薄くなる。PFIによって行政サービスを低下させることなく、住民へのサービスを拡充してゆく道を探って欲しい。

しぶかわ・ともあき
1946年北九州市生まれ。早稲田大学卒業後、毎日新聞社入社。西部本社報道部副部長から東京本社地方部副部長、編集委員を経て社会部編集委員。地方部時代は地方自治・地方分権問題を担当。現在は厚生省記者クラブで介護保険、年金問題など社会保障政策を取材範囲にしている。

日本版PFI
いま市町村がなすべきこと

公共事業のムリ・ムダをなくし効率化を図ることが求められている。だが、本来の公共サービスとは効率だけで割り切れないものでもある。日本版PFI導入の議論が高まるなか、市町村はいま何を考え、何をすべきなのか、経済企画庁総合計画局・安井誠人計画官に聞いた。

──日本版PFI登場の背景は。

「国や地方がどのようなサービスを、どんな水準で提供するかという議論は永遠の課題だ。特に成熟化社会を迎えたいま、公共サービスもまた硬直化し非効率な部分のある事業内容やその進め方を見直すことが求められている。その一つの手法が公共事業を民間に経営させようというPFIだ。これを官の視点で捉えると公共事業のスリム化であり、民間から見れば新しい事業機会の創出につながる。平成9年秋の経済対策として検討すべき内容に盛り込まれたことで、建設省と通産省がそれぞれ研究会を作り課題を整理して中間報告書をまとめ、これと前後して先の通常国会にPFI法案が提出された。
 民間の事業機会創出という景気対策面が強調されるが、最終目標は、あくまでも〈住民が本当に求めているものを低廉で高質なサービスとして効率的に提供できる仕掛け〉を創り出すことにある」

──どんな分野で導入が考えられるのか。

「英国では、橋など国家的なプロジェクトからコミュニティレベルの学校や情報システムの運用などに導入され、公共事業に限らず公共調達で適用できるものもPFIへ置き換えようとしている。
 日本でPFIがどのように、どの分野で普及していくかは法案が継続審議中であり、これからの議論が待たれるところだ。ただ、比較的導入しやすい分野としては一般廃棄物処理に連動する形で廃棄物発電施設等が挙げられている。また、公園等すでに整備されているものの運営をPFIで行うことも提案されている」

──第3セクターとの相違点は。

「第3セクターも事業形態からいえば狭義のPFIの事業主体と捉えられるが、PFIは従来型の〈官民のリスク分担が曖昧になっていた共同事業方式〉ではなく、最初から契約でリスク分担を規定する点が異なっているだろう」

──今後の動向は。

「各省庁で法制化を見据えた事前調査・研究が行われている。また、経済企画庁総合計画局長の私的研究会として『PFI推進研究会』(座長=樋口廣太郎アサヒビール会長)を設置し12月に中間報告書をまとめた。今後、法律の成立を見た上で最終的な提言書をまとめることになろう。
 PFIの最大の狙いは、VFM(バリュー・フォー・マネー/税という支払額に対する受け取り価値の最大化)の向上だ。日本でも以前から外部監査制度、公共事業の情報公開や費用対効果の分析などが議論されており、法整備に関わらず将来的にはPFIの考え方が大きな流れとして定着していくことになろう。
 いま市町村に求められているのは、市町村の枠組みを超えて住民や民間事業者と一緒に豊かなコミュニティーを創ることだ。そのために自分たちの行政に不足しているものを総点検し、必要な事業計画の優先順位を立てる。また、他の自治体との連携で解決するプロジェクトも出てこよう。もちろん、そこには住民の意見が反映されなければならず、市町村には事業計画ごとに〈いくらかかり、このサービスを提供するためにはどの程度の住民負担が発生するか〉など明確に説明する責務がある。当然、仕事に対してコスト意識を持たなければ住民に説明できるものではない。自分たちでコスト削減する工夫も必要だろう。繰り返すが、良いサービスが安く効率的に提供されることで、住民にその市町村に住む積極的意味が認識されるようになることが重要なのだ。行政の現場にも市場の競争原理が問われていることを十分考えてほしい(インタビュー・構成 井村 薫)

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

※掲載団体様への直接のお問い合わせはご遠慮くださいますようお願いいたします。

  • お客様の声
  • TKCインターネットサービスセンター「TISC」のご紹介