1999年4月号Vol.11

【特集】介護保険『成功』のポイント

【介護保険システム研究会座談会】他団体の準備状況は、どこまで進んでるの?

栃木市保健福祉部高齢対策課 首長正博主任 / 黒磯市民生部福祉課 増田健造主査 /
黒磯市民生部福祉課 佐藤知子主任主事 / 司会 編集部・佐藤誠一

介護保険のスタートまで後一年となった。残された時間は平等でも、その取り組み姿勢が本番での成否を分けるだけに、市町村にとっていま最も気になるのは他市町村の状況だろう。そこで意欲的に準備を進める五団体に座談会およびリポート(寄稿)で成功へのポイントを聞いた。

Point1
事務処理システムと連動する組織体制と業務フローの整備を

──平成10年9月から11年2月にかけて、延べ9回にわたり介護保険システム研究会を実施。栃木市を会長市として佐野市・日光市・今市市・真岡市・大田原市・黒磯市の計七団体の実務担当者により介護保険事務処理システムの共同研究が行われ、今年1月には報告書を作成、配付されました。いま、担当者にとって最も気になるのは〈準備はどこまで進んだか〉〈完成度はどの程度か〉〈これから何をすべきか〉でしょう。そこで研究会へ参加された皆さんに、市町村がいまなすべきことについてうかがいます。

首長 介護保険の準備段階においては、①事務処理システムの構築、②制度の普及・啓発、③基盤整備の充実、の三つの大きな課題があると思います。栃木市でも10年度の重点課題としてこれらに取り組み、11年度はさらに課題ごとに掘り下げる計画です。介護保険では、行政が「与える」福祉から住民が「選ぶ」福祉へと考え方が180度転換し、提供するサービスの確保や効率的な費用配分など、これまで市町村があまり意識してこなかった マネジメント能力 が問われています。ここで一番重要なのが事務処理の仕掛けをどう作るかで、大規模団体では独自にできるとしても、中には要介護認定モデル事業や実態調査に追われてそこまで考えられないところも出てくるでしょう。そこで、みんなで知恵を出し合い、標準的な事務処理システムを共同研究したいと考えたわけです。

増田 介護保険制度の成否は最終的には住民の満足度によりますが、その評価基準は1人ひとり異なります。このため、住民のニーズを収集・分析・管理する情報システムがますます欠かせないわけです。この設計をするためにはマネジメントの考え方から整理しなければならず、その精度次第で十分な成果を出すことができる場合があれば、住民に多大な負担をもたらす場合もある。となると一団体で検討するには荷が重過ぎますし、他の市町村の意見や考え方を聞くことが担当者にとってもいい刺激となります。

佐藤 共同研究では次に何をすべきか整理でき、他にもいろいろな成果が得られました。例えば、私は関係各課と折衝しながら事務処理フローを作成したのですが、その過程で他の職員に問題意識が芽生えましたし、既存の住民基本台帳や国民健康保険、税務のシステムなどとどう連動すべきか考えさせられました。この成果を活かし、11年度は10年度にやり残したことと全庁的な業務フローの詰めを進めます。特に十月には要介護認定が始まりますし、ここで混乱しないよう7~8月に市民課、国保、税務課など関係各課を交えていろいろな処理パターンを検証し、コンピュータシステムフロー一つひとつに対応した業務をどこがどんな手順で行うのか調整する予定です。

増田 併行して調査手法やかかりつけ医の意見書の取得体制など細部の詰めも必要でしょうね。ところで黒磯市では組織体制にも波及効果が現れました。現在、高齢福祉係は福祉課の中にあるのですが、これを独立させて高齢福祉課を作ります。賦課徴収や資格管理など介護保険に関する事務はすべてここで行う予定です。

首長 遅くとも六月までには、事務処理と連動させ組織体制を確立しないと間に合わないでしょうね。今回の事務処理システムを地域に完全対応させるには個別改修作業が必要で、まだ新しい政省令が次々と出されるなど制度そのものに未確定要素も多い。さらに給付管理や第2号被保険者の賦課徴収をする国保システムの改修など、もう少し詰めなければならない部分もあります。しかし、準備状況の進み具合を点検する上で報告書が一つの目安になる。事務の流れまで検討が進んでいる市町村ではコンピュータシステムフローとの突合を、事務の流れの検討が済んでいないところには関係各部門との調整に役立ててほしいですね。

Point2
他部門を巻き込むのがコツ あの手この手で制度PRを

──平成10年度には高齢者実態調査がありましたが、これからの事業計画策定に向けて情報収集や住民へのPRなどについては、どうされていますか。

増田 提供するサービス量の把握・算定・予測を行い、これから介護保険事業計画を立てるわけですが、老人性痴呆症についても「より正確な数値」として捉え計画に盛り込みたいと考えています。そこで、県北七市町村介護保険事務推進会議に参加する7市町村では、医師の診断がない痴呆症の実数をつかむため一般調査票の付票という形で別に五問ほど質問項目を用意して独自調査を行いました。また、在宅と施設の要援護高齢者需要調査も併行して行い、要介護度を出しました。このデータを基に、要介護度別の利用意向調査や生きがい作りなども計画に盛り込んでいきたいですね。

首長 お二人とも調査に歩いたんですか。

佐藤 はい。全数調査を行ったので数がかなり多かったのですが、回収率はそれぞれ九割を超えました。またデータには表れない生の声を聞けたのは大変参考になりましたね。いま報告書を作成していますが、この成果をどう政策に結びつけるかが今後の課題といえるでしょう。

首長 サービスが始まってもしばらくの間は、うまく適応できない住民が出ることも予想されます。高齢者が混乱することなく必要なサービスを受けられるよう十分なPRが必要で、対面しながらの実態調査は絶好のチャンスでしたね。

増田 ええ。PRとしては高齢者学級を活用したり、また一般向けには夜間に地域説明会なども実施しています。広報紙などで告知しても制度を理解している人はまだ少ない状況で、文書による情報だけではなく、自分からPRに飛び込んでいかないとダメだなと感じています。

佐藤 同時に職員への周知も必要ですね。概要を理解してもらい、市民へのサービス向上につなげるため、介護保険に関係有る無しに関わらず全職員を対象に研修会を行いました。栃木市ではどんな普及・啓発活動をしているんですか。

首長 広報紙で介護保険Q&Aを掲載しているほか、10年2月4日から7週間連続で地元ケーブルテレビとタイアップして啓発番組を放映しました。他にも、①介護保険のパネルを駅や病院、デパートなど人が集まるところに設置する、②各課に依頼して何か事業をする際には看板に『今年は国際高齢者年です』『平成12年から介護保険制度がスタートします』の二点を書き加えてもらう、③市の封筒に刷り込んだり、ゴム印やシールを各課に配布して活用してもらう、などを予定しています。地域振興券にも刷り込みたかったのですが流石に却下された(笑)。普及活動はお金をかけなくてもアイデア次第でいろいろなことができます。その際には、他の部門や地域をどんどん巻き込むのがコツですね。例えば足尾町では関係者が共同で劇団を設立し介護保険劇を制作・発表していますし、うちの職員からはホームヘルパーなど高齢者の身近な人に口コミで広げてもらっては、というアイデアも出ています。

佐藤 なるほど。今後は住民が要介護状態にならないための予防活動や教育・広報活動も必要になりますし、外部資源の活用はうちとしてもぜひ考えたいですね。

Point3
自ら情報発信源となり地域や県、国と積極的な連携を

──地域の社会資源をいかに整備し、供給体制をどう整えるかも課題ですが。

増田 介護費用の効率化やサービス水準の維持は市町村の責任であり、民間の非営利団体への支援や民間事業者の誘致も積極的に行う必要があると思います。県北七市町村介護保険事務推進会議では、県が実施した事業者向け説明会に加えて、事業者が提供できるサービス量の統一調査を行いました。不足分は行政が補っていかなければなりませんからね。これについては現在集計中ですが、それに基づき、広域的な供給体制について検討する予定です。

──施設整備はいかがでしょう。

佐藤 県北地域は特別養護老人ホームや療養型病床群などの設備率が高く、事業者もそれなりに揃っています。これらの既存施設を活用しながら、ソフト施策の充実を図りたいと考えています。

首長 ハード面の整備には限りがあるので、既存施設の転用などできるものがないか検討する余地がありますね。ソフト面ではやはり人材の養成が課題です。制度開始までには70名のケアマネジャーを確保したいのですが、客観的な評価基準がなくまたマニュアルで研修できるものでもないため、11年度をめどに試験を受けて研修を終えた人を集め互いに切磋琢磨できるような介護支援専門員の職能集団を発足させたい。また民間事業者や非営利団体の活用も考えるべきです。実際に薬局などケアマネジャーとして事業者登録したいというところも多く、実働可能なマンパワー資源として十分期待できるのではないでしょうか。

──今後の計画を教えてください。

増田 事務処理を補完する周辺システム、例えばケアプラン作成システムなどとの連動も視野に置きながら、全体としてどうネットワーク整備を進めるかが課題です。また、次のステップとしては単独処理をしている老人保健・身障者・児童福祉・生活保護などの給付、受給者管理を統合的に処理できる福祉情報システムへの取り組みも必要でしょう。介護保険はまったく新しい業務領域だけに何が課題になるのかさえ予想できませんから、走りながら問題点を一つずつクリアしていくしかないですね。

佐藤 実際にはシステムを入れてみないとイメージが湧きませんので、パイロット自治体として立候補しますよ(笑)。

首長 早く始めた方が得ですよ。総合福祉情報システムの構築についても、みんなで共同研究したいですね。よく「介護保険が地方分権の試金石だ」といわれますが、安易な広域化には疑問があります。この点〈みんなで集まって標準的なものを検討し、これに地域の独自性や考え方を加味しながら町づくりを進める〉という手法は、国が求める地方分権の流れにも沿った理想的な形といえるのではないでしょうか。

増田 そうですね。いま行政施策は岐路に立たされていますが、介護保険に限らず一つのことをみんなで検討する今回の手法は、今後の行政運営の一つのあり方を示したといえるかもしれません。

佐藤 当初は別々の市町村が同じ土俵に立つ難しさも感じましたが、いまではメンバーと密に連絡を取れる関係となり、これも大きな成果です。これからも互いに切磋琢磨できるといいですね。

首長 それに報告書を媒介として地域や県を越えたネットワークができつつあるのも嬉しいですね。介護保険にヒーローはいらない。全国3300の市町村がそれぞれの特性を活かし地域に即した体制を創り上げられることが最も大切なんですよ。いま市町村に必要なのは、愚痴や批評をいうことではなく自ら進んで情報発信し地域や県や国と連携して、より良い介護制度を創り上げる前向きな姿勢です。後一年、産みの苦しみは続きますが、平成12年4月はゴールではなくスタートなんだということを忘れずに頑張っていきたいですね。(構成/井村 薫)

全国の市町村の状況

<Report1>
介護保険制度を既存の高齢者施策とスムーズに融合させる
新潟県加茂市在宅介護・看護支援センター副参事 青柳芳樹

 加茂市は、平成10年4月1日現在、人口3万4000人強に対し、高齢者人口が約7200人で、高齢化率は21パーセントとなっている。新潟県は、全国に比して高齢化率の高い県であるが、加茂市は、その中でもまた高い率である。

 だからという訳ではないが、介護保険制度が巷で取り沙汰される以前の平成7年から、市長公約により加茂市を『日本一の福祉のまち』にすべく、高齢者施策の充実を図ってきた。

 まず第一に、市の組織として在宅介護・看護支援センターを設置した。ここは、介護と看護を一体化した総合窓口機能と調整機能を持っている。

 第二に、訪問系サービスの充実があげられる。ホームヘルプサービスの委託先、社会福祉法人加茂福祉会では、現在60名の常勤ヘルパーが土日も含めた派遣体制を組んでおり、市直営の訪問看護ステーションでは10名の看護婦を派遣している。また、ホームヘルプサービスと訪問看護については、利用者の個人負担金を市で負担しており、対象者は無料となっている。

 第三に、施設系では2ヵ所目となる70床規模の特別養護老人ホームを設置し、併せてデイサービス、ショートステイの充実を図った。

 このように、決して多いとはいえない予算の中で、何とかここまで社会資本の整備を行ってきたわけであるが、介護保険制度に不安がないわけではない。いま現在は、どのサービスについてもいわゆる「待ち」はないのであるが、介護保険制度が、基本的には個人の保険料で成り立つ制度であることから、現在はサービスに満足している人が、新制度の中でどれだけ意識変化を示してくるのか、まったくつかめない状態だ。

 また、要介護認定の精度が問題になっているときだけに、適正なサービスの提供といったときの「適正」とは、どの程度のことなのか。さらに、財政的には、事務量は、効率的な運営体制とは……、等々、不安点を述べればキリがない。

 ともあれ平成12年は目の前となった。市町村はどこも基盤体制の充実、必要人員や組織体制、予算に頭を痛めながら「介護保険事業計画」の策定に入っていることと思う。

 担当のみなさん。心身共に気をつけて頑張りましょう。

<Report2>
要介護認定と保険料に的を絞り市民への周知徹底を重ねる
山形県尾花沢市介護保険準備室介護保険係長 高橋 徹

 平成9年12月に成立した介護保険法に先立ち、現在全国134自治体で組織されている「福祉自治体ユニット」に発足当初から参加し研修を重ねてきた。雲をつかむような状況での研修会は非常に貴重な機会であった。極めて情報が早く、他市町村に先駆け準備体制を整えることができた。これにより、昨年4月からは専任職員3人と兼任2人による「介護保険準備室」を設置し、作業に当たっている。

 介護保険は全く新しい制度であるため、市の業務も膨大かつ多様なものになると推測。そこで最初に〈市民にとって介護保険とはどのような制度か〉を周知することが最重要課題と位置づけ、ポイントを要介護認定と保険料の2つに絞って「市報による広報」と「市内全域にわたる集落説明会」を実施した。

 まず、市報においては4ページの特集記事を昨年2月号と11月号に、4月からは毎月介護保険制度に関するQ&Aを掲載している。また、集落説明会を昨年2月から5月にかけ市内の集落45ヵ所で開催した。これまでに約1200人の市民に説明した。

 その後も老人クラブや婦人会等各種会合に積極的に出向き、これまでに約20回、800人の方に周知を図っている。この市民への周知徹底こそがスムーズな制度実施につながるのではないだろうか。今後も継続して説明会を開催する予定である。

 要介護認定の公平性の確保も重要なポイントの一つであろう。尾花沢市ではモデル事業を実施したが、特に調査結果のバラツキが大きく判定に大きな影響を与えることが判明した。そこで、市ではケアマネージャーを中心とした調査員の資質の向上を図るため、独自の研修会を実施することにしている。また、基盤整備を早急に推進するため国の緊急経済対策を受けて特別養護老人ホームを30床、ショート6床、デイサービス15床を増床することになっている。さらに「介護保険関連サービス基盤整備事業」の採択も受けることができた。加えて、これまで制度運用において重要な役割を果たす在宅介護支援センターを設置していなかったが、本年1月から社会福祉協議会に「標準型」を設置し、4月からは標準型を基幹型に移行し「単独型」を2法人に委託する予定となっている。

 この制度の準備については保険者として全力を尽くして進める予定だが、その事務処理はほとんどが電算処理でなされる。このため、TKCにはより良い「介護保険システム」の開発を期待する次第である。

<Report3>
マンパワーや施設の拡充とともに周辺地域を含む情報網整備を
茨城県笠間市福祉事務所高齢対策室主査 石井克佳

 茨城県笠間市は、笠間稲荷神社や笠間焼、日動美術館で知られる観光都市だが、人口は平成10年10月1日現在、3万500人程度で逓減する一方、高齢化率は20%を超えて、なお増加傾向を示し県平均を大きく上回っている。

 笠間市では、新しく始まる介護保険の給付開始を12年4月に控え、課題が山積しているが、その中でも特にマンパワーを中心とした在宅サービス基盤の整備が急務となっている。

 現在、市内には特別養護老人ホームと老人保健施設があり、通所系のデイサービス、デイケア、ショートステイを提供。また訪問系では、訪問看護ステーションと社会福祉協議会等への委託により、訪問介護、訪問入浴を実施しているが、現状でも供給不足状態にある。

 このため、11年度中にデイサービスセンターの新設と痴呆対応型共同生活施設の新設委託を検討しているほか、ホームヘルパーの増員により、休日、夜間・早朝を含めた訪問系サービスの充実に取り組む予定である。

 また、将来的な給付費の増加を抑えるには予防が重要なことから、市内数ヵ所の地区公民館を改良し、健常者に対するデイサービスと予防指導的な内容の事業を導入することにしている。

 一方、介護保険では、自由なサービスの選択を前提とすることから、従来の行政区域を越えた情報網が不可欠になる。特に、保険料に直接影響する供給量を把握する上でも周辺地域を含めた介護サービスの情報網は必要といえよう。

 すでに実施している「地域ケアシステム推進事業」は、在宅の高齢者等に対して地域の医療・保健・福祉の従事者がチームを組み、効率的かつ確実なサービスを提供する総合ケアシステムとして成果を上げてきたが、今後は2ヵ所の在宅介護支援センターと合わせ、地域外ネットワークを含めたより一層の情報体系の整備・充実が必要になるだろう。

 介護保険では、全国レベルで実施する標準給付のほか、第1号保険料を財源とした上乗せ・横出し給付や、市町村特別給付、保健事業に住民ニーズを反映した地域特性が現れる。足踏みをしている時間はない。市町村の力量が問われることを肝に銘じて進んでいこう。

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