1999年7月号Vol.13

【巻頭言】時代の主役は中央から地方へ

日本経済新聞社論説委員兼編集委員 松本克夫

 自治体は大動乱期に入った。予定通りなら、来年四月から地方分権一括法や介護保険制度が実施になるが、これはまだ出発点と見た方がいい。明治維新、戦後改革に次ぐ「第三の改革」の波は、今後一○年、二○年に渡り押し寄せるだろう。

 一体、何が変革を促しているのだろう。明治以来の富国強兵―経済成長路線は、政府が産業基盤を整備し、産業が発展し、所得が増せば、みんなが幸せになるという暗黙の合意の上に成り立っていた。

 しかし、豊かな社会が到来して、その合意は崩れた。発電や工業用水のために巨大なダムをつくるより、清流と生態系を守った方がいいという声があちこちで上がっている。つまり何が幸せな暮らしか、はそれぞれの地域が選択する課題になった。

 そうなると、これまでとは逆向きに歯車を回転させなければならなくなる。廃藩置県により強力な中央政府をつくり上げ、全国一律の制度を押し付けてきたが、目指すべきものが地域ごとに異なるとしたら、地域に任せるしかない。それが地方分権である。いわば廃県置藩である。

 自治体自身も、改革を迫られている。自治と言っても、全国一律が原則である限り、行政任せの「お任せ民主主義」であっても、そう支障はなかった。しかし、それぞれの地域が豊かさを選び取るとなったら、自治体内部でも住民への分権が必要だし、合意形成の仕組みも要る。現代版の藩政改革である。

 財政再建はどの自治体にとっても差し迫った課題だが、問題は再建の仕方である。赤字減らしのためには、職員の削減や消耗品の節約なども必要だろうが、本筋ではない。分権の趣旨からすれば、いま自治体改革に求められるのは、まず金の流れを住民の目に見える形にする工夫であろう。実のある情報公開である。

 三重県などが始めた事務事業評価制度や、民間企業に習った貸借対照表の作成などはその第一歩である。どの事業が効果を上げ、どの事業が無駄が多いか、わかりやすい形で示されれば、財政再建の道のりは住民にも見えてくる。

 縦割り行政の打破、総合性の回復も改革の課題である。中央集権体制の致命的な欠陥は、縦割り行政が市町村まで貫かれ、地域の総合判断を阻んでいることだ。国の公共事業が頼りの地域は少なくないが、国の財政状況から見て、いつまでも公共事業にすがっているわけにはいかない。福祉の充実で雇用の場を増やし、地域経済の自立にもつなげるといった縦割りを超えた発想をしなければならない。

 地方分権一括法が成立すれば、国の代行的な機関委任事務は廃止になり、自治体の自由裁量で条例を定められる範囲が大きく広がる。地域づくりの指針となる分野横断的な独自の基本条例を定める好機である。

 幕末の志士たちは藩を超えた中央権力の創設に奔走した。そのくびきを脱して、地域の自立に精魂を傾ける現代の志士たちが活躍する時だ。

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