1999年10月号Vol.13

【特集】情報公開の時代を迎えて

~開かれた市町村行政の実現へどう取り組むか~

栃木県総務部文書学事課主査 江連 隆

5月7日、行政機関が保有する情報の公開を定めた情報公開法案が可決された。これにより市町村でもまた“開かれた行政”のための条例の制定や改正が急速に進むことだろう。本号ではこの制度と運用法について考える。

 去る5月7日に行政機関が保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)が成立し、5月14日に公布されました。これによって、遅くとも2001年の春には国の情報公開制度がスタートすることになります。

 情報公開制度は、今後のわが国の行政運営のあり方に大きな変革をもたらすことが予想されます。地方分権のように実体的な部分が見えにくいところがありますが、明治維新、戦後改革に続く第三の改革の波の一つとして位置づけられるべきものでしょう。

表1 情報公開制度の制定状況

表1 情報公開制度の制定状況

 全国で初めて情報公開条例を制定したのは1982年の山形県金山町で、都道府県では翌年の神奈川県であることはよく知られています。先頃、自治省がとりまとめた情報公開条例の制定状況によると、今年の4月1日現在で都道府県は100%、市区町村は26.0%が条例を制定(表1)。過去1年間で全体の約1割に当たる332の市町村が条例を制定しているように、国の情報公開法制定の動きを受けて、情報公開を進める機運がさらに盛り上がってきています。

 また、すでに情報公開制度を整備している地方公共団体でも、情報公開法の制定を踏まえて条例を改正する動きがあります。少なくとも都道府県レベルでは、情報公開制度は普及の時代から利用の時代に入ったといえるでしょう。

情報公開法と適正手続

 右肩上がりの経済成長の時代は、何より結果がものをいう時代でした。よい結果が出ていれば、途中経過は多少大目に見ようという風潮がなきにしもあらずであったことは否定できないと思います。

 現代はいい結果を出すことはもとより、そのプロセスも適正であることが求められています。場合によっては、結果がよくなくても、適正な手続を踏んでいれば住民が納得するということもあり得るのではないでしょうか。「公明正大にやっています」、あるいは「適正にやっています」という弁明だけでは通用しない、その証拠を出すことを求められている時代なのです。そうした意味で、情報公開法は行政手続法とともに適正手続(デュープロセス)の担保でもあります。

 行政手続法は、許認可等の申請に対して審査の手順と基準をあらかじめ明らかにして、公正さを確保しようとするものです。いわば、申請者を個別に納得させるための仕組みです。情報公開法は、誰でも、目的を問わず請求できるものですから、第三者(極論すればすべての国民となります)を納得させることを求めた仕組みといえます。

 なお、行政手続法は、1964年の第一次臨時行政調査会の答申で「行政の公正確保のため統一的な行政手続法が必要である」と指摘されて以来、30年を経てようやく整備されたものです。この点で、1980年に当時の民社党が『公文書公開法案』を国会に提出してから20年を要した情報公開法と共通した背景を持っています。これは偶然の一致ではなく、行政運営の透明性の向上を求める第3の波の一部として、一体のものと考えなくてはなりません。

行政改革としての情報公開

 行政改革というと、組織の合理化や職員の定数削減だけがよく報道されます。こうした目に見える部分がマスコミの受けがよいからでしょうか。

 しかし、いわゆる お役所の仕事 は安く上げることが目的ではなく、より質の高い行政サービスをどのように提供していくかにかかっています。同等のサービスをより安く提供するための工夫が行政改革の最大の眼目なのです。

 情報公開法の制定も国の行政改革の一環でした。後述する栃木県の情報公開制度の再検討も行政改革の一部として取り組んだものです。情報公開制度を運用するためには多少の手間と費用がかかりますが、これが行政改革に反するということではありません。情報公開を進めることによって、情報を得た市民の圧力による〈外からの行政改革〉もあるでしょうが、むしろ情報公開を契機とした〈内なる行政改革〉のほうがより大きな意味をもっていると考えられます。

 この〈内なる行政改革〉とは、アカウンタビリティを基調とする職員の意識改革にほかなりません。

文書の適正管理の重要性

 仕事の記録、つまり公文書は住民との共有財産です。単なる組織内部の伝達手段ではなく外部に説明するための資料であって、適正に仕事をしたことの証拠です。このため、まず、部外者が理解できない文書では目的の半分がすでに失われているということになります。

 次に、何のための文書管理かというと、後から探せるようにしておくためです。情報公開との関係では短時間で探し出せるように整理されていることが重要です。文書があるのかないのか判らない、あるいは、あるはずなのに見つからないということでは、公文書の開示請求権も絵に描いた餅に過ぎません。

 それではどうしたらよいのでしょうか。やや逆説的ですが、文書を廃棄するためのルールを確立することこそ決め手ではないかと考えられます。専門家の指摘によると、事務室にある文書のうち半分は即座に廃棄しても支障がないそうです。こうした無駄な文書の氾濫が分類整理や検索を煩わしくする原因です。それぞれの文書の重要性を見極めて、長すぎない保存年限を設定し、確実に廃棄することをしなければ、重要な文書を適切に管理することはできません。

 高邁な理論はさておき、まず文書の適正管理がすべての出発点です。

情報公開の制度化と運用のポイント

 情報公開条例は、すでに多くの地方自治体が制定しており、これらを比較検討すればどのような条例を作ればいいのかは、さほど難しいことではありませんが、制定の手続は適正に行わなければなりません。

 情報公開は、そもそも首長、行政委員会、議会などの機関が一つの制度に相乗りして、それぞれ自らの責任において行うべきものです。したがって、首長部局で基本的な枠組みを作成したならば、他の機関に異存がないかどうか意見聴取を行い、それぞれの機関の意思決定を経る必要があります。これは省略できません。

 また、情報公開は、実施する機関の職員にとっては「できればやりたくない」「ありがたくないもの」という意識があります。そうすると、何らかの形で外部の有識者や住民代表の意見が反映される場がなくては公平ではありません。このため多くの地方公共団体が、懇話会や懇談会を設けています。事務局にとっては大変かもしれませんが、行政運営の透明性の向上を図るための必要な手間、言い換えれば民主主義のコストですから、ぜひともこうした場を設定したいものです。

 運用面においても、どのようなものが公開を命じられて、どのようなものが非公開が相当と認められているかについては、各地で膨大な審査会の答申例と判例が積み重ねられています。安易に開示して第三者に迷惑をかけてはなりませんが、条例の規定を根拠に公開すべきものを非公開にしてしまうようなことがあってはなりません。当然、情報公開条例の非開示事項には、それぞれ合理的な理由があります。しかし、これは公開しなくてはならない最低ラインを引いたものに過ぎず、「時と場合によっては、それ以上のことを公開する必要がある」ということが職員の常識にならなくては条例が却って情報公開の足を引っ張ってしまいます。

栃木県が目指す情報公開

 さて栃木県では、昨年2月に策定した行政改革大綱(第2期)に基づき、より公正で開かれた県政を推進するため、情報公開制度の見直し作業を進めています。

 昨年8月に、有識者や県内の各種団体代表者による栃木県情報公開懇談会を設置し、約半年にわたってあらゆる観点から検討を行い、今年3月に意見書を提出していただきました。

 現在、細部を事務的につめる作業を進めており、早い時期に条例改正案を議会に諮りたいと思っています。

 栃木県で取り組んでいる制度改正のポイントは二つあります。

 一つは、やはり情報公開法との整合性を図ることです。増加している磁気情報の取り扱いや県民の開示請求権と第三者の権利利益との調整など、情報公開法には参考とすべき点が多くあります。法律第41条の地方公共団体の努力義務の規定を待つまでもなく、自らの問題として、制定後13年経過した現在の条例が時代の要請に応えうるものなのか、あらためて検討していかなければなりません。

 また、情報公開法は諸外国の制度や先行する地方公共団体の制度をよく研究した非常に精緻なものとなっていますが、開示請求に対する迅速な対応も重要な要素です。そのためには制度が簡素であることに越したことはありませんから、必要な措置はとった上で県の実状にあった仕組みを作っていかなければならないと考えています。

表2 栃木県の開示請求件数の推移

表2 栃木県の開示請求件数の推移

 二つめは、現行制度の問題点の解決に向けた制度改正です。一度に大量の公文書が開示請求されることは条例制定当時に想定していなかったことです。表2に栃木県の過去13年間の開示請求件数(対象公文書数)を示しましたが、これを見ると九五年度から97年度の3年間の件数が特に多いことに気づくでしょう。

 この間、請求者が押しかけたということではなく、特定の方が一回に大量に請求する傾向にあったのです。中には、請求だけして閲覧に来ないような困った方もいましたし、97年度に開示請求された公文書は未だに閲覧が終わっていません。情報公開制度を維持するコストは原則として県民の税金であることを考えると、残念ながら請求者に自制を促すことも必要となってきています。

 また、従来の公文書開示制度という枠組みを出て、情報公開制度を総合的に推進していくというのが新たな視点です。県民から開示請求があったからこれに応じるという姿勢ではなく、県民がどのような情報を求めているのか適時適切に把握し、積極的に提供していこうというものです。

 県が内部の事務用に作成した印刷物は、従来は情報公開の窓口で閲覧させるだけで、コピーが必要な場合には1枚30円を負担してもらっていました。しかし、昨年からは残部があれば印刷に要した実費で頒布しています。これにより請求者は結果として安く資料が入手できることになり、予想以上の実績を上げています。

 市民団体の調査によると、栃木県の情報公開度は全国で最下位グループとされ、評判は芳しくありません。しかし、複写機の持ち込みを認めた先進的な県として国会で紹介されたのも栃木県です。これは何も注目されることを狙ったわけではなく、許される範囲内で、できるだけ県民の利便性を図ろうとした結果、公文書の保存や電気代などを考えても特に問題はないだろうと判断しただけのことです。

 このように、真新しさを追求するのではなく、地に足のついた対応、つまり県民の視線で考えることの積み重ねが情報公開の推進であり、開かれた県政の実現であると私たちは考えています。

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