2012年1月号Vol.85

【特集2】クラウドで、活力ある次代のまちづくりを目指す

──碇川 豊 岩手県大槌町長に聞く

昨年8月に就任した碇川豊岩手県大槌町長は、東日本大震災からの復興後を見据えた活力あるまちづくりの基盤として、クラウド活用による“ネット合併”を提唱している。地方の現場がクラウドに寄せる期待をレポートする。

碇川豊氏

──東日本大震災では人口の一割にも及ぶ住民の尊い命が奪われ、また多くの職員の方も犠牲となりました。皆さんのご冥福をお祈りするとともに、被災したご家族、関係者の皆さんに心からお見舞いを申し上げます。現在のまちの復旧・復興の状況はいかがでしょうか。

碇川 国内外から寄せられる皆さんの温かい支援によって、ライフラインの復旧や瓦礫の撤去、応急仮設住宅の建設等を推し進めてきました。とはいえ、住民の本格的な生活再建はまだこれからという状況です。大槌町では、津波による壊滅的な被害により産業や雇用を失い、人口は震災前の1万6000人から1万35 00人に減少しました。現在、2000世帯・4700人の方が仮設住宅で暮らしています。

 そうしたなか震災からの一日も早い復興に向け、町長に就任後、町内10地域に「地域復興協議会」を立ち上げました。ここで住民や事業者などと議論を重ねながら、平成23年末をめどに「大槌町震災復興基本計画」を策定します(編集部注・取材は平成23年11月25日)。この計画は単に津波防災や土地利用に関するものだけではなく、産業や雇用、保健、医療、福祉、教育、環境など全分野の計画を盛り込む予定で、大槌町が未来へ力強く踏み出すための“未来図”として作成するものです。

 また、復興の取り組みを加速するため、10月1日付で「復興計画の策定・遂行」と「産業振興」をそれぞれ担当する副町長を新たに選任し、加えて部局制も導入しました。課題は山積しています。最優先されるのは復興ですが、一方でこの暗いトンネルを抜けた先の“夢”や“希望”を創造することも我々の重要な使命だと考えています。そこで将来を見据えた中長期的な取り組みとして、復興計画の骨子案にも「海の見える、つい散歩したくなるこだわりのある美しいまち」との将来像を盛り込みました。

復興に向けて大きく舵を切る

──そうした中長期的なまちづくりの観点から、碇川町長はクラウドに注目されているとうかがいました。

碇川 クラウドについては以前から興味があったのですが、震災を経験して改めてその存在を強く意識するようになりました。いま、厳しい財政状況に加え、職員のマンパワーも限られるなかで効率的な行政運営を行うには、ICTの有効活用とともに近隣自治体との連携が不可欠です。特に被災団体では急速な人口減少が深刻で、この状態が続けば税収も減り、いずれまちが成り立たなくなるでしょう。とはいえ、市町村合併はそれぞれの歴史や文化、産業などもあって一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、クラウドによる“ネット合併”であれば容易に取り組めます。これにより、「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源の無駄が省け、緩やかな連携により合併に近い効果も生み出せるのではないかと考えたわけです。いまや行政運営にICTは欠かせない存在です。最近では法律・制度の改正も相次いでおり、これへ的確かつ迅速に対応し住民サービスにつなげていくことが重要ですからね。

 また、震災を経験して改めて思いを強くしたのは、不測の事態が起きた場合にいかに住民情報等を守り業務継続性を確保していくかということです。大槌町の場合、震災後にサーバは庁舎内の瓦礫のなかから発見され、後日、住民情報などを復旧することができました(※注)が、もし情報が消失していたら…と考えると、いまでもぞっとします。情報セキュリティや情報管理体制の整備ということを考えても、庁内にデータを置くよりクラウドで外部のデータセンターにデータを保管した方がはるかに安心です。

クラウドは次代の住民サービス基盤

碇川 もう一つクラウドに期待していることは、超高齢社会に対応した新しい住民サービスの基盤としての役割です。

 例えば、自治体とともに医療機関や保健師がクラウドで情報連携し、住民一人ひとりに合わせた医療・福祉サービスを提供するといったことも将来的には可能となるでしょう。そのほかの住民サービスや産業振興、地域の住民・企業等との活動支援など、ICTを有効活用できる分野はまだまだたくさんあるはずです。

 そうしたICTを活用したまちづくりを進めるため、復興局のなかに情報化推進室を設置しました。ここでは自治体クラウドの推進とともに、完成を目前にして被災した地域通信インフラの基盤整備事業の再開、あるいは難視聴地域の解消やホームページの充実などを担当します。

──情報化推進室の今後の活動が注目されますね。お話をうかがっていて、ぜひ震災を乗り越えた大槌町を再び訪れたいと思いました。エクナ株式会社さんとともに、我々も精一杯ご支援させていただきます。

碇川 大変な時だからこそ、時には思い切って大胆にやらないといけない。周回遅れとなっていた復興への取り組みも、ようやく他団体の背中が見えるまでとなりました。やるべきことはたくさんありますが、交通整理をしながらやれることからやるだけです。

 震災後は、国内外を問わず多くの方から物資・人的支援をいただきました。心より感謝申し上げます。国や自治体からも多くの職員が派遣され、いまも大槌町の復旧・復興へ懸命に取り組んでくれています。そうした皆さんの協力もいただきながら、復興に向けて一つひとつ着実に全力で取り組んでいこうと考えています。

(※注)震災直後、TKCでは分散保管していたデータから住基情報(CSV/PDF)を作成・提供。大槌町ではこれを災害応急業務に活用した。並行してエクナと連携して、3月1日時点のデータで基幹システムの復旧を行う。また、後日発見されたサーバから震災直前のデータを復元。大槌町では4月下旬から本来システムの運用を再開している。

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