2012年1月号Vol.85

【特集3】解説! 社会保障・税に関わる番号制度

──番号制度で自治体はどう変わるか

株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員 榎並 利博

榎並利博氏

●榎並利博(えなみ・としひろ)
1981(昭和56)年、富士通入社。SEとして自治体向け住民情報システムの開発に従事。1995年、富士通総研へ出向し、電子政府・電子自治体、行政経営、地域活性化の分野を中心に研究活動を行う。法政大学非常勤講師。主な著書に『自治体のIT革命』『電子自治体-パブリック・ガバナンスのIT革命』『共通番号(国民ID)のすべて』(いずれも東洋経済新報社)、『自治体クラウド』(学陽書房/共著)など。

いよいよ番号法案提出へ

 今年の通常国会で、ようやく社会保障・税に関わる番号制度の法案が提出される見込みとなった。2010年2月に政府内に社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会が発足してから約2年、専門家を交えた政府での検討や議論のすえ、やっとたどり着いたというのが正直な感想である。今後、法案成立後のなるべく早い時期に第三者機関が設置され、2014年6月に個人に共通番号を交付、2015年1月以降に共通番号の利用が開始される予定となっている(図1)。

 図1共通番号制度の導入スケジュール

 この番号制度の導入によって、業務上最も大きな影響を受けるのが自治体であり、それと同時に番号の活用の仕方によって最も恩恵を受けるのも自治体である。なぜなら住民一人ひとりの生活実態を把握し、生活を支えるために、住民への課税や給付のためのさまざまな情報を外部から入手し、個人ごとに情報を集約して業務を行っているのが自治体だからだ。行政内部の業務の効率化だけでなく、住民に対する行政サービス向上という点からも大いに期待される。本稿では、自治体の視点から共通番号制度を考えてみたい。

 本論に入る前に、言葉の使い方や概念に混乱が見られるため、図2を使って分かりやすく整理しておきたい。この図はIT戦略本部電子行政タスクフォースの資料をもとに作成したものである。

 社会保障・税に関わる番号、共通番号、マイナンバーは同じ概念であり、政府が正式名称として決定したのは「マイナンバー」である。しかし、これまでの慣習や文字数の少なさから、マスコミでは「共通番号」という言葉がよく使われている。そのため本稿でも共通番号という言葉を使うことにする。そして、この共通番号は一部災害関連の分野も含むが、基本的に年金分野、医療分野、介護保険分野、福祉分野、労働保険分野、税務分野(国税および地方税)、すなわち社会保障と税の分野で共通に使われる番号となっている。

 一方、これまで国民IDという言葉を聞いた方も多いと思われるが、現在ではこの言葉は使われていない。使われているのは「国民IDコード」であり、これは社会保障と税の分野で使われる共通番号とそれ以外の分野の既存の利用番号とを結び付け、相互に情報を連携するために使われる。そして、ICカード、ポータルを含む情報連携の制度および仕組みのことを「国民ID制度」と呼んでいる。

 共通番号が目に見える番号として告知などで使われるのに対し、国民IDコードは国民がその存在を意識することなく使われる。実は、国民IDコードというのはIT戦略本部が使っている言葉であり、社会保障・税に関わる番号制度の情報連携基盤技術ワーキンググループでは単に「IDコード」という言葉を使っている。このように組織によって言葉の使い方が若干異なっていることも、番号制度の分かりにくさの原因となっている。

図2番号制度の概念

共通番号制度とは何か

 共通番号制度とは、政府の説明によれば付番、情報連携、本人確認という三つの仕組みで構成される制度だということになるが、一般的には分かりにくいだろう。分かりやすくいえば、国民一人ひとりが自分だけの番号を持ち、その番号が自分のものであることを証明するための媒体(ICカード)を保有し、その番号を基点として行政が保有する自分の情報を相互に連携することによって、日々の暮らしや行政手続きが安心・安全かつ便利なものになる仕組みのことである。

 この制度設計にあたっては、政府が論点を示し、国民からパブリックコメントを求めることで設計が進められてきた。共通番号制度を理解するために、この論点について概観してみよう。

 論点の一つ目は共通番号の利用範囲に関するものであり、幅広い行政分野での利用を視野に入れつつ、まずは税・社会保障から開始するという結論となった。これは大多数の国民からの意見を反映したものであり、幅広い行政分野や民間利用については番号法見直しの時に検討される。

 二つ目は番号に何を使うかという点が取り上げられ、実質的に住民票コードと新たな番号の二者択一となり、結論として住基ネットを活用した新たな番号とすることに決まった。自治体の立場からは住民票コードをそのまま使うべきだという意見が強く、コスト面でも有利であったが、結果的には国民の住民票コードに対するイメージや法的制約などが考慮されることになった。

 三つ目は情報と番号に関する管理方法である。結論としては、情報は分散管理を前提に検討し、番号については一元管理、または分散管理とすべき具体的分野について今後検討することとなった。これを示したのが図2であり、税と社会保障の分野は共通番号で一元管理し、他の分野は個別の番号で分散管理し、それらを情報連携基盤でつなぐ仕組みとなっている。

 四つ目は個人情報保護に関する問題であり、特筆すべきこととして自己情報へのアクセス記録の確認や第三者機関の設置について検討することが決定した。国への信頼を強制するだけで不安を払拭するための手段を国民に与えず、安全性ばかりが強調されて問題発生時の国民の保護について何も触れられなかった住基ネット導入時と比べれば、一歩大きく前進したと評価できる。

 また、社会保障・税番号大綱(以下、番号大綱)では、番号制度の理念について「社会保障の権利」が全面的に押し出され、東日本大震災を踏まえて災害時における共通番号の活用についても具体的に盛り込まれた。家計全体をトータルに捉えて医療・介護・保育・障害に関する自己負担の合計額に上限を設定する「総合合算制度(仮称)」が明記され、被災者の生活再建への効果的な支援を行うために、番号を活用した支援金等の支給、転出先での継続的な支援、金融機関からの預金の払戻しなどが明記されている。

 共通番号を自治体側から見れば、番号活用による業務の効率化、所得把握精度の向上などがまず思い浮かぶが、住民の社会保障の権利という理念を念頭に置き、住民視点での共通番号活用を追求していく必要があるだろう。

自治体業務への影響

 2014年6月に番号配布、2015年1月以降に利用開始というスケジュールは決まっているものの、番号大綱では共通番号の運用が明らかになっておらず、現場をあずかる自治体としては不安を隠せないだろう。2012年の通常国会で法案が通ったとしても、その後の予算措置、システム開発作業、番号やICカード交付の準備作業、データの整備作業などを考えれば、かなりきついスケジュールになることは想定できる。そこで2015年1月導入を目標とした第一段階とそれ以降の第二段階について、自治体の業務にどのような影響があるのかを分けて考えてみたい。

 2015年1月からの導入を目標としているということは、所得税の確定申告が起点となっていると推測してよいだろう。そのために半年前に住民に番号を通知することになっている。まだ議論されている段階だが、番号と本人を確実に結び付けるためにはICカードも同時に交付する必要がある。これらの作業は住基カードと同じように自治体の窓口を通して実施され、厳格な本人確認や写真撮影が必須となるだろう。

 共通番号付きの確定申告書が税務署に提出されると、税務署では所得税の申告情報や法定調書の情報を共通番号で集約し、その情報を電子データとして市町村に送信することになる。市町村ではそのデータを受信して共通番号をキーとして住民と突合し、住民税の課税のための情報としてデータベースに格納する。同様に、企業からの給与支払報告書や年金保険者からの公的年金支払報告書が共通番号付きの情報として送付されてくる。そして所得税の納税義務がない人の住民税の申告書も共通番号付きで受け付けることになる。共通番号を使って住民のデータと突合・集約する業務プロセスへと変更するだけでなく、給与支払報告書等の課税資料の調査や扶養親族の調査についても、共通番号を使った業務プロセスへと変更する必要があるだろう。システム面を見ても、住民情報や住民税など基幹系システムの改修が必要となってくる。

 このようにまずは所得税・住民税の業務処理が共通番号を使ったプロセスに変更される、つまり共通番号が納税者番号として機能することになる。給付付き税額控除の仕組みが第一段階で導入されるかは明らかではないが、導入されるとすれば共通番号と給付用口座を結合することになる。給付用口座を税の還付や年金の給付と一本化する作業を行えば、所得税・住民税・年金で共通番号化が可能となる。ただし、税務署では非課税者や年末調整だけで完結してしまう給与所得者などの情報を把握していないため、これらの作業においては市町村の協力が不可欠になってくる。そして給付用口座を誰がどのように管理するのかも決めなくてはいけない事項だ。

 以上は自治体の住民向け業務に関する影響だが、職員向けの業務についても影響が出てくることを忘れてはならない。民間企業と同様、自治体も職員に対する給与の支払いをしているため、源泉徴収事務や特別徴収事務、共済組合への事務手続きなどはすべて共通番号付きで実施することになる。人事給与システムなどの改修作業が必要だろう。

 第二段階では、固定資産税・軽自動車税・自動車税などの税、医療保険・介護保険などの社会保障、それから贈与税・相続税などの税、労働保険・福祉・医療情報などの社会保障が対象となってくるだろう。さらに災害対応として、個別分野での共通番号の導入も考えられる。しかし、今の段階では第二段階について確かなことは何もいえない。現時点では第一段階を確実に定着させることが最重要課題である。その定着を待って、第二段階へと進むと予想される。

共通番号と自治体の将来展望

 共通番号は本当に実現するのだろうか。これまでもグリーン・カード制度や住基ネットでその困難さを経験し、しかも政権交代による不安定な政局の状態で、共通番号の実現を危惧する人は多い。しかし、今回は必ず実現すると確信している。

 そして、スケジュール通りの導入が実現できるかどうかは、実際に現場で運用を行う自治体にかかってくる。自治体では共通番号がないために煩雑な事務処理が一向に解消されていない。だが、共通番号が導入されると市町村と外部との情報連携だけで年間1,000億円もの効果があると試算されている。また、住民に無駄な添付書類を義務付けることもなくなり、制度に疎いお年寄りなどに「あなたは○○制度の給付対象に該当します」といったお知らせ型のサービスを行うことも可能となる。さらに、民間サービスと連携できるようになれば、より満足度の高い公共サービスを住民に提供することができ、民間の事業を活性化させることもできるだろう。そのためにも、共通番号が第一段階の納税者番号として機能することに留めてはならない。

 自治体としては、共通番号を導入することのメリットは理解しつつも、そのための財政負担や運用の負担が気にかかるところだろう。実際に自治体の現場からは、これまでの住基ネットや住基カードは無駄になってしまうのか、一部事務組合や広域連合などとの情報交換はすべて情報連携基盤を通さなければならないのか、など不安の声も聞こえてくる。共通番号制度の導入を成功させるためにも、政府と自治体とが協力して十分に事前運用検証を行い、運用負荷の少ない仕組みを追求していく必要があろう。

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