2012年7月号Vol.87

【巻頭言】番号制度が拡げる住民サービス

首都大学東京(旧都立科学技術大学)名誉教授 島田達巳

島田達巳氏

島田達巳(しまだ・たつみ)
1961(昭和36)年、中央大学法学部卒。大阪市立大学博士(経営学)。摂南大学名誉教授、情報セキュリティ大学院大学セキュアシステム研究所客員研究員、ASP・SaaS・クラウドコンソーシアム顧問などを兼務。『自治体のアウトソーシング戦略』『自治体の情報セキュリティ』など編著書多数。

 「マイナンバー法案(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案)」が国会に上程された。これは、社会保障と税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性が高く、公平・公正な社会を実現するための社会基盤として整備されるものだ。計画では平成27年1月以降、社会保障分野(年金・医療・福祉・介護・労働保険)と税務分野(国税・地方税)、防災等の事務処理のうち“可能な範囲”から利用されることとなる。

 わが国の番号制度は、これまでにもいく度となく議論されてきた。ただ今回の議論が過去と比べて大きく異なるのは、マイナンバーは「国民の権利や利便性」を守ることを理念とし、従来のように所得把握の観点ではなく、適用範囲を拡げ給付のための番号として制度設計されていることだ。この点は大いに評価できる。

 マイナンバーの利用は、第一段階として社会保障分野では「年金に関する相談・照会」、税分野では「申告書・法定調書等への記載」、防災分野では「要援護者リストへの記載」が行われる見込みだ。そして、第二段階として「情報連携基盤やマイ・ポータルの運用」「その他の社会保障・税務分野での番号利用の拡充」などが想定されている。民間利用については、その次の段階での検討課題だが、そこまで進めばさらに大きな効果が期待できる。

 この点、私は医療分野での活用に期待している。国も来年には特別法案を提出して医療分野への拡大を考えるとしているが、すでに韓国などでは番号制度により医療保険や医療記録、処方箋などの情報を病院や関係機関が共有し、効率的かつ広範囲に国民の健康増進をはかる環境を整えている。国の税収に匹敵するまでに膨らんだわが国の医療費を抑制するためにも、関係機関相互の連携は欠かせない。国や地方、関係機関へ意識改革を求めるとともに、民間への利用範囲拡大がいたずらに先送りされることのないよう注視が必要だ。

 また、利用範囲の拡大で懸念されるのがセキュリティ管理面の問題であろう。確かにセキュリティ重視は重要だが、完全性を追求するとコストが高く使い勝手の悪いものとなる。経済性や利便性とバランスをとり、使い勝手がよく、便利さを実感できる仕組みを目指してほしい。

 こうした仕組みの構築は比較的容易だが、マイナンバーという新たな社会基盤の成否はこれを動かす現場の運用にかかっている。なかでも実務の多くを担うのが自治体だ。業務への影響も大きく、総務省でもさまざまな角度から調査研究を進めている。多くの自治体が未だ身近な問題として捉えていないようにも感じるが、法案が成立すれば来年度には具体的な準備作業が始まるのだ。

 そこで忘れてならないのは、番号はあくまでも手段であり、重要なのは住民が日々の暮らしのなかで利便性を実感できるよう、いかにこれを活用するかである。未来の住民サービスを切り拓くためにも、本来の目的を見失うことなくマイナンバーの有効活用を考えてほしい。

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