2012年7月号Vol.87

【特集1】マイナンバー、動く。

──番号制度導入で、税務業務はどう変わる?

総務省自治税務局 荻澤 滋税務管理官

国民に利便性の高い公平・公正な社会の実現へ──マイナンバーが具現化に向けて動き始めた。番号制度の導入で市区町村の業務は大きく変わることになる。いまだ不確定要素が多いなかでも、先行してその影響分析が行われているのが地方税の分野だ。業務や税務システムがどう変わり、いつまでに何をすべきか、総務省自治税務局・荻澤 滋税務管理官に聞く。

荻澤滋氏

悩み多きクラウド検討の現場

──今年3月、『番号制度導入に係る地方団体の税務システムのあり方に関する調査研究』の報告書を公表されました。

荻澤 「マイナンバー法案(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案)」が成立すれば、地方税の業務やシステムのあり方が大きく変わります。具体的には、地方税の賦課徴収・調査に関する事務についてマイナンバー(個人番号)を利用できるようになるとともに、ほかの機関に対し所得情報など地方部局が保有する情報を直接提供することが想定されています。市区町村にとっては業務の効率化が期待される一方で、どんな準備が必要なのか不安もあるでしょう。そこで、昨年9月に「番号制度に係る地方税務システム検討会」を立ち上げ、税務業務やシステムの現況を確認するとともに番号制度がこれらに与える影響、番号の活用方策について調査を行い、システム改修のガイドライン案として報告書をまとめました。

番号制度の意義

──市区町村にとって、番号制度導入の意義とは何でしょうか。

荻澤 昨年6月の社会保障・税番号大綱では、番号制度の目的について、所得等の情報を把握し、それらの情報を社会保障や税の分野で効果的に活用することを挙げています。これにより国民一人ひとりの所得・自己負担等の状況に応じて、より細やかな制度設計が可能になるとしています。これを地方税の視点から見ると、①所得把握など税務事務の効率化・的確化を図ること、②所得情報を社会保障の分野にまで拡げて有効活用することの二つの意義があると考えています。

 一つ目の「税務事務の効率化・的確化」では、例えば個人住民税については現在、給与支払報告書や国税庁から提供される所得税確定申告データ、各種支払調書などを氏名・生年月日・住所等で名寄せし、納税義務者の所得把握を行っています。しかし、結婚や引越しなどによる苗字・住所の変更やふりがなの読み違いなどもあり、その作業には大変な労力がかかっています。この点、各種資料に個人番号が記載されることで名寄せ作業の効率化や正確性が向上するとともに、申告漏れのチェックなど課税の適正化が図れます。法人課税についても同様で、全国共通の法人番号により、国税当局からの法人税情報の入手・活用や地方団体間の情報のやり取りなどで作業の効率化が期待できるでしょう。

 現在、想定されているスケジュールでは、平成26年半ばから個人番号と法人番号が交付され、平成27年1月以降、社会保障・税分野のうち可能な範囲で番号の利用が開始されます。つまり、所得税の確定申告書、個人住民税に係る給与支払報告書については、平成27年分の所得に係るものから個人番号を記載してもらうこととなります。法人番号についても同様に、平成27年1月以降に開始する事業年度に係る申告書から記載してもらうこととなります。

──第二の「所得情報の有効活用」については、いかがですか。

荻澤 本来、所得情報は個人住民税等の課税事務に用いられるものですが、現行制度でも多くの社会保障給付において要件確認のため、申請時に所得証明書等の添付を求めています。この点、マイナンバー法案では、市区町村の保有する所得情報等を「情報提供ネットワークシステム」を通じて社会保障給付実施機関へ提供することで、所得証明書等の添付を不要とし申請者の負担を軽減することを目指しています。また、情報保有機関が保有する個人情報を、個人一人ひとりに合わせて表示する「マイ・ポータル」により本人へ提供することを想定しています。

 こうした仕組みを実現するには既存の税務システムの改修に加えて、国が整備する情報提供ネットワークシステムへすべての地方団体が接続し、情報照会・提供を行うための新たなシステムを構築することが必要となります。

25・26年度がシステム改修の山場

──そのために市区町村では、いつまでに何をしなければならないのでしょうか。

荻澤 既存の税務システムについては、番号による検索機能の追加や業務画面の表示、出力帳票の変更など広い範囲で改修が発生します。現在の想定スケジュールで考えると、平成25~26年度がシステム改修期間となるでしょう。オープン系サーバやパッケージ型システムを利用する団体では改修負荷の程度はさほど高くはないと思われますが、汎用機や独自開発システムを利用する団体では改修負荷が高く、25年度早々には作業に着手する必要があると思います。

 なお、研究会の調査によると、大部分の市区町村で、個人・法人ともにいわゆる「宛名管理システム」により、宛名番号を付して納税者情報を管理しているようです。この場合、宛名管理システムで個人番号・法人番号と宛名番号とを紐付けて管理するのがシステム改修を局所化する有効な手段といえそうです。

 また、情報提供ネットワークシステムとの関係では、同システムへの接続とともに、情報照会・提供に用いる符号と自団体が保有する個人データとを紐付けて管理することが必要となります。地方団体との情報連携開始は平成28年7月を目途とされていますが、情報提供ネットワークシステムの総合運用テストの実施時期をにらんで準備を進めることになります。詳細な仕様はこれから検討されるため、実際のシステム構築作業は25年度後半以降と考えています。

 よく、「今年度は何をすればいいのか」と聞かれますが、まずは既存の税務システムを確認しましょう。報告書ではシステム類型別に想定される改修内容や費用に関する留意点等を示しています。これを参考にしながら、個々の事情を踏まえて円滑に移行できるようにどう準備するか、考えていただければと思います。

──なるほど。

荻澤 そのほか準備すべきこととして、情報セキュリティ対策があります。マイナンバー法案では、「個人番号を含む個人情報(特定個人情報)」について従来の行政機関個人情報保護法よりも厳格な取り扱いを求めていることから、アクセス制御や管理・監視対策の強化など「セキュリティポリシー」の改定も検討すべきでしょう。一方、マイナンバー法案が厳格な要件の下で所得情報等の他機関への提供や特定個人情報の目的外利用を認めていることを踏まえ、所得情報等を庁内で連携活用できるよう準備しておくことが必要です。そのため、マイナンバー法に即した個人情報保護条例の改正や、本人同意を要件に地方税法上の守秘義務を解除する運用などについても整理しておく必要があるでしょう。

──そうした体制や制度面の整備も、来年度には本格化するということですね。

荻澤 これまでにも、税務事務の効率化や納税者の利便性向上のために地方税の電子化が重要だと訴えてきましたが、番号制度導入により電子化の効果は飛躍的に大きなものとなります。その効果を最大限に活かすには、紙ベースで仕事をするという意識を変え、各種情報を電子的に収集・処理する体制の整備が大前提です。その意味ではeLTAXを大いに活用していただきたいですね。特に今年度の地方税法改正で、一定要件の企業等に対して平成26年1月以降、給与支払報告書の電子提出を義務付けたことから、電子申告受付サービスを導入していない市町村では早期の対応が望まれます。

 また、マイナンバー法案では、特定個人情報のやり取りが可能な手段として情報提供ネットワークシステムに加え、eLTAXの国税連携システムも改めて法的に位置づけており、さらなる活用が期待されます。現在は確定申告データの送信に限定されていますが、所得税に係る資料情報や法人情報等も扱えるよう機能拡大していくことが有効で、国税庁との協議・検討を進めています。

──報告書では費用抑制のための留意点も示されています。

荻澤 全国市長会等からの要望もあり、できる限り各市区町村の費用負担を少なくすることが必要と考えています。調査によれば4割の市区町村が「数年以内にシステム刷新を予定している」としていますが、そうしたところでは二重投資とならないよう計画的な対応が求められます。また、費用の抑制や導入期間の短縮といった観点からはパッケージ型システムの採用も検討に値します。さらに自治体クラウドはセキュリティ向上の点からも有効な方法でしょう。我々としては自治体クラウドの活用も含めて、引き続きコスト削減策を検討するとともに、地方団体の負担を軽減する支援ができるよう準備を進めていきます。

業務改善の一大チャンス

──今後の計画を教えてください。

荻澤 主な取り組みは三つです。第一に既存の税務システムの改修について、報告書に示した機能要件を実現するために工数やコストがどの程度かかるのか、内閣官房と連携して影響調査を実施したいと考えています。システム類型ごとにモデル団体を選定して改修に要する工数やコストを明らかにすることで、市区町村にとっても具体的なイメージが掴みやすくなるのではないでしょうか。

 第二は、情報提供ネットワークシステムへの対応です。内閣官房によるシステム仕様検討の進捗を踏まえ、地方団体の接続に必要な具体的なシステム構成案を提示します。今年度後半に内閣官房が実施する接続実証実験につなげていきます。

 第三が、市区町村の理解促進です。現在、全国でマイナンバーシンポジウムが開催されていますが、市区町村で必要となる準備についても機会を捉えて情報提供していきたいと考えています。一例として、7~8月に地方税電子化協議会と開催する各ブロック説明会において、制度・システム両面からの説明を予定していますので、ぜひご参加ください。

──番号制度の成否は、市区町村の今後の頑張りにかかっているといえますね。

荻澤 市区町村にとってはタイトなスケジュールのなかでやるべきことが山積しています。戸惑いもあるでしょう。でも、国の方針だから仕方なくやるのではなく、住民の利便性向上や業務改善の絶好のチャンスととらえて、ぜひ前向きに取り組んでいただきたいですね。特に住民サービスの観点では、工夫や取り組み次第でワンストップサービスや住民一人ひとりに合わせたプッシュ型サービスの実現も不可能ではありません。単なるコストカットではなく、明るい展望をもって未来のまちづくりへ番号制度をどう活かしていくのか、税務担当部局だけでなく組織横断でさまざまな議論をしていただくことを願っています。

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