2012年7月号Vol.87

【特集2】全国にひろがる、クラウド活用

──価値観の変化が、市区町村の取り組みをますます加速させる

いま、クラウド活用の動きが全国の市区町村へ広がっている。単なるブームではなく地に足のついた本格的な取り組みのなか見えてきたのは、クラウドによる「コスト削減」は出発点にすぎないということ。先進団体ではさらに先を見据えた検討も始まった。住基・税務、財務会計、新住民サービスでクラウドを活用する三つの事例から今後を展望する。

 市区町村では、汎用機の時代から日常業務にITを活用してきた。それがいま「クラウド」となったのである。平成15年度からLGWAN-ASPの提供が始まったように、この考え方は決して新しいものではない。その意味では、これまでにも多くの市区町村が電子申告や施設予約などでクラウド(ASP)を活用してきたわけで、それがいま自治体業務のコアな部分へと拡大しつつあるということなのだ。背景には、いくつかの要因がある。

 その筆頭に挙げられるのが、「業務継続性の確保」だ。昨年発生した東日本大震災により多くの団体で行政サービスの停止を余儀なくされたことから、災害時のシステム停止や行政情報の消失などの影響を最小化できるクラウドが脚光を浴びたのである。また厳しい財政状況のなか、クラウドの活用で情報システムの運用・保守などにかかる「コスト削減」を期待する向きも多い。これらの課題を解決する手立てとして、技術的な観点からクラウドが注目されているわけだ。

 そして、それらの課題解決の根本に「価値観の変化」への対応があるといえるのではないだろうか。

 震災を契機としてSNSなどのソーシャルメディアの利用が急速に進み、人と人とのつながりや地域コミュニティの形成で新たな世界を創り始めている。通信インフラに目を向ければ、この10年でブロードバンドインフラの整備が進み、またスマートフォンが広く普及するなどインターネットの利用形態も様変わりした。そうしたなかでICTサービスもまた大きな進化を遂げてきた。その一例がアップルのiPadやiTuneだ。これにより書籍や音楽の楽しみ方が一変するなど、いま我々はクラウドを意識することなくその恩恵を手にしている。

 1999年12月に「ミレニアム・プロジェクト」が公表されて以来、市区町村では電子自治体実現に向けた数々の取り組みを進めてきた。これにより行政内部の情報化は大きく進展したが、一方でベンダーロックインや情報化コストの高止まりという問題も発生した。また、住民の利便性向上の観点では、公共施設の案内・予約やコンビニ交付など一部の電子行政サービスに進展は見られるものの、いまだ局所的な効果に止まっている。

 そもそも電子自治体の目的は、紙で扱ってきた情報を電子化するだけでなく、従来の業務のあり方を見直して行政の簡素化・効率化や透明性の向上など自治体の業務改革を推進し、それにより住民サービス・利便性の向上をはかることにあった。しかし、これまでの電子自治体への取り組みは旧来の"電算化"の延長線にあったといえるのではないだろうか。それが利用者の価値観の変化によって、改めて「住民の利便性向上・業務プロセス改革」という目的が真剣に語られるようになり、そのインフラとしてクラウドが意識されてきたということなのだ。

真の電子自治体推進がはじまる

 さて市区町村のクラウド活用は、いま基幹系システムに限らずあらゆる分野で進んでいる。特集では、山形県真室川町の基幹系システム(事例1)、栃木県那珂川町の財務会計システム(事例2)、栃木県足利市のコンビニ交付(事例3)の活用例を紹介した。

 いずれにも共通するのは、自分たちの実情に合ったクラウド活用をしていることだ。また、単にアプリケーションの切り替えではなく、この機に業務プロセスや各種ルールの見直しをしている点も興味深い。さらに「コスト削減」がクラウド検討のきっかけになったとしながら、併わせて「住民サービス・利便性の向上」と「業務プロセス改革」を強く意識していることは注目に値するだろう。これは3つの事例が特別なのではない。

 アクセンチュアが昨年、日本を含む9か国の企業・公的機関を対象に実施した調査によると、クラウドの検討にあたって重視するのは「初期投資や運用・保守費用の削減」に次いで、「標準化された効率性の高い業務プロセスのプラットフォームの提供」「業務プロセスの変革」などが上位を占めている。つまり、コスト削減は"出発点"に過ぎないのだ。

 また、最近注目すべき動きとして、市区町村のクラウド活用の意識が共同利用を前提としたものから自治体単独での利用へと変わってきたことがある。共同利用の場合、業務プロセスの標準化やコスト分担の調整などがネックとなり、また震災復興対策の補助金が単独利用を後押ししているという声もある。それらの指摘も否定できないが、むしろクラウドへの期待やニーズが利用拡大の〝原動力〟となっていると考えるのが自然ではないだろうか。成功例が増えるなかで、今後こうした動きが加速度的に広がることは間違いない。

 クラウド活用は、事例団体のように自分たちの実情に合わせて始めればいい。ただ、忘れてならないのは、クラウド化が目的ではないということだ。クラウドがもたらす価値を身近に体験した我々は、行政サービスにも日常生活のなかで利便性が実感できることを求めている。マイナンバー法案が成立すれば、利用者本位のサービスが一段と進むことも明らかだ。クラウド活用はそれらを視野に入れ、真の電子自治体構築に向けた取り組みでなければならないのである。

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