2013年1月号Vol.89

【特集1】加速する「自治体クラウド」

──中間標準レイアウトなど、より移行しやすく

総務省地域力創造グループ 地域情報政策室長 濱島秀夫氏

急速な拡がりを見せる自治体クラウド。背景にはトータルコストの削減やデータの保全、セキュリティ対策、BCP対策などがあげられ、それを財政支援措置が後押しし導入検討に拍車がかかったといえる。 本号では、地域力創造グループ地域情報政策室長の濱島秀夫氏に具体的となったクラウド導入メリットや今後の推進策についてうかがう。

濱島秀夫氏

──以前、小誌(平成23年11月号)で自治体クラウドの展望をご紹介いただきました。それから一年が経過し、クラウドを導入または導入検討する団体が全国に拡がっています。

濱島 そうですね。自治体クラウドは平成21年度より「自治体クラウド開発実証事業」の取り組みを開始しました。その後、平成22年に総務大臣を本部長とする「自治体クラウド推進本部」を発足し、具体的な方策の検討・実施などを進めてきました。特に、平成24年度に入り急速に自治体クラウドが拡がりはじめたと感じています。

 現在クラウドに取り組んでいる団体は、約170団体となっています。これは全国の団体のうち約一割がすでにクラウドを導入および導入予定となっていることになります。また、共同化の取り組みも北は北海道から南は宮崎県まで拡がっています。

──ここまで急速に拡がった要因については、いかがお考えですか。

濱島 総務省では、平成23年度からクラウド導入による情報システムの集約と共同利用に向けた共同化計画策定等にかかる経費や、データ移行にかかる経費について特別交付税措置を行っています。こうした財政支援措置が契機となり、自治体クラウドに取り組んだ団体も多いのではないかと捉えています。

 また東日本大震災の被災地域に対しては、災害に強い情報基盤の整備とともに早期復興に資することを目的として財政支援措置「被災地域情報化推進事業」を行いました。この補助事業を活用して、21団体がクラウドに移行する予定となっています。被災地の事情を考えると、大変厳しい環境にあるなかで、クラウドの活用により効率化を進めながら復興を果たしていく基盤ができあがっていくことを大変喜ばしく思っています。

見えてきた具体的効果

──普及が進んだことで、自治体クラウドの具体的な効果も見えてきました。

濱島 総務省では、これまでにも自治体クラウドの実証事業等で、どういった利用効果があるのか実証してきました。その一つが「費用削減」効果で、実証事業では最大で3割程度の削減結果も出ています。例えばシステム改修費の削減などがあげられますが、同一パッケージを複数団体で利用することによる割り勘効果により、共通の機能改修や法改正対応等システム改修費用を抑えることが期待できます。

 二つ目が「職員の業務量の削減」効果です。情報主管部門では、専門的知識を持った職員がいなくても対応ができるようになったり、機器の保守や更新時期の管理、サーバ室の管理、バックアップ、稼働確認、情報セキュリティ対策、障害発生時の対応等のシステム運用・保守作業が不要になります。また、独自カスタマイズをやめることにより、要件整理や設計確認、導入時の動作確認や数値チェックが不要になることも期待できます。一方、業務主管部門においても、印刷および封入封緘などのアウトソーシングサービスの利用により、事務作業の軽減が期待できます。

 それ以外にも、共同利用に参加している団体や先行してクラウドを利用している団体に、パッケージに合わせた業務の標準化などについて相談したり、あるいはシステム改修等に対する意見を共同で事業者側に要望するような「自治体間の連携強化」効果も挙げられます。加えて、専門事業者が運用しているデータセンターにデータを預けることによって高いセキュリティレベルを確保し、停電や火災、自然災害に対する「信頼性、安全性の向上」効果もあります。

 さらに、ハードウェアやソフトウェアなど情報資産を保有しないため、保守期限に縛られず「安定的な長期保守体制の確保」ができる効果、また、庁内におけるサーバ設置場所の確保や電力の確保が不要になることで「庁舎の有効利用、電気料金節約」効果なども挙げられます。

 もちろん実感する効果は、それぞれの団体ごとに異なるとは思いますが、実際にクラウドを導入した団体からは「業務が効率化でき、楽になった」といった声も聞かれ、特に「コスト」「業務の効率化」「セキュリティ向上」に導入のメリットを感じているようです。

 また、東北地方ではBCP(業務継統計画)対策の観点から、データをどこに置くかを検討する過程でクラウドへの移行を決めた団体もありました。この点では、クラウドがBCP対策としても注目されていることがよくわかります。

 このような効果が、それぞれの自治体で実感されているからこそクラウド化への動きが加速しているのだと思います。

クラウド移行を業務見直しの機会に

──クラウド導入にあたっては、「共同利用」を選択する団体がある一方で「単独」で導入する動きもありますね。

濱島 自治体クラウドの導入については、例えば人口規模の小さな団体であればSaaS型を共同利用するケースが多い傾向にありますが、一方で人口規模の大きな団体ではIaaS型を選択するケースもあります。クラウドの活用も地域や人口規模など、実情に応じ柔軟に組み合わせていけばよいでしょう。

 総務省としては共同利用型を推奨していますが、単独型の導入であってもパッケージシステムのノンカスタマイズ利用をするために職員同士で話し合いをされているケースがあります。このように単独でパッケージシステムを導入するのであれば、まず庁内で話し合いをして、極力カスタマイズを少なくする努力をしていただきたいですね。もちろん話し合いを十分にした上で、業務に必要な機能がパッケージ側にないのであれば、それはカスタマイズせざるを得ないと思います。

 いずれにしろ重要なのは、自治体の職員がいまの業務を見直す機会を得るということです。そのためクラウド導入にあたっては、「コストをかけてカスタマイズするのか、それとも仕事を見直すのか」という視点で十分に検討して欲しいと思います。

中間標準レイアウトの活用がカギ

──自治体クラウド支援策として、平成24年6月に「中間標準レイアウト」を公表されましたね。

濱島 自治体クラウドの推進にあたり課題となるものの一つとして、データ移行の問題が挙げられます。新旧システムで提供するベンダーが異なる場合には、移行対象のデータ項目等の不一致を解消させるために、①旧システムから中間レイアウトへデータを抽出し、②中間レイアウトから新システムへ取り込む──という大きく二つのプロセスが必要となります。

 しかし、異なるベンダー間のデータ移行では不明点が多く含まれていることから多額の費用がかかる傾向にあります。また、自治体ごとにデータ項目等の仕様も異なるため、他団体と費用を比較することも困難です。その結果、データ移行時の膨大な作業量と費用負担を回避するために、システム更新時にベンダーを変更できないベンダーロックインの問題も発生しています。

自治会クラウドの円滑なデータ移行等に関する研究会とりまとめイメージ図

 そこで、本質的な解決を図ることを目的に提供したのが、この「中間標準レイアウト」です。これは、全国の自治体、事業者双方が共通して活用することができる、いわば「標準化されたデータの表現形式」と呼べるものです。その作成にあたっては、大手3社によるコンソーシアムを中心に原案を作成し、TKCさんをはじめ24社の協議事業者と自治体職員などで構成される「自治体クラウドの円滑なデータ移行等に関する研究会」で、確認・意見をいただきながら、レイアウトを作成しました。その結果、これまでに住民基本台帳をはじめ印鑑登録や戸籍、税、財務会計など自治体の主要な22の業務についてデータ移行にかかるデータレイアウトを標準化しました。

 この中間標準レイアウトの活用については、システムの調達時に「契約期間満了時に中間標準レイアウトによるデータ提供を求める」ことを仕様書に記載するといったことを想定しています。これにより、データ移行経費を抑制できるとともに、次回、次々回のシステム選定時におけるデータ移行経費をも削減し、システムの選択の幅を拡げることが期待できるでしょう。また、抑制できた経費で新たな住民サービスなどへのIT投資を行うことも可能となります。

 それ以外の用途としては、「災害に強い電子自治体に関する研究会」においてBCP対策に活用できないか検討しています。これは、中間標準レイアウトを活用しバックアップを実施しておくことで、業務システムが停止した場合でも表計算ソフト等でデータを利用して応急業務に対応することができないかというものです。

 また、同一自治体内での異なる業務システム間の連携を図るための標準データ形式としての活用も検討されるなど、今後その活用シーンはますます拡がっていくものと考えています。なお、この中間標準レイアウト自体は総務省のホームページで公開していますので、ぜひご活用いただければと思います。

 ただ、中間標準レイアウトは一度作成して終わりというものではありません。制度改正や自治体の皆さんの意見を反映しながら、より使いやすいものとなるよう今後も継続してメンテナンスをしていく予定でいます。

──中間標準レイアウトがあれば安心してクラウド移行に取り組めますね。最後に今後の計画について教えてください。

濱島 まずは、共同化計画を策定中の団体など自治体クラウドへ移行する市町村を対象に、財政支援措置を含め円滑な移行を支援していきたいと思います。

 また、今後も引き続き現状の課題抽出やその解決策の模索など調査研究を進めていくことで、さらなるクラウド推進を図っていきたいと思います。

 さらにクラウドの導入状況は、平成24年度行政情報化調査において自治体クラウドの取り組みに関する調査項目を追加しました。この結果は、平成25年1月末をめどに公表したいと考えています。また、官と民の間でもクラウドを共同利用できないか模索していきたいと思っています。

 自治体クラウド推進の取り組みはまだ道半ばで、解決していかなければならない課題もあります。また、その推進にあたっては、ベンダーや自治体の皆さんと協力しながら進めていきたいと思っています。

 すでにクラウドに取り組んでいる団体はもちろん、クラウド対応に躊躇しておられる自治体の皆さんを少しでも後押しできるよう、今後もさまざまな支援策を計画していきたいと考えています。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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