2014年1月号Vol.93

【特別寄稿】番号制度の活用で期待される効果

──諸外国の番号活用事例

MBR コンサルティング 電子政府コンサルタント 牟田 学

 諸外国で導入されている番号制度が、日本でも「社会保障と税に関わる番号制度(マイナンバー制度)」として始まります。都道府県および市町村においても、総務省が提示する「導入ガイドライン」に従って、急ピッチで制度導入に向けた体制づくりやシステム改修を進めています。

 政府資料によると、番号制度の導入効果として図表1を挙げています。

図表1 番号制度の導入効果

 日本に先行して番号制度を導入し活用している国々では、本当にこうした効果を挙げているのでしょうか。「番号制度導入の効果」という視点から、諸外国の番号活用事例を紹介します。

 オーストラリアでは、1989年に課税関連分野に限定した納税者番号が制度化されました。番号制度を導入する前は、納税申告書と情報申告書(法定調書、源泉徴収票等)を氏名と住所で名寄せしていましたが、資料の30~40%しか名寄せできなかったそうです。番号制度の導入後は、納税者番号が記載された納税申告書と情報申告書については、ほぼ100%の名寄せが実現しています。

 1990年には、年金等の所得保障受給の条件として、社会保障給付機関への納税者番号の告知が義務化されています。これは二重受給の防止を目的としたもので、国税庁と社会保障給付機関(年金、雇用、教育、保健など)は個人情報を相互に照合できるようになっています。

 正確な所得把握、社会保障・税の給付と負担の公平化は、社会保障・税制度の内容によるところが大きく、少なくとも所得把握や社会保障給付に係る事務処理の正確性向上や効率化を通じて、番号制度が役立っているといえるでしょう。

利用範囲の拡大で広がる可能性

 いわゆる共通番号制度(税務、社会保険、住民登録、選挙、兵役、諸統計、教育等の多分野で一つの番号を利用・共有できる制度)を採用する国では、その効果はさらに大きくなります。

 スウェーデンでは、社会保障給付の要件を満たせば、申請しなくても、給付が開始されます。子どもが生まれると、自治体から保育園や児童福祉の情報が届き、児童手当が振り込まれます。社会保障が必要な人に対して、適切なタイミングで漏れることなく手を差し伸べることができているといえるでしょう。

 デンマークでは、電子政府ポータルサイトに個人専用のマイページが用意されています。これには電子私書箱のような機能もあり、個人宛に届く行政からの通知に対して返信をすることで、申請・届出等が完了するケースもあります。

 このように国民へ“プッシュ型”の行政サービスを実現している国では、組織や分野を超えて利用できる個人を識別・特定する番号を活用しています。もちろん、オンライン上の本人確認など番号制度以外に必要なインフラもありますが、国民の利便性向上に番号制度が貢献していることは間違いありません。デンマークの電子政府関係者も、「ドイツなどと比べて、わが国に共通番号制度があったことは非常にラッキーだった」と語っています。

 エストニアでは、多くの成果を挙げてきた番号制度を医療分野に拡大しています。共通番号にひも付けされた医療情報(診断記録、処方箋など)を、担当医や薬剤師などが共有することで、相互チェックを行いながら医療サービスの向上を実現しています。また、医療機関の診断結果は自動的に中央データベースに保存されるので、大規模災害で病院等のデータが滅失した場合でも患者のデータは守られています。これにより被災者が医師に診てもらう場合でも、過去の診断記録等を参照しながら、より適切な治療を受けることができます。

市町村に期待する取り組み

 電子政府や医療情報化の先進国は、番号制度を最大限に活用している一方で、小規模な国や都市国家が多く、付加価値の高い経済力を持っているといった特徴もあります。デンマークは、国連の電子政府ランキングや世界経済フォーラムのICT活用ランキングの上位国で、一人当たりのGDPは日本よりも多く、国土面積は九州ほどの大きさで、国の経済規模は北海道より少し大きいぐらいです(図表2)。

図表2 番号制度を活用する諸外国と日本の比較

 別の見方をすれば、日本の市町村や都道府県が広域連携して番号制度やICTを最大限に活用することができれば、オランダやデンマークのような競争力の高い電子政府先進国になれる可能性があるともいえます。とはいっても、番号制度が何かをしてくれるわけではありません。「これさえあれば・・・」と考える電子政府は、どれも失敗に終わっています。これからの電子政府は、課題解決型、共同参加型、持続可能型が基本になります。これに対して、今までの電子政府は機能先行型、行政主導型、補助金依存型でした。番号制度では、同じ間違いを繰り返すべきではありません。

 筆者の場合、「番号制度を活用した市民サービス」は、番号制度がある程度普及してからでよいと考えています。制度が定着する前の市民サービス検討は、「行政がやりたいこと」になってしまいがちだからです。

 その前に、利用者中心の考えに立って、自治体自身が利用者となる、現在抱えている課題解決に向けた番号制度の活用を優先するのがよいでしょう。具体的には、市町村の固定資産税や都道府県の自動車税の徴収などがあります。

 課題を解決するためには、どのような情報に番号がひも付けされて、どのような機関と情報連携できればいいのかと考えます。

 番号法の附則には、法律の施行後3年をめどに、利用範囲の拡大を含む見直しの検討をすることが明記されています。日常的に住民と接している自治体が、この見直しの機会をどれだけ有効に活用できるのかが、番号制度の方向性を決めていくのではないでしょうか。

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