2014年4月号Vol.94

【特集】番号の利活用を考える

──制度導入に向け、どのような検討が必要か

内閣官房 政府CIO補佐官 番号制度推進管理補佐官 楠 正憲氏

制度の運用開始に向け、いよいよ準備フェーズへと移ったマイナンバー制度。今後、自治体で番号の利活用などについて具体的な検討を進めていく必要があるがどのようなアプローチがあるのか。ヤフー株式会社の要職に就くかたわら非常勤国家公務員として制度の推進に深く関わる内閣官房政府CIO補佐官の楠正憲氏に聞く。

楠正憲氏

──内閣官房では政府CIO補佐官、番号制度推進管理補佐官として、どのようなことを担当されているのでしょうか。

 番号制度推進管理補佐官については、平成23年12月より務めています。主に情報提供ネットワークシステムやマイ・ポータル(情報提供等記録開示システム)の構築に係る指導・助言を行っており、具体的には仕様書のレビューや課題抽出などの役割を担っています。併せて平成25年5月に番号関連4法の成立により政府CIOが立ち上がりましたが、そのCIO補佐官としてマイナンバーを中心としたIT戦略の推進も担当しています。

──番号制度の準備状況について教えてください。

 情報提供ネットワークシステムについてはすでに調達が始まっており、平成26年3月よりいよいよその開発がスタートします。その後、平成29年早々に総合運用テストを完了させ、同年1月からは国の機関での相互連携、また7月からは地方公共団体も含めた連携が開始されることになります。残された時間は意外とありません。

 情報提供ネットワークシステムの構築については、コアシステム自体がそれほど複雑な仕組みではないため問題なく構築できると考えています。ただし、気をつけなければいけないのがパフォーマンスの問題です。行政関連の事務は年度末など一定の時期に集中することが多いため、一時的にシステムあるいはネットワーク(政府共通ネットワーク、LGWAN等)への負荷が高くなることが想定されます。そこで、社会保障改革担当室では番号法の別表2に記載されている事務について、年間に見込まれる事務処理件数の最大値などを試算します。それにより各関係機関とも密接に連携しながら対処していく予定です。

 なお、平成28年に予定されている総合運用テストについては、情報提供ネットワークシステム自体の基本設計や詳細設計をもう少し詰めてから具体的な内容を確定させることになります。ただし、情報提供ネットワークシステムに接続する機関が非常に多いので、テストには十分に時間をかけて実施する必要があると考えています。そのため、まずは早めに準備が整うであろうパイロット団体からテストを開始し、その後、残りの団体について実施する、複数段階でのテスト方法を計画しています。

社会保障・番号制度導入のロードマップ(案)イメージ図

「マイ・ポータル」三つの機能

──マイ・ポータルについてはいかがでしょうか。

 マイ・ポータルについても、情報提供ネットワークの運用が開始される平成29年1月スタートを予定しています。

 マイ・ポータルでは、①自分の特定情報をいつ、誰がなぜ情報提供したのかを確認する機能である「情報提供記録表示」、②行政機関などが持っている自分の特定個人情報について確認する機能である「自己情報表示」、③一人ひとりに合った行政機関などからのお知らせを表示する機能である「プッシュ型サービス」──の三つの機能を提供する計画となっています。運用が開始される平成29年1月には、まず情報提供記録表示機能と自己情報表示機能を提供する予定です。ただし、自己情報表示機能については自治体側の開示体制の整備状況によることや、情報の表示範囲についても法律上の明確な定義がなされていないことから、どこまで開示するか議論を続けているところです。

──プッシュ型サービスとは、どのようなものになるのでしょうか。

 誤解を受けやすいのですが、プッシュ型サービス機能とはSNSのようなインスタントメッセージを送るという機能ではなく、各人がマイ・ポータルを開いた時にお知らせとして表示するというものになります。しかし、さすがに「お知らせを表示する」だけでは、毎日マイ・ポータルにアクセスされるような方でない限りプッシュサービスに気付くことができません。

 そこで、現時点ではメールアドレスを登録した方にお知らせがあったことをメールで通知する機能の提供を考えています。ただ、これも実際の利用シーンを想定すると、自治体が住民に通知をするためにわざわざマイ・ポータルのプッシュ型サービス機能を利用するかなど、利便性の問題もありますので、実用性についての判断が難しいところとなっています。

ワンストップサービス実現に必要なこと

──ワンストップサービスの実現に向けて、どのような取り組みをされていくのでしょうか。

 ワンストップサービスについては、マイ・ポータルの調達範囲には含まれていませんが、どこで実現するのか、これから検討していく予定です。国が具体的なサービスを作り込んでいくというよりも、先進自治体にいろいろ取り組んでいただき、その中でよいものを紹介し、各自治体で取り組んでいただくという流れになると考えています。そういったものを含めて、住民ニーズが高いものについて自治体同士で横展開を図っていく、という順番でやっていかないとうまく根付いていかないでしょう。

 なお、ワンストップサービスについては、まず業務改革ありきの話だと考えています。

 例えば、窓口事務を見直して総合窓口で大方の手続きは終わらせることができるような自治体では、電子化することで効率的になるかもしれません。一方で、それぞれの受付窓口で手続きをする自治体においては、単純に手続きを電子化しただけでは決して効率的にはならないでしょう。行政手続きの多くは、電子化するだけでは事務処理を一気通貫できるというものではありません。そこで、「器として立派なWebサイトを構築する」ことではなく、それぞれの自治体が「住民と向き合うためにどういう業務を組み立てていくか」を考えることが重要になってきます。

 そのための方法論としては、一気通貫で事務処理できることを大前提として、①ネット上でどのようなサービスを提供していくか、②これまでばらばらだった手続きをどのように見直していくか、を議論していただくことが必要となります。

──有効なワンストップサービスを検討するにあたり、どのようなことに気をつければよいでしょうか。

 これは個人的な意見となりますが、ワンストップサービス成功の秘訣は、頻度が高く、件数自体も多いもの(手続き)から電子化するとよいと考えています。個人向けの手続きというのは、どうしても頻度の低いケースが多い傾向にあります。そのため、手続きを電子化しても一般の人にはなかなか覚えてもらえず、利用率向上にもつながりにくい傾向にあります。しかし、この個人向け手続きも「GtoC」の視点で捉えるのではなく、「GtoBtoC」の視点で考えれば有効な解決策が見えてくるのではないかと考えています。

 例えば、e─Japan戦略が展開されて以降、さまざまな手続きが電子化されてきましたが、その中で個人向け手続きとして定着した事例の一つに、自動車保有関係手続きのワンストップサービス(OSS)があります。このOSSについては、成功の背景に事業者(カーディーラー)の存在があったと考えています。車の登録手続きも、個人では数年に一度のイベントとなるため頻度が高い手続きとはいえません。しかし、事業者の立場に立つと実は年中実施している手続きのため、OSS化により業務の効率化につながりました。つまり、個人ではなくても常にその手続きに関わっている事業者が使うサービスを提供すれば、利用率の向上につなげることが可能なのです。

 なお、同じような仕組みで成功した事例として電子申告も挙げられます。これも直接の納税者よりも代理で申告手続きを実施する税理士等が利便性を感じ、実践したからこそ成功したといえます。このように成功の秘訣ははっきりと見えていますので、これらを参考に考えていけばいいのではないでしょうか。

優先順位をつけて取り組む

──事業者という視点でいうと、今回のマイナンバー制度では、法人にも番号が付番されますよね。

 そうですね。今回の制度では個人に個人番号が付番されるように、法人には法人番号が付番されることになります。

 法人番号の付番方法については、国税庁長官が法人番号を指定し通知することになります。法人番号の付番対象となるのは、国の機関および地方公共団体、登記簿に登録された法人等、法令等に基づき設置されている登記のない法人、国税や地方税の申告納税義務や法定調書の提出義務を要する法人となります。

 この法人番号は、個人番号のように利用範囲に制約がなく、ほぼオープンなデータになりますので、官民を問わずさまざまな分野での利用が可能です。その意味では、個人番号よりも法人番号の方が利活用の幅を拡げられる可能性を秘めているのではないでしょうか。もちろん、窓口コストの削減という観点は重要ですが、経済の活性化や事業を営みやすいまちづくりといった観点でアプローチしていくのも一つの手だと考えています。

──最後にマイナンバー制度全体を統括する内閣官房の立場から、自治体が制度を導入するにあたってとくに留意すべきポイントを教えてください。

 今回の制度で、自治体には番号付番・番号カードの発行・情報連携が法律で義務づけられています。注意が必要なのは、番号法別表2に記載された事項について相手機関から情報照会された場合、自治体には情報提供する義務があるという点です。これは対象者が少ないためシステム化していない手作業の場合も含みます。つまり、規模の大小を問わず全ての自治体が別表2に記載された事項を全て情報提供できるように準備しておく必要があるということです。

 これ以外にも制度の運用が開始されるまでにやるべきことはたくさんあります。まずは、法律上やらなければならない範囲というのをしっかりとご確認いただくことが重要です。

 そしてその上で、番号の利活用部分については特に効果を考えながら優先順位をつけて取り組んでいただきたいと思います。

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