2014年7月号Vol.95

【特集】公会計で行政を強くする!

──社会変化に適合した持続可能な財政の構築へ

総務省自治財政局財務調査課 課長 原 邦彰氏

4月30日に公表された『今後の新地方公会計の推進に関する研究会報告書』において、固定資産台帳の整備と複式簿記の導入を前提とする統一的な会計基準が示された。原則として、平成29年度までに統一的な基準による財務書類等の作成が求められる見通しだ。今後、どのように対応を進めるべきか──原 邦彰自治財政局財務調査課長に聞く。

原邦彰氏

──総務省では平成18年度に新地方公会計モデル(基準モデル・総務省方式改訂モデル)を示し、その整備を推進してきました。現在、多くの市区町村で財務4表の作成・公表が行われていますが、あらためて地方公会計改革の意義について教えてください。

 公会計改革の意義には三つのポイントがあると考えています。

 第一が「財政の視える化」です。現行の予算・決算制度は、予算の適正・確実な執行を図るという観点から現金主義会計を採用しています。ただ、これでは歳入や歳出といったフロー情報(一会計期間の取引高)は把握できても、資産や負債といったストック情報(ある一時点の財政状態)を十分に把握することができず、財政の透明性という点では情報が不十分です。そこで、発生主義でストック情報やフロー情報を総体的・一覧的に把握する──つまり財政を“視える化”しようというものです。

 第二のポイントが、「将来コストの把握」です。これまでは減価償却費や引当金などをコストとして把握する仕組みがなく、公共施設の建設に要する投資額には留意しても、その建物の使用を中止・廃止するまでにかかるライフサイクルコストはあまり意識してきませんでした。例えば、LED照明は価格は高いが、同じ明るさの普通の電球に比べて消費電力が少なく、寿命は長い。つまり“ライフサイクルコスト”で考えれば、LED照明の方が安上がりだと判断できます。そうした将来発生するコストも把握し、中長期的に財政へ与える影響を考えられるようにしようというものです。

 第三のポイントが、「資産の把握」です。地方自治法では公有財産台帳の整備が義務付けられていますが、道路や河川などは、それぞれ個別法に基づく台帳で管理されています。また、これらの施設に関するデータは各所管課に分散され、一元的な管理となっていません。全庁的な視点から資産活用を考える上でも、所有する全ての固定資産を棚卸しして固定資産台帳を整備し、取得価額や減価償却費などの情報をもとに正確な資産額を把握していこうというものです。

施設老朽化で高まる問題意識

──そうした中、『今後の新地方公会計の推進に関する研究会報告書』が公表され、統一的な会計基準の方向性が示されました。なぜ見直しが必要となったのでしょうか。

平成24年度決算にかかる財務書類の作成状況は、作成団体(作成済みまたは作成中の団体の合計)が全市区町村の96.7%にあたる1684団体と、財務書類の作成は着実に進みました。しかし、市区町村については、作成済み団体の80.6%が「総務省方式改訂モデル」を採用しているのが実状で、中長期的な財政運営への活用という点では団体によって温度差があると言わざるをえないでしょう。

 ご承知の通り、「基準モデル」は個々の取引等について発生の都度または期末に一括して複式簿記による仕訳を行うとともに、固定資産台帳を整備して財務書類を作成する方法です。一方、総務省方式改訂モデルは公有財産の状況や発生主義による取引情報を既存の決算統計情報を活用して作成する方法です。

 簡易な総務省方式改訂モデルは確かに取り組みやすい方法と言えますが、基準モデルと比較すると財務書類の検証可能性が低く、また固定資産台帳整備が進んでいない場合には貸借対照表の固定資産計上額に精緻さを欠くなどの課題があります。

──なるほど。

 いま、国と地方ともに高度経済成長期に整備した公共インフラが相次いで更新時期を迎え、これら老朽化した施設の更新費用をどう捻出するかが重要な課題となっています。住民や議会の関心も高く、市区町村には自らが所有する公共施設の老朽化の状況を早急に把握するとともに、それらの効率的・効果的な維持管理、更新のあり方を検討し、情報提供することが求められています。

 このことは市区町村も如実に感じていると思われ、実際に総務省方式改訂モデルでは固定資産台帳の整備を前提としていないにも関わらず、すでに53.8%の市区町村で同台帳を整備済み・整備中となっています。しかし、固定資産台帳の整備が進んでいっても、総務省方式改訂モデルでは事業別・施設別のコストが把握できずセグメント分析が行えません。

──基準モデルや総務省方式改訂モデルを作った当時とは、社会経済情勢が変わったということですね。

 そうですね。また、もう一つの課題として基準モデルと総務省方式改訂モデルのほか、複数の方式が併存していることが挙げられます。公会計では、財務書類等を他団体と比べることで財政構造の特徴や課題をより客観的に分析することが期待されますが、その尺度が異なると比較することはできません。

 こうした現状を踏まえ、平成22年9月に「今後の新地方公会計の推進に関する研究会」を発足させ、現行の現金主義による予算・決算制度を前提とした上で財務報告における“あるべき基準の在り方”についての議論を進めてきました。そして今年4月に報告書をまとめ、その中で「複式簿記の導入」と「固定資産台帳の整備」を柱とした財務書類等の作成にかかる統一的な基準を示しました。

今後の新地方公会計の推進に関する研究会報告書概要イメージ図


27年度に標準的なソフトウエアを配付へ

──市区町村では、いつまでにどのような対応が必要となるのでしょうか。

 それについては、5月23日に総務大臣通知「今後の地方公会計の整備促進について」を発出しました。平成27年1月頃までに統一的な基準による財務書類等の作成に関するマニュアルを作成し、原則として平成29年度までの3年間で、全ての地方公共団体に対して統一的な基準による財務書類等を作成するよう要請する予定です。なお、現在検討中の「有形固定資産の評価基準の詳細」や「連結の範囲」などについても、このマニュアルで示したいと考えています。

 さらに、こうした財務書類等を作成するためには各地方公共団体においてシステムの整備が不可欠となりますが、これに伴う体制の確保やコスト負担への配慮も必要です。そのため、財務書類等の作成に必要な標準的なソフトウエアを開発し、平成27年度のできる限り早い時期に地方公共団体へ無償で提供する計画です。

──どのようなソフトウエアを想定されているのでしょうか。

 財務会計システムから出力したデータを取り込み、期末に複式簿記による仕訳へ一括変換する分離型のソフトウエアを想定しています。もちろん、取引の都度・伝票単位ごとに仕訳を行う「日々仕訳」の導入を考える市区町村もあることを想定し、「日々仕訳」にも対応できるよう汎用性の高いインターフェース設計とすることで、財務会計システムと容易に連携できるような仕組みにしたいと考えています。

 ただ、これはあくまでも財務書類等を作成するための道具で、そもそものデータが正しくなければ意味がありません。

 統一的な基準での財務書類等の作成にあたっては、資産の正確な把握や他団体との比較可能性を確保するという点から財務書類作成の補助簿として固定資産台帳の整備を前提としています。しかし、固定資産台帳の整備を完了しているのはまだ2割程度で、この整備を急ぎ進めていただきたいと思います。特に固定資産の棚卸しには多くの時間と手間がかかることからも、整備に着手していないところではできる限り早く取り組んでほしいですね。

統一的な基準の導入は“時代の要請”

──今後、どのような支援策を計画されているのでしょうか。

 全ての市区町村で統一的な基準の導入に向けた取り組みが円滑に進むよう、まずは実務に携わる職員の理解促進を図ることが必要だと考えています。そこで自治大学校や全国市町村国際文化研修所、市町村アカデミーを活用して研修を実施する計画です。また、その推進にあたってはトップダウンも重要であることから、ぜひ首長さん向けセミナーも充実していきたいですね。

 われわれとしても、優良な取り組み事例の紹介などを通して、新たな公会計を整備することでどんなことができるのかを理解してもらえるよう努めていきたいと思います。加えて、固定資産台帳の整備や複式簿記への理解という点では、民間の協力も欠かせないでしょう。

──統一的な基準の導入に向け、市区町村へ期待することは何ですか。

 民間企業にとっては当たり前の複式簿記も、市区町村には馴染みがなく敷居が高く感じられるでしょう。しかし、もはや「複式簿記の導入」や「ICTを活用した固定資産台帳の整備」は時代の要請です。だからこそ、現金主義会計による予算・決算制度を補完するものとして統一的な基準を整備するわけです。

 いま、報道等で超高齢・人口減少社会が話題になっていますが、これも施設の老朽化とともに全国に共通する深刻な問題です。国としても出生率を上げる努力を行う必要がありますが、これまでのように右肩上がりの成長を期待することはできません。また、社会保障費の増大やリーマンショック等による景気後退などにより地方財政は厳しい状況が続いており、いかに財政健全化を図っていくかという課題もあります。そうした中にあっても、将来にわたって住民が安心して暮らせる基礎となる持続可能な財政を構築していくことが不可欠です。

 その意味では予算配分もドラスチックに変え、これまでとは違う新しい発想・仕組みで行政経営へ取り組んでいかなければなりません。公共事業についても “新しく造ること”から、PFI(民間資金等を活用した社会資本整備)やPPP(公民連携)なども積極的に活用しながら現有資産を“賢く使うこと”へ転換し、総合的・広域的なアセットマネジメントを推進していくことが必要です。

 そのためには複式簿記の導入や固定資産台帳の整備を通じて得た“正確”な財務情報を、市区町村が各種施策の効率化・適正化へ活用することに加え、分かりやすく、広く公開していくことも重要です。これにより行財政の信頼性・透明性が高まるとともに、財政情報の可視化が新たなPFI/PPP提案につながることも期待されるでしょう。

 統一的な基準への対応は持続可能な財政運営を行い、強い行政経営を実現していくための基礎となるものです。この点を十分理解し、より一層の公会計改革の推進をお願いします。

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