2014年10月号Vol.96

【特集1】新たなステージ迎える電子行政

──住民サービス・業務プロセスがこう変わる

株式会社TKC 行政システム研究センター 番号制度対応推進室長 松下邦彦

「番号制度」と「新地方公会計制度」は、次代の電子行政をひらくトリガーとなる──だが、そのために何をどうすべきなのか、いま多くの自治体を悩ませているテーマだ。他団体の動きも気になるところだろう。ほかの自治体ではどんなことを考え、どんなアクションを起こそうとしているのか。また、そのために情報システムをどう活用しようとしているのか、を探る。

 地方分権の進展と住民ニーズの多様化により自治体が担う事務は質・量ともに著しく増大している。一方で、地方公務員の数はピーク時の328万人から275万人にまで減少した。より高度でより多くの事務を、より少ない職員で実施すること。また、この二律背反の中で住民満足度を高めること。これが現在の自治体が直面している大きな課題である。

 これに対して、ICTはどのように寄与できるだろうか。その切り口が番号制度と公会計である。

情報連携が行政事務を変える

 平成27年10月から番号法が施行される。番号法の第一章第三条には、制度の理念として「国民の利便性の向上及び行政運営の効率化に資すること」と「国民の負担の軽減を図ること」が掲げられている。

 番号法で自治体に義務づけられた事項は多い。個人番号の付設、個人番号カードの交付、個人番号の確認、他の機関への情報提供、特定個人情報保護評価。こうした事務の大半は番号制度の導入に伴って新規に発生する。すなわち、番号制度を“導入させられる”だけでは自治体の事務は減るどころか増加する。

 そのため、義務的に取り組むだけでなく、行政事務において制度を徹底的に活用することが求められる。だが、番号法は活用の具体策までは提示していない。制度を活用するには仕事のやり方そのものを見直し、そしてそれを変革することが不可欠だ。これは現場の事務を熟知する自治体と、ICTを提供するベンダーの双方が知恵を出し合って初めて可能となる。

 この点、番号制度の情報連携は自治体の業務改革で大きな役割を果たす。

 同じ自治体の内部であれば、例えば税システムの所得情報を国民健康保険事務で参照することができる。ところが、現在は転入直後の住民は以前の居住地で所得証明書の交付を受け、それを申請書に添付する必要がある。前居住地の税システムの所得情報は所得証明書に変換され、自庁の国保税システムで改めてデータとして入力される。自治体間では紙によってシステムが連携されているのだ。

 それが情報連携によって、自治体間でデータによるシステム連携が可能となる。住民は書類の添付が不要となり、自治体の職員は書面による他団体への照会が不要となるわけだ。

番号カードが住民サービスのカギとなる

 情報連携による業務改革はさらに拡がりをもつ。

 自治体が住民に提供するサービスは多岐にわたり、また数も多い。転入、出産、入学、離婚などのライフイベントに応じて住民に適用できる制度を提示することは、ベテラン職員でも難しい。自治体内部や他の行政機関が保持する情報を総合すれば、住民やその家族に適用できる制度を網羅的に抽出でき、総合窓口の運用もスムーズになる。受け付けた住民に必要となる手続きを自動的に提示して案内票を作成したり、手続きを一括して実施することも可能だろう。また、新制度の導入時に該当する住民を抽出して通知し、通知を受領した住民をオンライン手続きへ誘導することもできる。

 号制度のマイ・ポータルは、情報連携の仕組みを通じて自治体が保有する住民の情報を本人が閲覧可能とする。その外側に、自治体固有のサービスを構築すれば、住民のライフイベントに応じた手続きの提示や、オンラインによる手続きのワンストップサービスが可能となる。

 らに、住民サービスでは個人番号カードが重要である。個人番号カードは対面における身分証明書となる。加えて、カードに搭載された利用者証明書は、マイ・ポータルをはじめとする情報システムにアクセスするためにも利用される。

 個人番号カードの利用者証明書を使うために条例の制定は要らない。また、利用者証明書は、コンビニ交付といった行政サービスはもとより、民間企業のサービスでも利用できる。行政・民間を問わず、個人番号カードで利用できる地域密着型のサービスを充実させることは、住民の利便性の向上とともに地域コミュニティーの再生にもつながりうる。

公会計が自治体の存続を支える

 番号制度は自治体事務の改革に関わる。

 一方で、自治体の課題にはガバナンスレベルでの解決が必要なものもある。自治体の政策は住民の代表者が構成する議会で決定され、議決された政策は事務事業として実施される。前者がガバナンスレベルである。

 総務省は今年5月、全ての自治体に対して新しい統一基準による公会計の導入を求めることを大臣名で通知した。公会計の導入によって減価償却を含めたコストやストックが把握できるとされている。これによって何が可能となるのか。

 日本創生会議は、「人口減少のため2040年までに523市町村が自治体として維持できなくなる」という推計を発表した。また、高度成長期に建造した公共施設の老朽化が顕著となっており、平成初期に大量に建造された施設も同様の運命を迎える。新たな公会計基準では、固定資産台帳の整備が義務づけられている。自治体が保有する公共施設の会計的な実態を明らかにし、人口の減少と公共施設の老朽化というトレンドに即した公共施設の適正化を求めているのである。

 換言すれば、今回の公会計導入の目的は“自治体の存続のマネジメント”である。人口の減少に応じて歳出を抑制すると同時に、地域の特性を生かして人口減少に歯止めをかけ、地域コミュニティーと自治体を存続させる。これにはガバナンスレベルの意思決定が欠かせない。公会計はガバナンスレベルの意思決定を支援する情報提供ツールなのである。


 番号制度と公会計。この二つは異なったレベルで、自治体が直面する課題の解決に寄与する。ICTを通じてこの二つの真価を発揮させるのは改革を遂行する自治体の情熱と創意である。

 本特集では、番号制度による行政事務の高度化、個人番号カードによる住民サービスの充実、そして公会計によるガバナンス強化といった改革へ取り組む先進事例を紹介する。これらは決して特殊な事例ではない。これからすべての自治体が通るべき道が示されている。

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