2015年1月号Vol.97

【レポート】おおつちクラウドセミナー
ICTを活用し、未来創造へ 動き始めた大槌

復興が進む岩手県大槌町で開催された「おおつちクラウドセミナー 被災地の現状と業務継続のためのクラウド活用」について、レポートする。

講演の様子

 11月12日、岩手県大槌町で「おおつちクラウドセミナー」が開催された。これは自治体クラウドの有効性について理解を深めることを目的に開かれたもの。悪天候の中、会場となったホテルには岩手県のほか7県にまたがる26市町村の職員など総勢54名が集まった。

 会場へ向かう途中、真新しい災害公営住宅が建ち並び、多くの工事車両が行き交う様子を目にした。3年前に訪れた際には仮設住宅が延々と続き、町の至る所に東日本大震災の爪痕が残り、うず高く積まれた瓦礫の山に言葉を失ったが、復興整備が急ピッチで進んでいることが分かる。

国や市町村の取り組みに見る自治体クラウドの現状

 さて、セミナーでは①「自治体クラウド導入の取り組みについて」(東京大学特任研究員・井堀幹夫氏)、②「埼玉県町村会における自治体クラウド導入の取り組みについて」(埼玉県町村会情報システム共同化推進室参事兼室長・市瀬英夫氏)、③「被災地のいま 逆境から発想するまち」(大槌町町長・碇川豊氏)の各講演が行われた。

講演の様子

 井堀氏は、『世界最先端IT国家創造宣言』を踏まえて、自治体クラウドの狙いを改めて説明。また、本号特集でも述べているように今後のキーワードは「連携」であり、「行政と民間とが一体化した公共サービス」の重要性を訴えた。そのためには、フロントオフィス/バックオフィス業務を問わず「イノベーションが必要である」とも語っていた。

 市瀬氏は、国内最大規模となる18団体による共同化事例を紹介した。運営形態としては、町村長で構成される理事会の下に課長とシステム担当者による会議体を設置。それとは別に業務別ワーキンググループも立ち上げ、共同化した住基を中心とする29業務のシステムの仕様検討を行ったという。

 共同利用の場合、お互いの業務の標準化が必要といわれるが、市瀬氏は「業務統合をしなくても自治体クラウドは実現できる」と語る。実際、18団体はシステムに業務を合わせることで標準化を実現。また、町村ごとの帳票等の違いは「TASKクラウドサービス」の設定で吸収し、カスタマイズも行わなかったという。

 平成27年3月には全団体のシステム移行が完了する。だが、これはゴールではなく、実際の運用こそが大切だ。業務継続性の確保も欠かせない。そこで26年5月に全団体参加で緊急時を想定した訓練も実施したという。訓練は、今後も毎年継続する予定だそうだ。

 碇川町長は、自治体トップの立場からクラウドの意義を語った。

 平成23年3月11日、東日本大震災により発生した津波とその後の火災で大槌町庁舎は壊滅的な被害を受け、住民情報も喪失。その後の災害応急業務に大きく影響した経験から、自治体クラウドの導入を決断した。野田村と普代村と共同で自治体クラウドを導入し、大槌町では25年4月より運用を開始している。また、そうした「業務継続性の確保」だけでなく、「長期的なまちづくり」の観点からもクラウド化は重要だという。

あの日を忘れない… 未来へ引き継ぐ大槌の心意気

省舎内の泥の中から発見された大槌待ちのサーバー

震災後、庁舎内の泥の中から発見された大槌町のサーバー(東芝情報機器本社)。住民情報の復旧へ一縷の望みをかけて、ハードディスクが乾かないようエクナからTKC、東芝へと慎重に運ばれた。そこには“奇跡へのリレー” があった。

 復興に向けては課題も多い。その一つが地価の高騰だ。いまや大槌町は日本一の地価上昇率(30・5%)となり、これが被災者の生活再建を阻む一因となっている。

 人口流出も続き、震災前に比べて人口は22%減った。高齢化率も33%に達している。「いま大槌町で起きていることは、将来多くのまちが経験すること。だからこそ単なる復興ではなく新しいまちづくりを目指す」と碇川町長は言い切る。

 「復興には何よりも住民との情報共有が不可欠」と、大槌町では個人情報以外はすべて公開するという意気込みでやってきた。その結果、住民の意識が変わり、まちづくりへ積極的に参画するスタイルも定着。さまざまな課題解決へこれは大きな基盤となる。

 すでに大槌町では、地域と連携した新たなまちづくりが始まっている。その一つが関西大学と連携して立ち上げた一般社団法人「KAI─ OTSUCHI」による、スマートフォン向けアプリケーションの開発だ。また、東京大学とは「東京大学大槌イノベーション協創事業」を立ち上げ、「産業の復興・発展」や「生活の復興・発展」の観点からICTの活用研究を行っている。

 碇川町長は、「厳しい財政状況に加え、マンパワーも限られる中で、これからのまちづくりには近隣自治体や住民、企業などとの連携が欠かせない。その基盤となるのがクラウドだ。今後は、超高齢社会に対応した新しい住民サービスの基盤としての役割も期待している」と述べる。震災を忘れず、魅力溢れる大槌の町を未来へ引き継いでいく。自治体クラウドはそのための第一歩なのである。

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