2015年1月号Vol.97

【特集】実行段階を迎えた「新たな電子自治体」

──住民サービス、業務プロセスがこう変わる

東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員 地方公共団体情報システム機構理事(非常勤) 井堀幹夫氏
茨城県筑西市企画部次長兼情報政策課長 古俣徹雄氏
埼玉県鶴ヶ島市総合政策部市政情報課長 小峰宏仁氏
(司会)株式会社TKC取締役常務執行役員 地方公共団体事業部長 湯澤正夫

平成27年10月から、いよいよ番号制度がスタートする。全国の市町村は制度対応とともにその徹底活用が求められる。そのためには、仕事のやり方を見直すなど自らも変革していかなければならない。新たな電子自治体とは、どうあるべきなのか──長年、最前線で行政の情報化に関わってきた皆さんに語っていただく。

井堀幹夫

井堀幹夫(いほり・みきお)
昭和47(1972)年、千葉県市川市入庁。市全体の基本構想や統合計画策定担当、情報システム担当として各種業務システム、電子行政サービスなどの構築に従事。情報政策監(CIO)を最後に退職。「電子自治体の取組みを加速するための検討会」など国の電子行政に関する委員などを歴任。平成23(2011)年より東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員。平成26(2014)年、地方公共団体 情報システム機構理事(非常勤)就任。

──市町村では、「マイナンバー」「自治体クラウド」という言葉が登場する前から電子自治体へ取り組んできました。2市の現状を教えてください。

古俣 筑西市ではICTの変化に合わせて庁内の情報化・利活用を進めてきました。特に、基幹システムについては合併前から使用してきた汎用機を 平成24年4月よりTKCシステムを利用しています。一方、市民向けとしては茨城県と県内市町村が共同で電子申請や施設予約のシステム、統合型GISなどの整備を推進してきました。市独自では光ファイバーやケーブルテレビ等の情報通信基盤整備や公衆無線LANの整備を進め、「情報メール一斉配信サービス」やSNSによる情報発信にも取り組んでいます。

  番号制度への対応では、平成26年4月に情報政策課へ業務が移管されました。そこで庁内の専門委員会を立ち上げ分科会・作業部会を発足して、職員研修や特定個人情報保護評価などの作業を進めています。並行して個人番号カードの独自利用の検討も進めており、第一弾として平成28年10月をめどにコンビニ交付サービスを開始することになっています。

小峰 鶴ヶ島市でも同様に基盤整備から始め、さまざまな業務分野のシステム化を進めてきました。また、昨今では電子自治体の本来の目的である“市民満足度”に成果指標をおいた取り組みを進めているところです。その一環として平成21年に立ち上げたのが、地域協働ポータルサイト「つるがしまタウンチップ」です。これは市民が無料で利用できるもので、イベント等の情報発信や電子会議の開催などに活用されています。さらに、平成26年度から統計情報の積極的な活用としてオープンデータ化の検討も開始しました。

  番号制度については、今年度から総合政策部市政情報課に番号制度担当の専任職員を配置し、各部門との調整に当たっています。職員研修ではeラーニングも採り入れながら庁内の意識向上に注力してきました。また、制度導入後を見据え、個人番号カードの独自利用や情報連携についても検討を開始しています。さらに、鶴ヶ島市は昭和40年代後半からベッドタウン化が急速に進み、現状でも転入転出手続きが多いという特徴があります。そこで以前から検討してきた総合窓口についても平成28年1月をめどに導入する予定で準備しています。

──いずれも順調に推進されていますね。これまで多くの電子自治体構築に関わってこられた専門家としては、現状をどうご覧になっていますか。

井堀 振り返ると、行政の情報化は時代とともに四つの変化を遂げてきたといえます。まず、コンピュータを自己導入して電算処理を始めた「創世期」。それが「成長期」になるとオンライン化が始まり、データベースが登場。この頃には、かな漢字処理も可能となり、職員の身近なところで業務の電算化が進みました。そして、インターネットの登場によって「発展期」を迎え、それまで行政内部に限定されていたITが地域住民とのコミュニケーションにも利用されるようになりました。SNSや地域協働ポータルサイトなどはまさにその代表例といえますね。そして、番号制度の開始により自治体の情報化も「成熟期」へと移り変わります。これが仕上げとなるこれからの変化です。

  ITはこれまで業務や組織など一定範囲の中で活用されてきましたが、今後は“連携”をキーワードとして新たな価値を創造するために利用されるようになります。これを総務省では「新たな電子自治体」と表現しています。

 これを推進するため、平成26年3月には『電子自治体の取組みを加速するための10の指針』が示されました。「自治体クラウド」と「番号制度」はその基盤に位置付けられています。また、その根拠となるのが「世界最先端IT国家創造宣言」で、電子自治体は一部の先進的な団体だけが取り組むものではなく、国家プロジェクトとして推進される時代となりました。

自治体クラウドの意義とは何か

湯澤正夫

(司会)株式会社TKC
地方公共団体事業部長 湯澤正夫

──なぜ、いま自治体クラウドが必要なのでしょうか。

井堀 そのベースには創造宣言が掲げる三つの柱、①革新的な新産業・新サービスの創出及び全産業の成長を促進する社会、②健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会、③公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会──の実現があります。中でも、「公共サービス」は行政と民間とが一体化したサービスを表します。いずれにおいても、市町村は大きな役割を担っていくことが期待されています。

  その上で、市町村が自治体クラウドへ取り組む意義は四つあると考えます。第一が「業務処理の適正化」の実現で、単に正確に処理を行うだけではなく、ここには経済性や公平性などいろいろな意味が含まれます。第二が「住民サービスの満足度」の向上です。これも利便性だけではなく、安全性や迅速性、透明性などさまざまな観点から住民に応えるということです。第三が「費用対効果」の追求で、行政だけではなく地域や住民までも含めて考える必要があります。第四が「地域の活性化」の支援で、地域のさまざまな資源を生かす環境づくりへ市町村も積極的に関わるということです。これらは創造宣言でも随所に盛り込まれました。

──なるほど。2市では、自治体クラウドへどう取り組んでおられますか。

古俣 現行システムへ移行する際にもクラウド化を検討したのですが、総合的に判断し見送りました。しかし、次の更新ではクラウドを前提に考えています。やはり、システムの最適化と運用管理にかかるコスト削減にはクラウド化が最も有力な方策です。そのため平成27年度予算に次期システムの検討費用を計上しました。一方で、基幹システムをクラウド化しても、戸籍をはじめさまざまな業務システムのサーバーは依然として庁内に残ります。四つの意義を考える上でも、自治体クラウドの効果を最大限発揮させるための前提として業務の見直しやシステムの集約化などが課題といえますね。

小峰 鶴ヶ島市では、平成21年からハウジングサービスにより基幹系システムのサーバーの運用管理を外部委託してきました。そして、平成27年1月からTKCのクラウドサービスの利用を開始します。その狙いは重要データの保全と運用管理にかかるコストの削減です。また、古俣さんのおっしゃるとおり、これまで国・地方ともに “業務の縦割り”によって個別に情報化を進めてきた結果、サーバー等の増加や連携不足によるムダ、利便性の低下などが発生しています。すでに国ではIT総合戦略本部や政府CIOを中心に課題解決へ取り組み始めました。市町村でもそうした動向に注視しながら全庁的な視点で業務改革を進め、その中で住民サービスの向上やコスト削減などを考えていく必要がありますね。

井堀 クラウド導入で意識すべきは、「何のためにやるのか」ということです。コスト削減は重要な要素ですが、“安いこと”を目的化してはいけない。コンビニ交付に限らず、今後は民間と連携した公共サービスはどんどん広がっていきます。これに単独で取り組むには費用も知恵も限られます。だからこそ、自治体クラウドが必要なのです。

  残念ながら「新たな電子自治体を実現してくれるシステム」が、いまどこかに存在するわけではない。これからみんなで創り上げていくものです。自治体固有の処理でも最適なものであればみんなで共有する。その選択は利用者の総意で行えばいい。最近、カスタマイズを否定する風潮が見られます。無意味な改修は抑制されなければなりませんが、システムを“進化”させるためのカスタマイズまで止めてはいけないと考えています。そのためシステムの導入にあたっては、将来進化できるかどうかを判断することも大切です。

懸念される業務改革の遅れ

古俣徹雄

古俣徹雄(こまた・てつお)
昭和53(1978)年、茨城県下館市役所(現、筑西市)入庁。総務部電算課開発係長、総務部情報システム課副主査、情報政策課長として総合行政ネットワークの構築、基幹系システムのオープン化、情報化基本計画の策定などに従事。平成23(2011)年から現職。

──番号制度への対応で、課題点だと感じていることは何でしょうか。

小峰 予算や事業は、議会の議決を経て初めて実行することができます。しかし、時代の変化のスピードに行政の従来ルールが追いついていけない。これは悩ましい問題です。また、鶴ヶ島市では、平成28年1月にかけて個人番号カードの利用と総合窓口の二つの事業が並行して走ることになります。ここで重要なのは「どんな仕掛けを作るか」ではなく、その結果、「市民がどんなサービスを受けられるのか」だと考えます。そのためには制度への対応準備は当然のこととして、業務の見直しなど多くの課題解決にも取り組んでいかなければなりません。

井堀 いま懸念しているのは、多くの市町村で時代の変化に対応した業務改革がほとんど進んでいないことです。番号制度が始まり住民は添付書類が不要になっても、このままでは市町村の処理はまったく変わらない。窓口で紙の代わりに画面で確認するか、従来であれば添付されていた証明書を庁内で印刷して利用するようでは却って業務処理の負担は増大し、行政コストは増大する。もはや「紙」を「画面」に置き換えるのではなく、業務処理の方法を変えなければならないのです。

  番号法の別表2で示された事務手続きは115で、うち自治体が関係するのは99です。しかし、自治体ではほかにも膨大な事務をこなしています。ある市では約1200の事務がありました。これら番号法に規定されていない事務も含めて急ぎ業務改革を進めなければ、番号制度導入で職員の負担は増すばかりとなってしまいます。

古俣 おっしゃるとおりですね。また、個人番号カードの利用という点では、健康保険証や運転免許証との一体化には注目が集まりますが、市町村の独自利用については議論が盛り上がっていないように感じます。これも急ぎ検討すべきテーマだと思います。

井堀 個人番号カードに組み込まれる公的個人認証は、本人確認機能や民間事業者の利用が可能になるなど、これまでの住基カードからかなり進化しており公共分野での利活用が期待できます。先述した四つの意義に沿っていかに利活用していくのか、早く具体策を詰めていかないと番号制度が立ち往生してしまうでしょう。

番号制度が行政の役割を変える

──制度後の住民サービスを見据えて、筑西市ではコンビニ交付を開始します。

古俣 収納の多様化や窓口業務の効率化の点で、以前からコンビニ交付に注目していました。きっかけは、コンビニ店舗が多い地域特性を生かして自動交付機の代わりに導入してはどうかと提案を受けたことです。そして、番号制度を機に、市民サービス拡大の一手として導入が決まりました。

小峰 いま、鶴ヶ島市民の約2万7000人が都内などの市外へ通勤・通学しています。そうした地域特性を考えると、勤務先など市外でも利用できるコンビニ交付はわれわれにとっても検討課題の一つです。市町村は住民にとって最も身近なところにいます。そのためわれわれが提供するサービスには、市民の生活感覚をきちんと採り入れていくことが重要で、市民のアイデアも十分に採り入れながらじっくり考えていきたいと思います。

──コンビニ店舗を最初に活用したのは市川市で、平成9年4月に市内19店舗で住民票の取り次ぎサービスを始めました。井堀さんはまさにコンビニ交付の〝生みの親〟といえます。

井堀 コンビニ交付の狙いの一つは、窓口業務の効率化です。平成27年には住所地ではない本籍地にある戸籍謄抄本も受け取れるようにする検討が進んでおり、対象となる証明書の種類はどんどん広まっています。これに伴い、窓口サービスのあり方も確実に変わるでしょう。

小峰宏仁

小峰宏仁(こみね・ひろさと)
昭和52(1977)年、埼玉県鶴ヶ島町役場(現、鶴ヶ島市)入庁。生活環境、建築、土地区画整理などを経て、平成9(1997)年から8 年間、庁内ネットワークや基幹系システム構築などに従事。自治振興担当、保健センター所長を経て、平成23(2011)年から現職。

  私は証明書を交付する仕組みとしてコンビニがあるのではなく、行政のあり方や住民サービスの一部が“コンビニ化”することが大切だと考えています。コンビニでは徹底したマーケティングが行われています。同じおでんでも関西と関東ではまったく味付けが違うし、地域や店舗によって商品の品揃えや陳列の仕方を工夫するなど、あらゆる点で顧客のニーズを探り、サービスを創り上げています。まさに市町村が学ぶべき点はそこにあるといえます。

小峰 なるほど! オープンデータにしても、これまでは公表することに意識が向いていました。しかし、これからは住民や事業者のニーズを把握して、そのデータがどう活用されるのかを分析し、さらに新たなサービスを創出していく。行政サービスにもそうした視点が必要ですね。

──新たなサービスという点では、東京大学は在宅医療・介護の地域連携プロジェクトに取り組んでいます。

井堀 超高齢社会となったいま、医療や介護サービスを必要とする高齢者は増加の一途を辿っています。施設型サービスでは限界があり、高齢者が安心して在宅療養できる生活環境を整備していかなければいけません。そうした高齢者やその家族をサポートするのは、医師や訪問看護師、ホームヘルパーなど多様な専門職の人々です。しかし、これまでは関係者の連携においては十分ではありませんでした。

  そこで、市町村も参加して、地域の関係者が連携できるように情報連携基盤の普及に取り組んでいます。個人情報保護の問題もあって市町村ではどうしても及び腰になりがちですが、高齢化がさらに進む中でこうした官民連携による公共サービスの整備は欠かせないものとなるでしょう。

古俣 まさに新たな社会システムの姿ですね。いま、地方都市の多くで高齢者対策と若年層の定住促進が課題となっています。これまで高齢者は“情報弱者”として情報化とは遠い存在のように捉えられてきましたが、医療や福祉の分野で情報連携を進めることは確実に利便性向上につながります。番号制度はチャンスです。今後はそうしたことも視野に入れながら、地域情報化を考えていかなければいけませんね。

  これまで保健・福祉の分野はシステム対応が後回しにされる傾向がありましたが、ベンダーとしてもぜひ早急に関連システムの強化拡充へ取り組んでいただきたいと思います。

──なるほど。ベンダーとしても、改めて公共サービスへの関わり方を考える必要がありますね。

小峰 行政の存在意義が問われているいま、番号制度を単に制度対応だけで終わらせてはいけません。鶴ヶ島市にとって、番号制度と総合窓口の導入は未来への大きなチャレンジです。職員としては変化への期待とともに不安もあります。ベンダーにはそれを支援するシステムの提供を期待しています。

井堀 これからあるべきベンダーの姿は、地域経営を市町村と一緒になって考えるパートナーだと捉えています。新たな電子自治体の構築には、情報システム部門に限らずあらゆる部署が深く関わります。システムを提案する前に、ぜひ住民と直接関わる事業部内の職員や、行財政改革を推進する職員たちといろいろなことを議論してほしい。その中から、新しい住民サービスやシステムのあり方が生まれてくるのではないでしょうか。

集合写真

  番号制度のスタートで、新たな電子自治体もいよいよ実行段階を迎えます。従来の意識や業務処理をどこまで変えるべきなのか、まさにいまが転換期です。問題意識を持つ職員は確実に増えています。壁もあるでしょうが、誰かがリーダーシップを発揮して乗り越えていくしかない。そのために同じシステムを利用する市町村同士が情報交換できる場の提供など、ベンダーが支援できることはあるはずです。そうした点でも官民の連携を期待しています。

──今後、本格的に動き始める「地方創生」でもICTの利活用が核となっており、市町村に対して多くの分野で実行力が期待されています。
 当社は常に最新のICTによって皆さんをご支援してきました。これからも「新世代TASKクラウド」の開発・提供を通じて、番号制度への円滑な対応はもちろん、公共サービスの創造にも積極的に取り組み、新たな電子自治体の実現をサポートしてまいります。本日はありがとうございました。

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