2015年4月号Vol.98

【インタビュー】公会計を「活用」するためにいま、なすべきこと

──3年間を財務書類作成だけに終わらせない

総務省「今後の新地方公会計の推進に関する実務研究会」委員 有限責任監査法人トーマツ パートナー 行政経営推進室サブリーダー 小室将雄氏
インタビュー 本誌編集委員 松下邦彦

新地方公会計整備への取り組みがいよいよ始まる。期限は29年度までの3年間。その間に財務書類等の作成に加え、会計情報の積極的な活用に向けた準備が必要となる。そのためにいま何をすべきか――実務に精通する2人の識者に聞く。

小室将雄

小室将雄(こむろ・まさお)
公認会計士/地方監査会計技能士(CIPFA Japan)/英国勅許公共財務会計士地方公共団体の包括外部監査の補助者のほか、地方公営企業の新会計基準移行支援など各種コンサルティングに従事。「今後の新地方公会計の推進に関する研究会・実務研究会」「地方財政の健全化及び地方債制度の見直しに関する研究会」などの委員を歴任。主な著著に、『新地方公営企業会計の実務』『新地方公会計制度の徹底解説』など。

──今年1月、総務省から『統一的な基準による地方公会計マニュアル』が公表されました。これを作成した経緯について教えてください。

小室 昨年4月に、『今後の新地方公会計の推進に関する研究会報告書』が公表され、統一的な基準による財務書類等の作成の方向性が示されました。しかし、これだけでは実務をどう進めればいいのか分かりません。そこで、実務に詳しい公認会計士・税理士と3団体による「今後の新地方公会計の推進に関する実務研究会」が組織され、より詳細な取り扱いを定めた要領として「これだけ読めば分かる!」というものをまとめました。

現行の公会計モデルが導入されてから8年超。地方の現場ではすでに基準モデル・総務省方式改訂モデルでの実務が浸透していることから、これまでとの違いも含めて「統一的な基準」を説明するマニュアルとなっています。

全団体が揃って
いかに早くスタートできるか

──新たな会計基準の検討は、どのように進められたのでしょうか。

小室 現行の三つのモデル(基準モデル、改訂モデル、東京都方式)はそれぞれに良さがありますが、例えば「税収は収益か出資か」など基本となる考え方が一部異なっています。そこで従来モデルも考え合わせながら、すべての団体に適用できる標準的な基準を模索しました。

検討段階で論点となったのが、固定資産台帳を整備する際の「資産の評価」です。いま基準モデル・改訂モデルでは「公正価値評価」が、また東京都方式では「取得原価主義」が採用されています。前者は現在価値の方が資産の現状を的確に示すことができるとの考え方によるものですが、検討の結果、新たな基準では民間企業や他の公的機関の会計基準と同様に取得原価主義をベースとしました。ただ、すでに地方債の償還が終わっているような古い資産には取得原価が不明なものも数多くあります。それらを調べようとしても時間やコストがかかり、いつまでも新基準のスタートが切れません。そこで、不明なものについては「再調達原価」の利用も認めるなど、実務に配慮した基準となっています。

──期間が限られる中では、ある程度の割り切りも必要ですね。

小室 厳しい財政状況の中、資産更新問題は急務です。そのためにも全団体が揃ってクイックスタートする――つまり固定資産台帳を早急に整備し、できるだけ早く統一基準による公会計をスタートすることが重要です。確かに時間をかけて調査をすればより精度の高いものができあがるでしょう。しかし、自治体が保有する資産の大半は“売れない・売らない”ものです。これから新たに購入・整備するものについてはしっかり記録する必要はありますが、過去の資産価値に多少誤差があっても全体として考えれば大きな影響はないと考えます。まずはスタートし、新たな会計基準に慣れる中で、その有用性を実感していただければいいのではないでしょうか。

──なるほど。もう一つ実務上のポイントといえるのが、複式簿記の導入を前提としたことですね。

小室 そうですね。「日々仕訳」か「期末一括仕訳」のいずれかで複式簿記に対応することになります。しかし、個々にシステムを整備・改修するとかなりの費用負担になることが懸念されました。そのため地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が標準的なソフトウエアを開発し、平成27年度に無償で提供する予定です。これもクイックスタートを重視する姿勢が示されたものといえます。

各自治体においては、本ソフトウエアの活用も視野に入れた全体スケジュールの策定や庁内体制の構築など、移行に向けたグランドデザインを描くことが重要です。なお、いずれ財務会計システムを入れ替えるタイミングで日々仕訳の導入を検討することも有効ですね。

会計情報をどう活用するか
予算編成からの意識が大切

松下邦彦

本誌編集委員 松下邦彦

──固定資産台帳が未整備の場合、27年度中の整備が望まれるとされました。

小室 ただ、あまり拙速にことを運ぶと手戻りになる可能性があります。そのため、自分たちにとってどのように台帳を整備するのが適切なのかを考える必要があるでしょう。そこでのポイントは三つ挙げられます。

第一に、資産の種別・区分をどうするかということです。例えば、民間企業では建物、附属設備や備品、機械設備などを別資産として登録・管理しています。地方公共団体でも執行データを資産価額としてそのまま取り込むのではなく、資産の種別・区分ごとに登録・管理することが大切です。そうしないと後でデータを活用しようとしても使いものになりません。とはいえ、細かく区分し過ぎるとメンテナンスが困難になるので注意が必要です。

第二に、資産管理の仕組みの中で固定資産台帳をどう位置付けるのかということです。固定資産台帳の主な目的は減価償却費を算定するためであり、“モノ”を管理する資産管理システムとは役割が異なります。例えば、屋上防水には定期的な工事が必要ですが、公会計の固定資産台帳から担当者が営繕を考えるのは現実的ではありません。そのような管理を公会計の取り組みの中で行うのか、営繕計画あるいは公共施設管理計画で実施するのか。広い意味でのファシリティマネジメント体制を構築して、それをどのようなシステムで、どのような組織でやっていくのかを考えておく必要があるでしょう。

第三に、担当者が異動になっても台帳管理と資産管理を維持できるようにすることです。そのためには、資産台帳への登録から除却までを網羅する「業務マニュアル」の整備が必要です。

──今回、『統一的な基準による地方公会計マニュアル』では活用に重点が置かれました。

小室 どうしても財務書類の作成ばかりに目が向きがちですが、財務データを単に複式仕訳に変換するだけでは、制度改革の意味はありません。最終目標は、公会計を行政経営に生かすことです。

そこでまず重要なのは、予算(科目)を組む段階から「どう活用するか」を考えることです。例えば、予算を粗く組めば財務書類でも粗い情報しか把握できず、そのままではセグメント別や事業別、施設別の分析には利用できません。これは日々仕訳・期末一括仕訳のいずれであっても同じです。そこで予算を組む段階から事業別などの単位としておくことが肝要です。この点は個々の創意工夫が求められるところで、マニュアルでは触れていませんがぜひ意識していただきたいと思います。

その上で、どのような活用が考えられるのかは個々の団体や地域が抱えている課題によります。

いろいろな課題の中でも全国に共通するテーマが資産更新問題です。人口減少等により公共施設などの利用需要は今後変化することが予想されます。そのため施設の全体状況を把握し、中長期の視点から施設の更新・改修・統廃合を計画的に行うことで、財政負担を軽減するとともに住民サービスの最適化を図ることが求められています。

現在の財政状況と将来の見通しを踏まえて優先的に解決すべき課題は何か。それを考える上で参考となるのが、税金投入額や将来の維持費などの「財務情報」と、施設の利用人数や地域の将来人口の見通しなどの「非財務情報」です。これらを活用し住民への説明責任を果たすとともに、地域にとって何が一番適切なのかを考え施策に生かすことが大切です。

──会計から導き出される客観的な財務情報が重要ということですね。

小室 会計では、経営状態を客観的に把握できますからね。ただ、自治体は民間企業とは異なり売上や利益を考えるわけではありません。財政状況をよくするには何も事業をしないのが最善策ですが、それでは適切とはいえません。大切なのはバランスです。例えば、施設では何らかの住民サービスが提供されており、施設の更新・改修・統廃合をする上では「将来的にどのようなまちづくりをするのか」というマクロな視点と、「その地域で求められるサービスは何か」「どのような施設でサービスを提供すればいいのか」といったミクロの視点の両面から考えていくことが必要でしょう。

地方創生を進めるにあたっても同様です。新たにつくることばかり意識されますが、いまある地域の資源を発掘し強みとして伸ばす、あるいは資源を融合させて新しい価値を生み出すことも大切です。その点、施設は地域の重要な資源です。せっかくの資源は有効活用すべきでしょう。例えば、施設の統廃合で小学校の建物を取り壊すのではなく、世代間交流の場やまちづくりの拠点として生まれ変わらせるという選択肢もあり得ます。これらを考える上でも、財務情報と非財務情報の活用を意識していただきたいですね。

図 総務省報告書を踏まえた統一基準への移行スケジュールイメージ
資料提供:有限責任監査法人トーマツ

人材育成と住民への理解促進で
公会計を地域に根付かせる

──公会計改革の意義やその活用が定着するには、時間がかかりそうですね。

小室 地道な努力が必要でしょうね。複式簿記を導入すれば、すべての課題が解決されるかのような風潮もありますが、残念ながら公会計は〝打ち出の小槌〟ではありません。財務書類を読み解き、そこから課題を抽出し、それを今後の施策にどう生かしていくかを考えるのは職員の皆さんです。

熊本県宇城市や千葉県習志野市など先進団体といわれるところでは、必ず牽引役となる職員がいて公会計改革を推進してきたという共通点が見られます。しかし、一人でできることには限界があり、多くの場合、職員が異動したら後が続きません。そのため財務書類の整備と並行して、公会計の意義を理解し活用ができる「会計リテラシー」の高い人材を幅広く育成していくことも大切です。総務省が4月以降に自治大学校等での研修を予定しているほか、民間の研修会もあります。ぜひそのような場を活用していただきたいですね。また、公会計の推進体制についても、現状のままでいいのか、組織横断的でやるのか、専門組織を作るのかなどを考えておくべきでしょう。

さらに、庁内だけではなく住民や地域への理解促進も大切です。

例えば、愛媛県砥部町では将来地域の担い手となる大学生向けに講演を開くほか、住民向けに町のバランスシートの状態を説明し、さまざまな機会を通じて公会計の“活用”を身近に感じてもらえるようにされています。これらは仲間の輪を広げ、公会計改革の意義を地域全体に根付かせるという点で素晴らしい取り組みです。こうした活動の成果として、住民や地域から新たなまちづくりのアイデアや提案につながっていくのではないでしょうか。

その第一歩として、この3年間を財務書類の作成だけで終わらせることなく、公会計を行政・地域経営に活用するための助走期間として取り組んでいただきたいと思います。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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