2015年4月号Vol.98

【寄稿】財政担当者が見た、地方公会計整備の留意点

熊本県宇城市総務部財政課 課長 天川竜治

天川竜治

天川竜治(あまかわ・りゅうじ)
平成4(1992)年、熊本県三角町(現宇城市)入庁。行財政改革担当などを経て、平成20(2008)年に 早稲田大学パブリックサービス研究所招聘研究員、監査法人トーマツ大阪事務所パブリックセクタ―へ出向。翌年宇城市企画係長に。平成27(2015)年度から現職

 今年1月、総務大臣通知「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」が公表され、原則として平成27年度から29年度までの3年間で、全ての地方公共団体において統一的な基準による財務書類等を作成することが求められました。

 同時に「統一的な基準による地方公会計マニュアル」も通知され、統一的な基準による財務書類の作成手順や資産の評価方法、固定資産台帳の整備手順、連結財務書類の作成手順、事業別・施設別のセグメント分析などの財務書類の活用方法等が示されています。

 これらで注目されるのは、①標準的なソフトウエアの提供、②財務書類等のわかりやすい情報開示だけでなく事業別・施設別のセグメント分析等による予算編成等への活用――の2点です。

どちらが楽か?
期末一括仕訳と日々仕訳

 1点目の標準的なソフトウエアについては、平成27年度に無償で提供される予定です。「地方公会計システムの構築について」(平成26年5月23日総務省)では、これを活用した「期末一括仕訳方式」のイメージ図が示されています。また本資料では「日々仕訳方式」の実証モデル事業についても触れ、「リアルタイムな情報把握や職員の経営感覚の向上といったメリットを詳細に検証することで日々仕訳の導入を促進する」としています(図左)。

図 当面の取り組みと将来の姿(クラウド型システムの例)イメージ

 期末一括仕訳方式と日々仕訳方式の違いは、伝票入力ごとにリアルタイムで仕訳を行うか、年度末に一括して仕訳を行うかという点にあります。統一的な会計基準により、これまで総務省方式改訂モデルを採用していた自治体では「決算書」「決算統計」「財務書類」の3種類の仕訳を作成することになります。

 ここで危惧されるのは、期末一括仕訳方式を採用した場合に1年分の伝票データ(宇城市規模でも数万件)の仕訳・内容確認をまとめて行うこととなり、かなりの業務負荷になるのではないか、ということです。

 「統一的な基準による地方公会計マニュアル」では、仕訳変換表(現金主義・単式簿記→発生主義・複式簿記)にあらかじめ複式仕訳の例を用意していることから、相当分の自動仕訳が可能となるとしています。しかし、例えば「委託料」だけを見ても、実施設計委託料や工事監理委託料等の資産形成につながる委託料と、施設管理委託料や事業委託料等の行政コストにつながる委託料が混在しており、これらが一括して計上された中から伝票データを1件ずつ確認するのはかなりの手間と時間を要すると思われます。

 一方、日々仕訳であれば出納整理期間終了後すぐに決算処理が可能で、7月には財務諸表を完成させて9月の決算議会で報告することもできるようになると考えます。ちなみに宇城市では将来の日々仕訳への移行を考慮し、予算編成時点から複式仕訳を見据えた予算科目体系としています。

事業・施設別セグメント分析など
大切なのは会計を賢く使うこと

 日々仕訳を行うためには、自治体によってさまざまなハードルが存在します。その一例が、どの部署が財務書類の作成を担当するのかということです。宇城市では現在、決算統計に基づく総務省方式改訂モデルを採用しているため、財政課が決算統計と財務書類を作成し、会計課で決算書を作成しています。しかし今後、複式簿記で処理しその伝票チェックを行うことになると、担当部署を財政課から会計課へ変更する必要があると考えています。

 2点目が、事業別・施設別のセグメント分析などによる予算編成等への活用で、大臣通知でも"特段の配慮" を求めています。

 宇城市では、「平成19年度施設白書」から施設別財務諸表を作成していますが、現状では施設の統廃合には利用しているものの、職員が事業別・施設別のセグメント分析等で使いこなすまでには至っていません。今後、多くの職員が複式簿記を理解するようになれば、次年度予算編成への活用、あるいは事業のコストや適切な資産形成を考える基礎資料となるなど、行政経営上でもとても役に立つのではないかと考えています。

 財務書類等の積極的な活用により、地方公共団体の限られた財源を"賢く使う"ことにつなげるためには、やはり財務書類等を作成・活用できる職員の育成が急務といえます。

◇   ◇   ◇

 韓国の地方自治体では、2007年から「現金主義」と「複式簿記」のハイブリッド化を実現しています。私はこれまでに韓国を3回訪問し、多くの自治体職員から話を聞いてきました。彼らは「従来方式から転換するのに当初は苦労したが、いずれ慣れる」と語っています。これは日本でも同じであり、その意味では総務省が将来の姿として描く「クラウド型システムによる日々仕訳」(図右)を早期に実現するのが望ましいといえるでしょう。そのためには、複式簿記に精通した人材の育成が大切です。

 財務書類の作成はあくまでも自治体の「健康診断」のためです。そこから導き出されたさまざまな課題を解決するために、財務書類等を行政経営の「羅針盤」として積極的に活用して行くこと――それこそが、われわれ自治体にとって極めて重要なことだと考えています。

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