2015年7月号Vol.99

【特別インタビュー1】地方創生時代のまちづくり

──発想を転換し、限られた資源で最大限の価値を創造する

北海道喜茂別町長 菅原章嗣氏 / 聞き手 本誌編集人 湯澤正夫

羊蹄山の麓に広がる自然豊かなまち、喜茂別(きもべつ)町。「札幌市の隣」「主要幹線の交点」という地の利を生かし観光拠点として注目されるほか、最近ではホワイトアスパラなど特産品を利用した6次産業も活発だ。厳しい財政運営、人口減少・少子高齢化といった地方都市共通の課題を抱えながら、柔軟な発想と行動力、ICTの積極的な活用で、地方創生に向けた取り組みでも成果を挙げている。

菅原章嗣町長

菅原 章嗣町長

──まちづくりへ、ICTを積極的に活用されていますね。

菅原 小規模団体にとってICTは、限られた人員・予算で最大限の価値を創造する上で重要な経営資源だと考えています。そのため行政事務の効率化に加え、住民サービスの向上の面からも積極的な活用を進めてきました。その基盤となっているのが、全町に整備した光回線網とIP電話です。町民への行政・防災情報の案内などにIP電話を利用するほか、企業誘致など地域活性化の観点でも充実した情報基盤が大きなポテンシャルとなっています。

 そして、この基盤を利用して積丹(しゃこたん)町、ニセコ町、島牧村とともに取り組んだのが、内閣府「ICT活用による『新しい公共』型『地域の安心と活性化』事業」(平成23・24年度)による高齢者の遠隔健康相談・見守り支援です。

高齢化や医療過疎などの課題解決へ
ICTを有効活用

──新たな会計基準の検討は、どのように進められたのでしょうか。

菅原 喜茂別町でも人口減少・少子高齢化が大きな課題となっています。特に高齢化率は38.29%と高く、高齢者の単身世帯も増えています。山岳丘陵地で雪が多いという地域特性もあり、緊急対応の遅れや外出機会が減ることによる健康への影響なども懸念されていました。そこでICTを活用して医療過疎や医療・介護給付費の上昇、高齢者の社会的孤立といった課題を解決しようと考えたものです。

 「遠隔健康相談」支援は高齢者に歩数計を配布し、その測定データを日々のバイタルデータ(血圧、体重、体温)とともに管理し、これらをもとに自宅のIP電話のテレビ機能を利用して医師等の健康指導を受けられるものです。また、「高齢者見守り」支援は居間や寝室などにセンサーを設置して高齢者の行動を感知するもので、一定時間動きがない場合は指定先(家族・近所・民生委員・消防など)へ通報される仕組みです。加えて、町民の自発的な取り組みを促すためのソフト面の充実にも努めました。

 その結果、病気の早期発見や注意喚起のほか、コミュニティーの活性化という相乗効果が生まれつつあります。

──今後の計画は。

菅原 今回の成果を踏まえ、道内21町村と研究会を立ち上げて拠点病院と結んだ「遠隔健康相談」の実現に向けた検討を進めています。

 また喜茂別町としては、今年5月にふれあい福祉センターへ運動指導のほか顔認証が可能な「体操ロボット」を設置しました。これにより、町民の「自分のことを知っていてほしい」という感情に応えるとともに、保健師を増やさず健康相談・指導を拡充できる環境を整えました。さらに介護保険制度の改正に伴い在宅介護の増加が見込まれるため、センサー機能に加えて簡単な会話もできる「見守りロボット」の導入も急ぎ進めています。これらも、充実した情報基盤があればこその施策です。

 加えて、マイナンバー制度のスタートを見据え、町民の医療・保健・福祉情報を蓄積・共有する「町民元気かるて」の整備を進めつつあります。町民自身はもちろん救急搬送時などでの利用を想定しており、そのための先行投資として2年前には赤字経営が続いていた診療所を町へ移管しました。マイナンバーの医療・福祉分野での利用も検討されていることから、今できる準備は進めておく必要があります。そして、正しいデータを積み重ねていくことが、すべての町民にとって生涯を健康で安心して暮らすために役立つと考えています。

きらりとひかるまちづくりへ
常に先手をとり、存在感を示せ

──先行投資とは驚きですね。

菅原 病院を“経営”の側面だけで考えると、地方都市では儲かりません。喜茂別町でも以前は赤字分を負担していましたが、それでは年々費用負担が増えるだけで何の問題も解決しません。病院の町立移管は時代に逆行する取り組みに見えますが、指定管理者へ運営委託する方式に改めたことで年間経費を1500万円削減しました。また、病院内にスポーツジムや図書館などを併設することで健診受診率の向上や健康づくりの習慣化を促進し、長期的には病気の早期発見や生活習慣病・介護予防による医療費等の削減効果も期待できます。

 その意味では、これまでの行政の発想は単式簿記の考え方でしたが、それでは単なる収入と支出の記録で終わります。重要なのは特定期間の成果を求めるだけではなく、町民の生活向上や地域の活性化といった将来に向けた〝財産〟を残すことで、これからは会計基準だけでなく考え方も複式簿記に変えなければいけませんね。

 また、職員には「ことあるごとに存在感を示せ」「常に先手を打て」と伝えています。そこで注目されることにより、新たな価値創造にもつながる。まさにベンチャー企業の発想です。投資家は将来の成長が期待できる企業へ投資します。行政経営も同じです。そのためにはすべての情報をオープンにして、町民や他団体などステークホルダーの信頼を得ることが大切です。

──なるほど。

菅原 今秋には庁内と市街地にWi-Fi環境を整備し、各家庭で利用できるようにするほか地域活性化の強みとして活用する計画です。ただICTはあくまでも道具であり、大切なのはこれを使って何を創り出すかです。実は町長室にはパソコンがありません(笑)。まちづくりのアイデアやヒントはすべて現場にある。私の役割は、町民や職員と話をし、軽いフットワークと人脈を生かして、みんなの思いを実現していくことだと考えています。

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