2015年10月号Vol.100

【レポート】財務書類の活用へ
カギ握る28年度予算編成

いよいよ、統一的な基準による地方公会計の準備が本格化する。
TASKクラウドフェアで行われた天川竜治宇城市財政課長の講演から、その留意点を探る。

 平成27年1月23日に総務大臣通知が発布された。これにより、原則としてすべての市区町村が平成29年度までに統一的な基準による財務書類等を作成することになった。「29年度まで」というと、まだ時間があるように感じるかもしれないが、実はそうではない。

 特に、期末一括仕訳の場合、すぐ始めなければ間に合わないのだ。では、具体的にどんな準備が必要なのだろうか。

無償ソフトは付随費用がかかる

 第一が、標準的なソフトウェアを使うのか、独自システムを使うのかを決めることだ。

 6月30日付で、国が無償配布する「標準的な地方公会計標準ソフトウェア」の導入マニュアルなどの情報が公開された。標準ソフトでは、既存の財務会計システムの現金主義・単式簿記のデータ等を取り込んで発生主義・複式簿記のデータに変換し、財務書類を作成することができる。

 「無償」という言葉に勘違いされがちだが、地方公共団体情報システム機構より、サーバーやミドルウェアの購入と、それに関する保守サポート契約も必要になることが示された。また、発生主義・複式簿記へのデータ変換を自動で処理できるようにするには、既存システムの改修も必要で、その費用も別途かかることとなる。

 第二に、「期末一括仕訳」方式でやるのか「日々仕訳」方式でやるのかを決めなければならない。ちなみに、標準ソフトは期末一括仕訳処理をメインに考えられているようで、日々仕訳の機能が若干弱いように感じている。

 日々仕訳方式はハードルが高いと思われているようだが、最初の設定さえしておけば期末一括仕訳方式よりも業務負荷はかからない。また、特例として平成29年度決算に係る財務書類を作成すればいいとの猶予もある(総務省Q&A集問番号3参照)。

 一方、期末一括仕訳を選択した場合、期末に仕訳修正・整理仕訳等の手作業が発生する。私見ではあるが、担当者にとっては、現状でも非常にタイトなスケジュールで決算処理をしているところに、期末にもう一度決算統計を実施するようなものだろう。

 手作業による仕訳を極力避けるためには、予算を立てる段階から要領で示された仕訳変換表に沿って科目体系を設定しておく必要がある。では、それはいつやるのか。期末一括仕訳方式の場合、29年度に28年度の財務書類を作成することが基本となるため、今年10月頃から作成に入る28年度の予算編成から統一的な基準を意識したデータにしておかなければならない。

 第三が、運用体制の検討だ。従来の「総務省方式改訂モデル」では決算統計を使って財務書類を作成するため、多くの場合、財政課が担当していたと思う。だが、今後は伝票ごとのチェックが必要となることから、会計課の重要性が増していくといえるだろう。

決めることは山ほどある

北いずれの会場でも多くの受講者を集めた公会計セミナー。真剣な表情に作業の困難さと不安が垣間見られた。

いずれの会場でも多くの受講者を集めた公会計セミナー。真剣な表情に作業の困難さと不安が垣間見られた。

 全国の市区町村では、今年度中に固定資産台帳を整備することが求められている。これが整備できないと、28年度の開始貸借対照表に間に合わないためだ

 「台帳整備はどこから始めるべきか」「どの程度整備すればいいのか」という質問を受けることがあるが、この決まりはない。そこで、まずは財産台帳に載っているものを固定資産台帳に整備することから始めるといいのではないだろうか。その上で、財産台帳に記載されていない、例えば工作物などを順次整備していくようにするといいだろう。

 また、「財務書類を作成しても何も使えない」という言葉もよく耳にする。統一的な基準による財務書類を作成しても、それだけでは使えない。例えば、アウトプットとして事業別財務諸表(セグメント分析)を作成したいということであれば、予算段階から事業別・施設別にデータを分け、それに沿ってシステムの初期設定も実施しておく必要がある。

 ちなみに宇城市予算では、「目」の下に事業別・施設別の設定を行い、委託料や工事費などの「節」の下に「細節」を細かく設定している。さらに細節の下に「説明コード」を設定し、このコード別に「決算統計コード」を割り振っている。平成28年度予算から、統一的な基準による財務書類に対応した説明コードを設定する予定だ。

 こうした作業は、日々仕訳・期末一括仕訳のいずれを採用するかに関わらず、導入準備作業として重要なポイントとなる。

 なお、これらの作業には会計的な判断や統一的な基準への理解が必要で、職員の育成も欠かせない。これについて、総務省では自治大学校や市町村職員中央研修所などで研修を実施している。宇城市としても自治大学校と全国市町村国際文化研修所へ職員を1名ずつ参加させたが、各団体においてもこうした機会を活用して人材育成をすることをお薦めする。

 財務書類は作成が目的ではなく、自らの実態を客観的に捉え、そこから見えた課題を解決していくために活用することが大切だ。

 例えば、行政内部においては施設ごとの老朽化比率・減価償却累計額等の算定が容易となり、より効果的な資産管理(ファシリティマネジメント)が可能となる。また、事業別・施設別のセグメント分析を行うことで、基本計画に沿って、より効果的な施策(事務事業)評価・分析への活用につなげることも可能となる。

 さらに、これらの資産管理やセグメント分析は、行政内部の活用だけでなく。住民や議会へ分かりやすい形で積極的に情報公開を行い、専門的知識を有する有識者の意見を聴くことで、さらに有用なものとすることができる。そのために、財務情報をどのように公開するのかもいまのうちから考えておく必要があるだろう。

 繰り返しになるが、そのためには28年度予算の整備が〝カギ〞を握る。そのほかにも、仕訳ルールの設定をどうするのか、分析の検討は…等々、事前に準備すべきことは山ほどある。しかも、その作業のほとんどは27年度にやらなければならない。担当職員にとっては大変な作業だとは思うが、それが〝使える地方公会計〞とする第一歩となるのである。

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