2015年10月号Vol.100

【特集インタビュー1】マイナンバーを追い風に世界最先端IT国家を目指す

内閣官房内閣審議官(社会保障改革担当室) 総合戦略室副室長(副政府CIO)、内閣府番号制度担当室長 向井治紀氏 / 聞き手 本誌編集委員 坂本宗俊

いよいよマイナンバー制度が始まる。世間の関心は、すでに制度導入後へと移り、『日本再興戦略』や『世界最先端IT国家創造宣言』でも利活用の促進が重要施策に位置付けられた。この新たな時代の変化を“ 追い風”として、業務改革や住民サービス向上へいかにつなげるか──市区町村への期待も高い。今後の展望について、内閣官房社会保障改革担当室の向井治紀審議官に聞く。

向井治紀(むかい・はるき)

向井治紀(むかい・はるき)
1981(昭和56)年、東京大学法部卒、大蔵省(現財務省)入省。財務省主計局法規課長、財務省理財局国有産企画課長、内閣官房参事(社会保障国民議担当)、財務省理財局次長を経て2010年より現職

──向井審議官は番号制度担当室長として、マイナンバー推進の先頭に立ち、関係省庁との総合的な調整から広報活動まで幅広く活躍されています。マイナンバーの利活用に向けた取り組みについて、現状を教えてください。

向井 高度情報通信ネットワーク社会推進本部では「マイナンバー等分科会」を設置して、①制度の活用、②マイナポータルの活用、③個人番号カードの活用──三つのテーマごとに議論を進めてきました。その検討結果は、『世界最先端IT国家創造宣言』(6月30日改訂)に盛り込まれています。

 並行して、日本経済再生本部でもマイナンバーの利活用について議論を重ねてきました。こちらは経済財政諮問会議との連携のもとに、円高・デフレからの脱却のための経済対策および成長戦略の実現を目的とするもので、同じく『日本再興戦略』(6月30日改訂)の随所でマイナンバーの利活用に言及しています。いずれも、マイナンバーをすべての国民がメリットを享受できる社会インフラとして、その利活用を積極的に推進していこうという姿勢を示したものとなっています。

利用範囲の拡大へ検討はじまる

──マイナンバー制度がスタートすることで、現状では何ができるようになるのでしょうか。

向井 まずは、社会保障と税、防災に関する事務と、これらに類する事務で、地方公共団体が条例で定めるものについて「個人番号」を利用できるようになります。これにより、所得証明書や住民票の写しなどの添付書類削減や課税資料の突合などが可能となり、業務の効率化を図ることができます。

 また、「個人番号カード」は、個人番号の確認や公的な身分証明書として利用できます。なお、国家公務員については来年1月以降、「身分証明書」との一体化を進める計画です。同様に地方公共団体の職員証や、民間企業の社員証としての利用検討も促進していきたいと考えています。

 さらに、個人番号カードに搭載される「利用者証明用電子証明書」は、条例を定めることで証明書自動交付機や証明書コンビニ交付などの独自サービスに利用できます。例えば、最近増えている「婚活支援」事業で、お見合い参加者の本人確認のために個人番号カードを使うというのも一つのアイデアです。また、単独の市区町村での実現が困難な場合、周辺団体と共同で利活用を推進することも検討していただきたいと思います。

 なお、カードには電子申請時の署名等に利用する「署名用電子証明書」も標準で搭載されます。これを使った公的個人認証サービスは民間企業にも開放されることから、新たな本人確認の仕組みとしてさまざまな活用シーンが期待されています。

 加えて、平成29年1月からは「マイナポータル」の運用がスタートします。これにより住民は、市区町村がマイナンバーと紐付けられた自分の情報をいつ・どことやりとりしたのか確認できるほか、行政機関が保有する自分の情報や行政からのお知らせを確認することができるようになります。これについては、個人番号カードで本人確認をした上でログインするため、機微な情報を含むやりとりでも安心ですし、プッシュ型の情報提供・電子申請が充実することで住民の利便性向上が期待されます。

──なるほど。そのほかにもマイナンバーの利用範囲の拡大について具体的な検討が始まっていますね。

向井 一層の効率化や利便性の向上が見込まれる分野については、利用範囲を拡大する方向で検討が進められており、今国会で「改正マイナンバー法(個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律)」が成立(9月3日)しました。その一例が「預貯金口座への付番」です。

 現在、生活保護費の受給条件として個人の資産を確認していますが、今後は社会保障や税金についても資産を含め負担能力に応じて負担する仕組みとしていく必要があると考えています。今回の法改正により、平成30年までには本人の同意を条件に個人の預貯金口座への付番ができるようになります。ただ、公平性の観点で考えれば、将来的にはすべての預貯金口座を対象とすべきでしょうね。

 さらに「医療・介護」などの分野においても、メタボ健診や予防接種の記録と結び付けることで、健康保険組合等が行う被保険者の特定健康診査情報の管理にマイナンバーが利用できるようになり、予防接種履歴の団体間での情報連携も可能になります。ただし、カルテ等の診療内容や診療報酬については厳格な情報管理が求められることから、マイナンバーと連携する「別の番号」で管理する方向で調整が進められているところです。

様変わりする行政サービス

向井 このほかにもマイナンバーの近接領域でかつ公共性が高く、情報連携等により一層のメリットが期待される「戸籍事務」や「旅券事務」、「自動車の登録に係る事務」などについて、制度の趣旨や個人情報の保護等に配慮しつつ、利用範囲の拡大や制度基盤の活用を検討しています。

 また、地方公共団体の要望を踏まえ、例えば、すでにマイナンバーの利用事務とされている「低所得者向け公営住宅の管理」に加えて、今回の法改正により「中所得者向け特定優良賃貸住宅の管理」にも活用できるようになりました。さらに、市区町村が条例で独自にマイナンバーを利用する場合でも情報提供ネットワークシステムを利用した情報連携を可能とするほか、「雇用」や「障害者福祉」などの分野でも利用事務の追加や情報連携ができるようにする計画です。

──マイナンバーの普及で、行政サービスも随分と様変わりしそうですね。

向井 特に、戸籍は夫婦関係など人の親族的な身分関係を証明するものであり、パスポートの申請や年金の受給申請、遺産相続など多くの行政手続きで提出が求められます。これらの事務でマイナンバーが利用できるようになれば、各種手続きへの戸籍謄抄本の提出が不要となり、将来的には死亡等のライフイベントにかかるワンストップサービスを実現することもできます。これについては昨年10月に法務省が「戸籍制度に関する研究会」を立ち上げ、平成31年の通常国会での法改正を目指して検討を進めているところです。

 加えて、マイナポータルを有効活用したワンストップサービスも積極的に推進していきます。その一例が「子育てワンストップサービス」で、今秋からマイナンバー等分科会で具体化に向けた検討を開始します。子育て世代の負担を減らし、子育てしやすい環境整備を目的とするもので、保育園等入園手続きや児童手当などの案内・申請ができるようにします。これは申請者が比較的若い世代と考えられることから、多くの利用が見込まれるでしょう。これにより利用者の利便性向上はもちろん、市区町村にとってもより一層の業務改善が期待されます。

 個人生活のさまざまなライフイベントにおいてマイナンバーを活用し、ワンストップでより簡単に申請手続きが行えるようにするには、やはり民間企業との連携が欠かせません。

 例えば、転居の際に電気やガス・水道の届出やクレジットカードの住所変更などが一括で手続きできるようになれば大変便利です。また、相続時の保険金の受け取りや預金の引き継ぎなどの手続きでの利用も考えられるでしょう。さらには、自分の健康・医療情報をマイナポータルで閲覧できるようになれば、個人の健康管理へ役立てることも可能です。

──個人番号カードについてはいかがですか。

向井 個人番号カードについても、さまざまな機能を集約することで、より利便性の高いものにしていくことが望まれます。具体的には、「運転免許証」や「健康保険証」などの各種公的資格の確認機能を持たせることを検討しており、実現可能なものから順次実施していきたいと考えています。

 加えて、民間企業での典型的な利用例が「ネットバンキング」で、個人番号カード1枚で口座開設から金銭の移動まで可能となります。また、「クレジットカード」として活用できるようになれば、ネットショッピングの利便性を変えずにいまよりもセキュアな仕組みを構築することもできます。すでに多くの先進的企業において、公的個人認証を使った各種ソリューションの検討・開発が進められているようです。

柔軟な発想で制度を〝追い風〞に

──マイナンバー利活用に向け、市区町村に求められることは何でしょうか。

向井 大前提となるのは、やはり個人番号カードの普及といえるでしょう。

 そのためにも、まずは住民が通知カードを確実に受け取れるよう住民票の住所地と異なる場所に住む場合は、住民票を異動してもらうよう周知徹底することが重要です。ただし、東日本大震災の被災者やDV被害者など、やむを得ない理由により住民票の住所地で「通知カード」を受け取れない方もいます。これについては、申請により現在の居住地で受け取ることができるようにしました。国も積極的に広報活動へ取り組んでいますが、市区町村においてもそうした方々への案内は特に重点的に行う必要があると思います。

 また、個人番号カードの交付を目前に控え、申請件数はどの程度になるのか事前調査し、窓口対応を検討しておくことも大切ですね。

本誌編集委員坂本宗俊

本誌編集委員 坂本宗俊

──市区町村にとっても、マイナンバーで新たな時代の幕開けとなりますね。

向井 マイナンバーは制度への対応がゴールではありません。大切なのは、これを契機としてさらなる情報化と業務改革を図ることです。日本は諸外国に比べて行政分野、特に地方公共団体の情報化が遅れているといわれていますが、この機に、すべての市区町村が積極的な電子行政サービスを推進することで、世界最高水準のIT利活用社会を実現していきたいですね。

 この点、番号制度担当室の役割は、世の中を便利にするとともに、行財政改革を進め、新たなサービスを創出していくため、各方面へ〝新たな風〞を起こしていくことだと考えています。だからこそ、セミナー等の依頼もできる限りお受けして、皆さんに未来の夢の話をします。でも、それは決して〝見果てぬ夢〞ではありません。

 マイナンバーを〝追い風〞とするためには、地域の実情に応じた独自活用など個々の創意工夫が必要不可欠です。その意味で、今後はアイデア勝負の時代になるといえるでしょう。ぜひとも従来の常識にとらわれない柔軟な発想で、マイナンバー制度を有効に活用して、さらなる業務改革と住民サービスの向上を実現していただきたいと考えています。

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