2015年10月号Vol.100

「新風」創刊100号記念

【座談会】「電子自治体」の未来

──住民サービスや業務はどう変わるか?

「e-Japan 構想」が掲げられてから15年。この間、ICTの進展とともに地方行政の現場も大きな変貌を遂げてきた。そして、いまマイナンバーという新たな社会インフラの登場で、住民サービスや行政の業務はさらに進化しようとしている。そこで、「電子自治体」推進に深く関わってきた皆さんと、これまでを総括するとともに今後の展望を考える。

東京大学大学院情報学環教授 須藤 修 氏 / 静岡県裾野市産業部次長兼商工観光課長 勝又晃一 氏 / 茨城県五霞町政策財務課財務グループ主幹 矢島征幸 氏 / 株式会社TKC代表取締役社長執行役員  角 一幸 / 司会 本誌編集委員 吉澤 智

創刊100号記念座談会

──電子自治体は、マイナンバーによって新たな局面を迎えようとしています。これまでの取り組みや現状をどうご覧になっていますか。

須藤 平成13年に「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」に基づき、首相を本部長とする「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」(IT戦略本部)が設置され、日本でも電子政府・電子自治体の推進が本格的にスタートしました。その後、途中足踏み状態となった時期もありましたが、最近ではクラウドサービスの普及やこれに伴う情報化コストの削減など、15年前に比べると隔世の感があると思っています。

 そしていま、国はさらに高度なワンストップサービスを各方面で展開すべく、大きく舵を切りました。その最も重要なインフラがマイナンバーです。これにより行政の在り方、業務フローはさらに変化する。数年のうちにはシンガポールやデンマークなどと肩を並べ、日本が「世界最先端のIT国家」となることも夢ではありません。

勝又 住民税課税部門は、いまでは想像できないほど年末から翌年夏までずっと残業続きでしたが、eLTAXの登場で業務は劇的に変わりましたね。

 裾野市の取り組みを振り返ると、パッケージ利用による業務統一に加え、早くから情報セキュリティー対策を強化してきたことが挙げられると思います。その一例が、平成18年に「手のひら静脈認証」をすべてのクライアントパソコンに採用したことで、いまでは自分のパスワードを覚えていない職員も大勢いるほどです。

 また、平成23年4月にはクラウドサービスへ移行し、サーバーをハウジングして仮想シンクライアントの形態で利用するようにしました。平成21年頃はまだ基幹系サーバーを外部に預けるところがほとんどなく、現場の理解がなかなか得られず苦労しました。原課の係長クラスを15名ほど集めてTKCのデータセンターを視察し、安全性を実感してもらったことを覚えています。2年かけて準備を進め、本稼働を前にデータセンターへ現場確認に行ったのが3月10日、東日本大震災の前日でした。まさに絶妙のタイミングで移行したわけで、震災後、住民からの問い合わせにも「うちは大丈夫」と確信をもって伝えることができました。

矢島 私は、平成21年にシステム担当となりました。それまではエクセルやワードをようやく使っているような状態でしたが、担当になってITは業務改善や住民満足度向上に役立つことを理解する一方で、多くの自治体が積極的によりよい製品・サービスを選ぼうとしないことに素朴な疑問を感じました。そんな時に、クラウドサービスが注目され始めたのです。「これはチャンスだ」と思いましたね。

 平成24年度に策定した、町の「情報化推進基本計画」へ自治体クラウドの導入を盛り込み、翌年には県内市町による自治体クラウドの検討会にも参加しました。その結果、常陸大宮市、那珂市、かすみがうら市とともにTKCのクラウドの共同利用を決め、平成26年1月より活用しています。

 自治体クラウドでまず意識されるのがコスト削減効果です。五霞町では31%の削減効果がありました。この削減分を生かして、これまで検討していたものの、費用面で導入に踏み切れなかった「コンビニ収納」と「コンビニ交付」という二つの新たな住民サービスの導入が可能となりました。コンビニ収納は今年4月からサービスを開始し町民にも大変好評です。また、コンビニ交付は来年4月から開始する予定です。さらに、職員とともに〝よりよいシステム〞を選んだことで、業務改善も進みました。

 電子自治体の推進では、LGWANの存在が大きかったですね。TKCでは早くからその可能性に着目し、LGWAN-ASPで民間初のアプリケーションサービス提供事業者となりました。そのために自社データセンターを建て、当社のシステム・サービスを自社の社員が運用するという独自スタイルも確立してきました。ここで培った経験とノウハウは、現在のクラウドサービスに生かされています。

 これまでを振り返ると二つのポイントがあると思います。第一が「変化への対応」です。汎用機からパソコンやサーバー、クラウドというITの変化により業務への活用範囲が広がり、コストも削減されてきました。また、価値観の変化もあります。基幹系システムをクラウドで提供した当初は、なかなか振り向いていただけませんでしたが、大震災をきっかけに市町村の価値観は一転しました。ほかにも法律や社会制度の変化への対応があるでしょう。

 第二が「目的の変化」です。これまでの情報化はどちらかというと業務の効率化やコスト削減が中心でしたが、最近では新たな住民サービスの創造という点も重視されるようになりました。マイナンバーにより、これがますます重要になっていくでしょうね。

マイナンバーで何が変わるか

須藤 修(すどう・おさむ)

須藤 修(すどう・おさむ)
1955(昭和30)年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。静岡大学助教授、東京大学助教授を経て、99年東京大学教授に。総務省「地方公共団体における番号制度の活用に関する研究会」座長、法務省「戸籍制度に関する研究会」委員、IT総合戦略本部「新戦略推進専門調査会マイナンバー等分科会」委員などを歴任

──須藤先生は番号制度の構想段階から関わってこられました。今後の展望を教えてください。

須藤 昨年5月、IT戦略本部のマイナンバー等分科会が中間取りまとめを公表し、今後の方向性が示されました。

 中でも、皆さんが注目しているのが戸籍でしょう。これについて法務省が昨年度から戸籍制度に関する研究会を立ち上げ、私も委員として参加しています。数年後には戸籍事務にマイナンバーが利用されることになるでしょう。現在、戸籍データは市町村が管理するとともに副本を法務省のデータセンターで保管していますが、これをクラウド化し、LGWANを通じてやりとりすることになる可能性が高いと思われます。なお、将来的には金融機関や生命保険会社との連携も視野に入れています。これが実現すると、利用者の負担が軽減されるとともに、行政と民間企業の双方にとって業務の効率化が期待できるでしょう。

 とはいえ、実現にはまだ時間がかかります。また、現実的に考えて情報連携の範囲は金融や保険、介護事業者など準公共的な民間企業に限られると思われ、当面の間は紙でやりとりする部分が残るでしょう。そのため、しばらくはコンビニ交付が有効に利用されることになると考えています。

 ほかにも自動車の登録等にかかる事務のワンストップ化が進むでしょう。また、保険業務も変わります。すでにソニー生命は自動車のログデータを活用して運転者の特性に応じて保険料を決める方向で動き始めました。他社もこれに追随すると見られ、これにより契約の個別化が進むと考えています。さらに預貯金については、マイナンバーを付番することで金融資産をすべて把握して適切な課税を行うとともに、銀行が破綻した際の第三者証明に利用されることになります。

 私が特に重視しているのが、予防医療や在宅介護・医療分野への利用拡大です。後期高齢者人口が増える中で、患者やその家族が安心できる在宅医療・介護の実現が急務です。地域包括ケアを円滑に進めるには、自治体や医療機関、介護・福祉施設などの連携が極めて重要で、その基盤にはやはりマイナンバーが有効だと考えています。

 その前提として、個人番号カードをどう使うかが重要となります。現在、厚生労働省では健康保険証と一元化する方向で医師会との調整を進めています。ほかにも、キャッシュカードやクレジットカードなど民間が発行するカードとの一元化も検討されています。例えば、診察券とクレジットカードと一体化すれば、病院の診察受け付けから支払いまで個人番号カード1枚で済ますことができるようになります。

カギを握る
個人番号カードの普及

勝又晃一(かつまた・こういち)

勝又晃一(かつまた・こういち)
1983(昭和58)年静岡県裾野市役所入庁。85年電子計算室への異動を皮切りに、25年余りを原課および情報システム部門において庁内の情報化を牽引し続け、業務の効率化や住民サービスの向上に努める。15年より現職

矢島征幸(やじま・まさゆき)

矢島征幸(やじま・まさゆき)
民間企業勤務を経て、1994(平成6)年茨城県五霞町役場入庁。社会体育、地籍調査、交通・防犯・防災担当を経て09年より情報システム担当に。「電子自治体の取組みを加速するための10の指針」フォローアップ検討会メンバー

勝又 市町村としては、マイナンバーで給付と負担の公平性が確保されるとともに、本当に困っている人への社会保障の充実、それらにかかる事務の効率化が期待されます。また個人番号カードの独自利用という点では、民間とも連携しながら地域特性に合わせたさまざまなサービス展開が期待されます。そのために、まずはカード普及がカギを握るといえるでしょう。

矢島 私も個人番号カードの普及が大切だと思います。国は平成30年度までに国民の3分の2にあたる8700万枚を目指すとしていますが、五霞町では27年度中に町民の52%へ個人番号カードを普及させたいと考えています。そのためにはカードを持つメリットをわかりやすく示すことも必要で、その筆頭がコンビニ交付でしょう。

勝又 裾野市では、住基カードと印鑑登録カードを活用して住民票の写し、印鑑証明、税証明の自動交付サービスを行っています。背景には住基カードの普及促進とともに、将来を見据え市民にカード利用を定着させたいという戦略的な狙いもありました。そのため、手数料を窓口よりも100円引き下げインセンティブを付けるとともに、市民課の窓口にも自動交付機を設置して利用されるよう仕向けました。

 26年度の利用状況を見ると、証明書等の発行総数5万3000枚のうち自動交付機は2万3000枚と、全体の47%を占めています。1年間の利用者は3000名程度ですが、サービスを10年以上続けてきたことで市民がカードを利用することに慣れています。近い将来、自動交付機からコンビニ交付に移行する際には、必然的に個人番号カードへ移行されると考えています。

 その意味では個人番号カードと印鑑登録カードとを一体化して、本人確認手段を一つにまとめる──ということは住民にとっても受け入れやすいのではないでしょうか。

須藤 そうですね。

矢島 また、窓口での本人確認がスムーズになることも挙げられます。情報化が進んだとはいえ、これまでの窓口業務のやり方はアナログ時代とあまり変わっていません。この点、マイナンバーは業務を一新する絶好のチャンスで、その一つが総合窓口の導入です。ワンストップにこだわる訳ではなく、自治体の実情に応じた、分かりやすく手続きが簡単で、その人にとって利益となる情報をきめ細かく提供するようにし、住民がマイナンバーのメリットを実感できる形で還元することが必要でしょう。それには、総合的な業務の見直しが欠かせません。

 さらに、電子行政サービスもこの機に進めないといけませんね。これまで電子申請が進まなかった一因に決済との連携が難しかったことが挙げられます。これが解消され、役所に行かなくてもサービスが受けられるのは住民にとっても大変便利です。ただ、高齢者のことを考えると、例えばテレビで各種申請届出などの手続きができるようになればさらに便利になりますよね。

須藤 インターネットにつながるスマートテレビが普及すると、リモコンを使った行政手続きが可能となります。私が理事長を務める次世代放送フォーラムでは、高精細な4Kテレビの試験放送を実施しており、ケーブルテレビをインフラとして高齢者の見守りなどの実証実験も行っています。また、4Kテレビは遠隔医療や防災対策などの活用でも期待されます。4K/8Kテレビは東京オリンピックを機に広く普及するとみられ、これにより利用者側のインフラもかなり変わるでしょう。

利用拡大には
住民の安心感も重要

静岡県裾野市
茨城県五霞町

勝又 インターネットは市民サービスのインフラとして欠かせないことから、公的個人認証により「本人の実在性」の確認ができるのはいいことですね。ただ昨今、標的型攻撃による情報流出事件などが相次いでいることで、マイナンバーに対する住民の不安もあります。この不安解消も重要なポイントです。その点では、電子署名付きメールが普通にやりとりされるようになることが望ましい。それにより、なりすましメールへの対策にもつながります。公的個人認証の活用を積極的にアピールすることが必要です。

須藤 公的個人認証は当初e-Taxなど行政機関等の手続きに限られていましたが、法改正により民間企業のサービスでも利用できるようになりました。高齢者でも簡単に使えるようもっと工夫する必要はありますが、国もこの普及へ積極的に取り組んでいます。

 また、近年、インターネットバンキングの不正被害が増加しており、これへの対策強化も急務です。現在、国はID/パスワードに変わるものとして生体認証情報を本人確認に利用することを考えています。その場合はスマートフォンがインフラになるでしょう。ただ、現状ではスマートフォンやタブレット端末などのセキュリティー水準は極めて低いといわざるをえません。そこで今年8月、東京大学大学院情報学環内に「セキュア情報化社会研究」グループを設置し、ここで公開鍵暗号と生体認証等の技術を利用した新しい認証方式「FIDO」の研究・普及促進へ取り組んでいます。

矢島 今年6月に総務大臣通知「既存住基システム等における個人情報の標的型攻撃対策の徹底について」が発布されましたが、管理負担を軽減しつつ、データやネットワークのセキュリティーレベルの維持・向上に取り組まなければならない。これも大きな課題です。

須藤 それについては国も最新技術の研究開発へ取り組んでおり、東京オリンピックまでには次世代ネットワークを実現させたいと考えているようです。

 不安解消ということでは、マイナンバーの取り扱いにも留意が必要です。最も安全な方法は、事務を行う現場ではデータを持たないことでしょう。

 これについて、TKCではデータセンターでマイナンバーを管理し、必要な時だけ利用できる仕組みを構築しました。また、職員とその家族のマイナンバーについても、個人がスマートフォン等を使って番号を入力すれば自動的にデータセンターで暗号化して保管される仕組みをご提供します。これらにより、漏えい・紛失等のリスク低減をご支援したいと考えています。

須藤 また、今後はマイナンバーが付いた帳票等をクラウド上で管理したいという企業や市町村が増えるでしょう。

 そこでぜひ考えてほしいのは、責任範囲の明確化です。これまでの契約では責任の分界点が曖昧でしたが、自治体とITベンダーの二者間だけでなく、ネットワーク事業者なども含めて考えておかなければならない問題です。

 当社でもマイナンバーに関連して全社的に契約書の見直しを始めました。また、今後はマイナンバーを含むデータも多くお預かりすることになるため、データセンターの安全性をさらに高めるとともに、データバックアップの二重化についても検討を進めています。

政府のI T 戦略と電子自治体の推進

クラウドのその先

角 一幸(すみ・かずゆき)

角 一幸(すみ・かずゆき)
1948(昭和23)年、北海道生まれ。72年、北海道大学理学部高分子科学科卒後、TKC入社。経理部本部長、社長室長、人事部長、地方公共団体事業部長などを歴任。01 年に専務取締役、08年代表取締役副社長。11年12月より現職

 マイナンバー以外に、新たな地方公会計も市町村の業務へ大きな影響を与えるといえます。公会計の目的は「財政マネジメントの強化」です。

 例えば、民間企業では、経営者の意思決定と業績管理のために会計データを活用しています。大企業はもちろん、当社のシステムを利用する中小企業でも月次決算を行い、経営者がそれらの資料を基にしながら毎月、前年同月と比べてどこがよくなって、どこに課題があるのか経営状態を把握し、次の打ち手を考える参考としているところが少なくありません。

 同様に、市町村でも今後は月次決算が可能となり、最新の財政状況を踏まえて補正予算の議論をしたり、将来のシミュレーション分析も容易となります。ほかにもオープンデータなどの動きがあり、ITの活用範囲はさらに拡大するでしょう。

勝又 さまざまな展開が期待されますね。例えば住民の意識調査の分析が可能ですし、住民票の転入出や税情報を総合的に分析することで定住人口確保のための対策に役立てることができる。もっと単純なところでは、窓口の状況を天候や六曜歴などと重ねて分析することで、来庁者数の予測や職員の配置計画などに生かすこともできます。

須藤 今後は、行政や保健医療機関などが保有するデータを突合させて、高度な地域サービスを展開しようという動きも活発になるものと考えています。すでに、鳥取県南部町では、地元の医療機関や鳥取大学、味の素などと連携して住民の健診データをがんの早期発見に役立てています。

 また、国と地方の情報連携がスタートすれば、ハローワークと連携して生活困窮者の自立支援を充実させることも可能となります。そのためにはクリアしなければならない問題も山積みですが、行政はこれに立ち向かっていかなければいけません。

矢島 一方、現実問題として、そうした急速な変化についていけなくなっている市町村もあります。特に、マイナンバーは団体規模を問わず対応が求められますが、それをどう活用できるかは個々の力量にかかっています。

 その意味で、われわれは「マイナンバー号」に乗った仲間であり、すべての市町村、すべての職員が同じゴールを目指していかなければなりません。そこでは互いに知恵を出し合うことも大切です。そうした課題の解決策の一つが、自治体クラウドだといえるでしょう。私自身も、共同化によって他団体にいろいろなことを相談できるようになりました。情報連携のタイミングで、自治体クラウドの動きが広まることを期待しています。

勝又 まちづくりの仕事には唯一の正解はありません。いままでこうだったからという思考は捨てて、時代環境の変化も見極めながら住民や地域とともに向かうべき方向を考え、明るい未来を創っていく。それがいまわれわれに求められていることでしょうね。

 クラウド化の動きは今後も加速度的に進むことは確実です。ではその先には何があるのか。すでに健康や医療、地図情報などいろいろなサービスがクラウドで提供されていますが、今後はそれらが相互に連携していくことになるでしょう。当社としてもぜひ皆さんとともに議論を重ねながら、業務改革や新たな住民サービスの面でいろいろな可能性を実現していきたいと考えています。

本日はありがとうございました。

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