2016年4月号Vol.102

【インタビュー】マイナンバーカードの多目的利用はじまる

新たな住民サービスの創出へ

総務省自治行政局住民制度課 マイナンバー制度総括担当 企画官 上仮屋 尚氏
聞き手 本誌編集人 湯澤正夫

マイナンバーカードが、順調に申請件数を伸ばしている。身近にカードを目にするようになると、次に住民が気にするのが「これでどんなサービスを受けられるのか」ということだ。先行団体では、今春から実際のサービスが始まるという。いよいよ動き出す「マイナンバーカードの多目的利用」について、総務省・マイナンバー制度総括担当の上仮屋尚企画官に聞く。

上仮屋 尚(うえかりや・たかし)

上仮屋 尚(うえかりや・たかし)
1994(平成6)年、東京大学法学部卒、自治省(現、総務省)入省。99年春日井市企画調整部長、12年宮城県総務部長などを経て、14年より現職(外国人住民基本台帳室長を併任)。

――1月から、マイナンバーカードの交付が始まりました。

上仮屋 マイナンバーカードの申請件数は3月13日現在で累計910万件と、平成27年度中には概ね1000万枚に達する見込みです。e-Taxによる確定申告に加え、平成29年1月には「マイナポータル」も開設されることから今秋以降に再び申し込みが集中するとみられ、申請数は今後も順調に伸び続けるでしょう。そのため、28年度までの予算として3000万枚の発行費を確保しました。

 カードの交付が始まったことで、社会の関心も利活用へ移りつつあります。市区町村では、これまで個人番号の生成や住民票への記載、番号通知といった制度への対応作業に追われ、マイナンバーカードの利活用について考える余裕がなかったと思います。しかし、そろそろ本腰を入れて独自利用の検討を始める時期になったといえますね。

コンビニ交付サービス実施団体が今春、一挙に倍増へ

――あらためて、カードの利用方法やメリットを教えてください。

上仮屋 マイナンバーカードには二つの利用方法があります。一つは、国・地方公共団体など行政機関が社会保障、税、災害対策の分野で、マイナンバーそのものを利用する方法です。もう一つが「マイナンバーカードの独自利用」で、カードに搭載されたICチップの空き領域や電子証明書を利用する方法です。こちらは行政機関に加え民間事業者でも利用できます。

 また利用メリットは、①個人番号を証明できる、②本人確認身分証明書として利用できる、③行政サービスごとの複数のカードを一体化できる、④マイナポータルへのログインなど各種行政手続のオンライン申請に利用できる、⑤オンラインバンキングなど民間のオンライン取引に利用できる、⑥コンビニなどで住民票の写し、印鑑登録証明書などの公的な証明書を取得できる、の6点が挙げられます(図表1)。

マイナンバーカードの利用メリット

 独自利用の観点で、ぜひ注目していただきたいのが、「コンビニエンスストア等における証明書等の自動交付」(コンビニ交付サービス)と「マイナンバーカードの多目的利用」です。

――コンビニ交付サービスは、今年1月からマイナンバーカードが利用できるようになったのを機に、サービス実施団体も急増しましたね。

上仮屋 コンビニ交付サービスは、現時点では最も住民に分かりやすく、少ないコストで実現できる活用法です。これにより、住民は全国4万8000店舗のコンビニで、いわば “いつでも、どこでも”住民票の写しなどの証明書を受け取れるようになります。

 3月末にはサービス実施団体が185団体となる予定で、今後も加速度的に増加することが見込まれます。昨年実施したアンケート調査でも、時期未定も含めて800団体が「サービスを開始する」と回答しました。団体数だけで見ると市区町村全体の半分程度ですが、その人口カバー率は1・1億人となります(図表2)。

図2 コンビニ交付サービス 市区町村の参加状況

 さらに多くの市区町村へサービスを普及させるためには、クラウドサービスの推進などによる「コスト削減」に加えて、地場で展開するコンビニなど「サービス拠点の拡大」も欠かせません。また、コンビニへ支払う手数料の課題もありますが、実施団体が増えて利用件数が増加すれば将来的には値下げも期待できるでしょう。こうしたことにより、小規模な団体でもサービスを導入しやすくなると考えています。

 同時に、すでにサービスを実施している団体では各種税証明書や戸籍証明書、戸籍の附票の写しなどサービスメニューの拡充を図り、住民の利便性をさらに向上させていくことも大切です。

――一部には、「情報連携が始まると、コンビニ交付サービスは不要になるのでは」との意見も聞かれます。

上仮屋 そうした誤解はありますね。コンビニ交付サービスの利用状況を見ると、その9割を住民票の写しと印鑑登録証明書がほぼ半分ずつ占めています。しかし、印鑑登録証明書は情報連携の対象に含まれないため、今後も紙で提出することになります。また、住民票の写しも民間へ提出する機会が多く、官民による情報連携が実現するまでは依然として紙が残ります。そのため、いまからコンビニ交付サービスを導入しても、決して無駄になることはありません。

カードの多目的利用には二つの方式がある

――もう一つの「カードの多目的利用」については、いかがでしょうか。

上仮屋 先述のとおり、マイナンバーカードでは身分証明書や番号確認の用途以外に、各種サービスを一元化し多目的カードとして活用することが想定されています。例えば市区町村では、これまで印鑑登録者識別カードや図書館の利用者カードなど、さまざまなカードを発行・管理してきました。これらを統合することで、カードの発行・管理にかかる手間やコストを削減できます。住民にとっても、日常生活において多数のカードを持ち歩く必要がなくなります。

――具体的な利用方法は。

本誌編集人 湯澤正夫

本誌編集人 湯澤正夫

上仮屋 利用方法としては、「カードに搭載されたICチップの空き領域に独自アプリケーションを搭載して利用する方法」(カードアプリ方式)と「カードの標準アプリケーションに格納されている電子証明書を利用する方法」(公的個人認証方式)があります(図表3)。

 「カードアプリ方式」は、10年以上前から住基カードで実施されているもので、現在120団体が証明書自動交付機や印鑑登録者識別などで利用しています。これを利用する場合、カード管理システムを構築する必要があります。カード管理システムは、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が無償提供する「ICカード標準システム」を利用できます。ただ、番号法の規定に基づき条例の制定が必要で、カードごとにアプリケーションを搭載する作業も発生します。

 なお、住基カードでは住民以外の方のカードにアプリケーションを搭載することはできませんでしたが、マイナンバーカードではこれが可能となりました。ICカード標準システムに、新カードAP搭載システム(J-LIS提供)を追加することで対応可能です。市区町村には、図書の貸し出しをはじめ住民以外の方にも提供するサービスが多数ありますが、これらもマイナンバーカードに統合することが容易になるわけです。意外と知られていませんが、これは大きな変化でしょう。これを使って、徳島県や新潟県三条市が職員の身分証への活用を検討しています。

 また、マイナンバーカードでは、カード発行前にアプリケーションの事前搭載を可能としました。これにより、アプリケーション搭載のたびに住民に窓口まで出向いてもらう必要がなくなります。また、市区町村にとっても準備が整ったサービスから順次スタートでき、図書貸出窓口などの利用シーンにおいて「マイナンバーカードはお持ちですか。一つにできますよ」と勧誘することもできます。ぜひ、事前搭載を有効に活用していただきたいですね。

図表3「カードアプリ方式」と「公的個人認証方式」の比較

――公的個人認証方式については、いかがでしょうか。

上仮屋 今後広まってほしいと考えているワンカード化の“本命”が、「公的個人認証方式」です。これはマイナンバーカードに搭載されている「公的個人認証サービス」の電子証明書を利用して本人確認を行うものです。さまざまな方が利用する、さまざまなサービスの特性に応じて、暗証番号を不要とする方法(PINなし認証)や、電子証明書を直接読み取る方法を採用することも可能です。

 これまで公的個人認証サービスの利用は行政機関等に限られていましたが、公的個人認証法の改正により今年1月からは民間事業者でも利用できることとなりました。また、厚生労働省では、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせ平成30年4月から使えるよう検討を始めており、公的個人認証方式はあらゆるサービスで活用できる可能性を秘めているといえるでしょう。

 この方式を利用する場合、条例制定やカードへのアプリケーションの搭載は不要です。その点ではカードアプリ方式よりも魅力的といえますが、一方で課題もあると考えています。まず、J-LISのサーバーと接続して電子証明書の失効状態を確認するため、「情報セキュリティーの確保」が重要になることです。もう一つが「コスト」の問題で、特に電子証明書の有効性確認に利用するOCSPクライアントソフト(※)が比較的割高であることが挙げられます。

 これらを解決するために、昨年から「コンビニ交付サービスの基盤を地方共同で活用する仕組み」をJ-LISとともに検討しています。具体的には、OCSPクライアントソフトと同様の機能を有する証明書交付センターに、市区町村がLGWANを介して接続するというものです。これによりセキュリティーを確保できるとともに、システムを共同利用することで導入・運用コストの大幅な削減が可能になると考えています。

※OCSP:電子証明書の有効性をリアルタイムで確認するプロトコルのこと

住民の利便性向上へ今春から実用サービスがスタート

――市区町村では、二つの方式をどう使い分ければいいのでしょうか。

マイキーくん

国は、マイナンバーカードに搭載される電子証明書を活用した公的個人認証サービスを象徴するキャラクター「マイキーくん」を作成し、利用促進に努めている。

上仮屋 公的個人認証方式はアプリケーション搭載の手間がなく、また厳格な本人確認が必要なサービスにも幅広く活用できるため、将来的にはこちらが主流になると思います。ただ一つ、弱点があります。それは「スピード」です。電子証明書の認証に概ね1〜2秒かかるため、JR東日本の「Suica」など交通系ICカードに求められる“タッチ&ゴー”のサービスには不向きです。このため、スピードが求められ、かつアプリケーションの搭載がそれほど問題とならない入退館カードなどの利用には、カードアプリ方式が向いています。その意味では、どちらがいいのか対極で捉えるのではなく、両者の特性を理解しながら、双方とも自治体の判断でどんどん活用の幅を広げていただきたいと思います。

――公的個人認証サービスについては、今年2月に民間事業者3社が初の大臣認定を受けました。この動きも注目されますね。

上仮屋 例えば、一般社団法人ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構では、マイナンバーカードを「デジタル母子健康手帳」や「地域の病院カード、医療機関間のデータ連携」などに利用する基盤を構築し、3月から一部サービスを開始するとしています。これは、群馬県前橋市が中心となって実施した「ICT街づくり推進事業」(平成25・26年度)の成果を踏まえたものです。

 総務省では数年前から実証事業を通じて多様なコンテンツを育んでおり、このほかにも実用段階を迎えたサービスが数多く控えています。こういったサービスは、他団体でも使えるものです。いいものはみんなで使う。利用団体が増えるほど、コストも下げられるはずですからね。コンビニ交付サービスは、まさにその典型例でしょう。そのため、われわれとしても先進事例を広く紹介していきたいと考えています。

――当社でも、市区町村を支援する立場から多様な取り組みを検討中です。

上仮屋 マイナンバーカードは、いわば道路と同じインフラであり、大切なのはこれを徹底して使い倒すことです。これをどのように使い、どんなサービスを提供するかはアイデア次第。民間事業者も利用に前向きで、近い将来、さまざまな業種で新たなサービスが創出されるでしょう。市区町村でも単に既存のサービスを置き換えるのではなく、“マイナンバーカードだからこそ”というサービスの創出が期待されます。

 そのためにも、まずはすぐに対応できるコンビニ交付サービスの導入を考えていただきたいですね。サービス実施団体が増え、そのメリットが社会に浸透していく中で、未実施の市区町村では住民から「うちはいつ導入されるの?」という声が上がるのは時間の問題です。その前にぜひ対応しなければ! いまならば、自治体クラウドの推進に資するものは「2分の1、上限5000万」の条件で特別交付税措置の対象になります。これを手始めとして、全国の市区町村でさまざまな独自利用が広がることを期待しています。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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