2016年7月号Vol.103

【インタビュー】対話によるまちづくりを推進

「NEXTまきのはら」へ

静岡県牧之原市 西原茂樹市長
聞き手 本誌編集人 湯澤正夫

静岡県の中部に位置する牧之原市は、合併により平成17年に誕生した。西原茂樹市長は、初代市長としてこれまで行政経営に手腕を発揮してきた。昨今では、地方創生の「まち・ひと・しごと総合戦略」でも全国から注目されている。未来のまちづくりへ、どのような取り組みを進めているのか、西原市長に聞く。

西原茂樹(にしはら・しげき)

西原茂樹(にしはら・しげき)
昭和29年、牧之原市生まれ、金沢大学工学部土木工学科卒。相良町議会議員(平成元年〜)、静岡県議会議員(平成3年〜)を経て、平成17年より現職

市民や産官学金労言とともに総合計画を前倒しで策定

――西原市長は、牧之原市の初代市長としてリーダーシップをとってこられました。あらためてまちづくりの方針などについてお聞かせください

西原 平成17年10月に、市町村合併によって牧之原市が誕生し、今年で11年目を迎えました。しかし、それまでの農業への積極投資による膨大な借金によって、実質公債費比率が県内ワーストワンという状況からの出発でした。さいわい毎年の借入額の抑制や、交付税算入のない市債の借入の中止などによって、計画よりも早く財政健全化目標を達成している状況です。

 いま牧之原市の人口は4万7000人程度ですが、大手自動車メーカーの工場が進出したこともあり製造品出荷額は多い年で7000億円ほどとなります。隣の吉田町と合わせると1兆円規模に達し、これは浜松市(人口80万人)や静岡市(人口70万人)に次ぐ出荷額であり、この地域が雇用の場として発展していることを示しています。

 その分、昼間人口が多く、夜間人口は減少傾向にあるのも事実です。少子高齢化の時代に、人口を増やし地域の活性化を図るために何をすべきかと悩む中で、取り組んだのが牧之原市総合計画の策定でした。平成26年暮れから第2次総合計画がスタートしています。大変ありがたいことに、この計画をベースとした地方創生の「牧之原市まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、いま牧之原市はトップランナーとして評価をいただいています。

――なぜ、牧之原市の総合戦略の評価が高いのでしょうか。

本誌編集人 湯澤正夫

本誌編集人 湯澤正夫

西原 通常、総合計画は10年間、市政運営の基本として活用しますが、社会情勢の変化などもあり、「第2次牧之原市総合計画」は1年前倒しでまとめました。この計画をスタートしようとした矢先に、石破茂地方創生担当大臣から全国の市区町村の首長に対して総合戦略の策定を求める手紙が届きました。これについて各方面へ確認したところ、完成したばかりの第2次総合計画に「人口ビジョン」を追加すれば総合戦略となることが分かりました。

 提出は二番目でしたが、国からは「これがわれわれのやりたかった地方創生だ」と共感をいただき、また日本創成会議では増田寛也座長も「一番の内容」と評価してくださいました。そんなこともあって、牧之原市の取り組みがいま注目されているわけです。

 とはいえ、計画の内容としては他団体と変わるところは何もありません。唯一異なるのは「産・官・学・金(金融機関)・労(労働界)・言(マスコミ)」のみんなで話し合って一緒に計画をつくったということです。その手法が評価されました。

 総合計画を策定する場合、通常はコンサルタントなどの協力を得ながら職員が作ります。しかし、牧之原市では市内の各界各層173団体、1500名を超える市民を巻き込み1年半の年月をかけて計画を策定しました。

 その過程では、最初に約600名の市民に意見を出してもらいました。その際に市民の皆さんにお願いしたのは二つです。それは「どんな牧之原市になって欲しいですか?」と「そのためにあなたは何ができますか?」ということです。通常、二つ目は「そのために行政は何をすべきと考えますか?」という質問になると思います。これをあえて「あなたは何ができますか?」としたことで、計画をつくるのは市民自身だと訴えたかったのです。

 そして、それらの意見をもとに、どんな計画を立てるべきかを審議する人たちを30名ほど選びました。ユニークなのは、その参加者の平均年齢が42歳で、女性が4割を占めたことです。この人たちに“NEXTまきのはら”を託したわけです。私は62歳ですが、われわれの世代が5年後、10年後のまちの未来を語ってもしかたがない。若い世代にこそ、やる気になってほしいと考えました。

 もちろん、議論の場には若い職員も参加して資料づくりなどで支援をしました。市民の皆さんは素晴らしい発想や感性を持っています。一方、職員は皆さんの意見をとりまとめ、それに合致したデータを加えた資料づくりなどの能力に長けています。それぞれの強みを生かし、協働で完成したのが、第2次総合計画なのです。

対話によるまちづくりへ
市民ファシリテーターも育成

――地方創生では、産・官・学・金・労・言の連携がポイントといわれています。牧之原市ではなぜそれができたのでしょうか。

牧之原市まち・ひと・しごと創世総合戦略

西原 牧之原市では市がスタートした時から「対話によるまちづくり」を基本としてきました。よく「住民参加」や「合意形成」という言い方をしますが、これらはいわば“役所用語”です。これでは市民の皆さんは誰も興味をもってくれません。市民の皆さんはいろいろなスキルや知識をお持ちです。専門家もたくさんいる。だからこそ、市民の協力を得て対話によるまちづくりを進めるべきだと考えています。

 そんな思いから実施しているのが、市役所を開放して市民の意見を聞くワークショップ「フォーラム牧之原」です。ただ単に議論をしてくださいといっても、いろいろな参加者がいてなかなかうまくいきません。そこで思い切って会議のやり方を変えてみました。具体的には、ファシリテーター(中立的な立場で議事進行を務める人)を有効に活用する方法に改めたのです。

 だから牧之原市のワークショップは「気軽に楽しく、中身は濃く」「一人だけでしゃべらない」「頭から相手を否定しない」が原則です。しかし、専門家を毎回頼むと10万〜20万円というコストがかかるため、市の事業として養成講座をつくり市民ファシリテーターを育成してきました。現在約30名が、市内10小学校区ごとに進められている「絆づくり事業」の会議などで活躍しています。同様の例は他の自治体にもあるようですが、牧之原市の場合、養成と活躍の場という二つの仕組みをつくることでこのスタイルが定着しつつあります。

 また、最近では「グラフィックファシリテーション」という手法も採用しています。これは、参加者の認識を一致させるために、ファシリテーターが議論の内容をその場で図式化して示し、会議の終わりにそれを見ながら議論を振り返るというものです。これにより、文字でまとめた議事録よりも理解度が増すようになりました。

――それはすごいですね。

西原 人は“学んで、気付き、共感する”プロセスがあって、はじめて自ら行動を起こします。それには時間がかかりますが、市民自身に関わることは一緒に答えを探していくことが大切なのだと考えています。

――災害対策も市民との対話で決定したとうかがいました。

西原 南海トラフ巨大地震が発生すれば、牧之原市は甚大な津波被害に見舞われることが想定されます。

 行政が計画をつくるのは簡単です。しかし、避難タワー一つを建てるにも、本来はその地域の10年後、20年後を考えなければならない問題です。例えば、避難タワーができれば周辺地域の地価は下がります。高齢者の避難の問題もある。だからこそ、地域で1年間かけてじっくり考えてもらいました。

 また、一般に津波防災計画の策定は防災課が担当しますが、職員の中にはほかにもたくさんのプロフェッショナルがいます。そこで職員全員で議論を行い、地域のワークショップにも彼らが参加し予算や法律などの面でアドバイスを行い、市民主体で具体的な防災対策を作り上げました。

 その結果、避難タワーのほか、命山や高台までの避難路の整備など、それぞれの地域特性を踏まえた具体策がまとめられました。国の補助を得て現在それらの整備を進めていますが、牧之原市は「津波避難施設のデパート」といわれるほど、いろいろな種類の施設が揃っています。

ICTが実現する新たな対話

西原 市が目指す「対話によるまちづくり」はディベートとは異なります。意見を戦わせることが目的ではなく、いろいろな意見を聞きながら、新しいアイデアを生み出していくことが大切なのです。困ったことがあればみんなに相談する。相談された人はアドバイスや答えを出すのではなく、どんどん相手に質問をする。そうすると自分の中から答えが見つかります。これは日産がV字回復の際に取り組んだことで、いま市役所内でも推進しています。

 例えば、職員の残業削減の問題でも「残業をなくせ」というだけでは何も解決しません。残業している人がいたら、その課の職員が集まって解決策を話し合う――これを繰り返す中で改善していくものではないでしょうか。

――そうした取り組みに、ICTはどんな役割を果たしていますか。

西原 対話という点では、ICTは大きな力を発揮すると期待しています。例えばFacebookを使えば時間、空間を超えて意見を共有することができます。Skypeを利用すれば地球の裏側の人とも対面で話をすることができますよね。

 今後、ビッグデータを分析する技術が進展していくことで、例えば「この支出の割合が高過ぎる」といった場面で警告が出るようになるなど、われわれの仕事や生活に大いに貢献してくれるものとなるでしょう。人工知能の技術も確実に進みます。そうした変化の中で、行政はどうあるべきか。そうした変化を楽しんで時代の波に乗っていけるようにすることが大切です。ぜひ、TKCにもそうした製品・サービスを考えていただきたいですね。

――ICTに注文をつけるとすればどんな点でしょう。

西原 ICTで仕事が削減されたかというとそうではありません。逆に仕事の幅が広がった面もあると思います。その点では、もっとわれわれの仕事を楽にしてほしいですね。特に情報セキュリティーです。マイナンバーの本格運用を前に、市区町村ではその強化が大きな課題となっていますが、もっと簡素かつ強固な仕組みになることを期待しています。認証も現在のパスワードでログインするのでなく、顔認証などが浸透すればもっと安心して使うことができるようになるでしょう。

 2年前にTKCのデータセンターを見学させていただきましたが、そこには全国の市区町村がネットワークでつながっています。今後は、そうした市区町村が集まって一緒に学び、国を動かし、あるいは海外の自治体へ自分たちの取り組みをPRできるようになれば面白いと思います。そんな新たなつながりを大いに期待しています。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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