2016年10月号Vol.104

【インタビュー】行政と住民をICTでつなぎ より便利な社会を実現する

内閣官房内閣審議官 情報通信技術(IT)総合戦略室副政府CIO、内閣府番号制度担当室長 向井治紀氏
聞き手 本誌編集人 湯澤正夫

マイナンバーが付番されておよそ1年が経過し、市区町村では制度や マイナンバーカード(個人番号カード)をどのように有効活用できるかを 検討する段階にきている。そうした中、国はより便利な社会を実現するための 新たな基盤を構築するため「マイナポータル」に関する意見招請を行うなど、 動きが活発化している。これが構築されることで何ができるようになるのか、 社会がどのように変化するのか──内閣官房の向井治紀内閣審議官に聞いた。

向井治紀(むかい・はるき)

向井治紀(むかい・はるき)
1981(昭和56)年、東京大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。財務省主計局法規課長、財務省理財局国有財産企画課長、内閣官房参事官(社会保障国民会議担当)、財務省理財局次長を経て2010 年より現職

──向井審議官は、これまでマイナンバー制度の制度設計から広報活動に至るまで幅広くご活躍されており、「マイナポータル」の推進についても重要な役割を果たされてきました。あらためてマイナポータルとは、どのようなものなのか教えてください。

向井 マイナポータルとは、住民一人一人がマイナンバーカードを利用してアクセスし、さまざまなサービスを利用できるポータルサイトです。その構築目的は、国の機関や市区町村といった行政機関と住民との距離感を縮め、これを起点に行政事務の効率化や住民生活の利便性向上を追求していくことにあります。なお、マイナンバー制度で新たに整備するマイナポータルの情報提供等記録開示システムで導入することとなっている機能は、「自己情報表示機能」「情報提供等記録表示機能」「お知らせ表示機能」の三つで、来年7月から住民が利用できるようになります。

 「自己情報表示機能」は、行政機関が中間サーバ上に格納しているマイナンバーとひも付けて管理されている個人情報(特定個人情報)を住民本人が確認できるようにするものです。個人情報に対する住民の意識が年々高まっていることから、行政機関が保有する自己情報を確認できる仕組みを構築します。

 「情報提供等記録表示機能」は、情報提供ネットワークシステムを通じて自分の情報がいつ、どこの、誰が、何の目的で、どの情報を照会し、または提供したのかを住民自ら自宅のパソコン等からでも把握し、チェックできる機能です。行政機関間でのシステム的な情報連携がスタートすることで、例えば、年金保険料の減免などの手続きの際に必要だった添付書類の削減につながる一方で、自分の情報が無制限に、かつ勝手に利用されてしまうのではないかといった不安を抱かれる方も少なからずいると考えています。そこで、自分の情報がどのように利用されたのかをチェックできる仕組みを構築し、住民本人の目で確認できるようにすることで制度の透明性を高めるものです。

 「お知らせ表示機能」は、行政機関などからのお知らせを表示する機能です。これまでは、全住民に対してホームページ上での告知や、通知文書の発送などを行うケースが多かったと思います。この機能の活用により、住民へ書面での通知文発送といった業務を削減していくこともできます。また、住民の属性等に合わせて対象者を限定したお知らせもできることから、住民にとっては自分に関係のある情報だけが随時届き、情報を探す手間もかかりません。

住民生活の利便性向上へさまざまな便利機能を提供

──これら三つの機能以外にも、さまざまな便利機能が検討されているようですね。

本誌編集人 湯澤正夫

本誌編集人 湯澤正夫

向井 そうですね。例えば、市区町村や民間企業が提供しているサービスもマイナポータル上で簡単に見つけ出せる「サービス検索・電子申請機能」も提供する予定です。これは、住民がフリーワードや住所、家族構成、年齢などの情報を入力することで、行政機関や民間企業が提供するさまざまなサービスを検索できるというものです。検索後には引き続き行政機関や民間企業への申請を行えるようにするため、既存の申請書等の様式を読み取り、入力フォームを自動作成する機能も備える予定です。さらに、必要に応じて外部のサービスと連携することも考慮しています。

 サービス提供開始時は、「子育てワンストップサービス」として、子育て関連の各種施策を検索・一覧でき、保育園の入園申請や児童手当の現況届の申請などの各種申請手続きや面談の予約などをオンラインでできるようにする計画ですが、将来的には引っ越しなどのライフイベントに伴う民間や行政手続きまで拡大させていく予定です。

 また、「公金決済サービス」についても準備を進めています。これは行政機関からマイナポータルのプッシュ型お知らせ機能を活用して公金の納付に必要なURLを通知し、住民がクリックすることで外部の電子決済機能を用いて支払いができるという仕組みです。これにより納付書の送付を前提としている既存手続きのペーパーレス化が図れるため事務効率が向上し、住民はマイナポータルを経由して納付ができるようになります。

──これらの機能が実現されることで市区町村の事務や住民生活がどのように変化していくのでしょうか。

向井 市区町村にとっては、事務の効率化が期待できます。現在の申請手続きは、住民が申請書に手書きした情報を職員などが手入力するという流れになっています。マイナポータルが利用されるようになれば、住民と電子データでやり取りされる機会が増えていくため、入力事務や書類整理の効率は向上するはずです。

 一方住民にとっては、より便利な生活がおくられるようになるでしょう。例えば認可保育園の入所申請では、住民が保育所を回るだけでも非常に手間がかかっています。さらにこの手続きには勤務先から就労証明書を発行してもらう必要があるため、勤務先にも手間がかかっているのが実情です。マイナポータルが利用されるようになれば、住民はそこから申請手続きを行え、保育所を回る手間が省けます。また、就労証明書も電子データでのやり取りにしていきたいと考えていますので、勤務先にとっても事務効率の向上につながっていきます。

 なお、手始めに子育て関連の手続きからサービスを開始するのは、わが国は少子高齢化による人口減少という国家的な課題を抱えており、その解決策の一つとして期待されていることに加え、子育て世帯は比較的若い世代が多く、ITリテラシーも高いため、多くの利用があると想定されるためです。

より便利なサービス創出へアイデアが重要に

──マイナポータルの運用が始まるにあたり、市区町村が準備すべきことは何でしょうか。

向井 マイナポータル自体は住民と国、自治体をつなぐ“パイプ”の役割でしかありません。したがって、これを使ってどのようなサービスを提供していくかは、まさに国や自治体、民間企業のアイデアが重要なポイントになっていきます。

 マイナポータルが導入されて一定の時期までは、先進的な自治体とそうではない自治体との間でサービス格差が生まれるでしょう。これを埋めるためにも、積極的にサービスの先進事例を横展開していく考えですが、やはり重要なのは市区町村自ら新たなサービスを考え、実現していくことです。これまで行ってきた事務を単にIT化するのではなく、どのようなサービスが住民に望まれているか、事務効率化を図るためにはどうすべきか──をしっかりと分析・検討した上で、さまざまなアイデアを出し合う。

 アイデアが固まれば、次はその仕組みを構築する必要がでてきます。マイナポータルから自治体のホームページへリンクする場合には、リンク先のWebページを作成する必要がありますし、民間企業が提供する外部サービスを調達してマイナポータルからリンクさせるという方法も考えられます。

 なお、外部サービスを利用する場合、個人の属性を踏まえたサービスを提供できるような仕組みにするには一定の認証レベルとセキュリティーを保つ必要があるため、公的個人認証に対応することが条件になると想定しています。

 また、プッシュ型のお知らせ通知を行う場合には、個人の情報をカテゴリー分けした上で、情報を送信する仕組みが必要になりますので、既存システムでのデータ抽出、データ連携に伴うシステム改修が発生する場合もあると考えています。

──サービスを利用するために、住民が準備すべきことは何ですか。

向井 マイナポータルを利用するにあたってのアカウント・利用者フォルダの開設、ログインする際の本人認証には公的個人認証を使うため、まずはマイナンバーカードの取得が必要です。また、パソコンやタブレット等の端末、マイナンバーカードを読み取るためのICカードリーダーが必要になります。その後に、利用者のアカウントと、情報提供ネットワークシステムや情報保有期間からの情報を格納する利用者フォルダーを作成することになります。なお、高齢者や障がい者など自分自身でマイナポータルを利用できない方もいることから、本人に代わって代理人がマイナポータルを利用できるよう代理人権限の設定を必要に応じて実施します。もちろんその際には、代理人のマイナンバーカードが必要になります。

サービス検索・電子申請機能の位置付け

 また、より多くの方々に利用いただけるよう、スマートフォンがICカードリーダー代わりとなってマイナンバーカードの読み取りができる準備も進めています。早ければ今年中にも対応機能を持つスマートフォンが発売される見込みです。

──それは便利ですね。

向井 今後の計画では、スマートフォンに格納されているSIMカードに公的個人認証の電子証明書を格納できるようにすることや、テレビのリモコンやコンビニエンスストアのATMや複合端末機でも読み取りができるような検討が進められています。これらが実現することで、より一層マイナポータルを利用できる環境が整うでしょう。

マイナポータルが起爆剤となりより高度な情報化社会が広がる

──今後の推進策を教えてください。

向井 まずは、マイナポータルの認知度を高めるために広報活動を実施していきます。

 認知度を向上させた後は、老若男女を問わずより多くの住民の方に実際にマイナポータルを使っていただく必要があります。そこで、パソコンやスマートフォンなどを持っていない方でもマイナポータルを利用できるようにするため、出張所なども含めた市区町村の窓口にマイナポータルを利用できる専用端末等を配備できるように予算要求をしています。また、市区町村が独自サービスを実現していくためのシステム改修費などについては交付税措置をするための調整も行っています。

 今後は災害や社会保障系の手続きなど、さまざまな手続きをマイナポータル上で実施できるようにサービス内容の拡充を図る計画です。さらに、官民の情報連携が実現されれば、引っ越し時や死亡・相続時に行政機関や民間企業が連携し、必要な手続きがワンストップで実施されるよう検討を進めています。

 これらのサービスが実現されることにより、市区町村にとっても住民にとっても、手放すことのできない便利な社会インフラとして利用されていくことでしょう。そういった意味でもマイナポータルは、市区町村や民間企業のIT化をさらに促進させる起爆剤になると言えます。

 より便利な社会生活を実現する社会基盤として、今後も検討を進めていきます。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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