2017年4月号Vol.106

【インタビュー1】住民も行政も“もっと便利”に!
行政サービスは新たなステージへ

総務省 総務大臣補佐官 太田直樹氏
インタビュアー 本誌編集人 湯澤正夫

マイナンバーカードを持つ人が1000万人を突破し、関心は「これで何ができるのか」へと移っている。そのメリットを全ての国民が享受できるよう、国は省庁横断で「ワンストップ・カードプロジェクト」を発足し、昨年末には具体的な推進策を打ち出した。今後、市区町村に求められることは何か──
プロジェクトを総括する太田直樹総務大臣補佐官と、重点テーマの一つ「コンビニ交付サービス」の普及促進を担当する阿部知明総務省住民制度課長に聞く。

太田直樹(おおた・なおき)

太田直樹(おおた・なおき)
1967 年、奈良県生まれ。東京大学文学部卒、英ロンドン大学経営学修士(MBA)。モニターカンパニー、ボストン・コンサルティング・グループを経て、2015年1 月より現職。主に第4 次産業革命(IoT・ビッグデータ・AI の社会実装)や地域の活性化に関する政策立案・実行に関わる。

──ワンストップ・カードプロジェクト発足の狙いを教えてください。

太田 マイナンバーカードは、「マイナンバーと本人を1枚のカードで証明する」ものであるとともに、カードに格納された電子証明書を官民のさまざまなサービスに活用できる「ICカード」としての側面を持っています。
 われわれは、すでに15年ほど前から暮らしの中でICカードを身近に使い、その利便性を享受してきました。
 例えば、2000年頃には銀行ATMの設置場所が各店舗から駅構内やコンビニエンスストアなどへと広がり、利用者はカード1枚でいつでもどこでもサービスを利用できるようになりました。またJR東日本の「Suica」のサービスは2001年に始まり、いまやその利用用途は単に“電車に乗る”ためのものから“電子マネー”へと拡大しています。
 このようにICカードは、われわれが便利なサービスを受けることができる手段として定着してきたわけですが、残念ながら行政と医療の分野ではあまり導入が進みませんでした。そこで、マイナンバーカードのICチップに格納された「電子証明書」と「空き領域」を、行政分野をはじめ暮らしの中のさまざまなサービスに利用してもらおうというわけです。これにより多くの国民に利便性を実感してもらい、さらなるカードの普及促進を図ります。
 これを一体的に進めるために発足したのが、「ワンストップ・カードプロジェクト」です。ここで各種サービスやその推進策を検討し、その成果として昨年12月22日には「アクションプログラム」を公表しました。

意識すべきはすべての国民が便利になること

──プロジェクトでの検討ポイントを教えてください。

太田 プロジェクトでは、「コンビニ交付サービス」「マイナポータルを活用した子育てワンストップサービス」「マイキープラットフォーム」の三つを取り上げました。具体的な検討にあたっては、それぞれを所管する部局を中心に、先進自治体や民間企業にも参加いただきながら、省庁横断の組織体制で実施しました。
 この三つのサービスに焦点を当てたのは、多くの国民に利便性を実感してもらえると考えられたためです。
 まずコンビニ交付サービスは、いつでもどこでも住民票の写しや印鑑登録証明書などを取得でき、メリットが分かりやすいサービスです。また、子育てワンストップサービスは、少子化が進む中で今、最も注目されているテーマであるとともに、保育所の入所申請など利用機会も多く住民のニーズが高い分野といえるでしょう。さらに、マイキープラットフォームについては、①公共施設の利用者カードなど市区町村が発行するカードを一本化する②クレジットカード等のポイントやマイレージを地域経済応援ポイントとして地域で使えるようにすることで消費の拡大につなげる──という二つの目的での活用が考えられます。
 ここで検討の中心に据えたのは、それぞれのサービスに「どのような利用メリットがあるのか」を整理するとともに、「コストがいくらかかり、その負担緩和策は何か」ということです。特に人口規模が小さい団体の場合、住民にとって便利なサービスだと分かっていても導入・運営コストがネックとなって、なかなか取り組みが進まないということが挙げられます。典型例がコンビニ交付サービスですよね。このハードルを何とか下げられないものかと考えました。

──「アクションプログラム」で示された、それぞれの推進策を教えてください。

太田 コンビニ交付サービスは、市区町村の事務である各種証明書発行サービスの一環であり、すべての国民が利便性を享受できるよう全団体の早期参加が期待されます。
 そこで小規模団体でも取り組みやすいよう、コスト負担の緩和策として、①「廉価版クラウド」(住民票の写し・印鑑登録証明書)の導入、②J-LISの運営負担金の軽減、③コンビニ事業者に支払う手数料の軽減──を決めました。これと並行して、①交付可能な証明書類の拡大(廉価版戸籍コンビニ交付システムの導入)、②庁舎や郵便局へのキオスク端末の設置促進──などの利便性向上策も掲げています。さらに、サービス導入にかかる地方財政措置の期限を2019年度まで延長するなどの支援策も打ち出しました。
 子育てワンストップサービスについては、特にオンライン化のニーズが高いと考えられる子育て分野の「児童手当」「保育」「母子保健」「ひとり親支援」の手続きのオンライン化について、今年中に全団体が速やかにサービスを導入・実施できるよう、必要な環境整備やサービス開始後の進捗管理およびサポート方針などを取りまとめました。また、2017、2018年度のシステム改修等に対して特別交付税措置の対象とするほか、サービス導入に伴い市区町村が実施すべき作業項目をまとめた『子育てワンストップサービス実現に向けた地方公共団体向けガイドライン』も提示しています。

「アクションプログラム」概要

「ITサービス」業として発展のカギ握る人材育成

本誌編集人 湯澤正夫

本誌編集人 湯澤正夫

──その二つのサービスに比べ、マイキープラットフォームは少し違ったアプローチですね。

太田 先述したように、マイキープラットフォームには二つの利用用途が考えられます。このうち「カードの一本化」は比較的分かりやすいと思いますが、一方の「クレジットカードのポイント等を地域で活用」する方法は、「地域の商店街で使う」「観光客が使う」「地域物産のオンライン販売で使う」など、それぞれの地域特性により“便利なサービス”の内容が異なります。
 そこで今夏以降、全国各地でそれぞれの特性に応じた実証事業を展開することにしました。なお、国は「自治体ポイント管理クラウド」など基盤整備を行います。こうした取り組みを通して、地域の人々とともに経済活性化につながる方策を検討していただきたいと考えています。

──そうした中で、市区町村に求められることは何でしょうか。

太田 私は、市区町村とは「ITサービス」業だと考えています。
 驚くことに、市区町村の職員は20年間で30万人減少しています。一方で、市区町村には、より質の高い住民サービスの提供が求められているわけです。そのためには、窓口サービスやバックオフィス業務のやり方を抜本的に見直す「BPR」(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が欠かせません。
 また、その推進にあたっては、明確な目標をもって住民サービスのあり方や業務の最適化を考え、実践していける人材の育成も今後の重要課題になると考えています。
 国はインフラの整備は行いますが、それを活用して便利なサービスを創り出していくのは市区町村それぞれの役割です。小規模な団体では、すべてを自分たちで考え、実現するのは困難なこともあるでしょう。その場合、複数団体が集まって共同で取り組む、あるいはパッケージやクラウドサービスをうまく使ってサービス提供に必要な“道具”をシェア(共有)していくことも大切だと思います。

──なるほど。そうしたサービスが実現することで、マイナンバーカードの普及にも弾みがつきますね。

太田 「電子化により住民サービスの質が低下する」という意見もあるようですが、それは違います。誤解しないでいただきたいのは、マイナンバーカードの利活用は、全ての申請手続きを電子化して、マイナポータルやマイナンバーカードで行うようにするということではありません。住民が必要に応じて使い分けができるよう、サービスチャネルを広げるということなのです。
 例えば銀行では、ATMの設置場所を拡大することで利用者の利便性向上を図りました。だからといって銀行の窓口サービスがなくなったわけではありません。むしろ、ATMで効率化された時間をきめ細かな窓口サービスに充てることでサービス全体を向上してきたといえます。市区町村もまったく同じですよね。

「電子自治体2・0」実現へ地域とともに知恵を絞れ

──今後の計画を教えてください。

太田 マイナポータルについては、今後も最大限の活用を考えていきます。その点では、ワンストップサービスの対象分野を引っ越しや結婚、出産、相続など、個人のライフイベントに関するさまざまな手続きへと随時拡大する計画で、将来的には民間との連携も視野に入れています。また、災害対策・生活再建支援などでのマイナンバー制度の活用についても検討が進められています。
 なお、マイナンバーカードの利便性を高めるためのさまざまな取り組みについて、検討のスケジュールや実現時期を明確にしたロードマップを年度内に示す予定です。さらに、他団体の参考となる先進的な事例についても積極的に紹介していく考えです。
 市区町村では、これまでも電子自治体へ取り組んできました。その結果、自治体クラウドの利用など随分と進みましたが、まだまだ進化の余地はあると思います。マイナンバーカード等の活用で行政サービスは新たなステージを迎えることになるでしょう。住民と市区町村の双方にとって、もっと便利で効率的な「電子自治体2・0」の実現へ、地域とともに知恵を絞り、積極的な取り組みが全国に広まることを期待しています。

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