2018年7月号Vol.111

【インタビュー】官民の“手続コスト”削減へ
税務手続の電子化はじまる

総務省自治税務局企画課企画官 市川康雄氏
インタビュアー 本誌編集委員 飛鷹 聡

「平成30年度税制改正」では、税務手続の電子化等の推進に関する改正が盛り込まれた。その目的は、納税者と地方公共団体の手続コスト削減だ。実現に向け、市区町村ではいつまでに何をしなければならないのか──総務省自治税務局企画課の市川康雄企画官に聞く。

本誌編集委員 飛鷹 聡

市川康雄(いちかわ・やすお)
2002(平成14)年、総務省入省。大阪府財政課、在ヨルダン日本国大使館二等書記官、岐阜県市町村課長、同総合政策課長、総務省大臣官房総務課課長補佐、同自治税務局市町村税課理事官などを経て、2018年4月より現職。

──税制改正大綱で、税務手続の電子化を一層推進し、電子申告・納税を拡充するとの方針が示されました。

市川 地方税は国民一人一人の生活や企業の経済活動に密接に関わっています。そのため、将来のあり方を考える上では経済社会の変化を常に意識しなければならないと考えています。その点、いまわが国では大変な勢いでICT化による経済社会の変化が起こっています。
 取引形態の変化もその一例です。これまで“電子的な商取引”といえば、企業間の取引(BtoB)や企業と一般消費者間の取引(BtoC)が主流でしたが、最近では個人同士で物品などの売買を行う個人間取引(CtoC)も増えています。スマートフォンやタブレット端末の普及により、個人にとって資金の移動を伴う買い物や銀行取引で、オンライン利用がより身近なものとなりました。また、雇用形態や個人の働き方も多様化しています。特定の企業や組織に属さないフリーランス人口の増加に加え、従業員の副業を認める企業の拡大などにより、今後は申告手続に不慣れな個人が確定申告を行うケースが増えていくかもしれません。納税者の利便性と行政側の業務の効率化を図るためには、これまで以上に誰でも簡単かつ正確に申告・納税ができる環境の整備が重要となります。
さらに、民間企業に目を向けると、中小企業でも財務会計や人事・給与計算などでシステムを利用するところが増えています。それらの電子データを利用して、そのままスムーズに税務当局へ提出できれば、「行政手続コスト」の削減や業務の効率化につながります。
 こうした経済社会の変化を背景として、地方税の税務手続においてもICTの活用を推進し、全ての納税者が簡便・正確に申告等を行うことができる利便性の高い納税環境を整備するとともに、データの円滑な利用を進めることで、社会全体のコストを削減することや、企業の生産性向上を図ることが重要です。

地方税の共同収納
来秋には全団体が導入へ

──税制改正大綱では、地方公共団体にとって税業務改革をもたらすといえる大きなテーマが掲げられました。

市川 市区町村への影響ということでは、何といっても「共通電子納税システム」──いわゆる共同収納の導入が大きな変化といえるでしょう。これまでの経緯を簡単に説明すると、平成29年度税制改正大綱で〈地方税における電子納税の推進のため、地方公共団体が共同で収納を行う方策について、地方公共団体の意向に十分配慮しつつ、検討を行う〉とされました。これを受けて一般社団法人地方税電子化協議会を中心に実務的な検討を行い、今年3月に地方税法等の一部が改正され、来年10月1日からeLTAXを活用した共通電子納税システムを導入することが決まりました。
 現状を見ると、電子申告の利用件数は年々増加する一方、企業向けが中心となっているeLTAX連動型の電子納税についてサービスを実施しているのは22団体にとどまっており、利用件数もわずかとなっていました。特に地方税の場合、企業等は地方法人二税や従業員から特別徴収した個人住民税など複数の地方公共団体に納税することが多く、全ての団体が対応しなければ電子納税のメリットは少ないといえます。この点、共同収納の仕組みが整備されると複数団体への納税も一度の手続で可能となり、納税者の利便性は一気に向上します。
 これと合わせて、ダイレクト方式(事前に登録した金融機関口座から自動的に支払い金額が引き落とされる方式)による納付にも対応します。これにより、納税者にとって〝より便利な環境〟が整います。対象税目は当初、個人住民税の給与所得や退職所得の特別徴収、法人住民税、法人事業税等からスタートしますが、実務対応が可能となった段階で順次、対象税目を拡大する予定です。
 二つ目は「大規模法人の電子申告義務化」です。資本金または出資金の額が1億円を超える普通法人等に対し、2020年4月1日以降に開始する事業年度から電子申告が義務化されることとなりました(地方税法第五十三条、第三百二十一条の八関係)。対象税目は「法人税・地方法人二税」と「消費税・地方消費税」等で、消費税・地方消費税については地方公共団体が申告する場合も電子申告義務化の対象となります。昨年公表された規制改革推進会議行政手続部会の取りまとめでは、中小法人についても「電子申告の利用率70%以上」の数値目標が示されており、利用率はさらに高まることが予想されます。
 三つ目が「特別徴収税額通知の電子化」です。平成28年度税制改正において、特別徴収義務者(企業等)については特別徴収税額通知の電子データでの送付が可能となりました。しかし、納税義務者には特別徴収義務者を経由して通知書を配付しているのが現状です。対象者は全国で4000万人に上り、企業等にとって大きな事務負担となっていることから経済界から要望をいただいています。これについて、今回の税制改正大綱では〈eLTAXにより特別徴収義務者を経由し、送付する仕組みを、地方公共団体間の取扱いに差異が生じないよう配慮しつつ検討する〉とされました。
 これらの取り組みは、企業等の行政手続コストを削減し、生産性向上を図るとともに、地方公共団体にとっても業務改革につながるものと期待しています。

税務課だけの問題ではない
会計課などでの準備は大丈夫?

──今後、eLTAXの社会的な役割が、ますます高まっていく、ということですね。

市川 そうですね。eLTAXの安定的稼働を支えるため、その運営主体である地方税電子化協議会を解散し、来年4月に地方税法に設置根拠・組織運営が規定される地方税共同機構が設立され、権利義務が承継されます。役職員には罰則付きの秘密保持規定などが課せられ、情報セキュリティーの面でもこれまで以上に厳格な運用が求められます。今後、地方三団体が選任する設立委員が事業計画や予算などを作成していくこととなります。

──税務手続の電子化を推進するために、今後、市区町村では何をしなければならないのでしょうか。

市川 第一に、来年10月に予定される共通電子納税システムへの確実な対応です。共同収納が始まると、市区町村では共通電子納税システムから送付される納付情報データを用いて消し込み処理を行うことになります。これに伴い、多くの市区町村で基幹税務システムの改修が発生すると思われますが、来年春までにその作業を完了する必要があります。なお、システム改修に伴う費用については地方財政措置を講じることとしています。
 また、新たな収納方法の事務処理について取扱規程等の見直しが必要です。特に留意すべきは、共通電子納税システムへの対応は税務担当課だけの事柄ではないということです。そのため、会計担当課など関係課や指定金融機関との事前調整が必要になることが考えられます。これらの対応を残り1年ほどで完了するには、計画的に準備を進める必要があるでしょう。
 加えて、地域の企業や住民、税理士会など関係機関への周知活動も大切です。早めの案内により納税者側にもしっかり準備してもらうことで、電子申告・納税の利用率向上につながっていくのではないでしょうか。

──電子化が進むことで業務の効率化が期待される一方、簡単に大量データを扱えるようになることで情報漏えいなどのリスクは高まります。

市川 おっしゃるとおりですね。税務では多くの個人情報を取り扱うことから、電子化にあたっては情報セキュリティーや個人情報保護の強化についても合わせて考える必要があるでしょう。
 その意味では、この機会に税務システムのクラウド化もぜひ検討していただきたいと考えます。自治体クラウドは、コスト削減効果だけではなく、情報セキュリティーの強化や災害時の業務継続性の確保など多くのメリットがあります。

地方公共団体の実施項目とスケジュール(事務の整理等)

電子申告・納税の普及には
全団体の対応が不可欠

本誌編集委員 飛鷹 聡

本誌編集委員 飛鷹 聡

──今後の展開や計画などについて、教えてください。

市川 先ほど申し上げた三つの項目のほかにも、20年4月から法人事業税の財務諸表の電子的な提出の一元化を図ります。これにより外形標準課税対象法人等が法人税を電子申告し、その際に財務諸表を電子的に提出している場合は、国税当局・地方公共団体が情報連携を行うことで、法人事業税の申告の際に添付が必要とされる財務諸表の提出を不要とします。
 また、給与支払報告書や公的年金等支払報告書の電子的提出義務の対象となる基準を引き下げることとなっています。
 さらに、今後さまざまな機会を利用して、税務手続の電子化とその準備の重要性について理解促進に努めたいと考えています。
 税務手続の電子化は、納税者と地方公共団体の双方にコスト削減のメリットを生み出します。これにより地方公共団体では税務調査や相談などの業務に人的リソースを集中でき、その結果、税の公平性や住民サービスの向上につなげることもできるのではないでしょうか。
 企業等の納税環境の改善を進めるにあたって留意しなければならないのは、電子化の内容によっては全ての地方公共団体で足並みの揃った取り組みが必要となる点です。一団体でも対応しないところがあれば、電子申告・納税普及の妨げとなり得ます。
 税務手続の電子化は、いまや時代の要請といっても過言ではありません。その意味で今回の税制改正ではいくつかの大きな変化がありました。市区町村の皆さんには、その重要性を十分にご理解いただき、円滑な実施に向けて確実に対応していただけるようお願いしたいと思います。

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