2018年10月号Vol.112

【特集】神戸市に学ぶ「働き方改革」“スマート自治体”転換への第一歩

いま、官民を問わず「働き方改革」の取り組みが全国で進んでいる。とはいえ、その多くは未だ手探りの状態だ。一口に「働き方改革」といっても、その意味するところは幅広い。そこで、ここでは「業務の効率化」と「住民サービスの向上」に焦点を絞って、先進的に取り組む神戸市の事例から改革を成功に導くコツを考える。

 今年6月、参議院本会議で「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」が賛成多数で可決、成立した。来年4月1日施行に向け、民間企業等では対応準備が進められている。
 そもそも働き方改革の背景には、〈少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少〉と育児や介護との両立など〈働く人のニーズの多様化〉がある。これは市区町村にとっても深刻な問題で、今年7月に公表された総務省・自治体戦略2040構想研究会の第2次報告では、現状の半分の職員数でも担うべき機能が発揮されるよう「スマート自治体」への転換を示唆している。
 こうした時代環境の変化を踏まえ、全国の市区町村でも働き方改革が進められている。だが、その多くは手探り状態と見られ、国も『企業・地方公共団体における好事例集』を公表するなど積極的な支援策を講じている。

市役所内外を視野に改革進める
神戸市の取り組み

行財政局 総務部 業務改革課 業務改革担当係長 奥島紳司 氏

行財政局 総務部 業務改革課 業務改革担当係長 奥島紳司 氏

 そうした先進事例の一つに、兵庫県神戸市がある。職員のワークライフバランスと業務におけるイノベーション創出の実現を掲げ、2017年より働き方改革に取り組んできた。
 推進にあたっては、人事や行財政改革を所管する〈行財政局〉と、庁内の情報化施策を所管する〈企画調整局〉の二つの局からなる「働き方改革推進チーム」を結成。ここで全体方針を策定し、具体的な活動は民間人材の協力も得ながら各部局で進めているという。今年6月には、将来的に目指す姿と実現に向けた3年間の取り組み内容をまとめた「ロードマップ」も公表した。
 チームメンバーの奥島紳司氏(行財政局総務部業務改革課業務改革担当係長)は、取り組みの背景を次のように語る。
 「神戸市は阪神・淡路大震災の結果、財政危機に陥り、これを克服するために約20年で職員数を約3分の2まで減らしてきた。一方で社会情勢の変化等に伴い、虐待対策や空き家問題など新たな行政課題が顕在化し、またICTの進展などにより市民の行政に対するニーズも多様化・高度化した。その結果、職員一人当たりの業務量が増加している。このままでは職員は疲弊し、行政サービスの低下にもつながりかねず、働き方改革が必要不可欠だった」

行財政局 総務部 区役所課 企画調査担当係長 行本健太 氏

行財政局 総務部 区役所課 企画調査担当係長 行本健太 氏

 また、行本健太氏(行財政局総務部区役所課企画調査担当係長)は、推進チームについて「神戸2020ビジョン実現へ、まずは市役所が生まれ変わり、若い世代に『ここで働きたい』と感じてもらえるようにし、さらに、民間企業も含めた市全体に働き方改革を広めていく。このような観点も持ちながら取り組みを進めている」と述べる。
 神戸市のロードマップは「働き方改革(業務改革)」と「区役所業務改革」の二つの視点で構成されている。目指す姿としては「スマートなワークスタイル、働きやすい職場」と「スマートで優しい市民サービス」の二つを示し、それぞれ目標と四つの具体的施策を掲げた(図1)。その取り組みの内容や業務改革の姿勢には、参考になる点も多い。
 一例として、〈フリーアドレス(自由席)〉の導入がある。
 湯川徹郎氏(企画調整局情報化戦略部ICT業務改革担当係長)は、「目指したのはコミュニケーションの活性化。そのために無線LAN環境を整備するとともに、ペーパーレスの観点からも文書管理のあり方を見直し、資料は原則PDF等の電子データで保管することを徹底して進めた」と話す。まだ一部の部署に限定したものとはいえ、効果は着実に表れ始めている。その一つが上司や同僚への報連相。「距離感が縮まったことで互いの仕事がこれまで以上に見えるようになり、報告や相談がしやすくなった」(行本氏)のだ。

企画調整局 情報化戦略部 ICT業務改革担当係長 湯川徹郎 氏

企画調整局 情報化戦略部 ICT業務改革担当係長 湯川徹郎 氏

 実際に、官民を問わず日々仕事をする上では上司への報告等は欠かせない。だが、職員から見ると相手の業務状況を見計らい報告のタイミングを待たねばならず、時間的ロスは少なくない。
 また、現在推計で年間約2億枚の紙資源を使っているが、印刷環境の最適化や業務プロセスの見直しなどによりペーパーレス化も進んでいる。
 さらに、机や紙と並んでムダが多いとされているのが〈会議〉だ(図2)。
 神戸市でも17年度からWeb会議の活用や会議資料の電子化に本腰を入れて取り組み、移動に要する時間や資料準備にかかる手間と時間を削減している。さらには会議そのものをなくすことで、その時間を仕事に充てることが可能となる。そのため神戸市ではチャット機能を備えたグループウエアの導入準備を進めている。
 一方、区役所業務改革でもさまざまな取り組みが進行中だ。その一つが〈電話応対業務の削減〉である。

兵庫県神戸市

 「住民からの問い合わせや他部署とのやりとりなど、職員の電話応対件数は年間約450万件に上り、効率低下につながっている。そのためFAQを充実させ、問い合わせそのものを減らすことを計画中だ。将来的にはチャットボットの活用も考えている」(奥島氏)
 チャットボットとはチャット(会話)とボット(ロボット)を組み合わせた造語で、AIを活用した〈自動会話プログラム〉のこと。住民向けにはコールセンターでの活用を想定している。
 また、窓口業務についても効率化や生産性向上が欠かせない。これについて、神戸市では「ナビゲーション機能付き申請書作成システム」の導入を計画している。これにより、市民が煩雑な手続きでも簡単・迅速に行えるようにするとともに、バックヤード処理の効率化も実現する考えだ。将来的には、電子・郵送申請などの拡充により、対面が必要な手続き以外は「来庁せずに手続きができる」ことを目指すという。

図1 神戸市「2020年度までのロードマップ」
図2 出典:総務省『地方公共団体の職場における能率向上に関する研究会報告書』(2012年3月策定)

ICT整備と職員の意識改革は
働き方改革の両輪

一部部署に導入したフリーアドレスは組織の活性化につながったという

 さて、働き方改革というとすぐに残業時間の削減がイメージされる。だが、神戸市の例を見ると〈時間の使い方〉に着目し、中長期の視点から〈業務プロセス改革〉へ取り組んでいることがよく分かる。これは働き方改革を成功させる一つのポイントといえるだろう。
 また、奥島氏、行本氏、湯川氏は揃って「働き方改革では、ICTの整備と職員の意識改革を両輪として進めることが大切」と強調する。
 神戸市では、多様な働き方を推進するためテレワークを導入している。そのためのICT環境も整備し、17年度には在宅勤務取得者数が135名に達したそうだ。AIなど最新デジタル技術の調査・研究にも熱心で、「これらをどう有効活用するか、ITベンダーなど外部の知見を活用しながらトライ&エラーを重ねていく」(湯川氏)という。
 確かに、業務効率化や生産性向上を図るにはICTの有効活用が欠かせない。だが、あくまでも道具に過ぎない。大切なのは「すべての職員が“腑に落ちる〟まで働き方改革の目的や必要性を説明し、一人一人に当事者意識を持ってもらうこと」(行本氏)なのだ。
 神戸市では「やめる・へらす・かえる」というキャッチコピーを掲げ、ことあるごとに訴求することで、全職員へ働き方改革の目的や必要性の共有化を図っている。
 また、組織マネジメントの観点では、幹部職員向け研修会を開催するなど“トップダウン〟からの意識浸透を図るとともに、“ボトムアップ〟により幅広い職員の意識を変えるためのさまざまな取り組みも展開している。
 その一つが働き方改革に関するアイデア募集だ。これは今年度からスタートしたものだが、業務のムダの解消や市民サービス向上につながるアイデアが120件余りも集まったそうだ。
 また、育児経験のない職員を対象に、1カ月間育児と仕事の両立を疑似体験する研修も始めている。子どもの保育園の送り迎えのため定時出勤・退庁をするほか、突発的な発熱による呼び出しを想定した早退を実施する。「疑似体験といっても子育てを体験するものではない。時間に制約のある勤務を体験し、限られた時間の中で成果を出すために、自らの業務のムダを見つけることが目的」(奥島氏)というのだ。
 そのほかにも〈事務改善カード〉による職場の改善活動を実施し、一定の成果が見られたものは他部門にも拡大するなど、職員を巻き込むためにさまざまな工夫をこらしている。
 この点について、行本氏は「実行段階では職員との密接なコミュニケーションが大切。スピード感は必要だが、頭ごなしに進めても現場は混乱するだけ」と指摘する。
 改革に対する不安もあるだろう。だが、働き方改革はもはや避けられないテーマなのだ。とはいえ、そのために新しい仕事が増えるのは本末転倒といえるだろう。これを回避するには、神戸市のように課題を見つけ、解決に向けた仮説を立て、その結果を検証する。効果があれば他部署にも適用していく〈スモールスタート〉を心掛けるのが有効といえそうだ。また、〈動きながら考える〉柔軟さも必要だろう。
 市区町村の業務には、法律や条例等により業務プロセスなどを簡単に変えられないものもある。しかし、その枠の中でも少しの工夫で業務効率化や生産性向上につながることはあるはずだ。
 肝心なのは、目指すゴールは“働き方を変える〟ことではないということだ。神戸市の例を見ても分かるように働き方改革の神髄は〈業務プロセス改革〉ともいえる。その結果、生み出された時間やマンパワーを、より付加価値の高い住民サービスの提供、地域再生のためのイノベーション創出へとつなげていく──それぞれの市区町村が描く“将来像〟の実現へ根気強く取り組むことが求められているのである。

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