2018年10月号Vol.112

【トレンドビュー】講演要旨/我が事・丸ごとの相談支援体制構築へ

栃木県 栃木市 保健福祉部 地域包括ケア推進課 課長 首長(しゅなが)正博氏

 少子高齢化・人口減少社会が進む中、国は福祉改革の基本コンセプトに「地域共生社会」を掲げ、市区町村の努力義務として「総合的な相談支援体制の整備」を求め、2020~2025年をめどに全国へ拡大する方針を示している。これについてモデル団体として先行的に取り組んだ栃木市が、今夏、TASKクラウドフェアにおいて事例を紹介する講演を行った。

「福祉総合相談」は時代の要請

 近年、「8050問題」「ダブルケア」などさまざまな社会問題が表面化し、自治体にはこうした複合的な課題への十分な対応が求められている。いまや総合相談窓口は時代の要請となった。
 栃木市では04年度に福祉トータルサポートセンターを設置し、一貫した支援体制の構築に取り組んできた。そして、16~17年には厚生労働省の支援を受けて、総合相談窓口の構築に向けたモデル事業に取り組んだ。
 これには、いくつかの要因がある。
 第一が「複合的な課題を抱える世帯の増加」だ。特に栃木市は度重なる合併により市域が広く、身近な相談窓口の拡充が必要だった。
 第二が「相談機関の連携強化」だ。例えば、18歳未満は障がい児、18歳以上は障がい者、65歳以上は高齢者、という具合に年齢階層別に支援制度が分かれ、相談内容や支援経過が引き継がれないという現状がある。そこで制度の枠を超え、相談機関が連携してすべての世代・世帯が抱える複合的な問題を受け止める体制にしたいと考えた。
 第三が「福祉人材の効率的な活用」だ。市区町村の職員数は今後も減り続けていく。そのため一人一人の専門能力を高めるとともに、相談機関のさまざまな職種の人材がチームを組み、より適切な支援をしたいということだ。
 そこでモデル事業では、①相談支援機関の横断的な連携体制による包括的な支援②支援体制をコーディネートする相談支援包括化推進員の配置③既存の相談支援機関が、すべての相談を丸ごと受け止められるワンストップ窓口となる──ことを目指した。

具体的な取り組み

 現在、栃木市では地域包括支援センターなど12の相談機関を運営している。モデル事業では総合的な相談支援体制として、これらの相談機関をまとめる「栃木市福祉総合相談支援センター」を発足した。センターといっても機能のみで、正式な組織として実際に存在するものではない。しかし縦割り意識を変えるには強力なリーダーシップが必要であり、その“要”として仮想的にセンターを設置したわけだ。センター長は保健福祉部長が務めている。
 また、センターには「包括化推進員」として、それぞれの相談機関の連携をコーディネートする役割を担った市職員を配置した。
 センターでは毎月、各機関が集まり「相談支援包括化推進会議」を開催し、包括的な支援体制整備に向けた連携方法などを協議。加えて、「担当者個別会議」による個別ケースの支援調整や、各機関の管理者・実務者の研修企画なども行った。
 今回の事業の成果として、まずはそれぞれの機関の活動内容や制度への相互理解が進んだことが挙げられる。また、ケース検討会議などを通して相談支援機関職員の関係も深まったといえるだろう。実際、相談者に対するチーム支援も目に見えて増えていった。
 さらに困難なケースについてもまずは受け止め、包括化推進員を中心に相談機関が協力してチームで支援するという体制ができつつあるのは、何よりの収穫だったと感じている。

栃木市福祉総合相談支援センター

大切なのは「自治体の覚悟」

講演後も取り組みの詳細について活発な質疑応答が行われた

 一方で見えてきた課題もある。
 一つが、自治体や相談機関の意識改革だ。まずは職員全員が「我が事・丸ごと」の意識を持つことが大前提といえる。加えて、さらなる能力向上も欠かせない。そこには専門分野のスキルに限らず、ものを見る目や計画を立てる視点なども含まれるだろう。
 二つ目は「情報の共有」だ。現状、相談支援の記録などは相談機関が個別に保有しているが、総合相談窓口の構築にはリアルタイムな情報共有が必須で、情報システムの活用が欠かせない。そこで、栃木市ではTKCの協力を得ながら支援経過などの情報を一元管理・共有できるシステムを検討した。
 しかし、システムはあくまでも道具に過ぎない。重要なのは関係する職員全員が共通の目線で記録できるようにすることだ。そこで共通ルールを策定し、記録法などの研修も実施した。また、情報共有は便利な一方で情報漏えいのリスクも伴うことに注意が必要だ。そのためには利用者権限の設定など、システム利用上の運用ルールの検討も欠かせない。

◇   ◇   ◇

 地域共生社会の実現は時代の流れであり、もはや後戻りすることはない。われわれは前に進むしかないのだ。ならば何をすべきか早く考えた方がいいだろう。そのために何よりも大切なのは自治体が〝覚悟を決める〟ことだ。
 栃木市では、今回の成果を踏まえ推進組織の正式設置の検討を開始した。浮上した課題についても関係機関と引き続き考えていく計画だ。地域共生社会の実現へ、ぜひ皆さんとも協力していければと考えている。

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