更新日 2023.07.10
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 西山 実
令和5年度の税制改正で創設されたグローバル・ミニマム課税の導入の背景と計算の全体像を対話形式で解説します。
当コラムのポイント
- グローバル・ミニマム課税の導入背景と趣旨を理解できる
- 制度の全体像、対象者、課税額の計算の概要を理解できる
- 適用免除制度、申告の方法、情報提供の仕組みを理解できる
- 目次
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前回の記事 : 第1回 グローバル・ミニマム課税の導入趣旨と背景
今回は令和5年度の税制改正で創設されたグローバル・ミニマム課税の制度の全体像、対象者、課税の範囲について対話形式で解説します。
【場面紹介】
海外に多くの関連会社を持つ株式会社T(T社)の会議室。T社の経理財務部で税務30年のベテランK部長と部下で税務担当3年目のCさんが今回もグローバル・ミニマム課税について語り合っています。
1.グローバル・ミニマム課税の全体像
Cさん:前回の話で、令和5年度の税制改正で導入されたものが、OECDの合意ルールの第2の柱であるグローバル・ミニマム課税の一つである、所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)であることが理解できました。
国税庁のホームページを見ると「グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし」という資料が掲載されています。
「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が、日本でのこの税の正式な名称のようですね。
K部長:「グローバル・ミニマム課税」とカタカナにはせずに「国際最低課税」とされていることも含めて、創設されたばかりの税制なので聞き慣れない用語が多いよね。
「対象会計年度」という用語もこれまでにはないもので、ここでは「多国籍企業グループの最終親会社の連結財務諸表の作成にかかる期間」と定められている。この税制は令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用が開始されることになっているんだ。
2.グローバル・ミニマム課税の対象者
Cさん:納税義務者が「特定多国籍企業グループ等に属する内国法人」、課税の範囲が「各対象会計年度の国際最低課税額」であり、課される税が「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」とされています。ここで言う「特定多国籍企業グループ」とはどんなイメージですか?
K部長:定義が複雑なんだけれど、かいつまんで言うと、連結財務諸表に記載される企業グループに属する会社の所在地国が2か国以上ある場合で、対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち、2以上の対象会計年度の総収入金額が7億5000万ユーロ以上の多国籍企業グループとされているんだ。この他、支店などの恒久的施設が国外にある多国籍企業グループで同額の総収入金額があるものも含まれる。
Cさん:OECDのルールがユーロなのが理由なのでしょうけれど、日本の法律でユーロでの判定というのは、珍しいですよね。直近4年ということは、日本に最終親会社がある3月決算の多国籍企業グループの場合、令和3年3月期、令和4年3月期、令和5年3月期、令和6年3月期が判定対象となり、うち2以上の総収入金額が7億5000万ユーロ以上であれば、対象になるということですね。
K部長:3月が対象会計年度の場合には、現時点ですでに判定対象になる3つの対象会計年度が終了しているので、導入初年度から適用対象になると判定される企業もあることになるね。
3.グローバル・ミニマム課税の範囲
Cさん:課税の範囲である「各対象会計年度の国際最低課税額」はどんなイメージですか?
K部長:次の図解を見ると、課税される税額のイメージが理解しやすい。
Cさん:図の下の青く塗られた四角形は、子会社等が所在地国で支払う税金を示しているわけですね。例えば、子会社の所得が1000で現地の税率が5%の場合、現地の税金は50となります。そして国際的に合意された基準税率というものが15%と定められていて、この基準税率15%と現地税率5%との差の10%部分が課税対象となることがわかります。
でも図を見ると赤く括られた日本での課税部分の右隣に「実質ベースの所得除外額」とあります。これはどういう意味ですか?
K部長:現地税率を上回る部分を課税することから上乗せ課税(トップアップ課税)と呼ばれているのだけれど、課税の対象からは、有形資産と支払給与の一定割合を除外することになっている。海外の子会社等が物理的・人的に実態を十分に有していればいるほど、日本で課税される税額が減るという仕組みになっているんだ。
この一定割合とは、制度導入の初年度については、給与等の額の9.8%と有形資産等の額の7.8%を課税対象から控除することとされている。両方の率ともにその後9年間かけて、5%まで逓減していくことになっているんだよ。
Cさん:わが社には、低税率のS国に複数の子会社がありますが、「国際最低課税額」では個別の子会社ごとに計算することになりますか?
K部長:国別に計算をすることになる。課税の範囲となる「国際最低課税額」の計算には、いくつかのステップがあるんだけれど、第一要素として「当期国別国際最低課税額」を算出することになっている。
当期国別国際最低課税額=(国別グループ純所得の金額 - 実質ベースの所得除外額)×(15% - 国別実効税率)
「国別グループ純所得の金額」とは、その所在地国の全ての構成会社等の個別計算所得金額と損失金額の合算額になるんだ。
Cさん:まずは個別の会社ごとに所得計算をして、それを国別に合算するんですね。国別実効税率はどのように計算するんですか?
K部長:その国の法律に定められている税率を使うわけではなくて、次の算式を用いてその国に所在する構成会社の実際の税負担率を求めることになる。
分子の調整対象租税額が0を下回る場合には0として、その下回る額は翌対象会計年度以降に繰り越して控除することとされている。現地税制をしっかり調べておく必要があるね。
次回は、「各対象会計年度の国際最低課税額」についてさらに解説を進めていきます。
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