更新日 2017.02.27

平成28年度(平成29年3月期)税務申告の直前対策

第2回(最終回) 法人税申告(地方税含む)の直前対策(その2)

  • twitter
  • Facebook
TKC中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 鯨岡 健太郎

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 鯨岡 健太郎

今回の決算及び税務申告は、通常の年度税制改正に加え消費税率引上げ延期に伴う措置に係る税制改正法案の公布により当初予定されていた地方税の税率変更時期が見直されています。当コラムでは、平成29年3月期決算法人のための直前対策として、決算及び税務申告(法人税・地方税)、消費税に関する税制改正項目について解説します。

3.法人税申告(地方税含む)の直前対策(続き)

(3) 減価償却制度の見直し

 平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物及び鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物に限る)の減価償却の方法につき、定率法が廃止され、定額法又は生産高比例法により償却することとされました(下表参照)。

資産の区分 償却方法
改正前 改正後
建物附属設備及び構築物
(鉱業用のこれらの資産を除く)
定額法又は定率法 定額法
鉱業用減価償却資産
(建物、建物附属設備及び構築物に限る)
定額法、定率法
又は生産高比例法
定額法又は
生産高比例法

 この取扱いは事業年度にかかわらず適用されるため、3月決算法人以外の法人においても留意する必要があります。

 その他、今回の改正に関して留意すべき点は以下の通りです(鉱業用減価償却資産に関する記述は省略しています)。

  1. ①従来、定率法で償却している既存の建物附属設備等に対して、平成28年4月1日以後に資本的支出を行った場合、原則として、その資本的支出も定額法により償却することとなります。
  2. ②会計上、減価償却の方法を定率法から定額法に変更する場合、『会計基準等の改正に伴う会計方針の変更』として取り扱われ、償却方法を変更した旨及びその影響額を注記する必要があります(企業会計基準委員会 平成28年6月17日『平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い』)。
  3. ③今回の改正に伴い、既存の固定資産システムでの対応可否の確認、並びにグループ会社における償却方法の統一要否の検討が必要となる可能性もあります。
(4) 生産性向上設備投資促進税制の廃止

 生産性向上設備投資促進税制については、適用期限(平成28年3月31日)の到来をもって廃止されました。

(5) 地方創生応援税制(いわゆる企業版ふるさと納税)の創設

 青色申告法人である企業が、地方公共団体の行う「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に対して寄附を行う場合、その寄附金について、現行の損金算入措置に加えて法人事業税、法人住民税及び法人税の税額から控除する措置が設けられました。

 税額控除はまず地方税(事業税及び住民税)において考慮され、住民税で控除しきれない金額がある場合には、法人税額からも控除されます(措法42の12の2①、地法附則8の2の2①、9の2の2①、地方法人特別税等に関する暫定措置法2②)。

具体的な控除税額及び控除限度額は下表の通りです。

税目 控除税額 控除限度額
事業税 寄附金の合計額×10% 事業税額×20%(※)
※地方法人特別税廃止後は15%
住民税 寄附金の合計額×20%
  • 道府県民税 5%
  • 市町村民税 15%
法人税割額×20%
法人税 以下のいずれか少ない金額
  • 住民税で控除しきれなかった金額
  • 寄附金の合計額×10%
法人税額×5%
(6) 環境関連投資促進税制(いわゆるグリーン投資減税)の見直し

 以下の見直しを行った上で、適用期限が2年延長されました(措法42の5①②)。

  1. ①風力発電設備について即時償却を廃止
  2. ②対象資産について、太陽光発電設備を電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法の認定発電設備以外のものとする等の見直し(時価消費型の太陽光発電を支援)
  3. ③税額控除の対象資産から車両運搬具を除外
主な対象設備 方法 設備等の取得時期
改正前
H27.4.1~H28.3.31
改正後
H28.4.1~H30.3.31
  • 太陽光発電設備
    (改正後:内容見直し)
  • 風力発電設備
特別
償却
取得価額×30%
風力発電設備は即時償却可
取得価額×30%
風力発電設備の即時償却不可
  • バイオマス利用装置
  • 電気自動車
  • 電気自動車用急速充電設備
税額
控除
取得価額×7% 取得価額×7%
車両運搬具の税額控除不可
(7) 雇用促進税制の見直し

 適用範囲が見直され、雇用促進税制の対象となる増加雇用者は「同意雇用開発促進地域」内にある事業所における「無期雇用かつフルタイム」の雇用者の増加数に限定された上で、適用期限が2年延長されました(措法42の12①)。
 ここで「同意雇用開発促進地域」とは、雇用機会が著しく不足し、地域における就職が著しく困難な地域として、都道府県が策定した地域雇用開発計画について厚生労働大臣の同意を得た地域をいい、平成28年10月1日現在、28道府県82地域が該当します(厚生労働省「地域雇用開発促進法に基づく地域の要件と支援措置について(雇用開発促進地域一覧)」)。

 そして、雇用促進税制の適用範囲が限定されたことから、従来認められていなかった所得拡大促進税制との重複適用について、一定の調整計算を行った上で可能とされました。

(8) 役員給与税制の見直し

①事前確定届出給与の範囲の見直し
 役員給与として付与された一定の譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)について、事前確定の届出を不要とすることで損金算入対象となる給与に含まれることとなりました(法法34①二、法令69②)。
 この改正は、平成28年4月1日以後に交付決議されるものに適用され、同日前に交付決議されたものは対象外となりますので留意する必要があります。

②利益連動給与の見直し
利益連動給与の算定指標の定義が「利益に関する指標」から「利益の状況を示す指標」に改正され、その範囲にROE(自己資本利益率)その他の利益に関連する一定の指標が含まれることが明確化されました(法法34①三、法令69②)。
 この結果、例えば以下の指標を利益連動給与の算定指標として用いることが可能となります。

  • EBITDA(償却前・利払前・税引前利益)
  • ROA(総資産利益率)
  • ROE(自己資本利益率)
  • EPS(1株当たり純利益)等
  • 上記に係る確定値に対する増加額又は比率(前期比、計画比、同業他社比等)

 この改正は、平成28年4月1日以後開始事業年度より適用されます。

(9) 確定給付年金等掛金等の損金算入

 確定給付企業年金法の改正を前提として、確定給付企業年金等の掛金等の損金算入の対象に、次の確定給付企業年金の掛金等が加えられました。

  1. ①事業主が将来の財政悪化を想定して計画的に拠出する掛金(リスク対応掛金)
  2. ②事業主が拠出する掛金で給付増減調整により運用リスクを事業主と加入者とで分担する企業年金(リスク分担型DB)に係るもの

4.消費税申告の直前対策

(1) 電気通信利用役務提供に係る内外判定の見直し

 国外事業者により行われる「事業者向け電気通信利用役務の提供」に係る消費税の内外判定につき、本店所在地と異なる国の事業所で役務の提供を受ける場合について、下表の通り見直しが行われました(消法4④)。

【国外事業者⇒国外事業者】
(改正前)不課税
(改正後)国外事業者が国内の恒久的施設(PE)で受ける役務の提供は「課税」

【国外事業者⇒国内事業者】
(改正前)課税
(改正後)国内事業者が国外事業所等で受ける役務の提供は「不課税」

(2) 高額特定資産を取得した場合の特例

 課税事業者が簡易課税制度の適用を受けない課税期間において、「高額特定資産」(棚卸資産及び調整対象固定資産で1,000万円以上のもの)の仕入れを行った場合には、仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、その仕入れ等の日を含む課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間は、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることができないこととされました(消法12の4①、37③三)。

5.その他の改正

 加算税制度について以下の見直しが行われています。

(1) 事前通知以後の加算税の取扱い

 従来、税務調査の事前通知が行われた後であっても、更正又は決定があることを予知する前までの間に修正申告又は期限後申告が行われた場合には過少申告加算税が課されませんでしたが、今回の改正により、事前通知日以後は過少申告加算税が課せられることとなるとともに、無申告加算税についても5%上乗せされることとなりました(通法65①、66①)。

加算税の区分 改正前 改正後
過少申告加算税 本税×5%(10%)(*1)
無申告加算税 本税×5% 本税×10%(15%)(*2)

(*1) カッコ内の税率は、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分に適用されます
(*2) カッコ内の税率は、納付すべき税額のうち50万円を超える部分に適用されます

(2) 5年内に再び無申告加算税または重加算税を課せられた場合の税率上乗せ

 無申告税又は重加算税を賦課された者が、その後5年以内に再度、同じ税目において無申告加算税又は重加算税を賦課された場合には、その税率に10%上乗せされることとなりました(通法66④、68④)。

加算税の区分 改正前 改正後
無申告加算税 本税×15%(20%) 本税×25%(35%)(*3)
重加算税
過少申告加算税又は
不納付加算税に代わるもの
本税×35% 本税×45%
重加算税
無申告加算税に代わるもの
本税×40% 本税×50%

(*3) カッコ内の税率は、納付すべき税額のうち50万円を超える部分に適用されます

(3) 適用時期

 平成29年1月1日以後に法定納期限の到来する国税から適用されます。

プロフィール

税理士・公認会計士 鯨岡 健太郎(くじらおか けんたろう)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

ホームページURL
税理士法人ファシオ・コンサルティング

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。