注目の判例

刑法

2024.03.12
殺人被告事件(元警官妻子3人殺害事件) 
LEX/DB25573352/最高裁判所第三小法廷 令和 5年12月 8日 判決 (上告審)/令3年(あ)第1399号 
事件当時現職の警察官であった被告人が、自宅で、妻(当時38歳)、長男(当時9歳)及び長女(当時6歳)を、頚部圧迫又は絞頚により窒息死させて殺害したとして殺人の罪により、第1審判決は死刑に処し、原判決も死刑判決を維持したため、被告人が上告した事案において、被告人の刑事責任は極めて重大であるといわざるを得ず、前科前歴がないことなど、被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、やむを得ないものとして是認せざるを得ないとし、本件上告を棄却した事例。
2024.02.27
窃盗被告事件 
LEX/DB25597068/高松地方裁判所 令和 6年 1月23日 判決 (第一審)/令5年(わ)第276号 
被告人が、株式会社D社の店舗において、同店店長L管理の財布1個(販売価格8800円)を窃取したとして、懲役1年6月を求刑された事案で、本件全証拠によっても、不法領得の意思を合理的な疑いを超えて認めるに足りないというべきであって、本件公訴事実については犯罪の証明がないから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをした事例。
2024.02.13
強制わいせつ、建造物侵入、栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、窃盗被告事件 
LEX/DB25596585/横浜地方裁判所 令和 5年12月 6日 判決 (第一審)/令和4年(わ)第687号 等 
小学校教師であった被告人が、勤務先の小学校の女子児童に対して行った、強制わいせつ1件、窃盗1件並びに盗撮による児童ポルノ製造5件及び建造物侵入、迷惑防止条例違反1件の各犯行につき、懲役4年を求刑された事案において、被告人の責任は重いといわざるを得ないが、被告人が反省の弁を述べ、既に児童に関わる仕事からは離れていること、前科のないこと、被告人の罹患するADHDの本件各犯行への影響について否定まではできず、被告人が治療を受け続けると述べていることなどを考慮し、懲役3年、保護観察付きの執行猶予5年間を言い渡した事例。
2024.01.23
傷害致死被告事件 
LEX/DB25506588/東京地方裁判所 令和 5年 3月 1日 判決 (第一審)/令和3年(合わ)第99号 
被告人が、平成25年2月11日深夜、東京都内の集合住宅の自室で、テレビを見ていたが、隣室に居住するP1が自室のドアを激しくたたいたので、被告人がドアを開けたところ、P1が被告人の胸ぐら辺りをつかむなどして両者は争いになり、被告人は自分の怒りを抑えきれなくなり、被告人は、同日午前2時頃、2階廊下において、その場に仰向けになったP1(当時63歳)の上に馬乗りになり、同人の胸ぐらをつかんだ両手を上下に動かし、その両手を同人の胸ぐらに何度か押し当て、さらに、その脇腹などを拳で複数回殴るなどの暴行を加え、よって、同人に前胸部打撲による多発性肋骨骨折及び上腹部打撲による胆嚢の肝臓からの剥離の傷害を負わせ、同日午後1時43分頃、東京都墨田区の病院で、同人を前記傷害に基づく外傷性・出血性ショックにより死亡させたとして、傷害致死の罪で懲役6年を求刑された事案で、本件犯行当時心神耗弱の状態にあったとの疑いが残るが、心神喪失の状態にはなかったと認められるなどとして、懲役3年、5年間その刑の執行を猶予し、被告人には、社会内で適切な治療を受けながら更生する機会を与えることが相当であると判断した事例(裁判員裁判)。
2024.01.16
強盗殺人、死体遺棄被告事件 
LEX/DB25506587/大阪高等裁判所 令和 5年 5月23日 判決 (控訴審)/令和4年(う)第323号 
被告人が、〔1〕被害者P2(当時41歳)を殺害し、同人が代表取締役を務める株式会社P3に対する280万円の債務の返済を免れようと考え、令和2年1月22日午後7時51分頃から午後8時12分頃までの間、大阪市所在の同社において、殺意をもって包丁様の刃物を同人のけい部等に多数回突き刺すなどし、けい動脈切破により失血死させて殺害し、前記債務の返済を免れて財産上不法の利益を得(原判示第1)、〔2〕同月24日、兵庫県西宮市の竹林内にその死体を投棄して遺棄した(原判示第2)として、原判決は、弁論再開後に検察官が追加した本件債務の貸主をP3とする予備的訴因(主位的訴因は、貸主を被害者本人とするもの)に基づき、被告人が、P3に対する280万円の債務を免れる目的で、前記日時・場所・態様により被害者を殺害し、その死体を遺棄したと認定し、被告人を無期懲役に処したため、被告人が控訴した事案で、本件債務のうち230万円分について、被告人にその債務を免れる目的があったと認めた原判決の認定・判断は正当であり、また、被害者P2の妻である証人P4が本件契約を知らず、その具体的内容を把握している者がいなかったこと、同契約については、被害者の殺害によりその債務の履行請求が著しく困難になったことから、被告人が、同契約に係る債務の免除等と同程度の現実的利益を得たと認めた原判決の判断も正当であるとして、本件控訴を棄却した事例。
2024.01.09
過失運転致傷被告事件 
LEX/DB25596170/名古屋高等裁判所 令和 5年 9月 5日 判決 (第二次控訴審)/令和5年(う)第74号 
被告人が過失運転致傷の罪で起訴され、第1審が、事故態様について、本件交差点の東側に設置されている横断歩道を進行した被害者自転車が対向する歩行者を避けて本件交差点先の本件車道に進出し、本件車道左端を走行し、脇の雑草を避けようとしてハンドルを右に切ったところ、被害者自転車の右側と被告人車両の左側が接触したと認定したうえ、検察官が過失の前提として主張する回避可能性を認めるには合理的な疑いが残るから、被告人の過失は認められないとして無罪を言い渡したところ、検察官が控訴し、控訴審が、裁判所としては、検察官に対し、注意義務を課す根拠となる具体的事実、注意義務の内容、過失の態様を確認し、どの地点及び時点におけるどのような過失を問題としているのかを明確にするよう釈明を求め、過失内容を一義的なものとすべきであったのに、こうした措置を採らずに結論を導いた原審判決には訴訟手続の法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるとして、原審判決を破棄し、事件を当裁判所に差し戻した事案で、差し戻し後の第1審では、結果回避可能性があったとするには合理的な疑いが残り、また、予備的訴因については予見可能性がなく、いずれも過失があったとはいえないとして、被告人には無罪を言い渡されたが、控訴審では、被告人が前方を注視さえしていれば、被害者自転車が対面歩行者集団を避けるため車道上に進入したことに気付くと同時に、被害者自転車がそのまま車道を走行するであろうことを認識でき、本件車道の狭さから、被害者自転車を安全に追い抜くことはできず、そのまま走行すれば被害者自転車と接触し、あるいは衝突するおそれがあることも予見できたとして、原判決を破棄し、被告人を禁錮6月(執行猶予3年間)に処した事例。
2024.01.04
暴行、建造物損壊、器物損壊被告事件 
「新・判例解説Watch」刑法分野 令和6年2月中旬頃解説記事の掲載を予定しております
LEX/DB25596404/神戸地方裁判所 令和 5年11月27日 判決 (第一審)/令和4年(わ)第843号
被告人は、令和4年9月20日午前3時10分頃から同日午前3時16分頃までの間に、神戸市の被害者V1方で、被害者V1に対し、その左頬を手拳で殴打する暴行を加え(判示第1)、同日午前3時16分頃から同日午前3時22分頃までの間に、3階廊下で、同所に設置されたV2所有の消火器を噴射し、V2が所有する本件建物の3階廊下、壁面及び玄関扉等に消火剤を付着させて汚損(損害額4万8000円)するとともに、同消火器を使用不能にさせて損壊(損害額4300円)し、もって他人の建造物及び他人の物を損壊した(判示第2)として、懲役1年6月を求刑された事案において、被告人の本件行為は、器物損壊罪にいう「損壊」、建造物損壊罪にいう「損壊」に当たり、被告人には器物損壊及び建造物損壊の各罪が成立するとして、被告人を懲役1年2月に処した事例。
2023.12.26
軽犯罪法違反被告事件 
「新・判例解説Watch」刑法分野 令和6年2月中旬頃解説記事の掲載を予定しております
LEX/DB25596259/大阪高等裁判所 令和 5年 8月 1日 判決 (控訴審)/令和5年(う)第146号
大阪市内の路上で、自転車に乗って交差点の横断歩道で、赤信号を無視して横断したところを、警察官から現認され、職務質問を受け、路上に停止したパトカー内で、所持品検査を受けた際、肩に掛けていたかばんの、チャックで閉じている外ポケットの中に、大刃等を折り畳んだ状態の本件十徳ナイフ1本(刃体の長さ約6.8cm)を携帯していたとして、原判決が、軽犯罪法違反の罪で有罪としたため、被告人が控訴した事案で、弁護人の「隠して」に関する法令適用の誤り、事実誤認の主張について、被告人が、自己の意思により同ナイフを隠された状態にして携帯していた以上、軽犯罪法1条2号所定の「隠して」携帯したことに当たり、「隠すことについての積極的な意思」というものが、それ以上の何らかの主観的な要素を必要とするという趣旨であれば、根拠がなく、採用できないとし、「隠して」携帯したとの事実を認定し、同号を適用した原判決に、事実の誤認はなく、法令の適用の誤りもないなどとして、本件控訴を棄却した事例。
2023.12.19
公職選挙法違反被告事件 
LEX/DB25573164/最高裁判所第二小法廷 令和 5年11月20日 判決 (上告審)/令和5年(あ)第976号 
被告人が、第49回衆議院議員総選挙に際し、選挙運動期間前に35か所にわたって法定外選挙運動用文書を頒布した公職選挙法違反の事案で、第1審判決は、公職選挙法129条にいう「選挙運動」に当たるなどとして、原告を罰金30万円に処したため、被告人が控訴し、原判決は、本件行為のうち本件選挙はがきの宛名書きを含む推薦依頼の部分は、投票を依頼するのと同様の効果を目的として行われた、すなわち得票目的で行われた実質的な投票依頼行為であって、選挙運動に該当し、本件行為は全体として選挙運動に該当するなどとして、控訴を棄却したため、被告人が上告した事案において、弁護人らの上告趣意のうち、公職選挙法129条、142条1項の各規定について憲法21条、31条違反をいう点は、公職選挙法の上記各規定が憲法21条、31条に違反しないから、理由がなく、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとして、本件上告を棄却した事例。
2023.12.19
傷害被告事件 
LEX/DB25596304/大阪地方裁判所  令和 5年 1月17日 判決 (第一審)/令和3年(わ)第2757号 
被告人が、深夜、ビル5階の飲食店で、被害者(当時32歳)に対し、右手の拳骨でその左目付近を1回殴る暴行を加え、同人に通院加療約2か月間を要する左眼窩底骨折、左眼網膜震盪の傷害を負わせたとして、傷害の罪で懲役1年6月を求刑された事案において、被告人に殴られた旨の被害者証言は採用できず、被告人以外の者の行為によって被害者が傷害を負った可能性が否定できない上、被告人供述も排斥できないから、被告人が、被害者に暴行を加え上記傷害を負わせた犯人であると認めるには合理的な疑いが残るとして、本件公訴事実(訴因変更後)については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪を言渡した事例。
2023.12.12
各監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件 
LEX/DB25596133/松江地方裁判所 令和 5年 9月27日 判決 (第一審)/令和5年(わ)第32号 等
(第1)被告人両名は、共謀のうえ、被告人Aの長女であるBが18歳に満たない児童であることを知りながら、29回にわたり、Bにその乳房又は陰部を露出した姿態をとらせ、被告人Aが、これらを撮影したうえ、各静止画データ合計29点をそれぞれ保存し、もって児童ポルノを製造し、(第2)被告人Aは、Bを現に監護する者、被告人aは、被告人Aの交際相手であるが、被告人両名は、共謀のうえ、Bが18歳未満の者であることを知りながら、被告人aがBと性交をすることを企て、被告人A方において、同人がBを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、被告人aがBと性交をし、(第3)被告人aは、前記被告人A方において、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態の静止画データ66点を記録した児童ポルノである携帯電話機1台を所持したとして、被告人両名が、各監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反の罪で、被告人aにつき懲役9年、被告人Aにつき懲役6年を求刑された事案で、Bが被った身体的、精神的苦痛は多大であり、本件事案の性質上、被告人Aの精神障害等について、情状面で考慮するほどの各犯行への影響はなかったと認められるところ、被告人aの刑事責任は重大であり、被告人Aの刑事責任は、被告人aほどではないが相応に重いとしたうえで、被告人両名にはさしたる前科がないこと、被告人aについて、Bに対し300万円の被害弁償を行い、反省の言葉を述べていること、母親が更正に協力する旨証言していること、被告人Aについて、Bが重い処罰を求めているとまではいえないこと、反省の言葉を述べ、更生環境の整備に着手しつつあること等の各被告人に有利な事情があるが、被告人両名のいずれについても酌量減軽をすることは相当ではないとして、被告人aを懲役6年に、被告人Aを懲役5年に処した事例。
2023.11.28
監禁、恐喝未遂被告事件 
LEX/DB25506585/大阪高等裁判所 令和 5年 8月25日 判決 (控訴審)/令和4年(う)第446号
被告人が、〔1〕令和3年7月28日午前9時31分頃から30分弱にわたり、b(当時18歳)を兵庫県姫路市内の路上に駐車中の自動車(c車両)のトランク内に閉じ込め、あるいは、トランクから外に出たbを同車両のボンネット上に乗せた状態でcをして同車両を発進、走行させるなどして、bを同車両内から脱出することを不能にして、不法に監禁し、〔2〕〔1〕の犯行によりbが被告人を畏怖しているのに乗じ、bがc車両のボンネット上に乗った際に、同車両に傷がついたことに因縁をつけてbから現金を喝取しようと考え、同日午前10時46分頃から同日午後1時14分頃までの間に、走行中のc車両内において、bに対し、「3日以内に修理するんやったら、俺のところで修理したるから、今日中に17万円用意しろ。」などと申し向けて現金の交付を要求したが、同人が知人に相談するなどしたため、その目的を遂げなかったとして、原判決は、具体的な恐喝文言を一部変更するなどしつつも、各公訴事実とおおむね同旨の原判示第1及び第2の各事実を認定し、被告人を有罪とした上、被告人を懲役1年10月の実刑に処したたため、被告人の弁護人が事実誤認、量刑不当及び法令適用の誤りの主張して控訴した事案で、本件各公訴事実に沿うb及びcの各証言は少なくとも信用性に疑問が残る上、これら証言以外に本件各公訴事実を認めるに足る証拠はない一方、本件各公訴事実を争う被告人供述の信用性は排斥することができず、本件については、犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法336条により被告人に対し、無罪を言渡した事例。
2023.11.21
宅地建物取引業法違反被告事件 
LEX/DB25573110/最高裁判所第一小法廷 令和 5年10月16日 決定 (上告審)/令和3年(あ)第1752号
検察官は、第1審において、「被告人は、免許を受けないで、」とあるのを、「被告人は、株式会社Aの代表取締役であるが、同会社の業務に関し、免許を受けないで、」に改める旨の訴因変更を請求し、第1審裁判所はこれを許可して変更後の訴因に係る事実を認定したもので、変更前と変更後の両訴因は、被告人が、個人として宅地建物取引業を営んだのか、法人の業務に関し法人の代表者としてこれを営んだのかに違いはあるが、被告人を行為者とした同一の建物賃貸借契約を媒介する行為を内容とするものである点で事実が共通しており、両立しない関係にあるものであって、基本的事実関係において同一であるとして、両訴因の間に公訴事実の同一性を認めて訴因変更を許可した第1審の訴訟手続に法令違反はなく、第1審判決を維持した原判決は正当であるとし、本件上告を棄却した事例。
2023.11.14
窃盗被告事件 
「新・判例解説Watch」刑法分野 令和6年1月中旬頃解説記事の掲載を予定しております
LEX/DB25596115/東京高等裁判所 令和 4年12月13日 判決 (差戻控訴審)/令和3年(う)第1581号
被告人が、スーパーマーケットで、店長管理の大葉2束等10点(販売価格合計1614円)を窃取したとして起訴され、原判決は、被告人が、本件犯行時、心神耗弱の状態にあったと認めるのが相当であると判断した上で、被告人を懲役4月に処したため、検察官が控訴し、心神耗弱を認定した原判決の判断には事実誤認がある旨を主張したことに対し、控訴審判決は、被告人が、本件犯行時、窃盗症にり患していたとしても、犯行状況からは自己の行動を相当程度制御する能力を保持していたといえるのであり、行動制御能力が著しく減退してはいなかったといえるから、被告人は完全責任能力を有していたと認められ、被告人は重症の窃盗症により心神耗弱の状態にあったとした原判決の認定は論理則、経験則等に照らして不合理であるとして、事実誤認を理由に原判決を破棄し、完全責任能力を認めた上で、被告人を懲役10月に処したため、弁護人が上告した。上告審判決は、弁護人の上告趣意はいずれも刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとした上で、職権判断により、控訴審判決を破棄し、本件を高等裁判所に差し戻した。その後の差戻控訴審判決の事案で、被告人は、本件犯行時に重症の窃盗症の影響により、行動制御能力は著しく減退していた合理的疑いが残るとして、心神耗弱の状態にあったと認定した原判決の判断は、論理則、経験則等に照らして不合理であって、事実誤認があるといわざるを得ず、この誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるとし、検察官の論旨には理由があり、原判決を破棄し、本件犯行の背景には、被告人が、当時、重症の窃盗症にり患し、窃盗の衝動性は強かったものと認められることを十分考慮しても、被告人の刑事責任は決して軽視することはできない一方で、被告人は、以前から、家族の協力を得ながら窃盗症の専門的治療を受けるなどしており、最終的には本件犯行に至ったものの、被告人なりに再犯防止に努めてきたこと、被告人が現行犯逮捕されたためとはいえ、被害品が全て被害店に還付されていること、本件犯行は確定裁判前の余罪に当たることなど、被告人のために酌むべき事情も認められるとして、被告人に対し、懲役8月に処するのが相当であると判断した事例。
2023.11.07
ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件 
LEX/DB25596007/東京高等裁判所 令和 5年 9月20日 判決 (控訴審)/令和4年(う)第1538号
被告人が、Aに対する恋愛感情その他の好意の感情を充足する目的で、Aから拒まれたにもかかわらず、令和3年7月4日頃から同月29日頃までの間、11回にわたり、A方宛てに、愛しているなどと記載されたはがき合計11通を発送し、同月5日頃から同月30日頃までの間、これらをA方に到達させ、その頃、これらをAに閲覧させ、連続して文書を送付し、もってAに対し、つきまとい等を反復して行い、ストーカー行為をしたとして、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反の罪で起訴され、原審が犯罪の事実を認定したところ、被告人が控訴した事案で、原判決の「罪となるべき事実」においては、はがき合計11通の各送付行為について、1つの「連続して」行った行為であると認定したのか、各行為間の日数の多寡等を踏まえて、複数の「連続して」行った行為であると認定したのかが判然とせず、仮に前者であれば、「ストーカー行為」の判断に必要な複数の「つきまとい等」、すなわち、構成要件に該当する事実を認定していないことになるし、後者であるとしても、個々の「つきまとい等」の内容を明確に区別して示しておらず、「罪となるべき事実」の認定として不十分であるところ、原判決は、「罪となるべき事実」において、「反復して」行うことが必要な複数の「つきまとい等」の個々の内容を明示していないといわざるを得ず、「ストーカー行為」に該当する具体的事実の記載を欠いており、この点において、原判決には理由不備の違法があるとして、原判決を破棄し、本件を地方裁判所に差し戻した事例。
2023.11.07
殺人、生命身体加害略取、逮捕監禁致死、逮捕監禁被告事件(遺体なき殺人事件) 
LEX/DB25573085/最高裁判所第二小法廷 令和 5年 7月 3日 判決 (上告審)/令和3年(あ)第855号
被告人が、いずれも共犯者の指示を受け、約2年の間に、殺人2件、逮捕監禁致死・生命身体加害略取1件、逮捕監禁2件の各犯罪を、時に並行しながら、連続的に犯したとする、殺人、生命身体加害略取、逮捕監禁致死、逮捕監禁の罪で起訴され、第1審判決は、被告人に死刑を言い渡したため、被告人が控訴し、原判決も控訴を棄却したため、被告人が上告した事案において、被告人は、首謀者である共犯者の犯行計画に沿った準備や他の共犯者への指示等を中心となって行い、また、各殺人の実行行為やA及びCの遺体の焼却処分は専ら被告人が担ったものであるとし、本件各犯行を立案し、被告人らに実行させた首謀者は別の共犯者であることを踏まえても、被告人は、首謀者の共犯者の指示の下で動く実行役の中では中核的な存在で、その果たした役割は重要かつ不可欠なものであり、被告人の刑事責任は極めて重大であるとして、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、やむを得ないものとして、本件上告を棄却した事例。
2023.10.31
住居侵入、殺人、死体遺棄被告事件 
LEX/DB25573097/最高裁判所第一小法廷 令和 5年10月11日 決定 (第二次上告審)/令和4年(あ)第655号
被告人が、A及びBを殺害する目的で、両名方に侵入し、A及びBをいずれも頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上、両名の死体を遺棄したとして起訴され、第1次第1審判決は、被告人が各殺人及び死体遺棄の犯人であると認定する一方、侵入時にはAを殺害する目的を有していたにとどまり、Bを殺害する目的もあったとは認められないとした上で、被告人を懲役23年に処したため、検察官及び被告人の双方が控訴し、検察官はB殺害の計画性等に関する事実誤認及び量刑不当を、被告人は訴訟手続の法令違反及び被告人の犯人性に関する事実誤認をそれぞれ主張したところ、第1次控訴審判決は、検察官の事実誤認の控訴趣意並びに被告人の訴訟手続の法令違反及び事実誤認の控訴趣意をいずれも排斥した上で,第1次第1審判決は、不適切な量刑資料を用いたため、量刑傾向の把握を誤り、その結果、不合理な量刑判断をしたものであって、検察官の量刑不当の控訴趣意はこの限度で理由があるとして、同判決を破棄し、事件を第1審裁判所に差戻しを命じたため、被告人が上告の申立てをしたが上告棄却の決定がされた。差戻後の第2次第1審判決は、第1次控訴審判決の拘束力が、量刑に関する消極的否定的判断に加えて、少なくとも犯人性に関する判断に及んでいるとの見解に立って審理を行い、量刑判断の論理的前提となっている各殺人及び死体遺棄の犯人性について第1次控訴審判決の拘束力が及んでいるから、これに抵触する判断は許されないと判示した上で、被告人が、Aを殺害する目的で、A及びB方に侵入し、、A及びBをいずれも頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上、両名の死体を遺棄したとの事実を認定し、被告人を無期懲役に処した。これに対し、被告人が控訴し、法令適用の誤り、訴訟手続の法令違反、量刑不当を主張し、原判決(第2次第一審判決)は、第1次控訴審判決の拘束力について、同判決は、第1次第1審判決の量刑判断が不合理であるとしてこれを破棄しているところ、被告人が各殺人及び死体遺棄の犯人であるなどとした第1次第1審判決に事実誤認がないという判断部分についても、上記破棄の判断の論理的な前提となっている以上、当然に拘束力を有するものと解され、第2次第1審判決の判断に不相当なところはないなどと判示して、控訴を棄却したため、被告人が上告した事案で、第1審判決について、被告人の犯人性を認定した点に事実誤認はないと判断した上で、量刑不当を理由としてこれを破棄し、事件を第1審裁判所に差し戻した控訴審判決は、第1審判決を破棄すべき理由となった量刑不当の点のみならず、刑の量定の前提として被告人の犯人性を認定した同判決に事実誤認はないとした点においても、その事件について下級審の裁判所を拘束するとし、同旨の原判断は正当であるとして、本件上告を棄却した事例。
2023.10.10
わいせつ電磁的記録等送信頒布被告事件  
LEX/DB25573074/最高裁判所第一小法廷 令和 5年 9月26日 決定 (上告審)/令和4年(あ)第1407号 
刑法175条1項の規定が、憲法21条1項に違反するものでないことは、当裁判所の累次の判例(最高裁昭和28年(あ)第1713号同32年3月13日大法廷判決・刑集11巻3号997頁、最高裁昭和39年(あ)第305号同44年10月15日大法廷判決・刑集23巻10号1239頁等参照)により極めて明らかであり、刑法175条1項にいう「わいせつ」の概念は、所論のように不明確であるとはいえないから、いずれも前提を欠き、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとして、本件上告を棄却した事例。
2023.10.03
傷害致死、傷害、証拠隠滅教唆被告事件  
LEX/DB25573051/最高裁判所第一小法廷 令和 5年 9月13日 決定 (上告審)/令和5年(あ)第134号 
犯人が他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させたときは、刑法104条の証拠隠滅罪の教唆犯が成立すると解するのが相当であり、被告人について同罪の教唆犯の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当であるとした事例(反対意見がある)。
2023.09.26
入院決定に対する抗告申立事件  
LEX/DB25595824/名古屋高等裁判所金沢支部 令和 5年 8月 8日 決定 (抗告審)/令和5年(医ほ)第2号 
対象者が、道路で普通乗用自動車を運転中、大麻使用による幻覚、妄想から、普通自動二輪車の運転手は悪魔であると思い込み、そのまま進めば同車に衝突することを認識したうえで自車前部を上記二輪車後部に衝突させ、同車もろとも上記運転手を路上に転倒させて、同運転手に全治約3か月を要する見込みの傷害を負わせたことについて、原審が、本件行為は刑法204条に規定する傷害の行為に当たる旨判断し、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律に基づき、本件対象者に対し入院決定をしたところ、これに対し抗告がされた事案で、原決定が最高裁決定(最高裁平成20年(医へ)第1号同年6月18日第三小法廷決定・刑集62巻6号1812頁)の示した判断手法を採用した点に誤りはなく、さらに、その判断方法に則り、本件対象行為が傷害行為に当たるとした原決定の認定、判断にも、論理則、経験則等に照らして不合理なところはないとして、本件抗告を棄却した事例。