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院長先生の税務相談(20) 「事業税の基礎知識」

 事業税は地方税法に基づいて、都道府県の課税条例により、事業に対して課される税金です。個人の事業に課すものを「個人事業税」、法人の事業に課すものを「法人事業税」といいます。都道府県により税率が異なる場合がありますので注意が必要です。

Q1    事業税の特色を教えてください。

A1     事業税は、個人または法人が行う事業に対し、その事務所などがある都道府県が課す地方税です。事業税には、以下のような特色があります。

1.応益負担の原則
 都道府県が提供するサービス(道路・学校・警察・防災・環境保全・公共衛生施設の利用)に対しての応益負担として課税されます。

2.事業そのものに「経済価値収得の力」があると考える
 法人税や所得税などの人税と異なり、事業そのものに経済価値収得の力があると考えて課税されます。

3.「経費」から算出する
 所得税や法人税、道府県民税、市町村民税などの利潤に基づいて支払われる税金に対し、事業税は経費から算出する(経費・損金になる)税金です。

4.事業規模または活動量に応じて課税
 事業税とは本来、外形標準的なものが適当と考えられており、一部の法人事業者と、資本金額や出資金額が1億円以上の法人(外形標準課税制度)で実施されています。医療法人は特別法人に該当(地方税法72条)するため、適用されません。
5.道府県により税率が異なる枠法である
 標準税率は地方税法によって定められていますが、都道府県はそれぞれの課税条例で、その税率を変更(制限税率)できます。制限税率は標準税率の1.2倍までとなっています。

Q2    個人事業者にも事業税が課せられるのですか。

A2     個人事業者も個人事業税として課税されることになりますが、事業種目によって次のように区分されています。
【対象となる事業】
(1)第1種事業…税率5%
 物品販売業、不動産貸付業、飲食店業、印刷業、駐車場業、請負事業など37業種

(2)第2種事業…税率4%
 畜産業、水産業など3業種

(3)第3種事業…税率5%または3%
ア. 5%:医業、歯科医業、税理士業、公認会計士業など28業種
イ. 3%:助産師業、あんま、はり、きゅうなど3業種

Q3    個人事業税額はどのように計算すればよいのですか。

A3     たとえば、総収入額600万円、必要経費300万円のクリニックの場合、個人事業税は次のように計算します。

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(1)事業主控除
 すべての事業を行う個人について、290万円の事業主控除があります。しかし、新規開業などで、事業を行った期間が1年に満たない場合は、月割で控除額を算出します。

(例)7月1日にクリニックを新規開業したケース
 290万円× (6か月÷12か月)=145万円
     
(2)青色事業専従者控除
 事業を行う個人と生計を一にする親族で、専らその個人の事業に従事する場合、次の要件を満たしていれば、青色事業専従者控除を適用することができます。

ア.「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄の税務署長に提出している場合、その届け出た金額の範囲内で、全額経費に算入することができます。

イ.「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していない場合でも、個人事業税の申告を行っている場合は、全額経費に算入することができます。

(3)白色事業専従者控除
 一定の要件を満たした事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、その他の場合は、専従者1人につき50万円の控除を受けることができます。

 青色・白色申告の場合、届出により必要経費に算入することができますが、措置法26条で規定されている概算経費率を適用したほうが有利になるケースもあります。自由診療割合により、どちらが有利になるかを比較検討する必要があります。

Q4     所得を計算する上での特例はありますか。

A4     社会保険診療所得の特例があります。
 医業、歯科医業、薬剤師業、助産師業、あんま、マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整体、その他の医業に類する事業を行う者の個人事業税の算出にあたっては、社会保険診療に係る収入や必要経費をすべて除外して算定します。つまり、自由診療分の所得に対してのみ、「Q3」で示した算定式などが適用されることになります。これは、社会保険診療を保護するために、その負担の軽減を図る趣旨によるものです。 

Q5    医療法人の事業税は、どのように計算すればよいのですか。

A5     医療法人は事業税法上、特別法人として軽減税率が適用され、自由診療分の所得に対してのみ、法人事業税が課せられます。
(1)計算式〔課税所得×税率〕
ア.社会保険診療に係る収入金額とそれ以外の収入を明確に区分(経費配分方式)

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イ.区分するのが困難な場合(所得配分方式)

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(2)医療法人は特例法人として軽減税率を適用

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(3)「経費配分方式」と「所得分配方式」
 所得配分方式で計算したほうが有利になることが多いのですが、共通経費が大きい場合は、経費配分方式のほうが、税額が少なくなる場合もあります。どちらが有利になるかを判別することは難しいため、選択時にはシミュレーションを行う必要があります。

Q6    個人・法人事業税の申告などはいつまでに行えばよいのですか。

A6     個人事業税の納税義務者は、前年中の事業所得を毎年3月15日までに提出することになっています。2つ以上の都道府県に事務所を置く場合は、主たる事務所のある都道府県知事に対して申告することになります。所得税の確定申告書を提出した場合は、事業税の申告がなされたとみなされます。納期は8月および11月の年2回で納付します。金額が一定額以下の場合は、いずれかの納期にまとめて納めます。

 法人事業税は事業年度終了後2か月以内に申告・納付します。2つ以上の都道府県に事務所を置く場合は、従業員数などによって都道府県ごとに所得金額等を按分して計算した金額を納めます。 

(医業経営コンサルタント 税理士 中戸 勝/「TKC医業経営情報」2007年5月号より)