会計・税務

院長先生がおさえておきたい消費税の基本①

医療と消費税問題の基本をしっかり確認しよう!

TKC医会研 消費税法改正対応プロジェクト リーダー 船本智睦 

 2019年10月1日に消費税が「8%」から「10%」に引き上げられることになりました。今回の増税はクリニック経営にどのような影響を及ぼすのでしょうか。院長先生にはどのような対応策が求められるのでしょうか。今号から2回にわたり、これまで議論されてきた消費税問題や、院長先生に理解していただきたい医療機関の消費税の仕組みの基本をわかりやすくQ&A形式で説明していきます。今号のテーマは、「医療に関わる消費税問題」です。

医療における消費税の問題とは?

Q

これまで医療と消費税については、さまざまなところで議論がされてきたようですが、そもそも何が問題になっているのでしょうか?

 

A

本来、消費税というのは、事業者ではなく最終的な消費者が負担する仕組みになっています。しかし、医療機関等が提供する社会保険診療や介護保険サービス等は、社会政策的な配慮から「非課税取引」とされているため、医薬品や医療材料、医療機器等を購入する際に納入業者に支払った消費税は、患者等に転嫁することができず、医療機関等が最終的に負担してきた実態があります。これを「控除対象外消費税」と呼んでいます。

この「控除対象外消費税」は、消費税の税率が上がったり、物価の上昇などにともない負担も大きくなります。そこで国は、1989年の消費税3%が導入された当時から、「控除対象外消費税」の負担分を診療報酬に上乗せする形で補塡してきた背景があります。

ところが、実際の「控除対象外消費税」の負担の大小は、医療機関等の規模や診療科によって課税仕入の割合が異なるためそれぞれ違います。そうしたなかで、診療報酬により一律に補塡するという対応では、公平性に欠けるという側面がありました。

医療機関等の「控除対象外消費税」の負担分に対応するためには、どういう仕組みにするのがよいのか、これまでいろいろなところで議論されてきたのです。

 

「控除対象外消費税」が発生する仕組みとは?

Q

「控除対象外消費税」が医療機関の大きな負担になっていたということですが、その仕組みがわかりにくいのですが。

 

A

まずは、小売業者の事例で考えてみましょう。たとえば、商品A5万円で仕入れる場合に支払う消費税額(8%の場合)は4,000円となります。そして、その商品A7万円で販売する場合に、お客様から受け取る消費税額は5,600円です。

消費税というのは、売上に係る消費税額(この場合は5,600円)から仕入に係る消費税額(この場合は4,000円)を引き、その差額(この場合は1,600円)を税務署に納税する仕組みになっています。この控除する仕入れにかかる費用を「仕入税額控除」といいます。つまり、消費税は損益には影響が出ないことを想定されています。

それでは、医療機関の事例ではどうなるでしょうか。医薬品や医療機器等を仕入れる際に消費税を支払います。しかし、社会保険診療等は非課税であるため「仕入税額控除」ができず、そのままコストになります。これが「控除対象外消費税」が発生しているということです。

ちなみに上記の小売業者の事例を、そのまま医療機関に置き換えてみると、たとえば、5万円で仕入れた医療用備品に対して支払う消費税額は4,000円です。この医療用備品を7万円で患者に提供したとしても、小売業者のように5,600円の消費税を受け取ることはできません。仕入にかかった消費税分4,000円がそのままコストとなります。つまり、医療機関の場合は消費税が損益に影響を及ぼすことになります。

 

診療報酬による補塡の状況は?

Q

医療機関における消費税の負担の仕組みは理解できました。確かに診療科によっては大きな負担になっているかもしれません。でも、だからこそ、これまで診療報酬等でその負担分が補塡されてきたということですよね。

 

A

そうですね。1989年の消費税が導入(3%)された時、1997年の5%への引き上げ時、2014年の8%への引き上げ時に、それぞれ診療報酬改定で「控除対象外消費税」の負担分は一律に補塡されてきました。それを図示すると次のとおりです。

そして、今年10月の10%への増税時においても診療報酬改定で対応することになっています。

ただし、2018年度診療報酬改定において、医療機関等の種類別の補塡の過不足が判明したため、2014年度改定における消費税対応分は一旦、白紙に戻し、消費税率5%時の対応をベースに、下図のとおり消費税率10%に対応する診療報酬の引き上げを今年10月に実施する予定です。

引き上げ項目は、2014年度と同じように初・再診料や入院基本料などの「基本診療料」が中心です。また、これらに加えて、医療機関の種類別の補塡の過不足を是正するために、①基礎データの精緻化(NDBの活用等)、②医療機関等の分類の精緻化、③医業収益に占める入院料のシェアの勘案、④診療所と病院との財源配分の調整――といった改善も進められる予定となっています。

 

診療報酬による補塡での対応の課題とは?

Q

これまで医療と消費税の問題については議論が進められてきたということですが、結局、今回の消費税10%への引き上げに対しても、診療報酬での補塡という形で対応されることになったわけですね。

 

A

そのとおりです。ただ、診療報酬での補塡での対応については引き続き議論が必要だと考えています。ご存じのとおり診療報酬というのは、2年に1回、改定されますが、度重なるマイナス改定や算定項目の「廃止」「包括化」などの影響で、これまでの消費税対応は、事実上、消滅していると言われています。また、補塡方式は、消費税負担相当額を医療費に上乗せするので、結果として患者や保険者の負担を大きくします。そうなると、患者に対して消費税を課さないという本来の意味からも外れることになるともいえます。

そうしたなか消費税負担の新たな対応策、軽減策としては、①診療報酬を課税化して軽減税率を適用、②診療報酬を非課税として消費税負担相当分を還付・返還――ということが考えられます。ただ、こうした対応策についても多くの問題点があることは確かです。

今後、少子高齢社会の進展によりさらに消費税率が引き上げられることも考えられます。今回は、従来どおり診療報酬での補塡で対応されますが、今後も継続的に医療と消費税問題の解決策については議論を進めていかなければならないと考えています。

 

※次号では、医療における消費税の基本的な仕組みと増税 前の対応について解説します。

(「TKC医業経営情報」2019年5月号より)

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