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病医院訪問・MX活用事例 医療と経営を分離し組織化 将来の分院展開を目指す

医療法人社団日敏会浜野長嶋内科 

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理事長・院長 長嶋理晴(ながしま・まさはる)/写真左

経営企画室 室長 山田 智(やまだ・とも)/写真右

浜野長嶋内科(千葉市中央区)は、3人の常勤医を抱え、地域に寄り添った医療を提供する。理事長・院長の長嶋理晴氏は、開業医の父の急逝により突然承継することになったが、患者のための医療を展開し信頼を獲得。医療と経営を分離し、クリニックの組織化を進め今後、分院の開業を目指す。長嶋理晴理事長・院長と経営企画室の山田智氏にクリニック経営についてうかがった。

DATA医療法人社団日敏会浜野長嶋内科img_b0291_02.jpg

所在地千葉県千葉市中央区浜野町906
TEL:043-266-2788
https://h-nagashima-cl.com/
診療科目

内科・小児科・呼吸器内科・アレルギー科
・糖尿病代謝内科

診療時間平日 9:00~12:00・15:00~18:00
土曜 9:00~12:00
スタッフ看護師:10名、事務員:10名

「来院患者はすべて診る」のもと 地域に寄り添った医療を提供

――待合室には多くの子どもがいらっしゃいました。

長嶋理事長・院長(以下、長嶋) JR浜野駅の周辺には小児科診療所がないものですから、小児の方もいらっしゃるのです。

山田経営企画室室長(以下、山田) 季節的なもので、今は感染症が流行していて半数が小児の患者さんです。全体として小児の割合は2割ぐらいです。

長嶋 従来は高齢者の患者さんが多かったのですが、最近は小児だけでなく働き盛りの方の生活習慣病なども広く診るようになっています。来院患者さんのエリアが隣駅の蘇我や八幡宿あたりまで広がっています。

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飛沫防止カーテンで観戦対策を施す受付


――それには何か理由があるのでしょうか。

長嶋 特別なことをしているという自覚はないので、口コミ以外はあり得ません。新型コロナで患者制限をしたり、発熱外来をしないクリニックもありましたが、当院は従来同様に来院した患者さんはすべて診るというスタンスをコロナ禍でもとり続けてきました。もちろん発熱外来やコロナワクチンの予防接種なども積極的に行ってきました。そういう対応が実を結んでいるのではないかと思っています。

山田 近年は若いファミリー層が増えてきていますので、お母さま方の口コミを狙った取り組みとして、インフルエンザの予防接種の料金を安めに設定しました。保育園や幼稚園に通っているお母さん同士のつながりは強いので、そこでの口コミは大きいです

――1日の患者数はどれぐらいになるのでしょうか。

山田 昨年実績で86人でしたが、今は95人ぐらいに増えています。

――在宅療養支援診療所でもありますが、訪問の患者さんはどれくらいなのでしょうか。

長嶋 どんどん増えていて80~90人ぐらいになります。3名の常勤医で対応しています。地域に寄り添った医療提供というのが基本となりますので、外来がメインで、サルコペニアやフレイルなどの通院が困難になった患者さんを訪問診療するというスタンスです。

「父の医院を守る」から、患者の望む医療の展開で拡大へ

――クリニックは承継開業とのことですね。

長嶋 もともとは1989年に父が開業し、私が継いだのは2011年です。東日本大震災の直後に父が大動脈解離で急逝したため、慌てて戻って承継しました。いずれはクリニックを継ごうと考えていましたが、当時は医者になって8年目ぐらいの33歳という若さ、父もまだ60歳でした。

――あまりに突然で、承継の準備などもしていなかったのではありませんか。

長嶋 私もまだ若輩でしたので、父のような信頼感は与えられないが、とにかく父の医院を守るという思いでした。そのうち2年目、3年目になってくると患者さんも増えてくるし、自分のカラーを出したいと思うようになってきました。訪問が必要な患者さんもいる。患者さんが望む診療をしてあげたいと思うようになってきて、それを実現するには医師1人ではできない。そうやって患者さんの要望に応えられるようにしてきて、今の体制になっています。

――医師を増やすのは、大変だったと思いますが。

長嶋 これに関しては運とタイミングだと思います。増員した医師は大学の後輩で、ちょうど今後について悩んでいたときでした。そういう偶然が重なってすぐに増員できたのです。3人目の医師を連れてくるのにそれから10年かかり、昨年ようやく実現できたので、今更ながら本当にラッキーだったと思います。

――患者さんが増えていたところに、もう1人医師が増えるとさらに患者さんは増えていくわけですね。

長嶋 自分がよいサービスをしていると患者さんが増えていって、それで満杯になってもそのままの状態ではサービスの質が落ちてしまい、患者さんの心が離れてしまいます。けれどもそこにもう1人、自分と同じようなクオリティの診療を提供できる医師を増やすことができれば、同じように患者さんが入ってきて経営としてはより安定します。患者評価というのはプラスかマイナスしかなく、プラスのうちに次の施策を提供できることが経営にとっては大事なのだと思います。

――運がよかったとはいえ、タイミングよく医師を増やすことができたのは大きかったですね。訪問診療について抵抗などはなかったのですか。

長嶋 父の患者さんなので引き継いだときには高齢の人が多く、抵抗というより通院のできない患者さんに訪問診療しなければならないとの思いのほうが強かったです。それに、医局に所属していた当時のアルバイト先で訪問診療も経験していましたから。

医療と経営の分離でクリニックの組織化を進める

――現在、経営企画室を設け、医療と経営を分離されていらっしゃいます。経営企画室はどのような職務を行っているのでしょうか。

山田 実務としては総務に近いことをやっております。会計や給与支払など経理的なことから、職員の面談などの人事的なこと、部品調達、消耗品の購入の交渉などの購買管理、院長と経営についての相談など多岐にわたり、いわば「何でも屋さん」ですね。けれどもそれでいいのだと思っています。医療機関というのはどうしても専門職の人ばかりで横串を通す人がいません。その隙間を埋める人が必要です。

長嶋 クリニックを引き継いで5~6年目に山田(経営企画室室長)をスカウトしたのですが、私自身はあまり経営に向いていないと思っていて、患者の利益かクリニックの利益かとなれば患者の利益を優先する傾向にあります。ただ、これからクリニックが大きくなろうとしていたときでしたし、規律やルールをつくって公平・公正な医療を提供する組織にしていかなければならないと考えていました。効率化ということも避けて通れません。そのようなとき、医師でない目線で意見や助言をしてもらえる人が必要だと思ったのです。山田は前職が医療機関のコンサルタントで、同級生でもあったので最適でした。

山田 手前味噌的な話になりますが、医療と経営を別に考えるのも当時としては先進的だったと思います。

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内視鏡検査は週3回(火・水・木の午前)実施している

――どのようなことに取り組んでもらったのですか。

長嶋 彼はまず薬の仕入値の見直しをしました。当時、4社と契約していたのですが、私には時間がないこともあってそれぞれ提出された見積金額のままで仕入れており、実態は相見積もりになっていませんでした。そういう状況を彼は全部チェックして、「4社を3社にしましょう」と提案してきました。相見積もりでしっかり価格競争してもらったほうがよいと。価格が大きく下がるわけではありませんが、院内処方なのでトータルでは結構な額になります。

山田 1社減らしても仕入れに大きな影響はなく、それよりも相見積もりによって、卸業者の売上がゼロになるということを示すことで、きちんとした価格競争もできます。こういうことは院長が行うと評判にも影響しますので難しいですが、経営企画室の私ならできる。そのベースには権限の委譲がありました。

――今はスタッフも多数いらっしゃるようですが、採用なども大変だと思います。

山田 看護師と医療事務がそれぞれ10人、技師も4人です。紹介会社を使うと経費もかかります。ネットの求人サイトを活用し、私が一次面接をします。このような採用方法であれば採用コストがゼロです。定着率も非常に高く、職場が嫌で辞めるとか仕事が辛くて辞めるということはほとんどありません。休みもお互いさまの精神でとれるようになっているので働きやすいのだと思います。
 教育については、トップダウンで行っているわけではありませんが、スタッフが望む研修会への出席や書籍などの費用の補助をしています。

MX2では人件費を注視 今後は分院展開を検討

――TKC医業会計データベース」(MX2)を活用されていらっしゃいます。

長嶋 非常勤の医師もいるので、単月で見るというより全体の医業収益と合わせて流れで見るように気をつけています。増員して、すぐに収益増加にはなりませんし、資金繰りも入金が2か月後ですから、そこを読み間違えないようにしなければなりません。

――まだコロナ禍だったと思いますが、3人目の医師を増やされました。

長嶋 コロナ禍で、コロナ後の体制を考えていました。行動制限が解除され、5類になれば患者さんは当然増える。すると今のままでは対応しきれなくなります。早めに体制を整えておこうと思いました。
 医師は、確保するのが難しく、商品でいえば看板です。自分の考え方と同じ方向を向いている人でなければなりません。相手のタイミングもある。「この人」という医師と巡り会うのはなかなか難しいですが、今後も増やしていきたいと考えています。

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TKC医業会計データベース(MX2)の画面
※画面はサンプルです。

――さらに医師を増やすにはスペースの問題があると思いますが

長嶋 建物は築35年ということで老朽化とともに手狭になってきているので建て替えが課題としてあります。そこに向けては資金調達の部分、どう実績を上げ、多く借入できるようにしていくか、ということです。
 私の理想は、医師が3人所属するクリニックが3つあって、それらが連携をしている体制です。トータルで9人の医師がいると、夜間に携帯する電話も週1回以下にできます。加えて、誰かがインフルエンザになって休むことになっても9分の8が残っているので、患者さんに不利益を与えず、他の医師にかかる負担もそう大きくはありません。経営的にも安定します。
 そういうクリニックが三角形に展開できると、それぞれの各エリアをカバーできるし、訪問診療のエリアとしても広がっていきます。
 実は分院を1つそう遠くない将来、まずは医師1人からになりますが、つくるつもりでいます

――分院展開のほうが早く進んでいくようですね

長嶋 建て替えは5年ぐらい前から考え進めていたのですが、新型コロナの流行、資材の高騰や円安と続き、うまく進んでいません。

山田 それを考えると分院展開のほうがかかるコストが少ないので、先に分院をつくってグループ全体での利益を高めようと思っています。そうすれば借入も多くできるようになり、建て替えにもつながります。

長嶋 私の役割はビジョンとか絵を描くことだと考えていて、それをみんなで形づくっていくのが楽しいですし、いい医療機関をつくる上で必要なことだと思います。この分院展開の構想を形にしてくれる人材ということで山田にも来てもらったのです。

会計事務所からの一言

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ちば国際税理士法人
 代表社員 桐谷 美千子

浜野長嶋内科のビジョンを全力で支援します

長嶋先生は、お会いした時「この地域に集中して医療を提供していく」と仰って、当時から在宅診療に力を入れていらっしゃいました。一方で山田室長に全幅の信頼を置いて、内部組織の充実を図っていらっしゃいまして、とても感動したことを今でも思い出します。お2人のタッグを基にして、5年先10年先を見据えた「浜野長嶋内科のビジョン」に全力でご支援していきます。

(2023年6月29日/TKC医業経営情報2023年8月号より)