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病医院訪問・MX3クラウド活用事例 利用者・地域・職員への“3つの約束”で地域に開かれた病院を目指す

訪問先 医療法人泯江堂

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理事長 三野原 義光(みのはら・よしみつ)

「医療法人泯江堂」(福岡県福岡市)は、精神科病院を中心とする医療法人で、患者の早期退院や退院後のサポートを推進しつつ、地域に開かれた病院を目指している。また運営面では、2021年よりMX3クラウドを導入し、事業単位での予算管理などを通じて業務効率化を図っている。三野原義光理事長に、取り組みについてうかがった。

DATA医療法人泯江堂

所在地福岡市早良区野芥5-6-37 
TEL:092-871-2261
ホームページ:https://www.minkodo.com/
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運  営
医療機関
 油山病院
 介護老人保健施設からざステーション
 訪問看護ステーションあいりす
 居宅介護支援事業所ケアセンターのぞみ
 泯江堂エンゼル保育園 

長期入院患者の退院促進を目指し、地域移行支援に取り組む

――貴法人は歴史をさかのぼると江戸時代の開業だそうですね。

三野原 当法人は1749(寛延2)年、現在の福岡県篠栗町で初代が開業したところから数えると、今年で275周年を迎えます。現在の法人としては、1962年に私の祖父が三野原病院の分院として、精神科病床を有する油山病院を開設したのが始まりです。
 私は副理事長、専務とともに父から兄弟3人で承継し、2002年に院長に、2007年に理事長に就任しました。承継の際は、私たち兄弟3人で泊まりがけの合宿を行い、利用者・地域・職員に対する「3つの約束」(図表参照)などを含む経営理念を新たに定めました

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――利用者への約束として「利用者中心のサービス」などを掲げておられますが、病院では患者さんの早期退院や退院後の支援に注力されているとうかがいました。

三野原 当法人は以前より、患者さんの退院後の生活支援や症状悪化の防止に力を入れてきました。たとえば精神科の訪問看護ステーションは福岡市内では最も早く開設しました。また、通所してリハビリを行い社会復帰を促す精神科デイケアは、市内の民間施設としては初めての開設でした。
 加えて、承継後は長期入院の患者さんを中心に、退院促進に取り組んでいます。病院内では退院候補者をリストアップして部署・職種をまたいで情報共有し、「退院前訪問指導」の利用を促進していくことで、継続的に支援する仕組みを構築しました。
 しかし病院だけの取り組みでは、患者さんの退院後の生活をコーディネートするにも限界があります。そこで2015年度からは、「地域移行支援」を始めました

――具体的には、どういったことに取り組まれてきたのでしょうか。

三野原 まずは、病院の作業療法士や精神保健福祉士のほかに、基幹相談支援センターのスタッフなどの地域支援者も参加いただき、患者さんの退院意欲を促す「チャレンジグループ」を立ち上げました。
 ここでは、基幹相談支援センターのスタッフが、入院中の外出や行政の手続きへの同行、また退院後の定期訪問や夜間の電話対応を担当されます。患者さんとスタッフの間に顔の見える関係が構築され、地域支援者からのサポートがスムーズになりました。
 続いて、病院、保健所、基幹相談支援センターで「地域移行検討会」を組織しました。これは患者さんの退院のニーズなどについて関係者間で情報を共有するもので、次第に地域のグループホームの運営者などにも参加いただけるようになりました。検討会を通じて、病院は地域連携に必要な人脈や情報を得ることができ、また地域支援者の方々には病院側の実情を知っていただけるようになりました。

――地域移行支援を推進することで、患者さんにはどのようなメリットが生まれましたか。

三野原 まず、病院スタッフだけでは退院準備のための外出回数や時間に限りがありますから、地域支援者と協力することで、スピーディかつ手厚い支援ができます。また、入院中から退院後まで同じ担当の方が継続して関わるため、患者さんやご家族の安心感につながる上、医療機関以外の相談相手ができます。
 一連の取り組みを経て、現在までに約200人の方の地域移行を実現できました。平均在院日数については、救急病棟があるので一般的な精神科病院よりも比較的短いのですが、この取り組みにより、さらに以前の半分以下にまで短縮することができました。
 当法人ではもともとソーシャルワーカーを通じて、グループホームとのつながりをつくったり、患者さんが退院後に住むアパートを借りられるように不動産業者とのコネクションをつくったりしてきました。そうしたノウハウが多くあったことも、地域移行がうまくいった要因の1つだと思います

地域に開かれた「オープンホスピタル」に 救急受け入れで差別化を図る

――併設されている介護老人保健施設は認知症に特化しているとうかがいました。

三野原 介護老人保健施設は開業当初から認知症に特化した施設として運営してきました。認知症患者へのケアといっても、症状は人によってさまざまですから、病院ではできなくても施設だからできることもあります。
 病院と施設の連携も進めています。一般の介護施設などで認知症の利用者さんの症状が悪化した場合、行き先の病院がなくて困るケースもあるかと思いますが、法人のなかに病院と介護老人保健施設がありますから、具合が悪くなればすぐ病院で受け入れて、回復すれば介護老人保健施設へ戻れる、という連携が可能になっています。
 実際、入所される方の約3割は病院で治療を終えた方です。自宅に戻るまでの中間施設として、特に要介護1以上の方については、しっかりとリハビリテーションを行っています。
 なお、介護老人保健施設の存在により、地域とのつながりを意識するようになりました。というのも、思春期に発症するような精神疾患とは違い、認知症の患者さんは長年元気に社会生活を送ってこられた方が発症されます。近くに私たちの介護老人保健施設があることで、精神科病院に縁のなかった地域の方々が出入りするようになり、地域との交流の動きが加速しました。

――「3つの約束」では、地域への約束として「調和」「開放化」などを掲げておられます。

三野原 精神科病院にはもともと閉鎖的なイメージがありますから、そのイメージを変えたくて、近年は地域に開かれた「オープンホスピタル」を目指しています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で一時は下火になったものの、これまでに病院での文化祭、認知症サポーター養成講座の開催、横断歩道での児童の見守りや旗振りなどに取り組んできました。こうした取り組みのなかには、職員の発案で始まったものもあります。
 一連の活動のなかで、自治会長さんや地元の民生委員の方々との交流が生まれていて、地域の中に受け入れていただいているように思っています。病院は単に孤立した存在ではなく、地域に認められる必要があると考えています。もし精神疾患を患ったとか、認知症が関係してきたときに、「ああ、ここがあったな」と思ってもらえるような施設になればいいなと思っています。

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認知症に特化した介護老人保健施設「からざステーション」

――職員のアイデアが活動に結び付くこともあったのですね。

三野原 日本には精神科病院が1,000施設前後あるなかで、精神科急性期治療病棟の開設当時、その病棟のある病院はわずか70か所程度に過ぎませんでした。それでも慢性の精神疾患患者が少なくなっているなかで、精神科病院として存続するためには、急性期に対応すべきだろうと思い開設しました。精神科救急も同様です。24時間365日対応できる体制の整備をはじめ、満たさなければならない要件はかなりありましたが、職員の協力もあって認可を取れました。また運営にあたっては、退院を促すためのノウハウや、退院後をサポートする制度も役に立ちました。
 国が医療費の抑制を進めるなかで、ずっと同じことをしていては病院の永続性が保てません。特に福岡県は全国のなかでも精神科病院が特に多いとされていますから、差別化を図っていく必要があります。なお、精神科救急病棟を有する病院は、福岡市内では当院含め2施設のみとなっています。

――「3つの約束」の中には、職員に対する約束もあるのですね。

三野原 「職員が安心して働ける環境の整備」などを掲げています。特色ある取り組みとしては、早期からの事業所内保育所の運営が挙げられると思います。当法人では、主に病院内で働く職員を対象として、1971年に保育所を開設しました。2015年からは地域のお子さんも預かる「泯江堂エンゼル保育園」として運営しています。

MX3クラウドで業務効率化を実現 多様な患者を受け入れられる病院にしたい

――貴法人では経営管理ツールとして「MX3クラウド」を導入しているとうかがいました。

三野原 当法人ではMX2から切り替えて導入しました。以前は1度に1人しかデータを見られなかったわけですが、今はクラウドなので分散入力が可能になり業務が効率化しましたし、私を含め幹部職員がそれぞれの端末から、気になる部分をすぐ確認できるところが便利ですね。
 現在はクラウドの導入を機に、法人全体だけではなく、病院、訪問看護ステーション、売店……と事業単位での予算管理を進めています。また、病院は外来と入院とに分けるなど、より細かく見ています。もし収益が下がった部門があればすぐに原因を考えられますし、費用も同様にすぐに確認できます。経理担当者だけが状況を把握するのではなく、やはりスピード感を持って臨床側に経営情報をフィードバックしていかなければ、経営改善はできないと思います。

――最後に今後の法人運営の展望をお聞かせください。

三野原 ず、現在はコロナ禍の影響で病床の稼働率が低下してしまっているので、それに対処していきたいと思っています。

 また、長期的には、発達障害をかかえる方や、アルコール・薬物などの依存症の患者さんを積極的に受け入れていきたいと思っています。これまでは統合失調症の患者さんが多く入院されていましたが、疾病構造が変化していくなかで、今後はそういった患者さんの入院が減ると見込まれています。また、認知症についても、現在は患者数が増加傾向ですが、人口減少が進んでいけば、やがて同じように減少していくでしょう。

 これからはドクターの世代交代が進むなかで、発達障害や依存症などを専門に診られるような先生に来ていただくことなどを通じて、さまざまな病気の患者さんをサポートしていけるようにしたいですね

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右から、三野原信二副理事長、巡回監査担当の明松耕平税理士、三野原義光理事長、左座武彦法人本部長

税理士事務所からの一言

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税理士法人エルビーエー福岡本部
 税理士 明松 耕平

先進的な病院運営を税務・会計面で支援します

泯江堂様は歴史を重んじつつ新しい技術やアイデアを積極的に取り入れる先進的な病院経営を実践され、またビジョンに基づいた経営を行っています。病院全体の課題解決力が高いため、巡回監査時にはMX3クラウドを活用し、問題の発見や潜在的な問題に気づけるかを意識しています。これからも、税務・会計面で支援を続けてまいります

(2024年4月2日/TKC医業経営情報2024年7月号より)