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病医院訪問・MX2活用事例 「健康経営」の推進で業績アップと働きやすい職場を両立

医療法人藤風会くどう皮ふ科医院

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理事長・院長 工藤 英郎(くどう・ひでお)

1熊本市の医療法人藤風会くどう皮ふ科医院は、地域に根ざしたクリニックとして、30年にわたり医療を提供し続けてきた。2020年に現理事長の工藤英郎氏に事業承継後、大きく飛躍した。1日平均200人を超える患者に対応しつつ、職員に働きやすい職場環境を整備し、残業時間は月に2~3時間、有給休暇取得率はほぼ100%に近づいている。医療法人としては珍しく2022年からは3年連続で「健康経営優良法人 ブライト500」に選出されている。増患で忙しくなっても、働きやすい職場を実現するコツについて、工藤理事長に話を伺った。

DATA医療法人藤風会くどう皮ふ科医院img_b0291_02.jpg

所在地熊本県熊本市西区上熊本3丁目22-21
TEL:096-324-7011
https://www.kudohifu.com/
診療科目

皮膚科・美容皮膚科・形成外科・アレルギー科  

外来時間8:30 ~ 11:30、14:00 ~ 17:00(月~金曜日)
8:00 ~ 12:00(土曜日)
休診日 水曜日、土曜日午後、日曜日、祝日 

患者さんの不安を安心に変え、また来たいと思ってもらえるクリニックを目指して

――まずはクリニックの開業経緯を教えてください。

工藤 私の父が1994年に現在のクリニックから1キロほど市街地寄りのテナントビルの2階で開業したのが始まりです。手狭になったのとエレベーターがなく不便だったことから2015年に現在の場所にクリニックを移転しました。
 私自身は大学院生の時期に土曜日の診療を手伝うようになり、電子カルテの導入やクリニックの移転を進めました。大学院卒業後、医薬品医療機器総合機構に出向し、新薬の審査業務を経験し、その後、大学に籍を置きながらも創薬や医療機器開発のベンチャー企業のプロジェクトマネージャーをしていました。しばらく臨床から離れていましたが、2020年に父が体調を崩し、クリニックを閉院するか相談をされたのを機に当院の理事長・院長に就任しました。今思えば、臨床医以外の多様な経験をしたことが、現在のクリニック経営において大きくプラスに働いています

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多くの患者がゆったりと座れる受付

――現在は1日200人近い患者さんが来院されるとのことですが、どのようにして、集患されたのですか

工藤 案内板として周辺に野立て看板はいくつか出していますが、それ以外の広告宣伝費はほとんど使っていません。ホームページも事務長がWixで自作しています。移転の計画を練っていた10年前に、最寄りの上熊本駅が改修されることや、都市計画道路が整備されることが公開情報として出ていましたので、1キロほど郊外になりますが、交通の要衝となる現在の場所に移ったことがプラスに働いていると思います。アクセスが良くなったことにより、現在は遠方からの受診もかなり増えています。

――他にはどのような要因が考えられますか

工藤 皮膚科を標榜するクリニックは周辺10キロ圏内に40件ほどありますし、近隣に新規開業も増えていますが、当院を受診される患者さんは年々増えています。診療のポリシーとして1人ひとりの不安を抱えて来院された患者さんを1人でも多く安心して帰っていただきたいという思いでやっています。そのような姿勢が、リピーターを作り、受診された患者さんの中で口コミとして広まって、ご家族、ご友人などにお越しいただいているのではないかと思っています。実際にWeb問診の質問の中に「受診のきっかけ」という項目がありますが、「家族や知り合いに勧められて」という回答が非常に多いです。

――診療時間内に、200人の患者を診察しきるのはかなり難しいのではないでしょうか

工藤 そうですね。診察時間が不足すれば患者満足度は低下しますし、逆に診察時間を長く取ると待ち時間が増加して患者満足度が低下します。このジレンマを解消するために、さまざまな取組みをしてきました。
 たとえば、Web問診の導入やカルテの代行入力をするクラークを育成し、カルテ記載にかかる時間を大幅に短縮しました。また、医師でなくても済む簡単な処置や定型的な説明は、十分なトレーニングをしたうえで看護師にも任せています。くわえて、医療事務は月初と月末はレセプト処理が大変なので、クラウド型のレセプト点検サービスを導入しました。また、POSレジの導入によって終業時の会計の締め作業にかかる時間を減らしています。どちらも残業時間の短縮に寄与しています。
 また、3連休明けなど予め混雑が予想される際には、美容施術の予約は入れないようにして、自費診療を「調整弁」に混雑状況をコントロールしています。

――現在の職員数を教えてください

工藤 常勤医師は私1人で、非常勤医師は5人、事務長で薬剤師の妻と、看護師が10人、医療事務が5人です。そのうち、看護師4人は現在、産休・育休を取得中です。当院の職員は若い世代が多く、出産や育児など職員それぞれのライフイベントもしっかり支援する体制を取っています。ただ、時期が重なると人員配置を考えるうえで大変な面もあります。

「健康経営優良法人 ブライト500」に3年連続選出
人の育成がクリニックのテーマ

――「健康経営」に取り組まれたきっかけはどのような経緯からでしょうか

工藤 事業承継して半年ほど経った頃から、急に忙しくなったことで職員が疲弊して、体調不良による休みが増えてきました。先代の院長も体調不良で診療を継続できなくなったこともあり、職員の健康面にも配慮しなければと思い、顧問社労士に相談したところ、健康経営優良法人の認定要件をクリアすることで、職場環境整備をしてみてはどうかと提案を受けました。約1年間の準備期間を経て2022年に初めて申請を行い、以来、中小規模法人部門における、健康経営優良法人のなかの上位法人「ブライト500」に3年連続で選出されています。

――具体的な取組み内容を教えてください。

工藤 職員の健康面を支えるだけでなく、ワークライフバランスの充実、仕事にやりがいを持ってもらうための職員教育なども意識しています。
 職員の健康面においては、法定健診以外の、子宮がん・乳がんなどの検診費は全額補助しています。また、健康維持には欠かせない定期的な運動もサポートしたいので、近隣の熊本県立体育館と法人契約を結ぶことで、ジム・プールを無料で利用できるようにしています。
 ワークライフバランスの充実は大変重視しています。医療業界における有給休暇取得率は65%ほどとなっていますが、当院においては職員全体で97.3%を達成しています。また、月別の平均残業時間についても、看護師・医療事務ともに順調に削減し、現在は月2~3時間程度です

――職員教育についてはいかがでしょうか。

工藤 人の育成をクリニックのテーマに掲げ、職員の自己啓発、業務に関連する資格取得・キャリアアップを全力で応援しています。
 たとえば、学会に参加する際の旅費、資格取得のための教材費、受験料は全額補助しています。もちろん、資格取得後、それを実際に業務に活かせているのであれば、職能給という形でインセンティブを付けて、職員のモチベーションを上げています。それもあって、ほとんどの職員は何らかの資格を取得しています。
 同時に、職員の自発性だけに任せず、業務に欠かせない知識の定着をはかっています。具体的には、院内で定期的に試験を実施し、業務の理解度、やる気を定量化しています。自分で勉強するにしても「締め切り」がないとやる気に火はつきません。そのために院内でのテストを活用しています。

――災害ボランティアにも取り組まれているそうですが、具体的にお聞かせください。

工藤 2020年7月に熊本で起こった人吉・球磨豪雨災害、2024年元日に起こった能登半島地震に医師会の災害医療チーム(JMAT)として職員と一緒に派遣されました。数日間クリニックを休診にして土日も併せて赴きました。
 当院がこのような活動を重視しているのは、医療従事者として困っている人の役に立つことをやりがいと感じられるマインドを大切にしたいと考えているからです。実際、ボランティアメンバーを募ると職員が直ぐに手を挙げてくれました。
 また、この活動をHPに掲載しているのですが、それを見て、「ボランティア活動をしているのを見て、応募しました」と言って面接に来る方も増えてきました。
 当院は「常に患者さんの目線に立って考え、行動し、寄り添う」を理念に、「医療従事者マインド」を持った人を積極的に採用してきました。「美容医療」も行っていますが、当院のミッションはあくまで「医療従事者」として地域にこれまで30年間築いてきた信頼のおける皮膚科の保険診療を提供していくことだと思っています。

診療のジレンマ解消に向けて予約制を導入し、もっと患者満足度を向上させたい

――日々の経営においては、どのような数字を意識されていますか。

工藤 クリニックの経営数値として重要とされているレセプト枚数、レセプト単価、保険点数、新患数、自費診療売上は月に1回は確認していますが、数字はあくまでも結果であり、一喜一憂することはありません。とはいえ今後、物価上昇や賃上げに見合う診療報酬の改定がされない未来を見据えると、保険診療による医業収益増は期待できず、自費診療率を上げなければ、クリニックの発展は見込めないと考えています。
 しかし、当院の自費診療のスタンスは保険診療で解決できない悩み・症状を補完するというものです。あくまでも保険医療機関を主として運営し、保険診療をきちんと行っているクリニックだからこそ安心して美容施術も受けられるといったかたちで、かかりつけの患者さん向けのサービスを提供していきたいと考えています

――経営管理のツールとして「TKC医業会計データベース」(MX2)を使われているとお聞きしました。

工藤 普段の経営状況の把握においては、レセコンを使用していますが、月次巡回監査の際に、久峨税理士事務所の出口巡回監査士と一緒にMX2で詳細な検討を行っています。日々の診療のなかで、「体感の数値」は持っていますが、それをあらためてMX2で確認することで、体感と数字のギャップをグラフで直感的に把握しつつ、分析できることが魅力だと感じています。
 たとえば、高額な薬剤を使用した際、材料費が跳ね上がることになりますが、保険診療の場合は、2か月遅れで入金されるのでズレが生じます。MX2では、そうした目立つ数字を確認して、実態を正確に把握するようにしています。
 また、労働分配率は常に意識しています。給与や賞与は一度上げるとなかなか下げることが難しいため、TKC医業経営指標(M-BAST)も確認しつつ、労働分配率が、皮膚科の医療機関の平均値に近づくようにコントロールしています。                       

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――現在の課題について教えてください。

工藤 現在の患者数は、当院で受け入れることができる限界をはるかに超えてしまっています。そこで、2024年9月からは平日は予約優先制、土曜日は完全予約制に移行することにしました。皮膚科は急性疾患が多いため、患者さんが受診したい時にすぐに受診できることが重要だと考えていましたが、受け入れ人数をセーブしつつ、混雑を均一化することで、職員にも余裕が生まれ、より安全で最善の医療を提供できるようになると考えています。

――最後に今後の展望をお聞かせください。

工藤 かかりつけの患者さんにもっと満足していただけるクリニックにすることはもちろんのこと、職員やその家族の健康も大切にして、仕事と家庭での役割をバランス良く両立できるような働きやすい職場であり続けたいと思っています。


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左から、久峨正義税理士、工藤英郎理事長、工藤亜実事務長、出口淳一巡回監査士

会計事務所からの一言

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K&I税理士法人久峨税理士事務所
 副所長 久峨 正義

「健康経営」を税務・会計面から全力でサポートします

工藤英郎先生との出逢いは約10年前に遡ります。関与当初からMX2を導入され、その後奥様主導でフィンテックや証憑保存機能を導入されました。効率化と情報共有化に繋がり、 巡回監査時に将来の展望や問題解決の話題により多くの時間を使えるようになりました。 患者様と職員を第一に拡大を続けるクリニックを今後も全力でご支援いたします。

(2024年7月24日/TKC医業経営情報2024年9月号より)