病医院訪問・MX2活用事例 充実した医療・設備・サービスで地域への貢献を目指す
医療法人誠和会河野レディースクリニック
理事長 河野 誠司(かわの・せいじ)
院 長 河野 亮介(かわの・りょうすけ)
今年2月にクリニックを建て替えたばかりの「医療法人誠和会 河野レディースクリニック」(福岡県大牟田市)は、1日約120人の外来患者、月約30件の出産に対応し、地域医療に貢献している。また、経営面ではTKC医業会計データベース(MX2)を利用し、少子高齢化が進む地域にあっても安定的な運営の継続を図っている。今回は、今年院長に就任した河野亮介院長(写真右)に話をうかがった。
DATA | 医療法人誠和会河野レディースクリニック | |
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所在地 | 福岡県大牟田市正山町148-1 TEL:0944-54-9710 https://kawano-lc.com/ | |
診療科目 | 産科、婦人科 | |
外来時間 | 9:00 ~ 13:00(月~土曜日) 15:00 ~ 18:30(月、火、木、金曜日) 休診日 日曜日、祝日 |
60年近く地域医療に貢献
新クリニックでは感染者用の設備を導入
――まずは貴院の歩みからお聞かせください。
河野 当院はもともと、私の祖父が1967年に産婦人科医院を開業したのが始まりです。その後、現在の理事長である私の父が1986年に承継し、2011年には医療法人化。今年の2月には私が3代目の院長に就任しました。
同じく今年2月には、建て替えた新クリニックが竣工しました。もともとは祖父の代からあった建物を増築しながら使用していたので、老朽化が進んでいました。そのため、私が院長に就任するのと同じタイミングで建て替えることにしました。
――新クリニックの特徴は何でしょうか。
河野 特色のある設備として、感染者用のベッドを2部屋用意しました。新型コロナウイルスの感染が拡大していたころに建て替えの構想を練っていたので、「コロナが収束したとしても必要な設備になるだろう」と考えて導入を決めました。
これで妊婦さんが何らかの感染症にかかってしまったときにも対応できますし、感染者用ベッドは一般のベッドとは別の階に設けているので、他の患者さんやスタッフにとっても安心感があると思います。
また、デザイン面ではグレーやダークブラウンのようなシックな色合いで統一し、間接照明を多く取り入れるなど、ホテルライクな落ち着いた雰囲気を目指しました。一般的な産婦人科医院でありがちなピンク色などは使わず、“とがった”デザインになったと思っています。
さらにリニューアルに合わせて、クリニックのロゴを「エンゼルフィッシュ」という熱帯魚をモチーフにしたものに変えました。もともと熱帯魚は好きで、クリニックの待合室にも水槽を入れたくらいなのですが、エンゼルフィッシュは名前もいいですし、子だくさんな魚ですので、ロゴとしてもふさわしいかと思っています。
待合室に有る水槽の熱帯魚が来訪者の目を楽しませる
県内外から1日120人が受診
サービス拡充と地域おこしを目指す
――現在の患者数などはどのようになっていますか。
河野 外来では、平日ならば1日あたり約120人が受診されます。また、お産は月に約30件とほぼ毎日あるような状況です。患者さんの多くは大牟田市在住の方なのですが、道路のアクセスがいいので市外からの来院もあります。また、すぐ隣は熊本県ですから、患者さんのおよそ2割ほどは熊本からお越しになります。
特に近年は、婦人科の対応に力を入れています。たとえば婦人科を受診されたおばあさんやお母さんが、口コミで娘さんやお孫さんに「このクリニックがよかったよ」と伝えてくれて、産科として選んでくれるという好循環につながればと思っています。
グレーを基調とした、落ち着いた色合いの診察室
――診療ではどのようなことを意識されていますか。
河野 まずは「なるべく断らない」医療を心がけています。また患者さんと接する際は、礼儀を重んじつつもなるべくフレンドリーに接するようにしています。理事長がもともとそうした対応を行っていたこともあり、患者さんが相談しやすいように、親しんでもらえるようにと意識しています。
一方で、全体としては「スタッフファースト」になるよう意識しています。「患者さんのために」と思ってスタッフに負担をかけてしまうと、結局はそれが患者さんのほうに返ってしまい、良質な医療を提供できなくなってしまいます。スタッフファーストにすることが、結果として患者さんファーストにつながるのだと思っています。
――院長に就任後、新しく始められた取り組みなどがあればお聞かせください。
河野 以前から行っていたヨガに加えて、産後サービスエステやニューボーンフォトのサービスを始めました。また、地元のイタリアンレストランとコラボしたお祝い膳を用意しています。これは1年近くかけてメニューを検討したこともあり、かなり好評です。エステやフォトのサービスも地元の事業者に依頼しているので、患者さんへのサービスを高めつつ、クリニックから地域振興にもつなげたいと思っています。
また、最近では婦人科のオンライン診療を開始しました。これはそもそも働き方改革の一環として導入しています。本来は当直対応のために夜勤を行っているスタッフが、時間外での受診相談などの電話に応対しなければならない状況だったため、スタッフのモチベーション低下を防ぐことなどを目的として、オンライン診療を始めることにしたのです。
現在は外来の時間外や業務の合間のタイミングで対応しています。たとえば他県に引っ越されたけれども、「自分のことをよくわかってくれているから診療を続けてほしい」という患者さんにご利用いただいています。まだ月に20人程度と、全体の割合から比べるとかなり少ない状況ではありますが、薬は郵送でお渡ししますし、やはり便利なのか少しずつ増えている印象があります。
3人の医師がクリニックの強みに
業務効率化にも注力
――1日120人の外来に加え、お産がほぼ毎日あるとなるとお忙しいと思いますが、スタッフの人数や組織の体制はどのようになっているのですか。
河野 まず、勤務している医師は私と理事長のほか、2023年からは非常勤として林魅里医師に加わってもらい、3人体制となっています。その他に清掃や調理担当者などまで含めるとおよそ35人のスタッフが働いています。
林医師は私と同じタイミングで病院の医局を出たことから、お声がけして非常勤として働いてもらえるようになりました。麻酔が得意なので無痛分娩などへの対応が充実しましたし、受診される方のなかには女性医師を希望される方もいますから、より多くの患者さんのニーズに応えられるようになりました。
また、理事長にも長年の診療のなかで“ファン”になった患者さんも多く、「お母さんが出産のときにお世話になったので、私も理事長先生に対応してほしい」と希望される娘さんもおられます。キャラクターの違う3人の医師がいることは当院の強みになっていると思います。
独創的なデザインの分娩室
――働き方改革というお話もありましたが、特に産婦人科となると、当直対応が必要になることもあり、職員採用は苦労されることもあるのではないでしょうか。職員の採用や育成における工夫点があればお聞かせください。
河野 正直なところ、採用には難しい面もあります。たとえば当院はハローワークに求人を出すこともありますが、そこからの応募はほとんどありません。一方で、最近ではSNSを見て応募するという方が多くなっています。そこで当院でもインスタグラムで公式アカウントを開設し、クリニックの紹介に加えて求人募集の内容を投稿するなど、SNSでの情報発信には力を入れています。
またクリニックを新築したこともあってか、私が院長に就任して以降はありがたいことに患者数が伸び続けています。しかしそれによって業務も増加し、スタッフにかかる負担が大きくなっています。今後は業務効率化を図るべく、セルフレジなどの設備の強化を検討しています。
しかし、設備を充実させたとしても、スタッフの退職や、病気などによる休みはどうしても避けられません。そこでひとつの業務を複数人でシェアするようにするなど、「誰かでないとできない業務」はつくらないように意識しています。
人材育成の面では、少なくとも月に1回は研修会を開いています。こちらでは臨床に関することのみならず、ハラスメント対策であるとか、接遇面をテーマに取り上げることもあります。
少子高齢化の変化に対応し地元でお産ができる環境をつくる
――貴院では「TKC医業会計データベース」(MX2)を導入されているとうかがいました。
河野 顧問税理士の加藤田敏孝税理士に毎月お越しいただき、MX2の画面を見ながら今後の打ち手等について検討しています。クリニックの建て替えの際も、理事長とともに3人でじっくり話し合い、高騰する建築費や将来的な需要の予測も考慮しながら、最適な規模を見極めて現在の建物の大きさや導入する設備などを決めました。
加藤田税理士と打ち手を検討する際は、特に医業収益の推移を見ています。また、最近では人件費の推移を注視しています。
当院ではMX2の医業収益を保険診療と自由診療で分け、自由診療をさらにお産と健診で分けて確認しています。これにより過去の推移を分解して見ることで先の数字もある程度予測できますから、それをふまえて打ち手を検討しています。たとえばお産が一時的に少なくなったとしても、妊婦健診が多いのであれば、将来的にはお産が増えることがわかります。それを見据えて事前に準備することができます。
今後はクラウド化によって、気になったときにいつでもどこでも経営の数字を確認できるようになるとお聞きしていますので期待しています。
――最後に、今後の課題と展望についてお聞かせください。
河野 現在の患者数は、当院で受け入れることができる限界をはるかに超えてしまっています。そこで、2024年9月からは平日は予約優先制、土曜日は完全予約制に移行することにしました。皮膚科は急性疾患が多いため、患者さんが受診したい時にすぐに受診できることが重要だと考えていましたが、受け入れ人数をセーブしつつ、混雑を均一化することで、職員にも余裕が生まれ、より安全で最善の医療を提供できるようになると考えています。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
工藤 この地域だけの問題ではありませんが、長期的にはお産の減少は避けられません。それこそかつて大牟田にあった三池炭鉱が繁栄していたころは、産婦人科だけで20院ほどあったわけですが、今やいくつかの総合病院すらお産の取り扱いを取りやめてしまいました。
市内でお産に対応できるのは病院1院とクリニック数院のみとなっています。当院は今のところ患者数が増加しているものの、この伸びが落ち着いたときに、今度はどうやって維持していけるようにするかが課題となります。
大牟田は私にとっても生まれ育った地元ですから、今後もクリニックを安定的に運営していくことで、地元の方が地元でお産できる体制を維持し、地域医療に貢献していきたいと思っています。また、引き続き住民の方にとって、何か相談したい時に気軽に訪ねていただけるよう、敷居の低いクリニックを目指したいですね。
右から、河野亮介院長、河野誠司理事長、加藤田敏孝税理士
会計事務所からの一言
税理士法人昴 筑紫野オフィス
代表社員税理士 加藤田 敏孝
地域になくてはならないクリニックの経営をサポートします
河野レディースクリニック様とは医療法人成りをした2011年から10年超のお付き合いとなります。5年ほど前からクリニック新築プロジェクトを立ち上げ、紆余曲折はありましたが、今年2月遂に竣工し、新たなスタートを切ることができました。人口減少が続く地方都市という厳しい経営環境ではありますが、地域になくてはならないこのクリニックを、経営面にて全力でサポートさせていただきます。
(2024年8月28日/TKC医業経営情報2024年10月号より)