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病医院訪問・FX4クラウド活用事例 慢性期治療や在宅医療で地域に貢献し病院の「永続」を目指す

医療法人田中病院 伊勢田中病院

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理事長・院長 田中 民弥(たなか・たみや)

「医療法人田中病院 伊勢田中病院」(三重県伊勢市)は100年以上の歴史があり、長年にわたり地域医療に貢献してきた。近年では慢性期中心の病院に転換し、地域の神経難病の患者を受け入れるとともに、在宅医療にも注力している。また経営面ではFX4クラウドを利用し、部門別管理の導入を図っている。田中民弥理事長に現在の取り組みや今後の構想についてうかがった。

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所在地三重県伊勢市大世古4丁目6–47
TEL:0596-25-3111
https://www.isetanaka.jp/
病床数

83床  

外来時間月~土曜日   9:00~12:30
火曜日 14:00~16:00 

地域医療における自院の役割を見直し慢性期中心の病院に転換

――まずは貴院のこれまでの歩みからお聞かせいただけますでしょうか。

田中 病院としては1922年に伊勢市内で私の祖父が開業したのが始まりで、叔父、父に次いで私で4代目になります。
 2018年には病棟が老朽化していたことなどから、伊勢市内の別の場所から今の場所に移転し、病棟を建て直しました。新しい病棟は入院患者さんの診療・病室を中心とするコンセプトのもとで、個室を多くして、多床室もゆったりとした設計にしています。
 現在は障害者施設等一般病棟83床を有し、慢性期の患者さんを中心に受け入れつつ、高齢者救急といった亜急性期(ポストアキュート)や、回復期の患者さんも受け入れています

――病床は慢性期の患者さんが中心になっているのですね。

田中 以前は急性期の患者さんも受け入れていたのですが、特に手術は高度な専門性が要求されるようになっていくなかで、地域医療における当院の役割について再検討し、慢性期中心の病院に舵を切ることにしたのです。
 それに合わせて病棟の看護体制などを変更し、加えて人材採用を進めました。医師や看護師集めはもはや“ライフワーク”になっています。
 加えて体制の変更を進めていた当時は、病棟の人員の配置基準の変更などがあり、従来の病棟を維持していくには少しハードルが上がりました。そこで当院が得意とする慢性期の高度医療に取り組むにあたり、すべてを障害者施設等一般病棟に変更することにしました。
 そのため現在は、病床に受け入れている方のおよそ7割が筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病など、いわゆる神経難病の患者さんで、高齢者が中心となっています

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訪問看護、ケアプランセンターなどを運営している

紹介による患者受け入れと退院後の受け皿確保のため各種施設を運営

――外来や在宅医療についてはいかがでしょうか

田中 外来も地域の高齢患者さんが中心です。在宅については、機能強化型(連携型)の在宅療養支援病院として、周辺の8つのクリニックとともに連携して在宅患者さんの24時間対応にあたっているほか、周辺の特別養護老人ホームとも提携しており、訪問診療を行っています。
 在宅療養支援病院の認定を取得したのは、三重県内でも早いほうだと思います

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2018年に建て替えた病棟


――早い段階から在宅医療の拡充に注力されてこられたのですね。何かきっかけのようなものがあったのでしょうか。

田中 きっかけとしては、増えた空きベッドをどう埋めていくかについて考えたことにあります。
 そもそもの背景としては、20年ほど前、いわゆる救急車のたらい回しが問題となった際、当院では救急患者さんをなるべく断らずに受け入れられるよう、空きベッドを確保するようにしました。
 その一方で、これからの自院のあり方について改めて考えた際、地域の人口が減少していくなかでは、近隣の大きな病院からの紹介や、救急・外来患者さんの受け入れだけでは病床を埋められなくなるのではないかと思ったのです。
 加えて、患者さんを多く受け入れたならば、合わせて退院先も確保する必要がありました。
 そこで1998年に訪問介護事業所「田中訪問介護サービスステーション」を開設したのをはじめとして、介護保険制度が始まった2000年には「田中ケアプランセンター」(居宅介護支援事業所)を立ち上げました。10年ほど前には住宅型有料老人ホーム「いそかぜ」を設立しています。
 今年に入ってからは「通い」「泊まり」「訪問」を一体的に提供し、24時間継続したケアを提供する看護小規模多機能型居宅介護(看多機)「そねの家」を開業しました

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今年オープンしたばかりの「そねの家」


――昨今はどの医療機関においても、多かれ少なかれ人材難の影響を受けていると思われますが、貴院における採用や人材育成の工夫点についてお聞かせいただけますか。

田中 当院では非常勤を含め、常勤換算で約250人が働いています。
 人事考課における工夫点の1つに、日本看護協会が公表しているクリニカルラダー(技能や能力の評価制度)をもとに、各職種ごとにキャリア指標を定めている点があります。この指標は5段階あり、1段階目は新人、3段階目で「一人前」となり、最後の5段階目は「スペシャリスト」です。指標のなかでは、たとえば「この項目を達成できれば次のランクに上がる」といった内容を示しています。
 第5段階は、医師であれば全国規模の学会をリードできるような、困難なことも達成できる人。会計担当者であれば、10年目くらいの税理士が持っておられるくらいの能力を基準にしています。逆に言えば、目標としては税理士や弁護士のような資格を持っている人でも当院で働きたいような職場づくりを目指せるようにしています。なお、当院ではベトナムをはじめ海外からの技能実習生も積極的に受け入れており、看護師資格の取得も支援しています。

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有料老人ホーム「いそかぜ」


毎月の「会計会議」で打ち手を検討
部門別会計の導入に取り組む

――続いて経営面についておうかがいします。貴院では「FX4クラウド」を導入されているとうかがいましたが、経営の打ち手の検討については、どういったことに取り組んでおられるのでしょうか。

田中 当院は毎月、各部署の代表者らが参加する「会計会議」を開き、顧問税理士である「ふぇにっくす総合事務所平井会計」の平井基也先生にもお越しいただいて、月ごとの収支と予測を見ながら、打ち手などについて話し合っています。
 毎月、まずは利益が出ているかに着目しますが、加えて損益分岐点の変化にも注目しています。最近では物価や人件費の上昇もあり、徐々に上がってきており、いかにして改善していくか検討しているところです。
 このほか、自己資本比率をはじめとする、経営指標となる数字を10個以上出していただくようリクエストして確認しています。こうした指標の数字については、M-BAST(TKC医業経営指標)の数字も出していただき、比較して現在の病院の位置づけの参考にしています。
 会議では、FX4クラウドの「MR設計ツール」によって、月々の経営状況のデータから表計算ソフトでグラフにして見せていただいているので、一目で見てわかりやすいですね。
 近年は平井先生と相談しながら、部門別管理の導入に取り組んでいます。現状は施設別に加えて、病院のリハビリテーション部門と透析部門については部門ごとの月次決算が実現しています。
 今後、さらにすべての内容を部門別に見られるようにすることで、貢献利益がわかるようになり、病棟別に今後の方向性などの検討ができるような会計を目指しています。ゆくゆくは京セラ創業者の稲盛和夫氏が提唱された「アメーバ経営」のような、細分化した経営にしていきたいと思っています

――先ほど、病棟の建て替えのお話がありましたが、その際も会計会議で話し合いながら進められたのでしょうか

田中 建て替えの際は5年間の計画を立てて、建設費とローン返済についてさまざまな条件での収支シミュレーションを重ねました。また、各部署の長から黒字化についてのプレゼンテーションもしてもらい、現在の規模での建て直しを決めました。
 建設費の返済は順調に進んでおり、現在も継続的に計画を立てています

地域に必要とされる病院を目指し「再生産」できる体制づくりを図る

――最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか


田中 引き続き地域の患者さんに貢献し、職員には働いてよかったと思えるようにするべく、病院がこれからも永続できるような体制づくりを目指していきたいと思っています。
 当院は理念のなかで「患者さんが、かかりたい、かかって良かった、地域にあって欲しい、あるので安心という病院を目指します」という内容を掲げています。この理念の通り、地域から必要とされる病院を目指します。
 一般的には、病院の経営戦略としては地域外に拡大して発展を図るという選択もあるのでしょうが、基本的に医療は地域に根差しますから、あくまでもこの地で永続できるようにしていくことを目標としていきたいです。
 そのためにも、数十年後にあるであろう再度の病棟建て直し、いわば再生産を見据えながら経営していこうと考えています。もちろん内部留保だけで建てられるのが理想的なのでしょうが、実際には金融機関から借り入れる必要があるわけです。
 最近では黒字決算を続けてきたことなどから、経営者保証を外せましたが、今後もそういった信用力の高い病院経営を続けていくことが、病院存続の最低条件ではないかと思います。
 診療報酬からやるべきこと、やるべきでないことは何かを読み取りつつ、利益を生み出し続けるようにしていきたいですね。

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右から、平井基也税理士、田中しげみ副院長、田中民弥理事長、
下野一子副院長、巡回監査士の米澤裕子氏

会計事務所からの一言

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ふぇにっくす総合事務所 平井会計
 所長税理士 平井 基也

会計で病院を強くする取り組みを引き続きサポートします

伊勢田中病院様とは10年以上のお付き合いになります。田中理事長には病院経営における会計の重要性をご理解いただき、月々の「会計会議」で打ち手の検討を重ねるなど、まさに会計で病院が強くなっています。また、書面添付を実施することで経営者保証も解除できました。これからも地域医療に貢献される病院の活動を税務・会計面からサポートしてまいります。

(2024年10月28日/本誌編集部 川村岳也/写真提供 医療法人田中病院/TKC医業経営情報2024年12月号より)