病医院訪問・FX4クラウド活用事例 認知症と在宅医療を中心に据えて介護事業者との連携を強化
医療法人社団オカニューロケアクリニック
理事長・院長 岡 考(おか・こう)
「医療法人社団オカニューロケアクリニック」は、「みしま岡クリニック」(静岡県三島市)と「ひいらぎファミリークリニック」(静岡県長泉町)の2つのクリニックを運営。周辺の介護事業者との連携を深め、地域の在宅患者や認知症患者にとって不可欠な医療サービスを提供している。また運営面ではFX4クラウドを導入し、安定した経営に役立てている。岡考理事長に、現在の取り組みと今後の展望について話をうかがった。
DATA | 医療法人社団オカニューロケアクリニック | |
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□ みしま岡クリニック 静岡県三島市一番町13番11号ヒルトップ壱番町2階 TEL:055-983-6111 https://wellness-brain.or.jp/ | ||
□ ひいらぎファミリークリニック | ||
認知症専門医として介護事業者のニーズに応える
――まずは開業までの経緯からお聞かせください。
岡 私はもともと、裾野市にある病院で脳神経外科の部長をしていました。病院は100床ほどと大きくはなかったのですが、その分、生活習慣病の管理から簡単な手術まで、いわばプライマリ・ケアを担う機会があったのです。そのなかで、患者さんと日々触れ合いながら地域医療を担うことに魅力を感じるようになり、39歳でまずは裾野市内で開業しました。現在は三島市と長泉町で在宅医療を中心としたクリニックを運営しています。
――なぜ在宅医療を中心に据えるようになったのでしょうか。
岡 当初は外来診療が中心だったのですが、近隣の特別養護老人ホームから嘱託医の依頼があったのをきっかけに在宅医療を始めました。そのころはちょうど日本認知症学会で認知症専門医の認定が始まったころで、特色を出していこうと考えて専門医の資格を取得しました。すると認知症専門医が地域で少なかったこともあり、特別養護老人ホーム以外にもグループホームや住宅型の有料老人ホームからも嘱託医の依頼が増えてきました。そこからクリニックとして在宅医療で認知症治療を担うことを中心に据えたのです。現在では30近い施設と連携しており、在宅では月におよそ800人の患者さんを診ています。
――地域の介護事業者と連携していくことを重視しているのですね。
岡 開業医としては、自分たちで社会福祉法人や会社を設立して介護事業に乗り出すという経営戦略もあるかと思います。一方で私は医療の領域に集中することを意識して、嘱託医として訪問診療を行っています。
というのも、この地域には既に多くの介護事業者がおられるので、すみ分けをしっかりしておこうと考えたのです。また、介護報酬はどちらかというと薄利な部分があります。介護事業に進出する医療機関は、訪問診療や検査を充実させて低収益性をカバーするケースもあるでしょうが、同系列では算定できない報酬があるなど、やりにくいところもありますので、当法人としては介護事業者を医療面で支援していくこととしたのです。
広々とした「ひいらぎファミリークリニック」の待合室
――介護事業者とスムーズに連携するために何か意識されていることはありますか。
岡 介護事業者側によってニーズが異なり、たとえばサービスの質をひたすら追い求める事業者もいれば、利益確保を重視するという事業者もいますから、ニーズに応えて動けるように意識しています。もちろん、これまでには嘱託医の契約が終了したこともありましたが、改善すべき点を1つ1つ変えていったというところです。
介護事業者からみれば、仮に病院と連携すると、利用者さんの体調が悪くなった際、すぐ入院病床を確保してもらえるというメリットがある一方、要介護度が高く、報酬上算定が大きくなる利用者さんを“取られる”ことにもなってしまいます。当法人のようなクリニックが病院に搬送するべきかどうかを判断し、介護施設でみられるものはみてもらうというスタンスを取ることで、介護事業者のメリットにもつながります。
加えて静岡県東部は医師不足地域ですから、患者さんの搬送について「スクリーニング」することで、急性期を担う病院の負担軽減、ひいては地域医療への貢献にもつながると思っています。
また、最近の介護業界では、競争力を高めるために重度の要介護者を積極的に受け入れる介護事業者が増え、なかには看護師の資格を持った介護職員を多く配置する住宅型有料老人ホームも出てきています。そうした要介護者は特に医療的に手厚いサポートが必要になり、そのなかでも認知症に対するケアはニーズが高いものの、対応できる医療機関は多くはありません。そのため認知症治療に対応できる当法人が高い評価をいただいている面もあるかと思います。
医療・介護でカバーできないサービスを自立型サ高住の運営で事業化
――サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を三島市で運営されているとうかがいました。
岡 別法人を設立し、サ高住の運営を開始したのは約10年前です。これは介護のうち「インフォーマルサービス」を担おうと考えたからです。
そもそも介護サービスのなかには、介護保険の枠組みで介護事業者が提供し、介護報酬という公定価格が定められた「フォーマルサービス」と、そうでない「インフォーマルサービス」があります。たとえば、ある方がお母さんと暮らしていて、週3日デイサービスを利用していても、サービスを利用していないときはその方がお母さんの介護に参加している。これがいわゆるインフォーマルサービスです。専業主婦の家事は金銭的な対価が出ないため評価されにくい、という話がありますが、介護のインフォーマルサービスにも同じような側面があるわけです。
そこで私たちがこれからやっていくべきは、このインフォーマルの部分を事業化して、介護の完成度を高くしていくことではないかと思っているのです。
具体的にいえば、サ高住の運営による衣・食・住の一体提供ということになります。衣は介護につながり、食は栄養ということで医療に通じます。そうするとあとは「住」ということになります。個人宅でバラバラにお住まいの場合、高齢者を個別にフォローしていくのは大変ですが、高齢者住宅に集まって入居いただくことで、サービスの提供がしやすくなります。
高齢者は運転が難しくなるため移動難民、買い物難民です。また、致命的な病気は抱えていないが、高血圧や糖尿病、足腰の痛みなどがあって将来が不安という医療・介護難民でもあります。これらすべての不安を収束できるような住まいを作ろうと思ったのです。
また経営戦略においても、高齢者住宅のような賃貸事業は、医療機関が診療報酬という公定価格に左右されずにサービスを展開できます。
シックでモダンな印象の「ひいらぎファミリークリニック」の院内
――運営されているサ高住の特徴についてお聞かせください。
岡 別法人によって三島駅前にビルを建設し、2階は「みしま岡クリニック」、3階は通所リハビリテーション、4階から9階はサ高住という形にしています。
サ高住はあえて「自立型」をうたっています。サ高住は制度ができた当初、一般的に「介護型」が主流で、住宅型有料老人ホームと同じような使われ方をする施設が多かったのです。しかし自立型は介護や食事の提供は行わない一方、利用者が好きなときに好きな場所に出かけて、食べたいときに食べたいものを食べられます。あくまで賃貸事業として高齢者の住まいづくりを目指しています。
サ高住の事業は自立型ですから、連携している介護事業者とも競合しません。逆に、もし入居されていた利用者さんの要介護度が上がったときには、連携先の施設へ紹介し、そこへ私たちが主治医として往診する、といういい流れができています。
――長泉町でも「ひいらぎファミリークリニック」を運営されていますが、開業は2024年10月と最近なのですね。
岡 長泉町でのクリニックの開業には、理由が2つあります。まず、三島駅前の再開発で駐車場が使えなくなったことで、三島駅前のクリニックで外来患者の受け入れが難しくなり、送迎される介護事業者の方にも迷惑をおかけしたため、アクセスのよい場所に新たなクリニックを作ろうと思ったのが1つです。
もう1つは、認知症や在宅医療の窓口としての外来診療を整備しようと考えたのです。このクリニックでは認知症はもちろんのこと、感染症なども含めて総合的に診療できるようにすることを目標としています。またクリニックでケアマネジャーを採用しており、一度クリニックを受診していただければ、認知症の診断から介護サービスの給付計画までワンストップでできるようにしています。
365日変動損益計算書で利益確保の打ち手検討
将来は「認知症のメイヨークリニック」に
――貴院は「FX4クラウド」を導入されているとうかがいました。経営上どのようなことを意識しておられますか。
岡 最初に開業したころは、借金をどう返済するかで頭がいっぱいで、いかに売上を伸ばすかに注力していました。そのなかで職員の福利厚生の部分がなおざりになってしまったこともあり、職員も定着せず、伸び切らなかったところもありました。
その後T&A税理士法人の三宅真弥先生と顧問契約を結び、FX4クラウドを導入しました。FX4クラウドでは毎日、365日変動損益計算書をチェックできるため、どういったところに支出が多くなって、どれが削減できそうか、といったことが見えるようになりました。それまでは売上を伸ばしさえすれば利益も伸びると思い込んでいたわけですが、出て行くお金を減らすことによっても利益を増やせることを認識できるようになったのです。
365日変動損益計算書では、前期と今期の内容も比較可能です。最近では労働分配率の推移にも注目しています。これからの時代はまさに「人ありき」ですし、特に医療や介護サービスは同じ方向を見ている人がいかに来てくれるかがキーになると思います。福利厚生を充実させ、職員1人ひとりの業務の質を高めることで、少人数でも業務が回るようになり、人件費の抑制にもつながるようになると思います。
また、 監査担当の高橋佑介さんにご助力いただき、年間の経営計画を作成しています。その後、月次、日次の目標に落とし込み、今では午前・午後の目標までセットしています。目標が定まっていますので、具体的なアクションを考えることができるようになりました。また日々の365日変動損益計算書では、この予算(目標)と実績を追うことができるようになり、変化に対応しやすくなっているのではないかと思います。そして、決算書の信頼性を書面添付によって高めていただけているので、金融機関などからの評価も高くなっていることを実感しています。
さらに、クラウドなので、不安な点や不明な点を会計事務所に同じデータで確認いただき、指導・助言を受けられる点もありがたいです。
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
三島という地は新幹線の駅がありますし、気候も穏やかで海産物も豊富、伊豆などの観光地にもアクセス良好と特にシルバー世代にとっては好立地です。三島を中心に医療のネットワークをつくり、住み慣れた場所に住み続けられるような地域づくりを、もう少し広いかたちでやっていきたいというのが、今後10年の夢です。
会計事務所からの一言
T&A税理士法人
監査部1課 高橋 佑介
地域医療での重要な役割を税務会計面で支援します
オカニューロケアクリニック様とは10年以上のお付き合いになります。当初から「FX4クラウド」をご利用され、奥様や経理の方にタイムリーに入力頂いています。これにより、月次監査における部門別の業績把握や、継続MASにて作成した予算との予実管理などにご活用頂いています。今後も地域医療において重要な役割を担われるオカニューロケアクリニック様の運営を、これからも税務・会計面でご支援していきます。
(2024年11月29日/本誌編集部 川村 岳也/写真提供医療法人社団オカニューロケアクリニック/TKC医業経営情報2025年1月号より)