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地域ケアにおける"キーパーソン"これからの看護師の役割とは

 

急速に進む超高齢社会、多死社会において看護師が重要な役割を担う。病院完結型から地域完結型の医療・介護にシフトしていくなかで多職種を結ぶ、また、医療依存度が高い高齢者の在宅生活を支えるなど、そのキーパーソンとなる。「看護師だからこそ適切なケアを提供でき、さらに必要なサービスや多職種をつなぎ、高齢者の生活を支えることができる」と語る日本看護協会の常任理事を務める齋藤訓子氏に目指すべき看護師の姿についてうかがった。

 
日本看護協会常任理事 齋藤訓子20140201_01.jpg

聞き手
本誌編集委員 田島隆雄
(医業経営コンサルタント 税理士)

◎Saito Noriko
1982年、北海道立釧路高等看護学院卒業。1994年、神奈川県立看護教育大学校看護教員養成課程修了。1998年、立教大学法学部卒業。2001年、兵庫県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了。旭川医科大学医学部附属病院や順天堂大学医学部附属順天堂医院などの勤務を経て、2001年、社団法人日本看護協会に入職。同協会事業開発部長、政策企画部長などを務め、2009年、同協会常任理事に就任。2011年、公益社団法人日本看護協会常任理事。現在に至る。同協会では、新卒看護師の卒後臨床研修の制度化の促進に関する検討プロジェクト、広報委員会、訪問看護事業所数の減少要因の分析及び対応策のあり方に関する調査研究事業委員会などの活動に従事。日本看護管理学会、日本病院学会、日本医事法学会等に所属。

生活を支える訪問看護は
経営安定化が深刻な課題
 


──2025年には65歳以上の人口が3,657万人(全人口の30.3%)に達すると見込まれています。超高齢社会が進展するなか、看護師の役割が非常に重要になっていると思いますが。
齋藤 超高齢社会が進んでいるということは、それだけ人々の平均寿命が延びているということで、それ自体は大変、喜ばしいことだと思います。しかし、高齢者は一般にさまざまな疾患を抱えているものです。通院しながら、薬を服用しながら生活している人がたくさんおられます。また、高齢になるほど虚弱体質となり、風邪を引きやすい、骨折しやすいといった健康リスクを抱えることにもなります。そして、一度でも致命的な病気を患うと、その後、自立が困難な状態になってしまいます。そのなかで、これからの看護師に課せられた使命は、たとえ病気になったとしても、高齢者が住み慣れた地域で最期までいきいきと生活する、それをいかに支えていくかだと考えています。これは、病院等の看護の充実だけでは決して実現することはできません。
 看護師の大きな特徴は、病気のことも、薬のことも、その方の身体のことも理解しているという点です。たとえば、訪問看護の利用者さんが自宅で1人で入浴できない、トイレに行けない、食事ができないといった場合は、なぜそのような状態になっているのかをしっかり理解した上で適切なケアを行う、あるいは多職種と連携し、必要なサービスへとつなぎながら生活を支えていく、さらには、大きな不安を抱えているご家族をサポートする。このように生活を支えることは、看護師だからこそ可能なのです。これまでのように、“治すこと”ではなく、“生活すること”を中心に支えていくという考え方にシフトしていかなければなりません。
──そこでは訪問看護ステーションが特に重要になると思いますが、一方で経営的に難しいなどの問題があり、なかなか普及していない現状にあります。
齋藤 現在、全国の訪問看護ステーションの事業所数は約6,800件です。その数は年々、少しずつ伸びていますが、地域差があり、1件も設置されていない市町村もあります。また、訪問看護の従事者数は約3万人です。看護職の免許ホルダーで実際に就業しているのは約149万人ですが、そのうちの62%が病院、21%がクリニックで働き、約10%が訪問看護ステーションや介護・福祉施設等となっています。
 約6,800の事業所数に対して従事者数は約3万人であることを考えると、一事業所の規模がとても小さいことがわかると思います。訪問看護ステーションは看護職員2.5人で開設することができ、5人未満の事業所が全体の60%を占めています。そして、この小規模事業所の経営が厳しいのです。
──小規模では経営が成り立ちにくい仕組みになっているということでしょうか。
齋藤 まず、訪問看護ステーションには“訪問看護”というメニューしかありません。病院のように「検査料」「処置料」とそれぞれ出来高で算定できる仕組みではないのです。また、往復の移動時間がかかり、さらにはご家族との訪問時間等の調整も必要です。ケアマネジャーや医療機関との連携にも時間や労力がかかります。つまり、ビジネスとして考えると訪問サービスは効率が悪いのです。
 このなかで経営を安定化するためには、利用者を増加させるしかありません。しかし、利用者が増えれば、それに対するマンパワーが必要ですが、小規模事業所では限界があります。また、近年では、1人ひとりの利用者が重度化していて、要介護3以上がほとんどとなっています。複雑で時間がかかる医療処置や、緊急時、24時間365日の対応などが必要な人も増えています。本来、こうした利用者さんを受け入れれば、ある程度の収入を得られる仕組みになっているのですが、小規模事業所では対応が難しく、結果、なかなか経営が安定しないというジレンマに陥っているのです。

さまざまな機能を備えた
機能強化型を提案


──日本看護協会では、現状の訪問看護ステーションの問題を解決するために、「機能強化型訪問看護ステーション」(仮称)の創設を提案されていますが、これはどのようなものでしょうか。
齋藤 それぞれの地域に「機能強化型訪問看護ステーション」という大規模事業所を設置し、24時間対応や看取りを担い、さらには訪問看護師の「教育機能」や、地域住民の「相談機能」までを兼ね備えたものを想定しています。そうすることで、地域の訪問看護体制の底上げと、地域包括ケアシステムのなかで重要な役割を担うことができます。
 平成26年度診療報酬改定において、機能強化型となり得る大規模事業所の評価を要望していますが、まずは、24時間体制を担保し、看取り件数も多い大規模事業所を適正に評価してほしいと考えています。
──訪問看護師の数を現在の3万人から大幅に増やすことも必要だと思いますが、病院に勤務している看護師がいきなり訪問看護を行うというのは実際に可能なのでしょうか。
齋藤 現在、看護の基礎教育においては、必ず在宅看護について学ぶことになっているのですが、その時間数は非常に少ないのが現状です。これは私見ですが、まだまだ病院勤務を前提とした教育がなされていると見ています。
 病院等で十分な経験を積むことで、訪問看護もすぐに行うことができるのかといえば、決してそうではありません。実際、そのような看護師が現場で戸惑う姿をたくさん目にしてきました。
 病院の看護師はある意味、守られているのです。何か困りごとが起きたとしても、すぐに仲間や医師に相談することができます。患者さんの状態が不安定になれば、すぐに検査を行い、適切なケアができます。でも在宅ではそうはいきません。確かに病院勤務で看護技術は身につけることができるかもしれません。しかし、在宅で遭遇するケースに応じた適切かつ柔軟な対応、素早い判断力などというのは、しっかり教育を受けなければ身につけることはできません。
──そうしたなか、日本看護協会では、訪問看護師の教育について現在、どのような取り組みをしておられますか。
齋藤 日本看護協会でもそのための研修プログラムを用意していますが、考えていた以上に時間がかかり、なかなか養成が進んでいないのが現状です。特に、病院で培った治療中心のケアという考え方をそぎ落としていくのに非常に時間がかかるのです。「あの医療器具はないのか?」「医師の具体的な指示が必要ではないのか?」など、どうしてもリスクを先に考えてしまう。
 利用者さんの生活は1人ひとり違います。訪問看護では、その場の状況に応じて、医療知識をベースとした、工夫と想像力が不可欠なのです。

 医療依存度が高くても
対応できる複合型サービス


 ──平成24年に創設された訪問看護と小規模多機能型居宅介護を一体的に提供する「複合型サービス」の普及にも力を入れているとお聞きましたが。
齋藤 介護保険制度は、高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らせるようにすることを目的としています。しかし、現実は医療依存度が高ければ、自宅での暮らしを断念せざるを得ない状況です。その大きな要因は、家族が介護で疲弊してしまうからです。
 家族に過度の負担を強いることなく、地域で暮らせるサービスとして、新たに創設されたのが、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」です。1日複数回、登録された方々の家を定期的に回るサービスが創設されました。また、本会が行ったヒアリングでは、ご家族のニーズとして、病院への入院ではない“泊まり”を求める声が多く聞かれました。状態が悪いときに、自宅でご家族が中心となって看るのは不安だということでしょう。こうしたニーズに応えるサービスが「複合型サービス」です。
 サービスメニューとしては、訪問介護、通所、宿泊、そして訪問看護の4つのサービスを登録者の方々に提供することができます。これにより、たとえば、管が入っている方や複雑な医療処置が必要な方には既存の小規模多機能型居宅介護では対応できなかったところを、訪問看護がプラスされたことで、受け入れることができるようになりました。
 今後、医療提供体制の改革が進められていき、ますます在院日数が短くなっていくなか、その受け入れ先として複合型サービスは欠かせないものです。
 今、複合型サービスの事業として、全国で約90件、指定を受けています。とてもよいサービスだということで、ある大学病院でも入院から在宅への移行のステップとして紹介するケースが増えていると聞いています。
──非常に期待される一方で、小規模多機能型居宅介護自体が普及していない現実もあり、そこに訪問看護の機能をプラスするという動きは、まだまだ弱いのが現状ではないでしょうか。
齋藤 そうですね。小規模多機能型居宅介護は平成18年創設ですし、複合型サービスは平成24年にできたもので、歴史が浅いこともあり、まだまだ認知度が低い状況になっています。複合型サービスは、地域密着型サービスの1つとして位置づけられていて、その指定は自治体が行いますが、各自治体に制度そのものの知識がないということも広がらない原因の1つになっているのではないでしょうか。自治体の理解促進が課題の1つだと考えています。
 日本看護協会がこの複合型サービスを提案したもう1つの狙いとして、訪問看護ステーションの経営改善があげられます。
 複合型サービスの特徴は包括報酬であることです。4つのサービスの利用回数に関わらず、1か月の報酬は同じなので、一定の収入を安定的に確保できます。また、訪問看護の部分は、都道府県が訪問看護事業所として指定すれば、複合型サービスの登録者以外の方々にも出来高でサービス提供が認められています。その人員基準は兼務でよいことになっています。

 “キーパーソン”として
サービスをつなぐのが役割


──チーム医療の推進の一環として看護師業務の拡大も議論が進められておりますが。
齋藤 厚生労働省で「チーム医療の推進に関する検討会」が平成21年8月に立ち上がりました。これは、当時の麻生総理が設置したもので、平成22年3月にその報告書が取りまとめられました。そのなかでは、看護職の役割拡大が検討されたわけですが、さらに「看護師はチーム医療のキーパーソン」と位置づけられました。この表現は個人的に非常に面白いと思いました。“キーパーソン”とは、“カギを握る”ということです。つまり、チーム医療が機能するかどうかは看護師にかかっているということを表していると解釈しています。
 その後、発展的に設けられた「チーム医療推進会議」を経て昨年11月、特定行為の研修制度が示されました。ある診療行為に着目し、看護師の教育を付加することで、いちいち医師を探して呼ばなくても、看護師自身でできることと、医師の指示の下である程度、行うことができる範疇を広げましょうという意味だと思っています。
 もう1つ、先ほどいったように“キーパーソン”ですから、病院内、そして地域において多職種をつないでいくことが私たちには可能で、また強く求められていると考えています。今後、医療依存度が高い方がますます増えてくる、認知症の方の増加も予測されています。そのなかで、看護師が医師の確定診断につなげる、薬の調整を行う、リハビリ職に来てもらうなど、人々の治療・療養しながらの生活を成り立たせていくためには、訪問看護以外に何が必要なのかをアセスメントしながら、時にケアマネジャーとともに、さまざまなサービスをマネジメントしていくことが重要です。
──特定行為の研修制度を通じて病院での看護力の強化をイメージしていましたが、在宅や介護施設でこそ役立つわけですね。
齋藤 実際には病院でも活躍の幅が広がります。病院も医師が常日頃、近くにいるわけではなく、病棟では、「○○先生はどこにいますか?」と探すことなどは日常茶飯事です。
 しかし、年々、在宅医療の必要性が高まっているなかで、ある程度の診療行為ができる看護師が在宅領域で働くことへの期待が大きくなっています。また、利用者さん・ご家族のニーズも高いと思います。そういう意味で、特定行為を行える看護師には、是非、訪問看護や介護施設で働いていただきたいですね。

機能強化型によって
地域包括ケアが機能する


──今後、地域包括ケアシステムの構築が進められていきます。そのなかでは、看護師、特に訪問看護ステーションが多職種につなぐ中心的な役割を果たすことが期待されているわけですが、そのためのポイントなどをどのように考えておられますか。
齋藤 地域包括ケアシステムは、自治体が中心になり構築しなければ機能しないと思っています。また、介護保険のサービスを組み立てる際の“キーパーソン”はケアマネジャーなのですが、個々のケアマネジャーの能力に差がありますし、介護知識はあっても医療知識が不足していたり、利用者さんの身体を看ることについて不得手なところもあると思います。
 地域包括ケアシステムでは、生活のなかで医療の部分までを看ることを期待されていて、まさに訪問看護がその部分は強いと思います。退院間もない方々や、医療処置が多い方々に対しては、ケアプランそのものに訪問看護師が関わっていく必要があるのではないでしょうか。 今後、ケアプランはケアマネジャーのみで作成するのではなく、いろいろな視点を入れて、本当にその利用者さんが地域で自分らしく暮らしていけるようにしていかないといけません。その視点を入れていく作業がいわゆる地域ケア会議だと思うのですが、そういう場面で、訪問看護師がいろいろなサービスをつなぎ、きちんと利用者さんの身体のアセスメントをする。地域包括ケアシステムで医療の部分がある程度入ってくるときに、私たちを活用してもらいたいと思います。
──高齢者が激増するからこそ、それを仕組みとして制度化することも大事ですね。
齋藤 だからこそ、ある程度規模が大きい機能強化型の事業所があれば、地域包括ケアシステムのなかで、小さい事業所を積極的にサポートする、人材教育も行う、地域住民のいろいろな相談にも対応する、適切な在宅医、病院につなげるということが可能となり、地域包括ケアシステムが機能するのではないかと考えています。
──最後になりますが、これからの医療を担う看護師にどのようなことを期待されますか。
齋藤 看護師として、病院で働くことも大きな意義、役割がありますが、是非、暮らしの場、生活の場で行う訪問看護にもチャレンジしていただきたいと思います。
 暮らしの場での人々の表情は、病院での表情とはまったく違います。それは“病人”ではなく1人の“生活者”に変わるからです。そのような方々と関わるとき、本当の意味で、看護師としての醍醐味を味わうことができるはずです。
 また、治療中心の場では、看護師として「必要なケアを十分に提供した」と思っても、時間的にも場的にも限界があります。でも、生活の場では、医療機関ほどの規制がないなかでその人の暮らしを、自分自身の判断である程度、サポートすることができます。そこには、必ず大きなやりがいも感じられるはずです。
 医学的な観点、身体のアセスメント、そして生活者としてその人が持っている能力を組み合わせて、暮らしを支えていくことが、超高齢社会に求められる看護師の大きな役割といえるのではないでしょうか。
(平成25年12月18日/構成・本誌編集部 佐々木隆一)