経営・労務・法務

子育て世代から高齢者まで“全世帯型”の制度を構築・充実したい

少子高齢社会の進展等を背景に社会保障費の増加が問題となっている。そのなかで、2025年を見据え、充実した医療・介護提供体制の構築を進めるべく、本年4月には2018年度診療報酬・介護報酬同時改定が実施され、現在、その具体的な内容が議論されている。厳しい財政事情のなか、持続可能な社会保障制度を構築するためには今後、どのような政策、取り組みが必要になるのか。
厚生労働大臣の加藤勝信氏に、医会研の海来美鶴代表幹事が話をうかがった。

加藤勝信
厚生労働大臣

聞き手/
TKC全国会医業・会計システム研究会 代表幹事
(医業経営コンサルタント 税理士)
海来美鶴
Kato Katsunobu
昭和54年、東京大学を卒業後、大蔵省に入省。内閣官房副長官(政務)秘書官、主計局主査(労働予算担当・防衛予算担当)、農林水産大臣秘書官などを経て、平成15年、衆議院議員初当選(自民党中国比例ブロック選出)。自民党厚生労働部会医療委員会事務局長、自民党厚生労働部会部会長、衆議院厚生労働委員会理事などを務め、平成22年に自民党副幹事長に就任。社会保障制度に関する特命委員会事務局長、内閣官房副長官などを経て、平成29年に厚生労働大臣・働き方改革・拉致問題担当に就任。

「必要なサービス」が「必要な人」に届く体制の構築・推進

──2018年4月には診療報酬・介護報酬の同時改定が行われます。今、まさに中央社会保険医療協議会や介護給付費分科会などでその具体的な内容について議論が進められているところだと思います。今回の同時改定は主にどのようなところを重点課題と捉えて進めておられるのでしょうか。
加藤 まず医療や介護、年金、福祉などを含めた社会保障給付費についてですが、2000年は78.3兆円でしたが、2017年は120.4兆円と約1.5倍にまで膨れ上がっている状況です。また、社会保障関係費(予算)を見ると、2000年は約16兆円でしたが、2017年は約32兆5,000億円と約2倍となっています。
少子高齢社会の進展をはじめ、医療技術の高度化、新薬の開発などを背景に、社会保障費はこのように大幅に増加しています。そのなかで、財政再建と社会保障制度の充実のバランスをとっていくことは大きな課題となっています。特にここ3年間は、高齢化にともなう社会保障費の自然増をトータルで1兆5,000億円(年間5,000億円)に抑制する方針が示されており、その範囲のなかで必要な財源をいかに確保していくのかというのは、同時改定を含めて、今回の予算編成の大きなテーマでした。
そういうなかで、医療機関や介護事業者の経営状況、賃金・物価の動向等を考慮し、診療報酬本体ではプラス0.55%と前回(2016年度)のプラス0.49%を上回る改定率となりました。介護報酬についてもプラス0.54%となり、必要な財源を何とか確保できたのではないかと考えています。


──これまで地域包括ケアシステムの構築を進めてきたわけですが、実際、地域によってはなかなかスムーズに構築できないところもあるようです。さらに地域包括ケアシステムの体制づくりを進めていくのですね。
加藤 今回の同時改定は、いわゆる“団塊の世代”と呼ばれる年齢層がすべて75歳以上となる2025年を見据えた改定とも言えます。つまり、質が高く効率的な医療・介護サービスの提供体制を構築する必要があるわけです。
そのなかで、主なポイントとして4点ほどあげます。
その1つ目が今、話に出たように「地域包括ケアシステム」の構築であり、医療と介護の連携強化です。すべての人々が住み慣れた地域(自宅)で安心して暮らし続けられるように、医療や介護だけでなく、生活支援も含めた連携体制づくりを推進し、トータルで地域の人々を支える仕組みをつくるということです。
2つ目は、急性期から回復期、慢性期、在宅医療までの医療機能の分化・連携の推進です。
特に病院の病床機能は現在、高度急性期・急性期の病床数が多く、回復期が少ないという、実際の地域ニーズにそぐわない形となっています。これをどのように是正していくか。加えて慢性期については、医療療養病床をどうするのか、介護療養病床の介護医療院への転換をいかに進めていくのかという課題もあります。
この点は、2025年に向けて都道府県ごとに策定した「地域医療構想」に合わせて、どのようにシフトしていくかを、各地域で開催されている「地域医療構想調整会議」を通じて議論を進めていただいているところですが、それを同時改定でもしっかり支援していくことになります。
3つ目ですがICT(Information and Communication Technology)の活用を含め、現場の負担軽減につながる、効率的な医療・介護の提供の推進です。ICTによる地域診療ネットワークの構築で地域連携の推進をより図ることや在宅医療における遠隔診療の評価、活用の推進などがこれにあたります。
そして、4つ目として、高齢者の自立支援に資する取り組みの推進があげられます。高齢者数が増加していくなかで、自立した生活をできるだけ長く続けていただくために、リハビリテーション機能の強化などを図るということです。それにこれからの時代は「健康寿命の延伸」が1つのキーワードになりますから、そういう意味でも自立支援への取り組みは非常に大切だと考えています。
このような観点に立って、現在、具体的な中身について、専門家の方々が議論を進めているわけです。厚生労働省としては、必要なサービスが、必要な人にしっかり届くような体制を持続可能な形でつくり上げていきたいと思っています。

自院の姿を変えることも含め地域での役割の明確化を期待

──これまで社会保障費の伸びを抑えてきたことで、医療や介護の担い手側の経営は厳しい状況が続いているようです。そうしたなかで、2018年度は同時改定だけではなく、お話にあった地域医療構想が盛り込まれた「第7次医療計画」もスタートします。医療機関にとっては大きな環境変化の年とも言え、自院の方向性の再確認が必要となりますね。
加藤 今回の同時改定に当たり、医療機関や介護事業所の経営状況の実態調査を実施しました。
それによると、たとえば、一般病院全体の損益率は、2015年度がマイナス3.7%、2016年度がマイナス4.2%と低下傾向にあります。また、介護事業所等についても、2016年度決算における全介護サービス平均の収支差率が3.3%となっており、前回改定の基礎となった2014年度の平均の収支差率7.8%よりも4.5%低下しています。2015年度の3.8%と比べても0.5%ほど下がっている状況にあります。
こうした結果を見ると、医療機関・介護事業者等の経営は厳しいということがわかりますし、厚生労働省としてもそのことはしっかり認識しています。だからこそ財政事情が厳しいなかでも、何とか診療報酬本体でプラス0.55%を確保するとともに、介護報酬改定についても、地域包括ケアシステムの推進、質の高い介護サービスの実現、多様な人材確保と生産性の向上および介護事業者の安定的な確保等の視点を踏まえ、プラス0.54%を確保したわけです。
いずれにしても、地域医療構想が盛り込まれた「第7次医療計画」がスタートするなかで、今回の同時改定を踏まえ、各医療機関の経営者の方々には、地域で担う役割を明確化していただくことを、場合によってはこれまでの自院の姿を大きく変えていくことになるかもしれませんが、期待しています。
厚生労働省としては、医療機関および介護事業者の安定的な経営を通じて、質が高く効率的なサービス提供体制が維持できるように、その環境整備に引き続き努めていきたいと考えています。
地域の人々が住み慣れた地域(自宅)で安心して暮らし続けていくためには、医療・介護サービスが継続的に提供されることが不可欠です。そのためにも経営基盤の強化につながる支援に積極的に取り組んでいくことも重要だと考えています。

全世代型の社会保障制度の構築・充実に取り組んでいく

──経営の安定化という視点から、これまで多くの現場を見ておりますと、特に介護事業者はなかなか難しい現状にあると見ています。たとえば、処遇改善として現在、国から手当をしてもらっていますが、人手不足は大きな課題ですし、人手不足ということでは医療も同じです。業界全体にどこか閉塞感があるような気がしてなりません。超高齢社会が進展するなかで社会保障費を介護にどのように分配していくかが、これからの課題の1つではないかと感じております。こうした状況もあるなかで、持続可能な社会保障制度を構築するのは簡単なことではありません。これからの制度設計の方向性についてはどのようにお考えですか。
加藤 少子高齢社会が進み、いわゆる“団塊の世代”と呼ばれる年齢層がすべて75歳以上を超える社会がすぐそこに迫っているというなかでは、どうしても1人当たりの医療費等が増えていきますし、社会保障費全体も増大していくことが予測されます。介護サービスのニーズもどんどん高まっていくでしょう。
社会保障費は一定のスピードで増えていくことは変わりません。それを税と保険料と患者・利用者の自己負担の3つで支えていかなければならないわけです。
そのようななかで社会保障制度の持続性をいかに担保していくか。そのためには、医療や介護の質の向上と効率化を実現するという考え方をベースに社会保障政策を進めていくことが必要です。新しいニーズに合致した給付やサービスの質を維持・向上させつつ、費用の増加を抑えるための重点化・効率化にも取り組んでいく必要があると考えています。もちろん、財政的に成り立ったとしても、きちんとしたサービスが提供されなければ意味がありません。そこのバランスを上手くとって進めていかなければなりません。
また、「社会保障・税一体改革」のなかで、消費税の引上げに応じて、低所得者に対する保険料の軽減の強化、そして年金生活者支援給付金の創設といった充実を図ることとしています。また、データヘルスを上手く活用し、予防、重症化、重度化防止の取り組みや医療・介護の提供体制の改革を進めていきます。
さらに、今、「人生100年時代」と言われているなかで、日本は高齢期のリスクに対する対応が厚くなっていて、子育て世代に対する対応が弱いという指摘をいただくことがあります。その点に関して、2019年10月、消費税が8%から10%へと引き上げられるわけですが、当初の予定では、財政赤字を埋めるために考えられていた財源の一部を子育て世代の社会保障の充実に充てていくことにしています。子育て世代から高齢者まで“全世代型社会保障制度”の構築を目指していきたいと思っています。
いずれにしても、1つひとつ“改革”を丁寧に進めていくことが、これからも強く求められていると認識しています。
─本日は、今年4月の診療報酬・介護報酬の同時改定から2025年を見据えた厚労省政策の方向性などについて語っていただきました。加藤大臣がおっしゃられる世代間格差、さらには現在、問題となっている地域格差が少しでも是正され、誰もが安心できる社会保障制度の構築に向けた政策展開を期待しております。本日はありがとうございました。

(平成30年1月9日/構成・本誌編集部 佐々木隆一)

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